職人技が光るウルトラグッズや怪獣人形に注目!
「インスパイア」(後編)


職人の高度な植毛技術を駆使したこだわりの人形

 「メロス」のようなソフビ人形とは別に、インスパイアでは「SSS(スリーエス)コレクション」という独自のシリーズも販売している。「SSSコレクション」とは、ソフトビニールをベースにして、植毛や布製コスチュームなど、異素材を組み合わせて作った商品だ。

 中でも注目なのが、「ウルトラマン」に登場する「伝説怪獣 ウー」の人形だ。これは全長22cmの人形の全身に植毛を施したもので、一般的な1/6スケール人形の頭部植毛量の十数倍もの毛が使われている。人形への全身植毛は、部分的な植毛とは違って高度な技術が必要となる。もちろん植毛は手作業だ。

 「おそらく日本の植毛師の中でも、一番腕の良い人にお願いしています。女の子の人形の頭に植毛するノウハウはすでに確立しているけど、腕や脚、胴体などに植毛して、なおかつ毛の方向をそろえて、本物の怪獣らしくまとめるという技術は、すごいことなんです。言わば、“失われつつある技術”ですね。」(安東さん)

 日々、撫でたりすることで植毛の状態も変わり、年数を経て風合いも出てくるという。しかも蓄光素材の毛を使用しているので、暗闇の中では幻想的な雰囲気となる。この植毛を頼んだ工場には、2年間かけて説得して、やっと応じてくれたという。

 「ウルトラセブン」に登場する「異次元宇宙人 イカルス星人」では、毛の部分にボアを使用した。ボア自体もミシンできっちり縫われているので、貼り合わせた部分にシワやだぶつきが出ることなく、きれいに仕上がっている。

 「ウルトラマンレオ」に登場する「円盤生物 ノーバ」には、布製のコスチュームを着けた。劇中のノーバのようにマントがヒラヒラとたなびく様子を再現するには、布を使用するのが一番だと考えたからだ。

 東宝が製作した怪獣映画「宇宙大怪獣ドゴラ」を商品化するにあたっては、クリアソフビや蓄光ソフビを使用して、クラゲのようなデザインを再現した。触手にはワイヤーを入れて、自由に折り曲げられるようになっており、いろいろなポーズを楽しめる。

 「たとえば『ウー』をすべてソフビで作るという選択肢もありますが、『ウー』というのはこの人形のように、本当に毛がワサワサ生えている怪獣なんですよ。それを再現できる技術を持っている職人さんがせっかく存在するのに、その技術を使わないのはもったいない、という思いから作ったものなんです。」(安東さん)

 現在の玩具業界において、怪獣人形の主流はソフビだが、そのような固定観念に縛られない自由な商品作りがインスパイアの魅力なのだ。

伝説怪獣ウーと異次元宇宙人イカルス星人の人形。こだわりのポイントも紹介している円盤生物ノーバのハロウィン2009年バージョンと、宇宙大怪獣ドゴラの人形。

ピンバッジに実相寺監督の直筆入りパッケージを採用

 特撮関連の商品としては、人形のほかに、Tシャツなどのアパレル商品も出している。注目は「ウルトラマンタロウ」に登場した4兄弟が、地球人の姿となって海岸でバーベキューパーティーをしているときに着ていたTシャツのトリビュートモデル。商品紹介ページには、4人を演じた黒部進さんと森次晃嗣さん、団時朗さん、高峰圭二さんがこれらのTシャツを着ている写真が掲載されている。

 主人公が身に付けるアイテムを商品化したとき、安東さんは役を演じた俳優に直接会ってプレゼントすることにしている。プロモーションの意味も兼ねているが、それ以上に、俳優に喜んでもらえることがうれしいからだそうだ。前編で紹介した「レオリング」も、真夏竜さんに直接渡すために持っている人脈をフルに駆使したという。

 俳優だけでなく、特撮関連の監督との付き合いも広い。先日も、ホビー関連のイベント「トレジャーフェスタ」にて、「ゴジラVSビオランテ」の特撮監督である川北紘一監督のサイン会を開催した。これは「ゴジラVSビオランテ」のスタッフジャンパーのトリビュートモデルおよびカレンダーの販促イベントとして行われたものだ。

 また、かつてインスパイアが販売した特撮のアクセサリーの中に、特撮テレビドラマ「怪奇大作戦」のピンバッジがある。劇中に登場するSRI(科学捜査研究所)のロゴをあしらったピンバッジなのだが、商品としてはサイズが小さいものなので、なにかアピールする方法がないかということで考えたのが、監督を勤めた故・実相寺昭雄監督の直筆の色紙だった。

 「ちょうど商品の企画を考えているときに、たまたま実相寺監督ご本人とお話しする機会があったので、お願いしてみたんですよ。監督は書を書かれていて、しかもすごく達筆なんです。そこで、パッケージの題字を書いていただけませんか、と。」

 「最初は色紙に入るくらいの大きさで『怪奇大作戦』と書いてほしいと頼んだのですが、実際に届いたものを見たら、巻物なんですよ。1文字が色紙1枚分くらいの大きなものになってしまって驚きました(笑)。これは大変だということで、スタジオで1文字ずつ撮影して、データにして小さくして合成して、やっと色紙の大きさにまとめました。」(安東さん)

 実はこのとき書いた題字は、NHKで新たに製作された「怪奇大作戦セカンドファイル」のタイトルに使われたという。実相寺監督も番組の製作にかかわっていたのだが、残念ながら企画の進行中に亡くなられた。この題字は、監督がこの世に遺した貴重な足跡なのだ。

ウルトラ4兄弟の長袖Tシャツ。出演者4人がTシャツを着た写真が載っている実相寺監督が書いた「怪奇大作戦」の題字

プロレス関連のフィギュアやアクセサリーも充実

 同じように貴重な商品として、プロレスラーの故・橋本 真也さんのソフビ人形も製作した。これも橋本さんが書いた字をパッケージにしたという。この商品は販売が終了してしまったが、プロレス関連のグッズは現在でも数多く販売している。

 30cmフィギュアでは、全日本プロレスの武藤 敬司さんや、藤原組の藤原 喜明さん、ZERO1-MAXの大谷 晋二郎さんのフィギュアを発売中だ。とくに藤原 喜明さんや大谷 晋二郎さんのフィギュアは、手足が可動なので好きなポーズを演出できる。

 特撮のアクセサリーで定番となっている「ヘルメットキーホルダー」のプロレス版とも言える「マスクキーホルダー」も、さまざまな種類をラインナップしている。みちのくプロレスではサスケ・ザ・グレートや、はやてさんやこまちさん、新日本プロレスでは獣神サンダー・ライガーさんや魔界倶楽部さんなどのマスクキーホルダーを揃えている。

 このほか、「ディフォルメフィギュアシリーズ」と題して、全日本プロレスの川田利明さんや小嶋聡さん、カズ・ハヤシさんの8cmフィギュアも用意。さらにこのシリーズには「キン肉マン」のキン肉マンやロビンマスク、テリーマンなどのフィギュアもラインナップしている。

 「プロレスも特撮もアニメも、私の中では一緒なんです。プロレスも個々のレスラーのキャラクターを売りにしているし、リングに上がっているときは特撮やアニメ作品の登場人物と同じように“超人”という位置付けですよね。“キャラが立っている”という意味ではすべて同一線上のもので、あまり区別はしていません。」

 「仮に、これから映画などのキャラクター商品を作るとしても、当社としては構えることもなく、今までと同じスタンスで、そのキャラクターを表現するのに一番いい方法はなんだろうということを考えるだけです。そして作りたいけど版権の問題なので今すぐにはできない、という企画があったとしても、『いつかできるかもしれない』という思いはずっと記憶して、チャンスがあったらやるように心がけています。」(安東さん)

プロレスラーのフィギュア。関節が動くので好きなポーズを自由に作れるさまざまなジャンルのキャラクターを幅広くカバー

前代未聞?! 髪がピンク色のラムちゃん人形

 アニメ関連の商品で注目されるのが、「レジェンドヒロインセレクション」シリーズにラインナップされている「うる星やつら」のラムのソフビ人形。これは版権元から依頼されて製作したもので、原作者である高橋留美子先生の原画展を開催するにあたって作ったものだという。

 「これまでうちはラムちゃんの人形は作ったことがなかったのですが、当社の商品をご覧になって、『ここなら』と声をかけていただきました。高橋留美子先生のキャラクター商品の監修というのは、非常に厳しいという話を聞いていたのですが、うれしいことにうちの場合は1回でOKでした。これは過去に事例がないそうです。」

 「一般的にはラムちゃんの髪の色は緑色のものがほとんどですが、原画展の会場で限定販売するものについては、髪の色をピンク色にしました。版権元の会社の監修担当者には『たぶん高橋先生の許可は下りない』といわれたのですが、『絶対に先生は気に入るはずだから』とお願いしたらOKが出て、担当者もびっくりしたそうです。」(安東さん)

 この商品は本当なら1回の生産で終わらせるはずだったのが、会場での人気が高く、増産をかけている最中だという。中にはこの限定商品を目当てに、遠くから足を運ぶファンも少なくないそうだ。

 厳しいといわれる原作者のチェックをも1回でパスするインスパイアだが、製作する上で他社とはどのような点が違うのだろうか。

 「どんなにうまい原型師さんでも、方向性をきっちり示さないと迷いが出てしまいます。『こういう商品にしたい』という着地点をはっきりさせた上で原型師さんにお願いしないと、原作者や版権元がイメージするものはできあがりません。ラムちゃんの髪の色をピンクにしたことについても、高橋先生がどうイメージしているのかを考えた上で、こういうコンセプトなら納得していただけるだろうと考えたわけです。」(安東さん)

 たとえ前例がなくても、商品化に向けて果敢に行動していく。安東さんがそのような姿勢を失わない限り、インスパイアはこれからも、マニアを強烈に惹き付けるユニークな商品を生み出していくことだろう。大手メーカーとはひと味違ったインスパイアの商品を手に入れて、ぜひキャラクター商品の楽しさを味わっていただきたい。

原画展で限定販売しているピンクの髪をしたラムちゃんと、一般版のラムちゃん

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2009/10/30 06:00  
碓氷 貫
フリーライター/編集者。Eコマースや地図サービス、データベース・コンテンツなど、Webサイトの価値を高めるさまざまなサービスをテーマに活動している。地図やハンディGPSを片手に街や山を徘徊する一方で、通販サイトでお買い得品をチェックすることにも余念がない。