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米国の最新ブロードバンド事情
[2002/04/12]
韓国ブロードバンドはADSLからCATVへ
[2002/03/29]
韓国のホットスポットサービスの動向
[2002/03/08]
Excite@Home経営破綻の顛末
[2001/12/26]
ブロードバンドとモバイルを組み合わせた“Mフレッツ”の提案
[2001/11/30]
ブロードバンドコンテンツ流通はどうなる?
[2001/09/28]
CATVブロードバンドが目指す戦略
[2001/08/31]
真夏の夜の夢、ブロードバンド千夜一夜物語
[2001/08/23]
一気に進むか、モバイルブロードバンド
[2001/08/09]
ブロードバンドも“It's a SONY!?”
[2001/08/02]
ブロードバンド普及のカギを握るCATVインターネット
[2001/07/26]
NTTのブロードバンド戦略への提案
[2001/07/17]
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ブロードバンドとモバイルを組み合わせた
“Mフレッツ”の提案


 世界の通信事業者の決算状況は総じて史上最悪の事態を迎えている。わが国の情報通信産業の機関車ともいわれてきた日本電信電話株式会社も、携帯電話におされて大黒柱である東西会社の電話事業も不振で大赤字を出している。NTTドコモやNTTコムの海外投資の失敗による損失という理由もあるが、有線通信事業の衰退で社名の電信電話がとれて、まさに混迷を続ける“日本株式会社”そのものの象徴になりつつあるのだ。トップ記者会見を見てもパンチの効いたビジョンもなく、出口のないトンネルに迷い込んだ感じさえする。しかし、有線通信事業の起死回生を図る策はまだありそうだ。

ブロードバンドの新定義

 世の中全体に携帯市場に目が行き、モバイルブロードバンド到来などと騒いでいるが、世界初の3GサービスであるFOMAで提供される384kbpsは、ブロードバンドというにはおこがましい。フェーズ2の2Mbpsになったとしても準ブロードバンドに過ぎない。MITメディアラボ所長のネグロポンテ教授も「高くて遅い3G失望記」なる記事をいろいろなメディアを通じて発信している。もっとも、幸か不幸か、米国ではFCCの周波数政策により、「軍用無線周波数として占用されているバンドを変更してまで3G周波数の割り当てはしない」という決定が発表されている。

 おそらく、米国の携帯市場は一部地域で導入されるであろうGPRSを除いて、3Gをスキップし一気に4Gに進むだろう。すでに秘密裏に、産官学の4G開発推進プロジェクトが走り出しており、モバイルインターネットで日本、欧州に遅れをとった分を巻き返すべく、相当に前倒しした導入が予想される。

 一方、有線系のブロードサービスはYahoo! BBの価格破壊的な市場参入によって、下り8Mbpsが当たり前になってきた。数カ月前までは「ブロードバンドとは1.5Mbps以上の伝送速度を有するネットワーク」などと通説的に定義されていたが、今や過去の話になってしまった。

BBは上りも勝負になる!

 今のところ、有線系ブロードバンドのセールストークでは8Mbpsが各社の勝負どころになっている。しかしこれは、ストリーミング系コンテンツや音楽コンテンツのダウンロード中心の片方向BB(BroadBand)を見据えた下り伝送速度の話。今や、ユーザー発信型の双方向BBにシフトしつつある。CATVインターネットのユーザー要望アンケート結果を見ても、上り伝送速度の高速化要望が急に高くなってきた。この現象は、3メガピクセル以上のデジタルカメラや、メモリカードへの画像蓄積が簡単に行なえ手軽にムービー伝送ができるビデオカメラなどの家庭への高普及によるものと考えられる。これからクリスマスカードや年賀状をムービーメールとして交換しあうこともはやるだろう。

 さらに、アットホームジャパンで開始した“インターネットカメラ@NetEyeカメラ”サービスのようなVideo over IPが2002年のキラーアプリケーションとして定着すれば、上り方向の高速化ニーズはますます高くなるだろう。これらの傾向を読み、すでにCATVインターネット事業者では上り回線でも1Mbpsや2Mbpsの伝送を可能にする検討を開始している。こうなると、非対称伝送の宿命を背負ったADSLは一気に粉砕されてしまうかもしれない。総務省は、ブロードバンド普及傾向統計の中で、ADSLは2003年以降急速に減少する、と予測しているが、結構的を得た話かもしれない。

有線系BBの活路

 有線系では8Mbpsの常時接続がブロードバンドのデフォルトになりつつある。しかし、有線系の場合、加入者はこの高速広帯域なアクセスサービスを特定の場所(住居)でしか享受できない固定型ブロードバンドサービスだ。一方、携帯系は、当面の目標が2Mbpsとはいうものの、場所に捕らわれないFlex Location Broadbandを実現する可能性が高い。さらに、携帯事業者は、3Gの位置情報データを活かしたFWAやWLLと言ったサービスメニューで有線系市場に食い込むことを考えている。

 つまり、あらかじめ登録した位置情報エリア内での携帯通信は固定状態で使用していると判断し、大幅な通信料割引や定額制を適用するわけだ。このままでは、有線系事業者の生きる道は断たれてしまうかもしれない。しかし、「加入権のポータビリティ+モバイルの点と線」というキーワードで頭を捻れば活路はまだあるのだ。

早く始めてほしい日本版2.5G?“Mフレッツ”

 この活路、実は仕掛けは簡単なのだ。話を見えやすくするためにNTT東西会社の生きる道、として考えてみる。

 フレッツ・ADSLやFTTHサービスのBフレッツに加入して固定ブロードバンドを楽しんでいるユーザーを対象に、IEEE 802.11系を使ったホットポイントへのアクセスを認めるのだ。もちろん、アクセスは一見さんお断り型で、フレッツユーザーにアクセスのためのIDとパスワードをフレッツメンバーズカードの形で発行する。このカードがSIMになっていれば満点ハナマルものだ。NTTも電電公社以来の電話番号でのユーザー管理ではなく、顧客別にアカウントナンバーで管理していくように変更すべきであり、その際のインターフェイスがまさにSubscriber Identity Moduleカードというわけだ。

 SIMはモバイル用にこだわる必要はないのだ。必要に応じてクレジット/デビット/プリペイド機能なども選択付加できるようにして6,000万余りの加入者にICカードを配るような大胆なビジネス戦略は出てこないものか。ICカードの一部を金融機関、交通機関、公共機関にも開放することで大きなIT経済効果も期待できよう。

Intelが発表したIEEE 802.11a対応のアクセスポイントと無線LANカード
 話を戻そう。IEEE 802.11bはすでに関連機器も低価格になり、日本IBMのThinkPadシリーズのように無線を内蔵したノートPCも多い。さらに、2002年上期には5GHzバンドを使ったIEEE 802.11a機器の低価格化も進み54Mbpsの本格的ワイヤレスブロードバンドが実現されるだろう。ノートPCやPDAを外出先でも無線リンクでフレッツホットポイントにアクセスできれば、本来のフレッツ加入場所と同様のブロードバンド環境を使えるというわけだ。つまり、モバイルインターネットも移動中でも使える「線のモバイル」ばかりではなく、半固定状態で使う「点」のモバイルの効用も考えた利用形態を開発してほしい。

本当にホットなカレーの東洋

 今や、秋葉原を徘徊するモバイラーにとって、カレー屋「東洋」はホット(辛い)でおいしいカレーを食するだけの場所ではない。IEEE 802.11bのアクセスポイントを設置したホット・ポイントなのだ。残念ながら、今のところ東洋としてはカレー以外の儲けはない。しかし、一昔前まで街角通信のアクセスポイントであった赤電話(委託公衆電話)と同じように無線アクセスポイントの設置者に対してアクセス量に応じたキックバックやアクセス1回ごとに定額を徴収するような仕組みを作れば、一般のフレッツ加入者自身がアクセスポイント設置者になりたい、という希望も増え一気にホットポイントも増えるだろう。この辺は、米国モバイルスター社などのビジネスモデルを参考にしてほしいものだ。

ハイブリッドなMフレッツ

 これからのネットワークは何でもあり、の時代を迎える。つまり、ここで提案するM(Mobile)フレッツあるいはフレッツモバイル(筆者が勝手に命名しているが)はハイブリッドなネットワークの典型となるだろう。物理的な構成という点では、ADSLやCATVを使った有線系ブロードバンドネットワークとIEEE 802.11xシリーズを使った無線リンクのハイブリッドであり、制度的に見れば、公衆通信事業として規制下にあるネットワークと免許不要のISMバンドを使った無線ネットワークの特徴を活かした構成になっているわけだ。

 とかくISMバンドについては、セキュリティとか混信障害の不安とかが大げさに叫ばれるが、広義のベストエフォート型ネットワークとして割り切って、ユーザーが各種のネットワークアクセス方法を使い分けていく時代だと考える。まずは、あらゆるシーンでブロードバンドを活用し、その過程で発生する問題点は走りながら解決していくことが求められるだろう。

長門雄太
国内よりも国際で知られた異色のITスーパーマン。考案した特許はPDA、デジカメ分野でも活かされる。幾つかの仕事を器用にこなすマルチ人間。
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