オリジナルの日食グラスが大ヒット
アストロアーツ オンラインショップ(前編)


アストロアーツ オンラインショップ

 今回ご紹介するのは、天文関連のソフトウェアや雑誌で有名なアストロアーツが運営するオンラインショップ。アストロアーツのPC用ソフトやDS用のソフトはもちろん、望遠鏡や双眼鏡などの観測機器も扱っている専門店だ。

 星座早見盤や天文関連の雑貨などのグッズも充実しており、天文の初心者からマニアまで幅広い層をカバーしている。7月の皆既日食のときには日食関連のグッズの売れ行きも大変好調だったというアストロアーツだが、そのオンラインショップの商品展開や方針について、EC事業部の上田敬司部長に話をうかがった。


日食グラスを直接買いに来るお客も登場

EC事業部・部長の上田敬司さん

 今年の7月22日、日本中が大騒ぎとなった皆既日食。天文関連のグッズを販売するアストロアーツのオンラインショップでも、日食関連のグッズはかなり売れた。もっとも人気があったのは、なんといっても日食グラスだ。太陽の有害な光線を防ぐために使う日食グラスは、1000円台と価格が手頃なこともあり、日食の直前にはどの店でも品薄となった。

 アストロアーツにもかなりの問い合わせが来たが、意外だったのは直接買いに来る客がいたことだ。アストロアーツの近くにある大学の関係者が、ある日、「日食グラスが欲しい」と訪ねてきた。もちろんアストロアーツは実店舗を構えて営業しているわけではないが、買いに来るお客さんがいれば対応することにしている。

 「せっかく来ていただいたので1つ販売したら、『アストロアーツに行けば日食グラスが買える』という情報が流れて、それからたくさんのお客さまがいらっしゃいました(笑)。改めて、今回は貴重な天文イベントということで天文グッズが注目されたんだなあ、と実感しましたね。」(上田さん)

 天文関係のイベントは、どれくらい盛り上がるのかが事前に読みにくい。今回も日食グラスのメーカーは各社とも事前にかなりの量を準備していたそうだが、それでも足りなくなった。

 日食グラスは太陽光線から目を保護するためのものなので、もし不具合があれば大変なことになる。だから無理な増産をすることで品質を落とすわけにもいかず、品切れの店が続出した。日本中が皆既日食フィーバーに沸く中で、どの天文ショップも急増した天文ファンを陰から支えるべく、なんとか日食グラスを調達しようと奔走した。

ショップオリジナルの日食グラスが大人気

 アストロアーツでも、事前にかなりの数の日食グラスを用意した。種類もさまざまなものがあり、中にはアストロアーツのオリジナルデザインのものもあった。

 「アストロアーツのオリジナルの日食グラスは、ビクセンというメーカーさんが作っているもので、おそらく一番売れているモデルではないかと思います。フィルターの部分はメーカーさんにお任せしないとトラブルが起きる可能性があるので、表面だけ差別化するためにこちらでデザインしています。」

 「最初に用意したオリジナルの日食グラスがすぐに売り切れてしまったので、もう1回、2000個ほど発注したんですよ。こんなに作ってしまったらさすがに売れ残るだろうと思って、その後も使えるようなデザインにしました。次は2012年に東京で金環食があるので、そのときにも使えるデザインにしようと。でも、結局は増産した分も全部売れてしまいました。」(上田さん)

 このオリジナルの日食グラスはかなりの人気を博し、日食の前にはネットオークションで通常1500円のものが3~4000円くらいになったという。

 「売り切れになったあとも問い合わせがけっこう来たので、『家電量販店でもワゴンに積んで売ってますよ』と、まだ在庫がある店を教えたのですが、『アストロアーツの日食グラスのほうがデザインがいい』と言われて。このような“指名買い”もけっこうありましたね。」(上田さん)

オリジナルデザインの日食グラス雑誌「星ナビ」から抜粋した日食グラスの記事

そのほかの日食関連グッズも売り切れ続出

 皆既日食に関連した商品でもう1つヒットしたのが、太陽撮影用のフィルター「ソーラーフォトフィルターD4」だ。値段が1万2000円もするガラス製のフィルターで、高価なので買う人は少ないだろうと予想していたにもかかわらず、実際には100台以上も売れてしまった。ほかのメーカーでも同様のものを出していたが、すべて売り切れてしまったようだ。事前にテスト撮影したいので、早めに欲しがる人が多かったのだという。

 雑誌でも日食に関するムックを2冊作った。その2冊も増刷りとなり、書店からの問い合わせが相次いだ。

「今回は肉眼で見える天文現象ということで、望遠鏡や双眼鏡などはあまり売れませんでした。その代わり、情報が欲しいという人がけっこう多くて、雑誌はかなり売れましたね。こういうイベントがきっかけで天文の世界に来る人がもっと増えればいいな、と思います。」

「あと、もう1つ売れたのが『エクリプスナビゲータ』という日食に特化した天文シミュレーションソフトです。実はこのソフト、最初のバージョンは10年以上も前に発売していたのですが、今回は実にひさしぶりのバージョンアップとなりました。これもかなり人気でしたね。」(上田さん)

 アストロアーツは「ステラナビゲータ」という天体観測ツールを開発している会社として、天文ファンには有名だ。このソフトは星空のシミュレーション機能に加えて望遠鏡の操作など観測支援機能も搭載しており、天文の初心者から上級者まで幅広く支持されている。今回発売した「エクリプスナビゲータ」は、「ステラナビゲータ」の技術を活かした日食シミュレーションソフトで、DVD付きのムック「皆既日食2009」とのセットがかなり人気を呼んだという。

 こんな風に日本中が皆既日食の話題で沸き立ったにもかかわらず、日食の当日は天気があまり良くなかった。「もし全域快晴だったら、子どもたちが良い経験ができたのに」と上田さんは残念そうに振り返る。ハレー彗星や火星の大接近など、天文ファンの人口は大きな天文イベントともに増えてきた。今回の皆既日食も、天文ファンの裾野を広げる良いチャンスとして、業界は期待を寄せていたのだ。

ステラナビゲータVer.8ソーラーフォトフィルターD4

安価な望遠鏡キットから始める天文趣味

 アストロアーツとしても、ふだんから天文趣味の間口を広げようと、さまざまな商品を取り揃えている。その1つが、組み立て望遠鏡キットだ。望遠鏡というと高価な光学機器というイメージがあるが、このコーナーで扱っているのは安価なものばかりだ。

 たとえばもっとも安価な「10分で完成!組立天体望遠鏡」という商品は、わずか1580円。しかも初心者向けのガイドブックも同梱されている。謳い文句の通り、組み立ては約10分で簡単に終了。小学生でも気軽に組み立てられるし、組み立てた望遠鏡は市販のカメラ用三脚に取り付けて観測を楽しめる。

 このような安価なキットは、鏡筒がプラスチック製だったり紙製だったりと、完成品の望遠鏡に比べてコストダウンが図られているが、初心者には十分な性能を持っている。

「望遠鏡のキットには工作する楽しさがありますし、月くらいなら十分に見られます。これで物足りなくなったら、次は架台が“経緯台”の完成品の望遠鏡をおすすめします。」(上田さん)

 望遠鏡の架台には、構造がシンプルな“経緯台”と、地球の自転に合わせて星を追える“赤道儀”の2種類があるが、赤道儀は設定が難しく初心者には使いづらい。一般的には、最初に安い望遠鏡を買い、興味を持てばもう少ししっかりした経緯台式の望遠鏡を買って、さらにエスカレートすると天体写真を撮りたくなって赤道儀の望遠鏡を買い求める。このようなパターンで天文趣味にハマっていく人が多いという。

 「最初は高い望遠鏡を買っても設定がわからないので、押し入れの肥やしになってしまうことが多いです。だから、初心者の方はとりあえず経緯台式の安い望遠鏡、つまり難しい設定をする必要のない望遠鏡のほうがいいと思います。最初は安いものでも、鏡筒だけを買い換えたり、鏡筒が大きくなってきたら架台を買ったりと、部品ごとにスペックアップすることもできますからね。」(上田さん)

 さらに望遠鏡のほかにも、アストロアーツでは天文に関するさまざまな商品を扱っている。後編では天体写真撮影の魅力や、アストロアーツならではのこだわりの商品群を見ていこう。

10分で完成!組立天体望遠鏡鏡筒を単体で購入することも可能

(明日の後編につづく)


関連情報
2009/8/20 11:00  
碓氷 貫
フリーライター/編集者。Eコマースや地図サービス、データベース・コンテンツなど、Webサイトの価値を高めるさまざまなサービスをテーマに活動している。地図やハンディGPSを片手に街や山を徘徊する一方で、通販サイトでお買い得品をチェックすることにも余念がない。