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海底ケーブルネットワーク(5)
WDMが誘うテラビットの世界


 「FTTH」の旗印のもと、100Mbpsの光ファイバを個人で占有できる世の中になってしまった。が、そんな大盤振る舞いができるのは、あり余るほどのファイバがある陸上でのお話。Fiber To The USAの海底には、とてもじゃないけどそんな余裕はないし、陸上だって、ファイバ不足に悩んでいるところはたくさんある。WDMは、そんなファイバ貧乏たちの福音だった。

 大量のデータを高速に伝送するためには、転送速度を上げる方法と、伝送路を増やす方法がある。荷物の運搬にたとえるなら、100倍の輸送量を確保するためには、これまでの100倍のスピードでかっ飛んでいくか、トラックを100台に増やすかという選択だ。速度を上げる方法は、ある程度までならば比較的コストのかからないよい手段なのだが、時速4000kmとか6000kmで走るトラックとなると、もはや実現不可能な世界になってしまう。

 通信にも同様の問題がある。技術の進歩によって、メガビットからギガビットの世界にやってこられたが、これをテラビットにするとなると、時速4000kmのトラックを作れというようなもの。とてもじゃないが現在の電子回路は、そんなスピードにはついていけないのである。実際はというと、現在は10Gbpsで、次は40Gbpsかなといったところ。これだけでは、テラビットには2桁足りないレベルである。

 それならファイバを100倍に、というのが困難なのは、「これが海底ケーブルだ!」(http://bb.watch.impress.co.jp/column/infra/2001/10/10/)でお話したとおり。太平洋を結ぶ光海底ケーブルには、わずか数ペアの芯線しか入ってないのだ。同様の悩みは、1990年代の米国の新興キャリアも抱えていた。AT&Tに果敢に挑む彼らではあったが、なにせ先立つものがないので、ファイバを潤沢に用意するというわけにはいかない。少ないファイバで一所懸命やりくりしていたのだが、おりからのインターネットブームで通信量は急増し、需要に見合うキャパの確保が急務となっていた。とにかくファイバがたりない、どうしようか、というところで、にわかに注目されたのがWDM(Wave Division Multiplexing〜波長多重方式)という技術だった。

 それまでの光通信は、1つのファイバに1つの光を通し、これをピカピカ点滅させて信号を送っていた。WDMは、同じファイバに別の光も一緒に入れて送る。もちろん、波長が同じだと識別できないので、別の波長の光を入れてやる。イメージ的には、赤や青や緑(実際には可視光ではないのでこのような色はない)といった光を個別にピカピカやり、これを1本の光ファイバで伝送する。こうすれば、ファイバを増やさなくても容量を2倍、3倍にできるという、まさにファイバ貧乏にはうってつけの技術なのである。光増幅技術で第2世代を迎えた光通信は、このWDMと出会うことによって、驚異的な大容量化を実現する第3世代へと突入するのであった。

WDMの原理

WDMを支える光増幅技術

 1990年代の半ばに、米国の陸上と海底で急速に普及することになったWDMだが、これを支えたのが、前回お話した光増幅器である。旧来からの再生中継方式は、受信した光信号を電気信号に戻し、再び適正なタイミングに合わせて光信号を送信する、いわば中継用の送受信機だった。これを使ってWDMを中継するためには、分波器と合波器の間に、波の数分の送受信回路が必要になる。たしかにファイバの本数は少なくてすむが、これでは経済的な意義は薄れてしまう。200個、300個という中継器が入る太平洋を、100波分の再生中継器で結ぶなんてことになると、信頼性以前の問題として、物理的にも供給電力の上でも、不可能なことになってしまう。

 光アンプ自体は、通過する光に不足したエネルギーを補充するためのファイバであり、受けた光をそのままレベルだけ持ち上げて送り出す。増幅できる帯域には制限があるが、信号の中身は一切おかまいなし。どんなタイミングでどんな信号がこようが、それが1波だろうが100波だろうが関係なく、全部まとめて増幅してくれるという、WDMにとってたいへん都合のよい仕様なのだ。

 高速な電子回路を大量に積み込む必要がないので、設計上もそして消費電力も最小限に抑えられる。たとえば、再生中継方式で太平洋を越えた最初の海底ケーブルでは、280Mbpsの1波を中継するために、1.6Aを供給していたそうだ。電気回路の増幅器の場合、原則として同じ技術で設計すれば、帯域に比例して消費電力が増える。したがって、5Gbpsなら28.5Aを供給しなければならないことになるのだが、同じ1波で5Gbpsの光増幅システムでは、逆に1A弱に減っている。当然、技術的な改良も施されているわけだが、電気回路の世界だけでやっていたのでは、このような劇的な低消費電力化は難しい。この辺は、増え続ける消費電力とその熱対策に追われている昨今の高速CPUを見てもわかるだろう。

 エネルギー効率のよさというのは、余分なことを行なわない光増幅の潜在能力であり、これをうまく引き出していくことにより、その後の100GbpsクラスのWDMシステムでも、消費電力を上げずに対応できたのだそうだ。以前にもお話したように、電力設備のない海底に沈められる膨大な中継器は、ケーブルの中にある銅パイプを使って陸上から給電を受けている。省エネな光増幅器がなかったら、電力供給の点でも、すでに破綻していたことだろう。

光通信技術の現状

 さて、ファイバの大容量化に拍車をかけたWDMだが、いったいどれくらいの伝送能力があるのだろうか。報道では、10Tbpsの伝送実験に成功したとか、100Tbpsまで可能らしいとかいわれているが、これはまったく別次元のデータ。物理的な可能性を前者は実験で、後者は机の上で算出したものである。実験で実証したとなるとかなり説得力があるのだが、これも、自分たちの技術の未来に明るい展望を持つためのいわゆるヒーロー実験であり、少なくともエンジニアは、これが即プロダクトになると考えているわけではないということだ(筆者などは、あと2〜3年で1ファイバあたり10Tbpsの世界がやってくるのかなぁと思っていたのだが)。顧客に、自社の技術力や製品の拡張性を示すための客寄せという意味合いも多分にあるのだが、実際の商品とは別のあくまで参考出品程度の位置付けである。一方の100Tbpsのほうになると、これはもう光ファイバの潜在能力であって、○○先生とかの講演に出てくるツカミの世界かなといいたところだ。

 では、商用レベルではどうかというと、実際に光増幅器の帯域にどれだけ信号を詰め込んで、しかも安定動作させられるかということになる。エルビウムドープファイバの増幅帯域は、普通の使い方をすると、だいたい30nm(1.55μm帯なので4THz弱)といわれている。レーザーから出てくる光自体は、非常に純度の高い光なので、ほとんどその周波数成分しか持たないのだが、これを変調すると、変調して情報を乗せた分だけスペクトルが広がる。重なってしまうと完全な混信状態になるが、接近するだけでも相互作用が急速に強まり、信号の劣化が激しくなる。

 そこで、スペクトルが広がらないような変調方式にしたり、あまり重要でない成分を、光フィルタを使ってバッサリ切り落としたりといった方法で、できるだけスリムな信号にしてやる。また、相互作用ができるだけ起こらない、低非線形なファイバを開発しようというアプローチもある。こうしたさまざまな技術を投入しつつ、研究開発を行なっているわけだが、現行の技術では、1ファイバに1Tbpsを乗せるレベルが、日米間だろうとどこだろうと普通に提供できる商品。で、もう少し努力すれば2Tbpsも商用になるかなといったところだそうだ。「普通10Tbpsだよね」はムリだが「普通2Tbpsだよね」という世界は、2〜3年先にはやってくるのだろう。

さらなる大容量化に向けて

 周波数利用効率でいうと50%くらいが、現在の商用レベルの技術水準ということだが、これをさらに向上させるというのは当然、今後の大きな技術目標のひとつである。が、エルビウムドープファイバの帯域に限りがある以上、エルビウムドープファイバとWDMのコンビだけでは、伝送容量の向上には自ずと限界がある。そこで、「増幅帯域が足りないならもっと増やしてみましょうか」というアプローチも、盛んに行なわれている。

 さきほどエルビウムドープファイバを普通に使うとと書いたが、ある工夫をすると、そのままそっくり長波長帯が光るように変えることができるそうだ。エルビウムでは、通常の1.55μm帯と長波長の1.58μm帯の2つしか使えないが、ツリウムという元素を使うと、さらに1.49μm帯も増幅できるようになる。前出の10Tbps伝送実験は、NECが今年の3月に発表したものだが、同社では、新たにこのツリウムを使った光増幅器を開発。3バンドをフルに使うと同時に、光の偏波を変えて80%の周波数利用効率で伝送。40Gbps×273波=10.9Tbpsで117kmの伝送を成功させている。

 エルビウムドープファイバという新星のおかげで、すっかり霞んでしまった技術がたくさんあったのだが、最近は、それらも再び脚光を浴び始めている。ラマン増幅というのもそのひとつだ。これは、ファイバの中で光の相互作用を起こさせてエネルギーを転化する増幅方式で、直進してくる光信号に対して、同じファイバの中に低波長の大パワーの光を放り込んでやる。すると、ファイバのガラスを構成している分子の振動という現象を介して光信号にエネルギーが受け渡される。このラマン増幅は、非常に大きなレザーパワーが必要であり、80年代には、非現実的な増幅方法として断念せざるを得なかったのだが、技術が進み、現在はこれを利用したシステムというのも稼働している。

 このラマン方式が特に注目されているのは、原理的にどの波長帯でも増幅できるので、「足りないなら増やしましょう」に応用できるわけだ。ちなみに、富士通が先頃発表したWDM伝送(http://bb.watch.impress.co.jp/news/2001/10/25/24tbwdm.htm)が、このラマン増幅を使ったシステムで、74nmの単一波長帯域を使用し、2.4Tbpsで7400kmの伝送を行なっている。

 先週と今週は、KDD研究所の枝川登氏のお話をもとに、大量のデータを遠くまで送る光通信の2大テクノロジをご紹介したが、いかがだっただろうか。波長もまだまだ増やせそうだし、通信の未来は安泰だね、といいたいところなのだが、「大容量化のゆく末には、実は電力の問題が立ちはだかっているんですよ」と、最後に枝川氏はおっしゃった。波長はいくらでも増やせるけど、1波長よりも10波長、さらに100波長と、増やせば増やすほど光アンプの出力を上げていかなければならない。光アンプの出力を上げるということは、そこに送り込む光のエネルギーを増やさなければならないということで、それを増やすためには当然、光の素となる電気の量を増やさなければならない。

 電気回路をすっとばして効率がよくなったとはいえ、つまるところは、やはり電力がないと通信容量が増えない。もちろん、その末端には、ほとんどヒーターと化した電子回路たちが大量にぶら下がっているわけで、このまま世界規模で通信需要が増えていけば、いずれは、ファイバ云々ではなく、エネルギーが通信容量を支配することになるというのである。

 「そうかぁ、そいつはやっぱり電力会社に話を聞いてみないといけないなぁ」ということで、次回のインフラ探検隊は、東京電力に乗り込むことにした。テーマはもちろん、「通信の未来を支える電力事情」といいたいところだが、やはりBroadband Watchですからそれなりに。

(2001/11/1)


□KDDI
http://www.kddi.com/

鈴木直美
幅広い技術的知識と深い洞察力をベースとした読み応えのある記事には定評がある。現在、PC Watchで「PC Watch先週のキーワード」を連載中。
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