■モトの音が良くなったんですが……
完全にストリーミング音声配信指向になっちまった本連載、懲りずに今回もソチラ方面の話だったりするが、さておき、前回は「どーもサウンドがクリアでない」という問題を残して終了した。詳しくは『ノイズ除去してみました! スタパバンド実験放送第4回』をお読みいただきたい。
で、その問題を根こそぎ解消するゼ!! と、今回はマイクを一新。ちょいと奮発して高品位なマイクを使用して録音してみた。てなわけで、まずは第5回実験放送をお聴きいただきたい。
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今回はゲストをお迎えしての録音。「充電一直線」「エアフォース・ファン」などユニークなネーミングセンスの製品で知られるイーレッツ株式会社の奥川浩彦氏と、インプレスの月刊誌「DOS/V POWER REPORT」で激しくお世話になっているカメラマンの若林直樹氏(STUDIO海童)氏、編集1名の計4名で収録。奥川氏にイーレッツのネーミングの秘密や、若林氏にプロから見た銀塩カメラとデジタルカメラの使い分けなど、製品や雑誌を送り出す側の楽屋裏ストーリーをお送りします。
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どうすか? 音とか良くなってませんか!? でしょ!! やっぱ高性能なマイク使……え? あんまり変わらない!? 前回との違いがわからない!? かもしれない。
実は、っていうか前にも書いたとおり、本放送のサウンドファイルは、録音時と配信時に音がかな~り違っているのダ。率直なところ、録音時の音は音量が低いとかノイズが乗ってるとかで、決して良い音ではない。が、仮にもウェブサイトに掲載するコンテンツなので、その“音の悪さ”を四苦八苦してどーにか克服して(というかゴマカシて)きた。録音直後のサウンドを、かなり加工・編集してから、配信していたのだ。
が、今回、第5回の実験放送においては、さほど大胆には加工していない。音質的に気になる部分をちょいと加工し、入っちゃったノイズをソフトウェアで取り除き、後は会話中の一部を削除したという程度。第四回までの“音声コンテンツ作り”と比べたら、第5回の作業はずいぶんラクになった=手を加えるところが少なくなった。
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今回はイーレッツ株式会社の奥川氏(右)にご参加いただき、ユニークな製品ネーミングの秘密などお聞きしてみました
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昼間は降っていなかったのに収録時はまたしても雨。左が若林氏、スタパ氏の右隣が奥川氏(撮影時に席を動いたため、マイクと人の配置が原稿と異なり、奥川氏と若林氏が入れ替わって写っています)
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■本物ディレクター推奨マイク
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プロお勧めマイクのひとつ、AKG C747
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実はこの俺、今年の正月にニッポン放送のオールナイトニッポンに出させていただいた。突然「出ませんか?」とオファーを受けてウルトラビビった拙者だったが、正月のどさくさ紛れになんとかやり終えてホッとしたとかいう話はいずれ実験放送(もしくは本放送!?)でお話しするとして、そのときのディレクターさんと愉快なご縁ができた。
その人は、オールナイトニッポンのディレクターのコバジュンさんという人で、かなりのコンピュータ好きでありPDA好きでありデジタル機器好きであり秋葉原好きでありそちら方面全面的好き好きな人であり、拙者とメールをやりとりして盛り上がったりして。
さておき、コバジュンさんはその道の達人すなわちラジオ番組作りのプロフェッショナル。拙者がやり始めた実験放送でイマイチわからないコトがあったりすると、即、コバジュンさんに質問を浴びせたりしていた。で、比較的最近にズシャッと浴びせた質問で、マイクの件があった。トーク用マイクはどーゆーのがイイんですか!? 拙者もプロっぽい音質で録音したいんですけどぉ~、と。すると、ズバリおすすめのマイクを紹介してくれた。
具体的には、コンデンサマイクとしてaudio-technicaのES915、sankenのCUS-101B、SENNHEISERのMD 441-U、AKGのC747。それから、ダイナミックマイクとしてSHUREのSM57やSM58がいいヨと推奨してくれた。
また、コンデンサマイクとダイナミックマイクってどー違うんスか!? てな質問に対してもビシッと説明してくれたコバジュンさん。拙者的解説を交え、ダイナミックマイクとコンデンサマイクの違いを簡単に説明してみたい。
まず広く一般に使われているダイナミックマイクは、電源不要で比較的に頑丈で安価。前述のSHURE SM57(ゴーナナ)やSM58(ゴッパー)がそうだが、大雑把に言えばスピーチやボーカルや打楽器など比較的に大きな音の録音に向くとされている。シクミ的には、入った音が永久磁石の中にある振動板(ダイアフラム)&コイルを動かして発電するとにより、それがそのまま音の電気信号となる。
コンデンサマイクは、電源を必要とするマイクだ。音を受ける板っていうか膜こと振動板(ダイアフラム)に静電気をためておくシクミで、音が入ってその振動板が動くと静電気の電圧が変わる。その電圧変化が音の電気信号となるわけだ。この方式だと、ダイナミックマイクでは拾いにくいとされる高い周波数の音を録れて、また音全体の歯切れの良さも増すという。ただ、そのシクミ上、前述のように電源(ファンタム電源とか言う48ボルトの電源)が必要で、また装置的に敏感かつ複雑ゆえマイク自体も高価だったりする。
コバジュンさん曰く「ラジオ番組的なものの制作の場合、コンデンサマイクの方がよろしいかと」とのことゆえ、拙者はサクッとコンデンサマイクを使ってみることにした。で……さて、ど・れ・に・し・よ・お・か・なっ、とコバジュンさんオススメのマイク群を早速吟味することに。
各製品を見ていくうちに、くわッ!! これは!! なんたるカッコ良さなのかーッ!? 渋い!! サイバー!! イカス!! イカシ過ぎる!! そして欲しくて欲しくて欲し過ぎるッ!! という1本を見つけた。すなわちAKGのC747であり通称“ザ・ペンシル”でありニッポン放送でもNHKでも使われている本格派!! これだ!! これをゲットしていきたい!!
で、楽器屋さんにて注文したら、うわっ激高!! 1本5万円近くするのかよマジかよ高ぇよ俺の財布の内部状況と照らし合わせると最大2本までしか買えねえよ糞ったれのコンチクショー2本だけください。超速攻でC747を2本、購入した。……でもあと1~2本のコンデンサマイクがないと実験放送の収録をカッチリできないっていうか最悪ふたりで1本のマイクに向かって喋るような状況になるわけで話しにくいのであり録音しにくいのであり困るのであ……ああっ!! こりゃ安い!! 同じくAKG(アーカーゲーとかアカゲとかエーケージーとか読むヨ)のC1000Sがケーブル付きで9800円!! 残り在庫2本!! くわッそれクレ今くれ即座にクレっていうか売ってください買います2本ください。
てなわけで、AKG C747を2本、それからAKG C1000Sを2本、合計4本のマイクを使い、今回のスタパバンド実験放送を行ったというわけだ。……ちなみにAKG C1000Sのほーはコバジュンさんは別に推奨していないマイクであったが、楽器屋の録音マニアのアニキ的にはかなり大推奨モードであったので、そこを信じて買ってみた。
■AKG C747に惚れちゃった拙者
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コンデンサマイクとしても、ダイナミックマイクライクにも運用でき、アタッチメントで特性が変えられるAKG C1000S
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AKG C1000Sはちょいとおもしろいマイクだ。
AKG C1000SもAKG C747も同じコンデンサマイク=ファンタム電源を必要とするマイクだが、C1000Sのほーは9V電池を内蔵することによってダイナミックマイクと同様に(電源を意識せず)使える。ファンタム電源供給可能なマイクプリアンプやミキサーと接続するときはそのまま、ファンタム電源を供給できない機材と接続する場合は電池を使って、けっこー幅広い利用ができるというわけだ。
また、付属のプラスチック製アタッチメントを振動板付近に装着することで、マイクの特性を若干変えられる。プラスチック製アタッチメントは2種類が同梱されており、ひとつはPresence Boost Adapter、もうひとつはPolar Pattern Converterとなる。
Presence Boost Adapterを無理に和訳すると“存在感増大器具”となって微妙に猥褻感が漂ったりするが、ともかく、これを装着すると5KHz~9KHzの音が5dB増幅される……らしい。
もうひとつのアタッチメントことPolar Pattern Converterを無理に和訳すると“極性様式変換器”となって理解する気力さえ失せる意味不明単語となっちまうが、ともかく、これを装着するとマイクの指向性が、カーディオイドからハイパーカーディオイドに変わる。
マイクの指向性───どの方向からの音をよく拾うかという性能(というか性格)は、大分して三種類に分けられる。具体的には、どの方向からの音も拾う無指向性、正面と背面からの音を特によく拾う双指向性、それからある一方向からの音だけを特によく拾う単一指向性だ。で、この単一指向性のことをカーディオイド(cardioid)という(特性パターンのカタチが心臓のよーに見えるからだそーだ)。
また、カーディオイドはさらに細かく4種類くらいに分けられる。カーディオイドの特性をさらに強めたスーパーカーディオイド、それをもっと強めたハイパーカーディオイド、最強に強まったウルトラカーディオイドだ。で、自宅録音等で、音源の音だけを録音したい場合にはハイパーカーディオイドが向くらしい。
C1000Sは、コンデンサマイクとしても、ダイナミックマイクライクにも運用でき、さらにカーディオイドでもハイパーカーディオイドでも使えるってことで、なーんか拙者の用途にはかな~り向いている感じ。
一方、AKG C747は、ハイパーカーディオイドのマイク。また、コンデンサマイクで外部のファンタム電源を必須とするため、宅録専用な感じでしかもスピーチ録りや楽器生録りに特化した感じのマイク。潰しが利かないといえばそうかもしれない。
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AKG C747は放送局で使われているだけあって、実際使ってみるとすっげぇナイスなマイクであらせられた!!
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しかし!! 実際に使ってみたら、なるほどコバジュンさんのご指摘どおり、また放送局でも使われているとおり、AKG C747はすっげぇナイスなマイクであらせられた!!
スタパバンド第5回実験放送では、C1000SとC747を2本ずつ使って録音した。C1000Sのほーは実験を兼ねてカーディオイドのまま使っている。そしたらですね、あのですね、その差がよーくわかったんですよ!!
番組中、C1000Sに向かって喋っているのはイーレッツの奥川さんとWatch編集部の工藤さんで、その声が左チャンネルから聞こえるようにしてある。C747に向かって喋っているのはカメラマンの若林さんと拙者で、右チャンネルから聞こえるようにした(写真ではちょっと違ってますがご愛敬)。そうしたら、C747を使っている若林さんと拙者の声が、より“都合良く”録音できていたのだ。
細かい話だが、左チャンネル(C1000S使用)の奥川さんと工藤さんは声がよく通る方々。声量もけっこーある。また、話すときに若干左右に動いたりもされる。一方、若林さんと拙者は比較的に静かに話すタイプで、話すときはじっとしている感じ。要は左チャンネルの奥川・工藤チームの声のほーがパワフルに録音され、右チャンネルの若林・スタパチームはフツーに録音される、と予想していた。
が、実際は(と言っても録音直後の状態=編集・調整済の配信サウンドではわかりにくいかもしれないが)、若林・スタパチームの声の方が鮮明に録音されていたのだ。音量が大きいってことではなくて、音の細部までビシッと録れていた。また、若林・スタパチームの両名は、マイクから若干離れた位置で喋っていたにも関わらず、耳元で話しているように声の細部までしっかり録れていた。
要は、C747で録った音は、比較的に条件が悪いわりには、好条件のC1000S側環境よりも良好な録音がされていたのである。
実は事前にC747とC1000Sでテスト録音を行っていたのだが、どーも何だかC747のほーが、やや遠い距離の音もクリアに拾ってくれるよーな気がしていた。音質はC747もC1000Sも非常にナイスであるが、口=音源をピンポイントで狙って録るマイクとしては、C747のほーがワンランク、いやツーランク上の感度を持つと感じた(もちろん、カーディオイドとハイパーカーディオイドの差もあるが)。
C747を実際に使っていると“音の良さ&感度の良さ”には少々感動するところがある───とりわけスピーチ録音に関しては、多少の距離(マイクと口との位置関係)や声量にさほど関わりなく、まさに“その人の声”がそのままモロに録れるという印象。
ホレ、録音した自分の声を聴くと、なーんかこう、すげぇ違和感あったりするじゃないですか。それがですね、C747使うとほとんど違和感なくて、録音済の自分の声を聴いても「あ、こういう声出してるよ俺」と納得できちゃったりして。また、人の声とかもそうで、ヘッドホン付けて音を編集しているときに、録音済の人の声に強い臨場感を感じたりなんかして、その人が横にいるよーな気がふとしたりして、ハッと横向いたりなんかもして、微妙に背後霊的な悪寒がしたりもして、まったくイイ音で幅広いダイナミックレンジを使って録音できちゃうのである。
さらに、C747は室内でのスピーチ録音において物理的に扱いやすい。てのは非常にコンパクトで軽く、アーム(グースネック)や台座も使いやすい。単に机上に置いて、グースネックを曲げて口の方向に向ければセットアップ完了。小さいので机上を占有することもなく、片づけも容易だ。一方C1000Sは、マイク自体が大きめ&重めなので、スタンドもそれなりの大きさになる=かなり邪魔。C1000Sは、どちらかと言えば握って歌ったり、スタジオ等で大がかりなスタンドと併用するのに向くのかもなぁとか思ったりして。と同時にC747をあと2本欲したりする拙者であった。
■ちょっぴり残った音響的問題
高品位なコンデンサマイクを使った結果、なるほど納得な拙者。コンデンサマイクは音を敏感に拾うので、周囲の雑音もよく録音できちゃうという弊害もある……実は今回の録音の時もやっぱりまた雨が降ってて、その雨の音もビシッと録音されやがった。
が、存在する音をよりリアルに精密に録音できるのは至福。ノイズ対策を行えば、さらにさらに高品位な音を目指せるからだ。逆に、そこそこの音しか録れないマイクだと、どう対策しようが加工しようが音質的に頭打ちする。
実際はシロート録音なので、放送局並みのハイクオリティサウンドってのは不可能だったりもする。が、しかし、コンテンツのソースとなる録音直後のサウンドは、やっぱりハイレベルであるほーが都合が良く、精神的にも気持ち的にもヒジョーにイーヤッハァ!! という心意気なのである。
けれど、ちょいと問題が残った。って毎回問題残しまくりの俺だが、今回の問題はちょいと厄介。感度が良いマイクを使ったからってのもあるが、デジタル録音に付きまといがちなクリッピングノイズ───過大入力が生じたため波形が真っ平らになってバリバリした歪みが聞こえちゃうという症状が“さらに耳障りになった”。いやね、良好に録音できている部分はイイ音なんスよ。で、時々聞こえてきやがるクリッピングノイズ。そのギャップが激しい。イイ音の中に突然出現する最悪の音。拙者の熱いサウンド編集魂も一瞬で滅亡ってわけですな。
ちなみに、この問題も、配信用に加工編集済のサウンドではあまり聞こえなくなっている。なるべく聞き苦しくないようにと、何カ所もあったクリッピングノイズを強引にゴマカシているのだ……このクリッピングノイズ処理作業がけっこー面倒だったりもする。
てなことで、次回はこのクリッピングノイズを根本からなくしていこうと画策中。もちろん、そーゆーコトができる機材を使ってである。凶と出るか吉と出るか、次回のスタパバンド実験放送でその答えが聞こえることになろー。
□スタパ齋藤常時出演中!!「スタパトロニクスTV」(impress TV)
(2003/05/28)
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