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Webそのものがプラットフォームになる。次世代のWebの在り方「Web 2.0」

rss

 先日、「Blog Hackers Conference 2005」というカンファレンスを開催しました。僕が執筆したブログ解説書「Blog Hacks」の共著者である宮川達彦氏と一緒に、ブログを中心としたWebの世界でこのごろホットな話題をああだこうだと喋ってみる、そんなカンファレンスです。カンファレンス中には宮川氏や僕によるプレゼンテーションのほかに、「Lightning Talks」というコーナーを設けました。

 Lightning Talksというのは、この手の技術系イベントではよくあるコーナーで、ギークな人たちが制限時間5分で矢継ぎ早にさまざまなトピックについて語っていく、というものです。ためになる話あり、笑いあり……。涙はないけど、ギークな人たちがこの頃どんなことに興味を持っているのか、彼らの笑いの琴線はどこなのか、そんなことを探ることができて楽しいコーナーです。

 カンファレンスには200名ぐらいのお客さんに来ていただいて、予想以上に盛況でした。次はもう少し大きな会場で、Webテクノロジーのトレンドに関するより本格的なカンファレンスを開催できないかな、とも思っています。

□関連記事;Six Apart宮川氏やはてな伊藤氏が語るブログの未来と課題
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/event/9748.html





ギークの関心事

 さて、そんなWeb大好きっ子なギークたちのLightning Talksを通じて、はっきりわかったのは、どうやら今彼らは共通してある1つのトピックに関心があるようだということです。その関心事というのが今回のテーマ「Web 2.0」です。

 「Web 2.0」の「2.0」は、ソフトウェアのバージョン番号のような印象を受けますが、ちょっとニュアンスが違います。物事の次の世代はどうなっているかとか、どうあるべきだという議論を通じて生まれてきたものを体系的にまとめたものを、「○○ 2.0」と言ったりすることがあります。

 例えば、ブログの次のあるべき姿を定義して「Blog 2.0」と言ったり、ビジネスについて「Business 2.0」と言ったり。「ブラウザがバージョンアップして 2.0 になりました!」」という意味ではなくて、もう少し抽象的な次世代という意味での「2.0」です。つまり、「次世代のWebってどんな形なの?」という話を、テクノロジー方面から考えてみたまとめ、それが「Web 2.0」です。

 日本ではまだ馴染みの薄いキーワードですが、海外では1年前ぐらいから頻繁に議論が交わされるようになってきて、あのサービスはWeb 2.0的だとかそうじゃないとか、そんな風によく使われますし、今年の10月には「Web 2.0 Conference 2005」というカンファレンスが大々的に開催されます。Google、Yahoo!、Microsoft、AT&Tなどなど、スポンサーに名を連ねる企業の面々を見ているだけでも、関心の高さが伺えます。





Web 2.0 って何だ

 Web 2.0は次世代のWebのかたち。じゃあ、それってどういうものなの?

 実は、Web2.0の具体的な内容は、未だに議論が重ねられているものであり、これが Web 2.0 だ! という具体的な定義がはっきりとあるわけではありません。あえて言うならば、Web 2.0という言葉は、議論の叩き台とするための標語です。なんとなく新しいWebに必要な条件や概念というのが見えてきた、じゃあここらでWeb 2.0と名づけて、それを土台にその辺を整理していきましょう、といった感じでしょうか。なので、近頃のイケてるWebサイトを見て「あれはWeb 2.0的だ」なんて言ったりもします。

 では、Web 2.0 の議論の中でわかってきた次世代のWebに必要な概念とは何でしょうか? これを細かいところまで詳細に説明していくと随分と技術的な話題になってしまい、僕が暴走しかねませんので、ここではやわらかめにいくつかのトピックについて紹介していくとしましょう。





“The Web as Platform” - ウェブがプラットフォームとして振舞うこと

 Web 2.0 の中でも最も重要なポイントとされているのが、この「Webがプラットフォームとして振舞う」という要件です。これは具体例を見てもらった方がわかりやすいでしょう。

 「Flickr Related Tag Browser」というWebアプリケーションがあります。これは、海外の写真共有サービスである Flickr(ご存知の方も多いでしょう、Web 2.0 的なウェブサイトの代表格です)、そこに寄せられた写真のビューワーで、Flashで作られています。タグを打ち込むとそのタグに関連する写真を閲覧できます。ためしに「TOKYO」などを入力してみるとよいでしょう。


Flickr Related Tag Browser

 かっこいいインターフェイスと共に、写真を閲覧できます。また、周囲には入力したタグに関連するその他のタグが表示されており、それをたどっていくことで次々に写真を見て回ることができます。

 また、「The Great Flickr Tools Collection」というページがあります。オンラインで写真を共有するサービスのFlickr、それをベースにしたさまざまなツールのリンク集です。ブログツール向けプラグイン、写真のアップローダー、特定のプログラミング言語向けライブラリなどなどプログラマ向けのものからユーザー向けのものまで、いろいろなものが並んでいます。

さて、これらのツール群、誰が作ったと思いますか? Flickrの社員でしょうか。お気づきかと思いますが、これらほとんどはFlickrのユーザーが作ったものです。Flickrユーザーが作って、Flickrユーザーのために公開しているんですね。

 次に、僕が作った「amazlet.com」というWebサイト、それから「amazletツール」。amazlet.comは、「Amazon.co.jp」と連動したショッピングサイトで、Amazon.co.jpが取り揃えている商品を購入できるWebサイトです。amazletツールは、Amazon.co.jpの商品をブログなどで紹介するための簡単リンク作成ツールです。


amazlet.com amazletツール

 僕の手元には書籍やCDなどの商品在庫はもちろん、それらデータもまったくありませんが、プログラミングの技術を使ってこんなWebサイトやツールを開発し、公開しています。

 これらのツールやWebサイトは、それぞれのサービスのユーザーの中で、Flashを作れたりプログラミングができたりする人たちが作ったものですが、Flickrにアップロードされた写真、もしくはAmazon.co.jp にある商品データなどを、彼らはどうやって手に入れるのでしょう。勝手に拝借してきておそるおそる使っているのでしょうか。

 いいえ、FlickrやAmazon.co.jpは、自社のもつデータを世の中に広く公開しているのです。そしてその公開にあたっては、「単にデータを使っていいですよ」と提供しているのではなく、開発者がプログラムを開発しやすいような形で公開しています。このように、開発者向けに向けにプログラムしやすいデータを公開するサービスを「Webサービス」と呼びます。また、それらデベロッパー向けの機能はAPI(Application Program Interface)と呼ばれます。

 Amazon.co.jpが公開しているAPIを使うと、手元に商品データを持っていなくてもAmazon.co.jpの商品を検索して、それをプログラムから利用できます。僕は、そのAPIを利用してamazlet.comとamazletツールを作りました。そして、それを第三者に向けて公開しています。

 みなさんも、WindowsやMacintosh向けのオンラインソフトウェアを使ったことがあると思いますし、メーラーやブラウザなど、日ごろから使っているというツールがフリーソフトウェアやシェアウェアだったりする方も多いことでしょう。それらソフトウェアは、WindowsやMacintoshの上で動作します。アプリケーションを動作させる際の基盤となる環境をプラットフォームと言いますが、それらツールから見ると、WindowsやMacintoshなどのOSがプラットフォームに相当します。

 そして、OSには、OSの上で動作するアプリケーションのために、APIが含まれています。APIのおかげで開発者は、ファイルを開いたり保存したりといった基本的な機能をわざわざ自分で開発しなくても、簡単にそれらの機能を搭載したアプリケーションが作れるんですね。

 一方、先にあげたFlickrやAmazon.co.jpの場合はどうでしょう。FlickrやAmazon.co.jpはWebサイトですが、Webサービスという形でAPIを提供しています。それらAPIを使って、新しいアプリケーションを作ることができますし、Webサイトをプラットフォームと見立てて、また別のWebサイトやツールを作ることができます。これが、“Webサイトがプラットフォームとして振舞う”ということです。なんとなくおわかりいただけたでしょうか。

 FlickrやAmazon.co.jpは、Webサービスを提供し、それらWebサービスによりユーザーを巻き込んで拡大しているという意味で、Web 2.0的なサイトなのです。Webサービスを提供しているのはFlickr、Amazon.co.jpだけではありません。Googleも、Yahoo!も、そして僕が働いているはてなでも、WebサービスAPIを提供して、デベロッパー巻き込み型のサービスを展開しています。





Remix という考え方 - Firefox Greasemonkey

 次に、Webの世界における「Remix」という話を紹介します。

 ブラウザの「Firefox」、そのプラグインの「Greasemonkey」をご存知でしょうか。Greasemonkeyは、「user srcript」と呼ばれる便利スクリプトをFirefoxで動作させるためのプラグインで、Greasemonkeyをインストールした上で、さらに一般で配布されているさまざまな便利スクリプトのうち自分好みのものをインストールしていくことで、「Webサイトのカスタマイズ」が可能になります。

 これも実例を見ていただいた方がわかりやすいと思います。以下は、Greasemonkeyで拡張した後、「annotate google」というuser scriptを追加したFirefoxでGoogle検索を行なった画面です。


annotate googleを追加したFirefoxでGoogle検索

 検索結果の横に、オレンジ色のXMLアイコンが表示されているのがおわかりでしょうか。annotate googleは、通常のGoogle 検索と違って、検索結果のページにRSSフィードがあった場合、URLとともにそれを教えてくれる機能を、“Googleに追加する”のです。

 “Google に追加する”と言っても、GoogleというWebサイト自身がRSSを教えてくれる機能を持っているわけではなく、Firefoxにインストールしたannotate googleというuser scriptがその機能を持っています。しかし、このブラウザを使っているユーザーからみると、あたかもGoogleがその機能を持っているかのように見えます。

 Greasemonkeyが示す考え方、それは「Content Remixing」という考え方です。音楽の世界で、とある楽曲を自分好みに変えてしまう「remix - リミックス」同様、Webのコンテンツを自分好みに変えてしまおう、つまり「Content Remixing」です。GoogleをRemixしてRSSフィード探知機能を付けてみる、annotate googleが実現したのはそういうことです。

 Remixの考え方もまた、Web 2.0では重要なポイントのひとつとされています。





気に入らなければ自分で変えてしまえ! という Web 2.0 の側面

 先のWebサービスによるAPIの公開も、Greasemonkeyも、極端な話「気に入らなかったら自分で変えてしまう」ということを実現するための道具と見ることができます。

 普通、WebサイトやWebアプリケーションというのは、その作り手が作った通りにユーザーに使ってもらうものです。Webサイト運営者が考えたインターフェイスで、Webサイト運営者が考えた機能を使ってもらう。ユーザーは、それを「使う」ということしかできません。たとえインターフェイスが使いにくくてもそれに従うしかありませんし、こんな機能が追加されたらいいな、と思っていても、運営者がそれを作ってくれるのを待つしかありません。

 しかし、Webサイト、Webアプリケーションは紙ではなく、プログラムです。プログラムだったら、自分のためにそれを変更する手段があってもよいじゃないか、と世の中のギークたちは考え始めました。提供者の考えに縛られない、自分たちのためのWebサイト、Webアプリケーション。それを実現する考え方として、プラットフォームとしてのWebサイトやRemixという考え方があります。

 プログラムをいじって思い通りにカスタマイズできる人は、プログラマーという限られた人間けですが、インターネットには、プログラマーが作った成果物をみんなで使うための流通基盤があります。Webサイト開発者はWebサイトをプログラマブルに開発し、プログラマーはそれを使ってそのWebサイトをより便利に作り変え、より便利になったものを使いたい人が使う、Web 2.0はそんな世界なんですね。

 今回は Web 2.0の要素として、2つのポイントを紹介しましたが、Web 2.0的なサイトに求められる考え方というのはまだまだたくさんあります。RSSフィードのようなメタデータについて、ブログのパーマリンクのような WWW のアーキテクチャについて、ソーシャルブックマークのようなタグによるFolksonomyの考え方について、ユーザーとうまくWebサイトを創り上げていく方法論について……、さまざまなトピックが議論されています。

 新しいWebのかたちを知ってみたい、そんな時は、Web 2.0という言葉を持ってインターネットの世界を駆け巡ってみるとよいかもしれませんね。


関連情報

URL
  はてな
  http://d.hatena.ne.jp/
  naoyaのはてなダイアリー
  http://d.hatena.ne.jp/naoya/
  NDO:Weblog
  http://naoya.dyndns.org/~naoya/mt/

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伊藤直也
はてな取締役最高技術責任者。はてなの新サービスの企画・開発を行なう。個人でRSS検索「FeedBack」、Amazonアフィリエイト支援ツール「amazletツール」なども開発。自身のブログでも技術やブログ関連の話題などを紹介している。(写真撮影:近藤淳也)
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