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真夏の夜の夢、ブロードバンド千夜一夜物語
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真夏の夜の夢、ブロードバンド千夜一夜物語
~ブロードバンド業界大予想~


 かつてのマルチメディアブームの再来のように、新聞や雑誌などにブロードバンドという言葉が出ない日はないほど、IT社会のインフラとしてブロードバンドが注目されている。そこで、今回は“真夏の夜の夢、ブロードバンド千夜一夜物語”と題してブロードバンド業界の大予想を行なってみたい。

ブロードバンドの成功モデルはATW

 米国では、「コンテンツとブロードバンドを押さえるものがメディアを征する」というIT業界の定石がすでに実践されている。AOL Time Warnerグループの戦略がその典型的なモデル(ここではATWモデルと呼ぶ)だろう。

 コマーシャルBBSから事業を開始し、今やモバイルも含めて全世界2800万に及ぶ加入者を抱える世界最大のプロバイダーに成長したAOL。もともと全米のCATV局向けにニュースの配信を行なう事業からスタートし、今や全世界でワールドニュースの定番としてあらゆる放送コンテンツを配信する地球規模の会社に成長したCNN。映画の都ハリウッドに産声を上げて数々の名作映画を製作したコンテンツクリエーターWarner Brothers。これら米国発のメディア産業のトップランナーが集結したのがAOL Time Warnerグループだ。

 国内ではAOLドコモが立ち上がり、一応、AOL Time Warnerグループの一員としてブロードバンドモバイルインターネットを機軸とした新ビジネスのパートを担う可能性も出てきたといえるだろう。

意外と早い合従連衡

 それでは、このATWモデルの日本版形成を大胆に予想してみたい。

 まず、このモデルに近いところにいるのがイッツ・コミュニケーションズ(イッツコム)だ。8月1日に東急ケーブルテレビジョンからイッツコムに社名を変更した同社は、日本のCATV事業の草分けで、CATVインターネット事業でも着実に実績を伸ばしている。

 イッツコムには、有力プロバイダーのSo-netを傘下に抱え、ゲーム、音楽、映画のコンテンツを掌握するソニーが資本参加しており、両社が共同で事業展開を行なうことは想像に難くない。ソニーは、ご存じのとおりコンテンツのほかにも、各種の個人向けAV機器や業界シェア70%を誇る放送機器、バイオやクリエに代表されるパーソナル情報機器、ゲーム機などのハードウェアを持つ。これらがイッツコムと組み合わされば、強力な武器になるだろう。

 さらに、国内・国際・携帯通信サービスを一元的に提供可能なKDDIなどとの合従連衡によりイッツコムの強みは、ますます大きくなる。ATWモデル以上のブロードバンドビジネスを開花させる潜在力を持っているといえるだろう。

 規模の巨大さのためかグループのリソースを容易に結集できずにバラバラなブロードバンド戦略で迷走中のNTTにも、イッツコム連合の戦略展開はボディブローとしてジワジワと効いてくる。期待のNTTブロードバンドも、NTT東西会社、NTT-ME、NTTコミュニケーションズなどの身内からそっぽを向かれた状況で、今後の苦戦が心配される。「光はNTT」と豪語したいのであれば、もっと強力な取り組みを期待したいものだ。

 次に注目されるのは、ソフトバンクを旗艦とするYahoo! BBだ。8Mbpsを月額2280円でという低価格ADSLサービスをひっさげて、ブロードバンドの価格破壊を仕掛けてきた孫正義氏がどこまで突っ走れるか大いに期待されるところである。Yahoo! BBの殴り込みにより、すでにADSL各社の値下げ競争が始まっており、年末商戦に向けては月額料金2000円前後の攻防になるといわれている。

 Yahoo! BBの参入は、ユーザーにとって非常にありがたいことであるが、本当に喜んでいるのはNTTグループかも知れない。初期段階で必要となる膨大な設備投資を、時間をかけて回収していく通信事業のセオリーがわからないまま資金繰りが行き詰まり破産してしまった米国の三大ADSL事業者や、威勢よく通信事業に参入してみたものの、結局はソフトバンクグループに吸収されてしまった東京めたりっく通信の例を思い出してほしい。莫大な初期設備投資に見合うだけの収益を生み出せないブロードバンドの価格戦争は、すぐに資金力、資金調達能力の勝負になってくるのだ。こうなると、牛歩型のキャリアビジネスにおいては経験豊かで強力な資金調達能力を誇るNTTグループの一人勝ちになることは明白だ。

 一方、Yahoo! BBを指揮する孫氏自身、これまで本格的なネットワークビジネスでの競争で勝利を経験したことはない。また、末端のユーザーから月々料金を回収して利益を出していくビジネスモデルでの成功例もないのである。NTTデータと共同で始めたドリームネットは早々と退散している。その昔には衛星放送事業で劇場型記者発表をしてみたものの撤退というニュースも記憶に新しい。さらに、数年前にマイクロソフト、TTNetと共同で大々的なプレス発表を行なったスピードネットは、紆余曲折の挙げ句ようやくサービス開始に漕ぎ着けたものの、鳴り物入りで登場した初代社長は更迭され、今や78%の株式を持つ東京電力主導の経営体制になっている。

 Yahoo! BBでは、Yahoo! ポータルと連動したブロードバンドビジネスを狙っているが、コンテンツ分野での協業パートナーをどう見つけるかによって、成否が決まるだろう。ポテンシャルパートナーとしては、民放テレビ局系列などとの連携も噂されるが、未だ模索の段階ではないだろうか。孫氏が今後、地道に進める必要があるネットワークビジネスの世界でも、これまで以上の力を発揮できるのか。今後の進展に期待したい。

ブロードバンド業界のダークホースは?

 今のところ、国内ではADSL、光ケーブルと無線LANのハイブリッドソリューションなどにマスコミの注目が集まっているが、放送と通信の融合領域を十分理解した上で着実に加入数を伸ばしているCATVブロードバンドがブロードバンド業界のダークホースかもしれない。シェアで過半数を握る業界最大手のアットホームジャパンは、地方の中小CATV事業者ともますます連携を強化し、全国規模のブロードバンドサービスプロバイダーを目指している。

 現状では、住友商事やJ-COMとの資本関係の上で事業展開を行なっているが、今後のCDN(Content Distribution Network)事業に着目してコンテンツ制作・配信の協業体制を米国のCenterSeat社、凸版印刷、松下グループ、国内有力プロバイダーと構築する動きに出ている。

 CATVインターネット業界では、すでにイッツコムがソニー陣営に入り、一部の旧東急電鉄傘下の民鉄系CATV事業者もこの動きになびくと予想したい。さらに、これらの動きを受けて、今後アットホームジャパンがどのような合従連衡を行なっていくか期待したいものだ。筆者の予想では、FTTHをベースとした本格的ブロードバンドサービスのプロローグとしてNTT系列が同じ舟に乗ることもあり得ると見ている。とくに、KDDIが早々とイッツコム連合になびいており、これに対抗する意味でも、NTT系とのランデブーが現実味を帯びてきているといえるだろう。

長門雄太
国内よりも国際で知られた異色のITスーパーマン。考案した特許はPDA、デジカメ分野でも活かされる。幾つかの仕事を器用にこなすマルチ人間。
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