改造Firefoxで日米間6.5GbpsのWebアクセス。東大が世界最速達成


東京大学の平木教授

 東京大学大学院情報理工学系研究科の平木敬教授らによる研究チームは27日、米国で開催されたスーパーコンピュータ関連の国際会議「Supercomputing 2009」(主催:IEEEコンピュータソサエティ)の「バンド幅チャレンジ」で実施した日米間の長距離ネットワークデータ転送実験で、小型PCを用いて、Webを介した6.5Gbpsのデータ転送速度を達成したと発表した。

 このデータ転送実験は、東京大学と米国ポートランドの「Supercomputing 2009(SC09)」会場に設置した2台の小型PCと、10Gbpsの学術用ネットワークを使って実施した。小型PCの使用部品はすべて市販品で構成され、CPUは「Intel Core i7 940」、マザーボードは「ASUS Rampage II GENE」、ネットワークインターフェイスは「Chelsio S310」を使用。SSDとして使用する6個の「Intel X25-E」は、シリアルATA RAIDカードを使って「RAID 0」で接続した。システム価格は60万円程度。また、本体サイズは27×20×60cm、重量は9.6kgと、旅客航空機内にも持ち込めるという。

 上記のシステム構成で、OSに「CentOS 5.3(linux-2.6.18-128.el5)」、Webサーバーに「Apache」、Webブラウザに「Firefox」を使って、東京・ポートランド間でシングルTCPストリームを使ったHTTPプロトコルでのデータ転送を試みた場合、約6Mbps程度の速度しか得られなかったという。なお、利用した学術ネットワークでの東京・ポートランド間の「RTT(Round Trip Time)」は136msになる。

 これに対して今回の実験では、研究チームがノウハウを持つ精密ペーシング技術やTCP通信最適化技術を投入。これに加え、「Apache」から不要なオプションを省略するとともに、研究チームが「Firefox」をソースコードレベルから改良して、データ操作の最適化やバッファサイズの最適化などを施した独自のWebブラウザ「UsadaFox」を使用した。

 実験の結果、158GB容量のファイルデータを6.5Gbpsの速度で送信することに成功し、技術適用前の6Mbpsの速度と比較して、約1000倍の高速化を実現したとしている。また、シングルストリームによるTCP通信を使ったHTTPプロトコルでの1ファイルのWebデータ転送速度として世界最高速の性能だという。加えて、一般的なファイルシステム(今回はEXT3)を使った東京・ポートランド間のデータアクセス速度で7Gbpsの速度も達成。これらの結果から、SC09で「バンド幅チャレンジ・インパクト賞(Impact Award)」を受賞した。


今回使用したPC外観スペック概要サーバーを使用した従来機と比べて小型化を実現した

ネットワーク経路使用した高速化技術UsadaFoxと通常版Firefoxの性能比較

 平木教授は実験結果について、「日本の超高速インターネット技術やインターネット利用技術の高さを世界に示すことができた」とコメント。また、これまで限られたスーパーコンピュータセンターやネットワーク関連施設でしか活用できなかった10Gbpsインターネットをパーソナルな環境でも利用できる可能性を示した点、Webブラウザ経由での遠距離・超高速データ転送が可能になる点も、実験の意義であるとした。

 今後に関しては、「まだまだ荒削り」だという「UsadaFox」の完成度を高めるとともに、シングルストリームTCP通信の特質を活かしたWebシステムの構築によって、より広範囲のユーザーにメリットがあるシステムを構築する考えだという。その上で、コンピュータサイエンス分野や、大量のデータを扱うスーパーコンピューティング分野の発展に寄与したいとしている。また、将来的に「UsadaFox」などの研究成果をオープンソースとして公開することも検討するという。


2台のPCを10Gbpsネットワーク遅延装置を介して接続したデモも25GBのファイルデータをダウンロード。Firefoxでは秒間300KB前後の速度UsadaFoxでは秒間700MB超の速度も確認できた

関連情報



(村松 健至)
2009/11/27 19:11