オリジナルの日食グラスが大ヒット
アストロアーツ オンラインショップ(後編)
■敷居が下がってきた天体写真の世界
天文趣味を深めていくと、多くの人が天体写真の撮影に興味を持つようになるが、そこで必要となるのがデジタル一眼レフや望遠鏡に付けるアダプターだ。アストロアーツでも、デジタル一眼レフやさまざまな望遠鏡メーカーの周辺機器を取り揃えている。
一方、天体写真のマニアの中にはデジタルカメラではなく「冷却CCD」という特殊なセンサーを使う人もいて、そのセンサーの使いこなし方を研究する組織まである。自宅に観測用のドームを設置している人もいたりと、この趣味にどっぷりと浸かっている人は少なくない。
「最近は一眼レフが安価になってきたので、以前、天体写真を好きだった人がこの世界に戻ってきつつあります。フィルムを使っていたころは今よりもかなり敷居が高かったのですが、デジタルカメラの登場で一変しましたからね。昔はプロの機材でしか撮れなかったような写真が、今はアマチュアでも撮れるようになりました。デジタルカメラなら失敗してもメモリの内容を消せばいいだけなので、気軽に撮れます。だから、『昔使っていた望遠鏡に付きますか』といった問い合わせも多いです。」
「ただし、とにかく機材をそろえればいい写真が撮れるかというと、そういうわけではありません。使いこなし方を自分でものにする必要があるし、とても根気が要ります。だからこそ、天体写真には一度ハマると抜け出せない魅力があるんですね。」(上田さん)
機材同士の組み合わせや相性などのさまざまな問い合わせはメールで来ることが多いが、ときには電話がかかってくることもある。
「高価なものなので、購入の前にはみなさんいろいろなことを聞いてきます。ただ、答えられないこともあるんですよね。『レンズの見え味はどうですか』とか。こういうのは主観的なものですから、なかなか説明するのは難しいです。」
「あと、いくら大きな望遠鏡を持っていても、東京のような大都市で使っている限り、暗い星はあまり見えません。逆に、小さな望遠鏡であっても空の暗い田舎で見れば星がよく見えるものです。だからアドバイスするときは、お客さまがどこで星を見たいのか、なにを見たいのかを必ず聞くことにしています。」
「たとえば、見たいものが月や惑星なら、デジタルカメラよりもビデオを使ったほうが良いとか。また、星座を見たい場合などは、望遠鏡よりも双眼鏡をすすめたりしています。キャンプに持っていって使うときも、双眼鏡と星座早見盤を持っていけば、立派に天体観測できますからね。」(上田さん)
望遠鏡は高価なものだけに問い合わせ件数は多く、サポートの労力はそれなりに大変だが、上田さんは「遠慮せずにどんどん質問していただきたい」と語る。購入したあとに後悔するよりも、わからないことをきちんとクリアにした上で買ってほしいからだ。
デジタル一眼レフとソフトのセット商品も用意 | デジタルカメラと望遠鏡の接続にはアダプターが必要 |
■意外にもトイレットペーパーが大ヒット
望遠鏡の需要は、天文イベントの有無によっても大きく左右される。過去には1986年のハレー彗星の接近で、爆発的な天文ブームが起きた。最近では、2003年の火星の大接近が記憶に新しい。このときは約6万年ぶりの大接近ということで、望遠鏡メーカー各社の在庫がまったく無くなってしまったそうだ。
「火星の大接近は8月の下旬でしたが、7月にはもうメーカーさんの倉庫の在庫がすべて片付いたような状況でした。日食と違って1日限りのイベントではないので、Webサイトへの写真投稿などもかなり多かったですね。」(上田さん)
アストロアーツのWebサイトには、オンラインショップのほかに、天体写真の投稿コーナーや天文関連のニュース配信、月ごとの天文現象などを紹介する「星空ガイド」などのコーナーを用意している。どれも天文ファンにとっては役に立つ情報ばかりで、天文のポータルサイトとしての側面もあるのだ。
アストロアーツがEC事業を始めたのは1997年の12月。当時はインターネット通販サイトもまだ数少なかったが、すでにWebサイトでかなりの天文関連情報を流しており、その一貫としてオンラインショップも立ち上げた。その後、紙メディアの雑誌「星ナビ」を創刊したりと、天文関連の情報を発信する会社として発展し、通販サイトのほうも扱うアイテムが次第に充実していった。
上田さんが通販サイトの運営にかかわったのは2004年。当時はまだ扱っている望遠鏡メーカーが少なかったが、より幅広いメーカーの望遠鏡を取り揃えるようにした。また、新たな需要を掘り起こそうということで、天文関連のグッズの扱いも強化した。
「グッズでヒットしたのは、星の一生が描かれたトイレットペーパー『Astronomical Toilet Paper』ですね。あと、エポック社の『お部屋はプラネタリム』という商品も人気です。これは地球や月のインテリアバルーンで、ヘリウムガスを充填してバルーンを部屋の中に浮かせることができます。」(上田さん)
Astronomical Toilet Paper 4個セット | お部屋はプラネタリム |
■女性にも大人気のDS用ソフト
天文関連のグッズといえば、最近ではホームプラネタリムが大人気だ。アストロアーツでも、セガトイズの「ホームスター」を初期のころから扱っている。まだ扱う店が少なかったころ、「ホームスター」はかなりの人気を呼んで、売れても売れても品薄になったという。
星座早見盤も充実している。三省堂や星の手帖社、渡辺教具製作所など、主要な星座早見盤はすべて取り揃えている。また、イベントで配るための「ミニ星座早見工作セット」という商品もあり、オリジナルデザインの受託製作も受け付けている。
もう1つ大きな人気を呼んでいるのが、ニンテンドーDS用のソフト「星空ナビ」だ。これはニンテンドーDSのセンサーカードの機能を利用し、DSの向きに連動してその方向の星空を再現するソフトで、言わば星座早見盤のデジタル版。星座早見盤は使うのに少しコツがいるが、「星空ナビ」なら現在地を設定するだけで、現在の星空の様子を簡単に調べられる。さらに、太陽や月の出没時刻を調べられたり、天体事典などを備えたりしている。
「『星空ナビ』はテレビで紹介されたこともあって、一気に人気が出ましたね。現在は在庫が無い状態で、予約を受付中です。これまで購入者の男女比は9:1だったのですが、『星空ナビ』を買う人は意外に女性が多い。それでも男女比は7:3くらいで、やはり男性が多いことは多いのですが、この女性客の多さは当社としてはかなり珍しい現象です。とくにお母さんが子どもへのプレゼントに買うケースが多いですね。このような方が次に来たときも楽しめるような面白い商品を取り揃えていきたいですね。」(上田さん)
上田さんにとって、アストロアーツのオンラインショップを運営していて面白いこととは、いったいどんなことだろうか。
「雑誌の編集部と一緒に商品企画を考えたりして、『こういう商品ならこれくらい売れる』と予測したりするのですが、予想以上に売れたりしたときは快感です。中には日食用の撮影フィルターのように、なぜたくさん売れるのかわからない商品もあるんですけどね(笑)。もっとしっかり需要を予測できるようになりたいと思うのですが、なかなか難しいです。」(上田さん)
受託製作を受け付けている「星座早見工作セット」 | 女性にも大人気の「星空ナビ」 |
■天文ファンならではの視点でショップ運営
「今後の方針としては、まずは自社のソフトや雑誌などはきちんと売っていきたいですね。そのためにも、オンラインショップのスタッフが雑誌の企画段階からかかわっていきたいという思いがあります。あとは機材のラインナップももう少し充実させたいのと、グッズについてもアイテム数を増やしていきたいと思います。グッズについては、メーカーさん側から売り込みに来られるケースも増えているので、面白い商品をどんどん増やしていきたいですね。」
「アストロアーツの強みは、社員がみんな天文ファンだという点です。天文を本当に好きな人間がソフトや雑誌を作っているので、けっして“外したもの”は作りません。自分がほしいもの、周りがほしいと言っているものを作りたいと思っていますし、オンラインショップでも、そのような“天文好き”ならではの視点を活かした品揃えを心がけたいと思います。」(上田さん)
商品のラインナップを見ると、望遠鏡にガイド本をセットした商品などが多いのが、アストロアーツのオンラインショップの特長だ。たとえば「ステラナビゲータ」の最新バージョンには、オンラインショップの特典として、天体観測のときに役立つ「メシエ天体アルバム」というムックが期間限定で付いている。この本は定価で2,100円するもので、かなりオトク感がある。
天文ファンの心をくすぐるユニーク商品やセット商品が魅力のアストロアーツのオンラインショップ。皆既日食をきっかけに天文に興味を持った人は、一度訪れてみてはいかがだろうか。
アストロアーツのソフトウェアや雑誌 | ユーザーからのさまざまな問い合わせに対応 |