化石の魅力をもっと身近に!
「恐竜・化石グッズの専門店 ふぉっしる」(前編)


 今回紹介するのは、化石の専門店「ふぉっしる」だ。化石というと巨大な恐竜をイメージする人も多いと思うが、「ふぉっしる」が扱うのは恐竜だけではない。アンモナイトや三葉虫、節足動物、植物、昆虫、魚などラインナップは多種多様。化石を手に入れることで、かつて地球上に存在していたさまざまな生物の痕跡に手を触れながら、大昔に思いを馳せることができるのだ。

化石好きの夫婦が選んだそれぞれの道

恐竜・化石グッズの専門店 ふぉっしる

 「ふぉっしる」がオープンしたのは3年前。店長の土屋香さんが化石の通販サイトを立ち上げることになったのは、大学院時代に同じ研究室にいた現在のご主人に勧められたのがきっかけだった。

 古生物を通じて出会った2人は、「古生物を広く一般に広める仕事をしたい」と考えていた。それを実現するために、卒業後はご主人が出版社に入って科学雑誌の編集を、香さんは通販サイトの運営に携わることになった。それぞれ進んだ道は異なるものの、目指している方向は同じだ。

 「最初に夫からネットショップの開業をすすめられたときは驚きました。果たして自分に商売などできるのかと不安にもなりましたが、結局は『面白そう』と、興味のほうが勝りました。夫は出版の仕事を通じて多くの人に古生物の楽しさを伝えること選び、私のほうは人々にもっと直接的に化石に触れてもらおうということで、ネットショップという方法を選びました。」(土屋さん)

 もちろんインターネット通販のノウハウなど持っていないし、最初はWebサイトを作るだけでも一苦労だった。商品である化石の写真も、撮影するのは土屋さん自身だ。どうやったら化石をきれいに撮れるのか、撮影テクニックを必死に模索しながら何度も撮り直してコツをつかんだ。

 「化石によってきれいに写る背景が違うので、最適な組み合わせを見つけるまでが大変でした。基本的には画像加工は一切することなく、撮ったままの写真で細かいところまですべて確認できるように心がけています」(土屋さん)

化石が並んだ部屋で作業する土屋さん商品一覧

  土屋さんは大学院時代も研究のために写真撮影することはあったが、それはあくまでも資料として研究するための写真だ。通販サイトに載せる写真は、化石の魅力が伝わるような生き生きとした写真でなければいけない。実際に「ふぉっしる」に載っている商品の紹介ページを見ると、1つの化石につき10数点もの写真が掲載されている。どの写真もサイズが大きく、細部の様子もよくわかる写真ばかりだ。

 土屋さんは大学院を2006年の4月に卒業、5月に入ってすぐに「ふぉっしる」の準備ページをオープンした。そして7月にはもう販売を開始している。わずか3カ月の準備期間で、Webサイトの作成術や写真の撮影ノウハウを身に付けるとは実に立派! 土屋さんのショップ立ち上げにかける意気込みが並々ならぬものだったことがよくわかる。

だれもが気軽に買える価格に設定

お手頃な値段で買える三葉虫

 化石の価格については、ふつうなら5000~6000円くらいする商品を、3000~4000円ほどで販売するなど低価格に抑えた。「古生物の楽しさを身近なものに」という目標を実現するには、だれもが気軽に買えるような値段でなければならないという思いがあったからだ。

 「古生物の楽しさを普及させる上で、1つの障害となっているのが化石の価格です。博物館などで買おうとすると値段はかなり高くなるし、専門店で少し良い物を手に入れようとすると、一般の方には信じられないような値段になってしまいます。気軽に親しんでいただけるよう、当店はできるだけ安くご提供できるよう心がけています。」(土屋氏)

 しかし、相場よりも価格を安くしたとはいえ、そもそも“化石を買う”という行為自体はあまり一般的ではない。多くの人にとって、化石というのは博物館で眺めるものであって、自ら所有して楽しむという発想はあまり無いのではないだろうか。努力の末にオープンした「ふぉっしる」も、開業当初はなかなか客がサイトに訪れず、かなり苦労したそうだ。

 「最初のころは、注文は1月に1回あるかないかという状況でした。それでも商品の仕入れは続けなければならないので、次第に資金も余裕が無くなっていきました。仕方ないのでパートの仕事も並行していましたね。売れなかった原因は、知名度が無かったことに尽きます。」(土屋さん)

 大手のショッピングモールに出店したほうが宣伝には有利だが、できるだけ安価に提供したいという思いもあり、コストの面から独立サイトとしてオープンすることを選んだ。当然ながら、知名度はなかなか上がらない。そんな中、思いついたのがYahoo!オークションへの出品だった。

 「オークションへの出品にあたっては、どの商品も1円スタートにしました。原価を超える価格で落札される場合もあれば、原価割れになってしまう商品もあり、全体的に見るとそれほど利益は出ません。オークションへの出品は、『ふぉっしる』を広く知っていただくための“看板”のようなものだと思っています。」(土屋氏)

 Yahoo!オークションには現在も週に数点は出品を続けている。多くのコレクターが訪れるマーケットだけに、「ふぉっしる」の知名度もかなり上がったそうだ。次第に古生物関連のポータルサイトや、個人のコレクターのサイトからリンクが貼られるようになり、コレクターの間で「ふぉっしる」の名は少しずつ浸透していく。

仕入れは研究者やコレクター仲間の人脈を活用

 ちなみに化石をネットオークションなどで手に入れる場合に、気を付けなければならないのはフェイク商品だという。コレクターや研究者が見ればフェイクであることはすぐにわかるが、初心者には見分けが付かない。

 「たとえば三葉虫の化石の場合、頭の部分だけ本物で、後ろは樹脂で作ってある場合もあって、それを『全部本物です』と言って売っているようなケースもあります。知識を持たずに売っている業者もけっこういるので注意が必要ですね。逆に個人のコレクターによる出品のほうが信頼されるくらいです」(土屋氏)

「ふぉっしる」でもレアな化石のレプリカ商品を販売しているが、その場合は必ずレプリカであることを明記している。レプリカなら産出量に左右されずに、手に入れやすい価格で提供できる。安価ながらも、レプリカの基となったオリジナルの化石の形状は十分に楽しめるので、レプリカであることを納得して買うのであればお得だと言える。

 化石の仕入れについては、もともと土屋夫妻が化石コレクターだったこともあり、仕入れルートに困ることはなかった。定期的に仕入れているもののほかに、研究者やコレクター仲間と連絡をしながら良質な商品を探している。

土屋夫妻のコレクション巨大な三葉虫のレプリカ

 「コレクターの人から『こんなものが手に入ったんだけど、どうする?』というメールが来たりして、その都度、交渉しています。個人のコレクターの場合、仲間同士で転売し合ったりしていて、それで儲けようという考えはないんです。本業は別に持っていらっしゃる方がほとんどですからね。それよりも、化石の楽しさをできるだけ多くの人に伝えたい、という方が多くて、当店も含めて同じ考えを持つ者同士でやりとりしているという状況です。」(土屋氏)

業者市のディーラーも化石好き

数万円する高価な商品も用意

 土屋さんによると、化石の学会人口は全国で約1000人、コレクターはその10倍から20倍くらいはいるそうだ。ただし、恐竜が好きな子どもに親が化石をプレゼントしたり、学校の先生が子どもに配ったりするケースなどもあり、購入する人は必ずしもディープなコレクターばかりではない。気軽な気持ちで購入する人も少しずつ増えつつあるようだ。

 「コレクター同士でやりとりするほか、海外のサイトを毎日欠かさずチェックして、レアなものがポンと出たりしたときは、すぐにその場で価格交渉をして仕入れています。あとは年に2回、国際的な業者市があって、各国の化石のディーラーが売りに来るので、そこで商談することもあります。」(土屋さん)

 ディーラーの中には、自らがフィールドに出て化石を発掘している人も少なくない。化石が好きで、やっとの思いですばらしく質の良い化石を見つけて、とにかく人に見せて自慢したいという人もいるそうだ。そのようなレアな化石は、かなり高い値段になる。

 「先日も、質が良い化石を見つけたので値段を尋ねたら6000ドルもしました。『これは自分のコレクションだから、この価格以下では売れない』と言われて。たった3~4cmの化石なのですが、日本円で約60万円。それを仕入れたらほかの化石が仕入れができなくなるので、それは無理だな、と。そういうコレクターの方は、私たち夫婦と同じように化石が大好きでたまらないんですよね。見せたいから売りに出すものの、本当は売りたくないから高めに値付けするんです(笑)」(土屋氏)

 売るほうも買うほうも“好きモノ”ばかりという化石の世界で、良心的な価格設定を心がける「ふぉっしる」。後編では、化石という商品を扱う上での苦労や、「ふぉっしる」ならではのユニークなオリジナル商品について紹介していきたい。

(明日の後編につづく)


関連情報
2009/7/9 11:00  
碓氷 貫
フリーライター/編集者。Eコマースや地図サービス、データベース・コンテンツなど、Webサイトの価値を高めるさまざまなサービスをテーマに活動している。地図やハンディGPSを片手に街や山を徘徊する一方で、通販サイトでお買い得品をチェックすることにも余念がない。