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スピードネットのネットワーク(2)
周波数ホッピングはノイズに強かった


 スピードネットが採用している無線システムは、基本的には私たちが使っている無線LANと同じIEEE802.11ベースのものである。少々異なるのは、バックボーンが広域をカバーする大規模な光ファイバネットワークである点と、無線に周波数ホッピング方式を使用している点だろうか。今回は、スピードネットの末端を支える、無線アクセスシステムにスポットをあててみたい。

 広く普及している技術や製品を使うことができれば、コストを大幅に削減することができる。昨今のローコストインフラを支えているのが、ほかでもないIPベースのシステムであるように、汎用品、それも桁違いの数が流通するコンシューマ市場のものであればなおさらである。ではなぜ、11Mbpsというアップグレードパスが用意された直接拡散方式(DS~Direct Spread)ではなく、周波数ホッピング方式(FH~Frequency Hopping)なのだろうか(DS、FHに関しては、「ホームネットワークのインフラ」の第6回を参照)。

周波数ホッピングはノイズに強かった

SpeedNetで使用している無線ユニット
屋外への設置が可能なアンテナ。これを無線ユニットと接続する
 2.4GHz帯は、さまざまな機器が使っているのでノイズが多いといわれている。海外では、コードレスホンという、引き合いに出すにはもってこいの存在がいるのだが、日本の場合はこれはなし。その内訳はというと、アマチュア無線、電子レンジ、各種医療機器などとなっている。

 2.4GHz帯は、たしかにアマチュア無線と競合しているが、このバンドを常用するアマチュア無線家はきわめて少ない。電子レンジは、水の分子などを2.45GHzの高周波で振動させ、その摩擦熱で食品をチンしている。あっという間に調理されていくさまを見ると、かなり強力そうだし、多くの家庭で使われている。が、無線LANを使ってらっしゃる方ならご存じのとおり、物置から古い電子レンジを引っ張り出してくるとか(古い機種はシールドがあまい可能性がある)、ノートPCを側近に持っていくとかの細工をしないと、なかなかうまく干渉してくれない。たとえ干渉したとしても、はたして電子レンジが、1日にどれほどの時間稼働しているというのだろうか。少なくとも家庭内では無視できる存在といっていいだろう。が、屋外となると、少々状況が変わってくるかもしれない。電波の通り道に大きなノイズの発生源があったら、その先のユーザーにはかなりな影響が予想される。

 スピードネットでも当初、コンビニなどに置かれている電子レンジの影響を懸念していたそうだ。しかし実際には電子レンジなどは取るに足りない存在で、これは単なる取り越し苦労に終わった。ところが、通り道のノイズ発生源として、最後の医療機器は無視できなかった。たとえば、よく整形外科などで温熱療法に使っているマイクロ波治療器。こいつはいうなれば人体向け電子レンジで、2.45GHzで100W級の高周波を、直接患部に放射している。このマイクロ波治療器が動き出したとたんに、無線LANにすごいノイズが混入してしまったのだそうだ。

無線LANのFH方式、DS方式に医療機器のノイズが与える影響
 DS方式は、狭帯域の信号に特殊なパターンを掛け合せて広帯域に拡散する。局所的に大きなエネルギーを広い帯域全体にまんべんなく散りばめるわけだ。ここに、局所的な大きなノイズが混入しても、復調時に信号を逆拡散すると大きなノイズのほうがまんべんなく拡散されるため、ノイズの影響を低減できる。ところがチャンネル全体をノイズに占拠されてしまうようだともはやアウト。実際、衝突する1チャンネル分は、通信が途絶えて使いものにならない状態だったという。

 一方のFH方式は、狭帯域の信号の搬送波の周波数を次々に切り換えることにより、結果的に信号を広い帯域に拡散している。常に広帯域を使用しているDSと異なり、短い時間で見ると占有しているのは狭い帯域でしかないのだ。もちろんこの切り換える範囲が、DSの占有帯域と同じように一定の帯域に分割された狭い範囲内でのことだったら、DSと同様、衝突する1チャンネル分は、丸々潰れてしまったかもしれない。だが実際には、無線LANが利用可能な帯域全体を使ってホッピングする。具体的には、1MHz幅79個のチャンネル(スピードネットの無線LANは、国内で後から追加された2.400~2.4835GHz「ARIB STD-T66」を使用している)全体をフルに使い、次々に搬送波の周波数を切り換えていく。2.45GHz近辺のチャンネルにきたときには、医療機器の影響をモロに受けてしまうが、次のホップで影響のない別のチャンネルに移動すれば、正常な通信が再開できるわけだ。その結果、多少の劣化は避けられないものの、通信は正常に維持できるレベルに留まった。

 DSの場合も、衝突するチャンネルを使わなければ特に問題はない。ホームネットワークやホットスポットのようなサービスならそれで解決なのだが、スピードネットのような広域サービスでは、利用できるチャンネル数は命。次回は、チャンネルにまつわるFHのもうひとつの効用をお届けしよう。


□スピードネット株式会社
http://www.speednet.co.jp/


(2002/03/20)

鈴木直美
幅広い技術的知識と深い洞察力をベースとした読み応えのある記事には定評がある。現在、PC Watchで「PC Watch先週のキーワード」を連載中。
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