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通信の基礎知識(5)
身近なアンテナたち


 前回はアンテナの基礎知識をお話した。簡単におさらいしておくと、扱う周波数にアンテナが共振すると電気と電波のエネルギー変換が効率よく行なえ、電波を目的の方向に集中させるとさらに効率が上がるという2点がもっとも重要なポイントである。アンテナの基本形ということでダイポールアンテナもご紹介した。1/4波長のエレメントを2本並べた、1/2波長のもっともオーソドックスなアンテナなのだが、実際にこのとおりのアンテナを目にすることは、あまりないかもしれない。今回は、実際に身の回りで使われている身近なアンテナたちを紹介しよう。

ダイポールアンテナの兄弟たち

中波ラジオの送信アンテナ
 携帯電話やカーラジオなどに使われているアンテナは、ホイップアンテナあるいはロッドアンテナと呼ばれている。「whip」「rod」はムチや棒という見た目に由来する名前だが、これらアンテナにはエレメントが1本しかない。すなわち、ダイポール(diは2という意)ではなくモノポールアンテナである。

 省略してしまった片方のエレメントはどうしたのかというと、通常はボディをアース代わりに利用したイメージアンテナになっており、電気的に1/2波長のダイポールアンテナとして動作するものが多い(1/2波長のエレメントの一端から給電するタイプもある)。もちろん、本物の大地にアースしてしまうタイプもある。郊外のロケーションのよいところにいくと、写真のようなアンテナを見かけることがある。これは中波ラジオ(AMラジオ)の送信アンテナだが、紅白のポール自体が1/4波長分のエレメントで、もう一方は大地そのものという構成である。ちなみにアンテナの下の地面には、導電性を高めるためにポールから放射状に導線が埋めてあるそうで、これをラジアルアースという。タクシー会社の屋根などに乗っている業務無線用のアンテナには、このラジアルアースを1/4波長のホイップアンテナに取り付けたタイプが使われていたりするが、こちらはグランドプレーンアンテナと呼んでいる。いずれも、基本的にはダイポールの変形版であり、アンテナとしての基本特性もダイポールと同じ。まっすぐ立てると水平方向が無指向性になるので、移動体には最適なアンテナというわけだ。

アンテナを小さくする工夫

携帯電話のアンテナ。先端の膨らみにはコイルが入っている
 先ほどの送信所のアンテナをよく見ると、頭に丸い冠が乗っている。これは、単なる飾りや目印などではなく、れっきとしたアンテナの一部でキャパシティハットと呼んでいる。弦楽器の場合、弦にスチールなどを巻いて質量を上げてやると、同じ長さでも低い音で鳴るようになる。高周波回路では、コンデンサやコイルがこの弦を重くするための巻き線と同じ効果をもたらす。アンテナのエレメントに、キャパシタンスやインダクタンスを持たせると、同じ長さでも低い周波数で共振するようになるのだ。キャパシティハットは、その名のとおり大地との間にキャパシタンスを持たせるコンデンサタイプの重り。キャパシタンスが増えて低い周波数に共振するようになれば、アンテナを通常よりも短く設計できるわけだ。

 同様の工夫は、携帯性が重視される携帯電話のアンテナなどにも見られる。よくアンテナの先端がぷくっと膨らんでいたりするが、この部分にはコイルが入っており、インダクタンスを増やすことによって、短いアンテナですませられるようにしている。このコイルのことをローディングコイルといい、先端に付けるタイプをトップローディング、真ん中に挿入するタイプをセンターローディング、給電部に付けるタイプをベースローディングと呼んでいる。

 コイル系のアンテナには、ヘリカルアンテナと呼ばれるものもある。こちらはアンテナ全体が導線を螺旋状に巻いたアンテナだ(アンテナ全体に被服を被せてあったりするのでそうは見えないが)。螺旋の巻き方次第では、ちょっと特殊なアンテナになってしまうのだが、ヘリカルホイップと呼ばれている棒状のアンテナの場合には、エレメント全体がローディングコイルのようなもので非常にコンパクトになる。

ゲインを高める単一指向性アンテナ

テレビ電波の受信に使われるおなじみの八木宇田アンテナ
パラボラアンテナ
 無指向性アンテナは、相手の方向が定まらない移動体通信に適したアンテナだが、固定局の場合には指向性アンテナが大きな威力を発揮する。アンテナのゲインが3dB上がれば2倍の、10dBなら10倍の、20dBなら100倍の送信出力を投入する、あるいは受信感度を上げたのと同じ効果が得られ、アンテナの強い指向性は不要な方向に輻射する電波や、あるいは飛来する電波をカットしてくれるからだ。

 指向性型アンテナの中でもっともポピュラーなのが、テレビのアンテナでおなじみの八木宇田アンテナである。これは、東北大学の八木秀次、宇田新太郎両博士が発明したもので、ダイポールアンテナと並行に1/2波長よりも少し長いエレメント(反射器)を配置。その反対側に1/2波長よりも少し短いエレメント(導波器)を配置したもので(1/4波長間隔で何本も並べていくと、指向性はより鋭くなり、それに伴なってゲインも上がる)、長いエレメント側の電波は打ち消され、短いエレメント側の電波は誘導されて増強。ダイポール(輻射器)の指向性が、前方に集中するようになる。

 同じテレビでも、波長の短い衛星放送になるとパラボラアンテナが主役となる。こちらは、反射用の凹面鏡の役目をするお椀を付けたアンテナで、一般に使われているのは凹面の焦点の位置にアンテナ本体を取り付けたタイプである。原理は、反射型望遠鏡やリフレクタがついたライトと同じ。前方からの電波を広い開口部で捕らえ一点に集めて受信したり、発射した電波を反射板にぶつけて前方に集中させる仕組で、鋭い指向性と高いゲインを稼いでいる。

複数のアンテナを組み合わせる

 無線局では、先ほどの八木宇田アンテナを複数配置してゲインを上げる方法(スタックアンテナ)もよく用いられるが、身近なところでも似たようなタイプがよく使われている。スピードネットの回に登場したコーリニアアンテナ(携帯電話の基地局にもよく使われている)は、ダイポールアンテナやスリーブアンテナを複数組み合わせたアンテナである。スリーブアンテナというのは、同軸ケーブルの芯線を1/4波長延ばし、シールドの網線を1/4波長折り返して袖(スリーブ)のようにかぶせた構造のアンテナのことで、構成は1/2波長のダイポールと同じものと考えてよい。コーリニアアンテナは、これを軸上にスタックさせて一体化したアンテナ(被覆がかぶせてあるので単なる棒に見えるが)。スタックする段数に応じて、軸に対し直角方向の指向性が鋭くなりゲインが稼げるという仕組である。アンテナを垂直に立てれば、上下の方向の指向性は鋭くなるものの水平方向は無指向性なので、高いゲインを持ちながら平面的には無指向性のサービスが提供できるというのが、このコーリニアアンテナの大きなメリット。ただし構造上、波長が長くなるとこの技は使えない。

スピードネットの端末局側で使われている平面アンテナ
 スピードネットの端末局側で使用していた平面アンテナも、(おそらく)複数のアンテナを一体化したタイプである。平面アンテナという呼び名自体は、平べったいアンテナの総称であり、プリント基板の技術を使って量産できることから、近年はいろいろなところで使われている。内容もさまざまで、単なるダイポールをプリントしたものもあるが、写真のアンテナの場合には、グランドプレーンとなる導体の上に絶縁体を挟んで方形や円形の帯(マイクロストリップ)を複数配置した(要は両面基板)アレイ構造になっていると思われる(別名パッチアンテナ)。これも短波長だからなせる技だが、マイクロストリップ側の面に強い指向性と高いゲインを持つ高性能アンテナだ。


(2002/04/18)

鈴木直美
幅広い技術的知識と深い洞察力をベースとした読み応えのある記事には定評がある。現在、PC Watchで「PC Watch先週のキーワード」を連載中。
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