職人技が光るウルトラグッズや怪獣人形に注目!
「インスパイア」(前編)


 今回紹介するのは、ガレージトイの通販サイト「インスパイア」。特撮・アニメ・プロレスと、さまざまなジャンルのキャラクター商品を販売しているインスパイアは、なんと社員数1名の会社だ。

 ソフビ人形やアクセサリー、Tシャツなど多岐にわたる商品の企画から販売までの全行程をたったひとりでこなしている。他社では思いつかないようなユニークな商品ラインナップと、商品自体のクオリティの高さで、数多くのファンを惹き付けるインスパイアだが、その人気の秘密はどこにあるのか。インスパイア取締役社長・安東眞弓さんにお話をうかがった。

劇中で使用された“本物”の変身アイテム

 ウルトラ戦士の変身アイテムといえば、真っ先に思い浮かぶのは「ウルトラマン」のベーター・カプセルや、「ウルトラセブン」のウルトラアイだ。しかし、そのようなメジャーアイテム以外のグッズも扱っているのが、ガレージトイの通販サイト「インスパイア」である。

 たとえば「ウルトラマンレオ」の変身アイテムである「レオリング」。主人公のおゝとり(おおとり)ゲンが指にはめたレオリングを「レオ~!!」と叫びながら突き出すと変身するというアイテムだが、インスパイアではこれをシルバー製の指輪として再現した。レオの象徴ともいる「獅子の瞳」には赤いガラスが使われており、美しい金メッキが施されている。

インスパイア
http://www.inspire.co.jp/
シルバー925の本体に金メッキを施したレオリング。指サイズは19号

 最近は、子ども向けのウルトラマン変身グッズセットや食玩などでレオリングが登場する機会も増えてきたが、それらとは一線を画する本格的な造りだ。実はこのレオリング、「ウルトラマンメビウス」におゝとりゲンとして客演した俳優の真夏竜さんが、劇中で使ったものと同じものだという。

 「レオリングを発売したのは2回目なんですよ。最初に発売したときは色がシルバーでしたが、『ウルトラマンメビウス』におゝとりゲンが久しぶりに出ることになったときに、円谷プロダクションさんから『せっかくそういう商品があるのだから、本編で使いたいので用意してもらえますか』と頼まれたので、再生産したんです。そして再生産時の量産1個目を真夏さんがお使いになったわけです。」

 「レオリングだけでなく、『ウルトラマンA(エース)』の変身アイテムである『ウルトラリング』のセットも、同じように主人公の北斗星司を演じた高峰圭二さんに使っていただきました。ウルトラリングは北斗星司が使うものと南夕子とが使うもので、少しデザインが違うんですよ。その違いまで忠実に再現したものを作りました。だから、レオリングもウルトラリングも、いわば“本物”のレプリカなんですよ」(安東さん)

 ウルトラリングについては現在は販売を休止しているが、レオリングは11月下旬に再販売を予定しており、現在、予約を受付中だ。ウルトラマンレオのファンにとっては、たまらないアイテムといるだろう。

大手では不可能なユニークな商品作り

 レオリングのような大人のマニアを魅了する本格的なアイテムはほかにも数多くある。たとえば「帰ってきたウルトラマン」の武器アイテム「ウルトラブレスレット」を模した「ウルトラブレスレット型リング」も11月下旬に入荷予定だ。また、「ウルトラマンタロウ」の変身アイテム「タロウバッジ」も見事な出来映えで、これも11月中旬に入荷を予定している。

 変身アイテムではないが、「ウルトラセブン」でアンヌ隊員がモロボシ・ダンにプレゼントした「アンヌのお守り」というアクセサリーも販売している。メタル製の本体に金メッキを施して、ロゴ入りの専用化粧箱に入ったマニア垂涎のグッズだ。

「ウルトラセブン」のウルトラ警備隊が腰に装着していた「ウルトラ警備隊TDF UG ベルト&ホルスター」も見逃せない。本革製のしっかりした造りで、これもまた劇中で使えるほどのクオリティだ。10万円を超えるこのような商品は、大手の玩具メーカーではまず実現しない企画であり、インスパイアのようなガレージトイメーカーならではの逸品といる。

 このほか、定番商品として長い間人気を誇っているのが「ヘルメットキーホルダー」だ。「ウルトラマン」の科学特捜隊や、「ウルトラセブン」のウルトラ警備隊、「ウルトラマンティガ」のGUTS、アニメ「装甲騎兵ボトムズ」のキリコやフィアナのヘルメットなど、さまざまな作品のヘルメットを小さなキーホルダーにして販売している。

 小規模のガレージトイメーカーの場合は、版権などの関係で、限定数を設定して売り切れたら生産中止というパターンが多いのだが、ヘルメットキーホルダーのように何年も仕様を変えずに販売し続ける例は珍しい。それだけ商品に魅力があるということなのだろう。

ウルトラ警備隊TDF UG ベルト&ホルスター。ウエストサイズは80~97cmに対応「大怪獣バトル」のヘルメットを模したZAPヘルメットキーホルダー

企画から販売までの全行程をひとりで行うメーカー

 インスパイアの創業は10年前。取締役である安東さんは玩具業界で長いキャリアを持っており、今まで老舗の玩具メーカーを2社、立ち上げてきた経歴を持っている。

 スタッフは安東さんひとりだけだ。商品の企画を立てて、人形の原型師やデザイナーに発注してサンプルを作成し、円谷プロダクションなどの版権元の会社に了解を取った上で、工場に手配して製造する。できあがったものを組み立てた上でパッケージに入れて、さらに流通の段取りも決める。プロデューサーとして、企画から流通までのすべての行程をまとめるのが安東さんの仕事だ。

「基本的にものを作るのが好きで、おもちゃも好きなので、せっかくならなんでもやろうよ、と。『○○はできない』とは考えないで、とにかくやれることはなんでもやろう、という発想で動いています。もしできないことがあるなら、できるようにすればいいと思って活動していたら、自然と最初から最後まで全部やることになりました。」

「商品ジャンルについても、特撮ものからプロレス関係、アニメとなんでもやります。プロップも作れば革製品もあるし、カレンダーなどの“紙もの”もやります。面白いと思ったらやるし、面白くないと思ったら、版権元さまに商品化を頼まれても断ることだってあります。」

「もともと、うちの実家はものを作る仕事をしていたんです。作っていたのは、おもちゃとは違うジャンルものでしたが、“物作り”という点では同じ。だから、『こういうものが欲しいけど売っていない。それなら自分で作ればいい』という考えを当たり前として持っていました。今やっている仕事はその延長なんです。」(安東さん)

 もちろん玩具店や問屋への営業なども自分で行うし、版権元との交渉や監修業務などもこなす。ときにはプロモーションイベントとして、作品の出演者のサイン会なども行う。夜中に原型ができたという連絡が入れば、すぐに車を飛ばして原型師と打ち合わせすることもあるし、玩具関連のイベントがあれば朝早く起きて出展の準備をしなければならない。

 休める日はほとんどないが、「楽しいですよ。人に会えますから。」と安東さんは笑い飛ばす。数多くの人と知り合える面白さこそが、安東さんを突き動かす原動力なのだ。

取締役社長の安東眞弓さん。企画から販売までの全行程を一手に引き受ける

史上初!「ザ・ウルトラマン」のメロスのソフビを商品化

 特撮業界やプロレス業界などに幅広い人脈を持つ安東さんだからこそ、版権が取れたという例も少なくない。たとえばインスパイアでは、漫画家の内山まもる先生が描いた「ザ・ウルトラマン」に登場する「メロス」というウルトラ戦士のソフビ(ソフトビニール)人形を販売しているが、これはまだどこも商品化したことのないウルトラマンだったという。

「メロスというのは、漫画にしか出てこないウルトラマンなんです。一般的にはマイナーだけど、漫画の『ザ・ウルトラマン』が連載していたころに子どもだった世代の人にとってはメジャーな存在なんです。ビジュアル的にもかっこいいし、ニヒルなキャラクターとして描かれていて魅力的なので、『メロスのソフビがないから欲しい!』という声も多くて、商品化を思いつきました。」

「交渉にあたっては、内山まもる先生にも直にお会いしてお願いしたりしました。結局、何年もかかりましたが、やっと商品化にこぎつけたわけです。基本的に、私はそういう仕事が好きなんですね。人ができないことを探して、大手メーカーがカバーできない部分をやると。何千個も売れるものではないけど、一部のファンからは確実に望まれるものを作るというやり方です。大手さんにはメジャーなものをどんどん作っていただいて、取りこぼしているものをうちみたいな小規模メーカーがしっかり拾って補完をすればいい、という発想ですね。」(安東さん)

 メロスはノーマルバージョンのほか、鎧を装着したバージョンも作った。さらに、メロスの弟である「ファイタス」も商品化するという懲りようだ。業界内では「版権の取得は不可能」とされていたメロスだったが、安東さんの熱意により見事に商品化が実現した。発売後、小学館でふたたび漫画の連載が始まったりと、内山先生が描くウルトラマンにふたたび注目が集まっている。

「メロスについては、『あれは絶対に版権を取れない』といわれたんですが、とにかく粘りました。だれもやったことのないことをやるのは苦労も確かにあるけど、だからこそ価値がありますからね。なにごとも2番目よりは1番目にやったほうが、しんどいけど楽しいです。」(安東さん)

 他社では実現できないような商品を次々とリリースしてきたインスパイアは、ほかにも数多くの魅力的な商品を販売している。後編では商品を作る上でのこだわりや、アニメやプロレス関連の商品についても紹介しよう。

メロスのソフビ人形。鎧バージョンとノーマルバージョンの2種類があるメロスの弟、ファイタスのソフビ人形も用意

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2009/10/29 06:00  
碓氷 貫
フリーライター/編集者。Eコマースや地図サービス、データベース・コンテンツなど、Webサイトの価値を高めるさまざまなサービスをテーマに活動している。地図やハンディGPSを片手に街や山を徘徊する一方で、通販サイトでお買い得品をチェックすることにも余念がない。