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CATVのインフラ(1)
それは共同視聴から始まった


イッツ・コミュニケーションのたまプラーザ放送センター
 NTTに続くインフラ探検隊の第2弾は、半世紀の歴史を持つテレビ。これをなんとしても見られるようにしたい、というところから始まったCATVのインフラをお届けしたい。目的地は、この8月に「イッツ・コミュニケーション(愛称:イッツコム)」という新社名になったばかりの旧東急ケーブルテレビジョン。看板の付け替えに余念のない、たまプラーザ放送センターにおじゃまして、総務部の小松千晃さんにお話を伺った。

それは共同視聴から始まった

 電話や電気と同様、どの家にもテレビのケーブルはたいてい配線されている。ただし電話線や電力線と違い、その先は屋根の上のアンテナで電波を拾っているのが一般的だろう。ところがこの電波というヤツが厄介で、広域に渡る均一なサービスを提供するのが、なかなか難しいのである。最近は衛星を使った直下型の放送もあるが、オーソドックスな地上波の場合には、送信所からの距離や障害物といった立地条件に、サービス品質が大きく左右されてしまうのだ。

 NHKがテレビの本放送を開始したのは、1953年のことである。電電公社の電話と同様、全国均一サービスというのが、NHKの大きな使命の1つだったのだが、干渉の避けられない電波だけでカバーするには、自ずと限界がある。そこで、難視聴地域には有線で配信する方法を検討し、1955年に群馬県の伊香保でCATVが初めて実用化された。電気洗濯機、電気冷蔵庫と並びテレビが三種の神器と呼ばれた時代に、共同アンテナテレビ(Community Antenna Television)としてのCATVがスタートしたのである。

 限りのある公共資源を使う無線と違い、クローズドな有線は、本来はその性質上何でもアリの世界。いろいろなサービスに応用できる可能性を秘めていたのだが、行政指導のもとにさまざまな規制を受け、共同視聴用の再送信と地域に密着した自主放送を行なう地元出資の局を、市町村に1社だけ認可するという政策が長らくとられていた。

 規制は、やがて段階的に緩和されていくのだが、まずは1980年代に入り、多チャンネルのいわゆる都市型CATVが立ち上がりはじめる。とくに1987年以降は、多チャンネル双方向対応のCATV局が次々に誕生し、CATVはさまざまな通信を融合するフルサービス化の道を歩み始めたのだ。東急ケーブルテレビジョンが渋谷区と横浜市緑区の一部で営業放送を開始したのも、そんなCATVの新時代を迎えようとしていた1987年のことである。

 同社の沿革を見ると、1970年には、早くも東急電鉄がCATV業務の届けを提出したとある。1970年といえば、CATVの可能性が大いに注目され、次々に事業が立ち上がっていった第1次ブームの頃だ。1972年には「有線テレビジョン放送法」が制定され、期待されたニューメディアの炎は、結局不完全燃焼のまま一旦消えてしまうのだが、1983年に旧東急有線テレビが設立されるまでの空白の10年は、ちょうどそんな時代背景とも一致する。

CATVの仕組み

 昨年7月にソニーと提携し、8月にイッツ・コミュニケーション株式会社となった同社のルーツは、1918年に創設された田園都市株式会社にある。田園調布周辺の街づくりを目指し宅地開発などを手がけていた田園都市株式会社から、1922年に目黒蒲田電鉄として鉄道部門が分離独立。1942年に東京急行電鉄となり、東急グループの礎が築かれた。

 現在は、全国各地で活躍する東急グループだが、原点は、田園調布周辺から始まった多摩田園都市の街づくりにあるわけだ。多摩田園都市というのは、東京都と神奈川県の堺を流れる多摩川の南西、川崎市、横浜市、大和市にかけて広がる丘陵地のことで、東急グループが中心となって開発した国内最大の民間住宅地である。

 旧世代のCATV局は、市町村単位の比較的小さな地域限定サービスだったが、イッツ・コミュニケーションの場合は、この多摩田園都市一帯にネットワークを構築。東急沿線の細長いエリア(直線距離で約30km)に住む約30万世帯(4月現在)が接続され、同社のサービスを受けているという。放送センターは、この細長いエリアに6カ所あり、それらを東急の鉄道敷に沿って敷かれた光ファイバを使って接続したのが、イッツ・コミュニケーションの局側のネットワーク。そして5つのサブセンターの核となるのが、今回おじゃました横浜市青葉区にある「たまプラーザ放送センター」である。

 2000年度末の集計では、CATVの施設数は全国で4万4138事業者。1871万世帯が加入しているといわれるが、自主放送を行なう施設はそのうちの646。さらに端子数が500を越える施設となると、僅か512事業者に過ぎない(ここに1千万人の加入者が集中しているのだが)。最近は、合併によって巨大な局も誕生しているが、単独の事業者としてスタートした中では、イッツ・コミュニケーションは最大級のCATV局といえるだろう。

アンテナに向かって壁をよじ登っていく、集合住宅のCATV。壁に取り付けられているのは、NTTのメタルケーブルでもおなじみの保安器
 
CATVの帯域マップ
 このような大規模な施設も、数十世帯を対象とするような小規模な共同視聴設備も、規模の大小はあれ、基本的なケーブルネットワークの部分は同じようなシステムである。極端な話、集合住宅の共同視聴アンテナや、一戸建て住宅で各部屋に分配する受信設備も、アンテナで受けた微弱な高周波信号を、同軸ケーブルを使って受像機に引き込む同じ仲間だ。

 家庭の受信設備では、複数の部屋に分岐する際に、小さな分配器を取り付ける。信号レベルが弱過ぎる場合には、ブースターで増幅することもあるし、VHFやUHF、BSなどを効率よく引き込むために、混合器を使って1本のケーブルにまとめてから引き込むケースも多い。オーソドックスなCATVは、まさしくこのスタイルで、ロケーションのよいところに建てたアンテナを使って放送を受信し、同軸ケーブルとブースターや分配器を使って各家庭まで伝送する。

 壁のアンテナ端子は、屋根のアンテナもCATVも同じF型のコネクタであり、流れる信号も同じもの。テレビは、1チャンネルあたり6MHzの帯域を使用しており、VHFの1~3チャンネルが90~108MHz、4~12チャンネルが170~222MHzの周波数帯域に割り当てられている。これらは、通常そのまま再送信されているので、CATVとはいえ、特別な機器を使うことなく、そのまま普通の受像機で受信できる。アンテナ完全互換ゆえ、集合住宅のような新たにケーブルを敷設しにくい環境であっても、既存のアンテナとすりかえてCATV対応にすることも可能というわけだ。少々異なるのは、現在のCATVのサービスは、それだけじゃないという点である。

 無線と異なり、CATVはケーブル内のクローズドなサービスであるため、再送信用の周波数帯以外もフルに活用できる。伝送特性は設備によって異なるが、450MHz(一般的な同軸タイプ)とか750MHz(幹線に光ファイバを用いたハイブリッドタイプ[HFC~Hybrid Fiber/Coaxial])といった高帯域まで伝送可能なので、これを使って、多チャンネル放送をはじめとするさまざまなサービスを提供することができる。

 たとえば、VHFのローバンド(1~3)とハイバンド(4~12)の間は、62MHz空いている。空中を伝搬する電波のほうは、ほかの用途に割り当てられているので勝手に使うことはできないが、ケーブル内ならOK。テレビ10チャンネル分相当のこの帯域は「ミニバンド」といい、CATV用のC13~C22チャンネルがここに割り当てられている。VHFの上の帯域も同様で、こちらは「スーパーハイバンド」といい、222~468MHzにC23~C63チャンネルが割り当てられている(受像機によっては、これらチャンネルに対応した製品もあるが、通常はスクランブルがかかっているので、CATV対応の受像機があれば見られるというわけではない)。

 さらにその上は、13~62チャンネル(470~770MHz)のUHF放送が続くが、CATVの場合には、一般にUHF放送はそのまま再送しておらず(システム的に伝送できない場合も多い)、必要に応じて別のチャンネルに移動して再送している。10GHzを越えた高周波を使うBSやCSは、もはや同軸ケーブルの限界を越えてしまうので論外。これらも、必要に応じて別のチャンネルに移動する。

 ちなみに家庭で直接受信するBSやCS放送も、実はアンテナのところで一旦1GHz帯の中間周波数(IF~Intermediate Frequency)にダウンコンバートしてから引き込む仕様になっている。高周波伝送が得意な同軸ケーブルもさすがに10GHz帯となると、短距離とはいえ減衰が激し過ぎて使えないのである。

 では、実際のところはどうなっているのだろうか。そして、VHFの下にもある未知の帯域の正体や如何に……。インフラ探検隊は、その核心に迫りつつ次回に続くのだった。


□イッツ・コミュニケーション
http://www.itscom.jp/

鈴木直美
幅広い技術的知識と深い洞察力をベースとした読み応えのある記事には定評がある。現在、PC Watchで「PC Watch先週のキーワード」を連載中。
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