化石の魅力をもっと身近に!
「恐竜・化石グッズの専門店 ふぉっしる」(後編)
■欲しい化石に限ってすぐに完売!
質の良い化石をできるだけ安価に提供しようと努力している「ふぉっしる」。ところで化石における「質の良さ」というのは、いったいどのようなことを意味しているのだろうか?
「質が良い化石というのは、とにかく保存がいい化石のことです。人間で言えばシワの1つまで残ったような、細かい部分までよくわかる化石ですね。質が良い化石はどんどん高くなっていきます。たとえば三葉虫にしても、ふつうはツルツルしているか、ちょっとモコモコしている程度ですが、中には生きていたときの殻が完全に残っているようなものもあって、そういうものはとても高くなる。コレクターなら、値段を見ればだいたいその化石の質の良さがわかりますね。」(土屋さん)
ときには土屋さん自身も、商品として仕入れた商品を自分のコレクション用に欲しくなってしまうことがあるそうだ。化石のコレクターというと特定の生物に魅力を感じて集める人が多いが、土屋さんの場合はジャンルにこだわらず、とにかく質のいいものが好きなのだという。
「私たち夫婦のどちらかが仕入れた商品を欲しくなったときは、期間限定で販売して、期間中に売れなかったら自分たちのものにするという方法を採っています。でも、そういう商品に限って“お嫁入り”してしまうことが多く、うれしいけど寂しいですね(笑)」(土屋さん)
最近は不景気なので高い化石は売れないのではないかと思いきや、“看板娘”のつもりで高めに値付けしたレアな商品に、すぐに買い手が現れたりすることも。
専門的な商品だけに、お客のニーズの見極めは難しい。売れると思って仕入れたものがなかなか売れなかったり、逆に長期間置いておくつもりで仕入れたものがすぐに売れたりすることもある。人気ジャンルは、なんといっても三葉虫とアンモナイト。ただしアンモナイトは売れる時期と売れない時期の差が激しく、その理由は土屋さんにもよくわからないという。
もう1つ人気なのが、恐竜の歯の化石だ。歯は恐竜の体の中で最も硬い部分なので、化石として残りやすく、流通量が多いので仕入れやすい。古生物に興味がある人では、子どものころ、恐竜から入っていくパターンが多いそうだ。そういう人が古生物趣味に目覚めると、最初は必ず恐竜の歯を欲しがるという。
部屋にはいたるところに化石が並ぶ | ティラノサウルスの歯 |
■専門家でなければ描けない古生物イラスト
ちなみに土屋さんが古生物に興味を持ったきっかけは「まぼろしのくびながりゅう」というマンガだという。フタバスズキリュウやデスモスチルスといった古生物に強烈に惹き付けられて、古生物趣味にハマった。
実は土屋さんは古生物のイラストを描くことも得意で、デスモスチルスの絵については千葉県立中央博物館の研究者の目に留まって、イベントの看板イラストとして使われたこともある。
「もともと絵が好きで、中学校のときは美術部でした。大学時代に研究発表で地層の並び方などの絵を描くためにPCのグラフィックソフトを使い始めて、次第に古生物のイラストを描くようになりました。それがきっかけで、『ふぉっしる』を立ち上げるときに、古生物をデフォルメしたオリジナルキャラクター商品を作って販売してみようと思ったんです」(土屋さん)
オリジナルキャラクター商品には、アノマロカリスやトリケラトプス、ティラノサウルスなどのイラストが描かれたTシャツや、ウミサソリやアンモナイト、三葉虫のイラストが入ったトートバッグ、ハンカチやブルゾンなどさまざまな商品が売っている。
イラストについてはノルマを自分に課して、どんなに忙しくても毎月決めた分は必ず描くようにしている。また、自分の好きな古生物を描くだけでなく、お客からリクエストを受け付けて古生物のキャラクターを描くサービスも提供している。価格は1キャラクターにつき1万円~(学生の場合は8000円~)で、名刺やプレゼンテーションソフト、Webサイトなどに入れるイラストとして活用可能だ。
土屋さんの描くイラストは、とくに研究者からの評価が高いという。古生物は種類によって色々な特徴を持っており、土屋さんのイラストは描かなくてはならない重要なポイントがきちんと押さえてあるからだ。古生物の知識をしっかりと学んだ土屋さんのような人でないと、描けない絵なのである。7月からは商品を発送する際に、これらのイラストや化石の写真が入ったカードを同梱する予定だ。
ほかにも「ふぉっしる」では、Tシャツやトートバッグ以外にもキーホルダーや消しゴムなどの雑貨を扱っている。消しゴムはアンモナイトの化石の形をしたもので、本物の化石から型を取ったものだ。
「消しゴムは偽物の型から作ろうと思えばいくらでもできますが、本物の化石が傷むリスクを冒してでもリアルさを追求したかったんです。消しゴムは古生物の研究者にも人気で、プレゼント用に買う方も多いですね。現在のところ、入荷するとすぐに売り切れる状態で、生産が追いついていないです。」(土屋さん)
本物のアンモナイトの化石を使ったネックレスなども扱っている。他店では手に入らないようなユニークばかりで、ベテランをも魅了する品ぞろえだ。メインの商品である化石についても、初心者からコレクターまでさまざまな層に満足してもらえるような幅広いラインナップとなっている。
デスモスチルスのイラスト | 人気が高いアノマロカリスのTシャツ |
アンモナイト消しゴム |
■家中が化石だらけ! 保管場所の悩み
それだけに悩ましいのが、在庫の保存場所である。個人で手に入るような化石はサイズが小さく、それほど場所は取らないのではと思いきや、意外と広いスペースが必要なのだそうだ。
「化石は上に物を乗せると壊れてしまう場合があるので、けっこう場所を取るんです。一時期、仕入れが満杯になったときは、家のリビングが化石だらけになってしまったこともあります。今も我が家は下駄箱に至るまであちこちに化石をしまっていますよ(笑)」(土屋氏)
保存の仕方にも気を遣う。長い年月の中、過酷な自然環境に耐えてきた化石とはいえ、埋まっていた地層の種類によってはデリケートなものもあるそうだ。
「水と反応しやすい鉱物の多い地層に埋まっていた化石や、すき間が多くて内部にカビが入り込みやすい化石の場合は、湿度管理に気を付けなければなりません。気温についてはそれほど気にしなくてもいいのですが、湿度に弱い化石については、部屋に除湿器を置いて湿度管理しています。」(土屋さん)
このような細かい点にも注意を払っているため、購入した客からクレームが来ることはあまりない。ただし写真ではよくわからない細かい傷について、購入後に問い合わせが来たりすることはあるようだ。
「実際に商品が手元に来たときに、ちょっとした傷を見つけては、『この傷はどうやって付いたのか』と問い合わせてこられるお客さまもけっこういらっしゃいます。別にそれは文句を言っているわけではなくて、化石が好きな人というのは、傷1つ1つに背景となるストーリーを求めるんですね。だから『なにか情報がないか』と問い合わせてくるわけです」(土屋氏)
ふつうの商品の場合、傷が入っているとクレームの対象となるが、化石の場合はそうとは限らない。化石としての価値が下がるかというと、逆に上がる場合もあるという。
「たとえば傷の形が、なにか別の生物に食べられた跡だったりすると、“食べられた”というストーリーが加わるので、価値は高くなります。また、『こういう傷の付き方であれば、化石として本物である証拠』という傷の付き方もあるんですよ」(土屋さん)
在庫を保管する部屋 | 幅広い種類の化石を扱う |
■古生物が好きな人のための窓口に
「ふぉっしる」ではトップページの上部に、「一般・古生物ニュース」というコーナーを設けている。これは古生物に関するニュースをまとめたもので、ソースは海外の古生物関連サイトだ。
このほか、「チョット6億年の旅」という古生物情報サイトや、「Gallery ふぉっしる」というインターネット化石ミュージアムも用意している。また、「カンブリア爆発情報」というデータベースもあり、ここではカンブリア爆発に関する書籍の総索引が掲載されている。化石を販売するだけでなく、古生物関連のニュースサイトやデータベースとしての役割も担っているのだ。
「いろいろな意味で、古生物に興味を持った方にとっての窓口になるようなポータルサイトを目指しています。学会人口は約1000人と言われてますが、古生物に興味を持つ若い学生が増えればもっと人数が広がるわけで、底上げにもつながるのではないかと思います。」(土屋さん)
研究者やコレクターにとって、化石は貴重な学術的資料であり、愛情を注ぐ対象でもある。「ふぉっしる」には、そんな化石愛好者たちと一緒に古生物趣味を盛り上げていこうという気概が感じられた。良心的な値付けで化石を提供することで、古生物趣味の裾野を広げたいという土屋夫妻の願いが込められたこのサイト、古生物に興味のある人はぜひ一度、アクセスしてみていただきたい。
7月1日から8月31日までは開店3周年セールを開催中で、購入額や購入数に応じて割り引きを実施中。定額給付金で買うにもちょうどいい価格だ。
チョット6億年の旅 | Gallery ふぉっしる |