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“パシリ”の発想から生まれた全巻セット専門店
「漫画全巻ドットコム」(前編)


 今回ご紹介するのは、マンガを全巻まとめて購入できる「漫画全巻ドットコム」。新刊マンガの全巻セットだけを扱うというユニークなこの店は、出版不況といわれる時代にもかかわらず、多くのマンガファンから人気を集めている。その人気の秘密はどんなところにあるのか、運営元であるTORICOの代表取締役社長・安藤拓郎さんにお話をうかがった。

バラ売りはなし! コミックの全巻セットだけで勝負

漫画全巻ドットコム
http://mangazenkan.com/

 書店に行って好きなマンガを一気に全巻“大人買い”しようと思ったのに、1冊か2冊だけ抜けていて惜しくもコンプリートならず。こんな経験を持っている人はいないだろうか? 何十巻ものマンガのすべてをすぐに手に入れられる店というのは、実店舗だけでなくインターネット上のオンライン書店でもなかなかない。そんな不満を解消してくれる店が、今回紹介する「漫画全巻ドットコム」だ。

 トップページにアクセスすると、マンガの表紙がズラリと並ぶ。こんなにボリューム感のあるトップページは、数あるオンライン書店の中でも珍しい。

 「マンガというのは表紙に力のある商材ですからね。とにかく画像だけを並べたいな、と思ってこのようなデザインにしました。本当はもっと文字を減らして画像だけにしたいくらいなんです。」(安藤さん)

 とにかくものすごい情報量だが、不思議と見やすい。この基本的なレイアウトは2006年の創業のときからずっと変わらず、創業時のメンバー2人で作ったこのページは今もなおずっと続いている。

 トップページの上部には、「たった今この本が売れました」と売れた本が次々と表示される。巻数の多い高価な全巻セットが次々に売れていくのを見ると、日本人というのは本当にマンガ好きが多いのだとしみじみ思う。

 「表紙をクリックすると、売れた日時が下に小さく表示されるようになっているんです。始めたときは、『こういうコーナーを作ったのに購入者が少ないと、売れていないのがバレるな』と思ったんですけど、そんな心配は不要でしたね。」(安藤さん)

 新刊のマンガ本をバラ売りせずに全巻セットだけをひたすら売り続ける。1セットあたりの値段はけっして安くはないにもかかわらず、不景気の今でもそれほど売上には影響がない。むしろ外出する機会が少なくなり、かえって販売は好調なくらいだというから驚きだ。

実際の読書時間をもとに完読時間を算出

運営会社のTORICO代表取締役の安藤拓郎さん

 表紙の画像をクリックすると作品の詳細画面が表示される。詳細データやあらすじ、著者のほかの作品のリストに加えて、似たような作品を「おすすめコミック」として紹介している。たとえばボクシングのマンガとして有名な「はじめの一歩」のページでは、「SLAM DUNK スラムダンク」や「MAJOR メジャー」、「あしたのジョー」などが紹介されている。このほかレビューの投稿機能もあり、ほかのユーザーが投稿した記事も読める。

 注目なのは、詳細データの中の「推定完読時間」という項目。「はじめの一歩(全89巻)」なら35時間12分、「ドラえもん(全45巻)」なら18時間1分、「カイジ(全40巻)」なら23時間06分と、完読するのにかかる時間がおおよその目安として載っている。

 実はこの時間は、「漫画全巻ドットコム」のスタッフが実際に作品を読んで、1冊あたりにかかった時間を計り、それに巻数をかけて導き出した数値だ。実際に読んだ時間を基準にしているので、セリフが多く難解な作品は時間が長くなるし、絵ばかりの読みやすい作品なら短くなる。

 「『推定完読時間』は店がオープンした当初から載せているものです。そのときイメージしたのが、たとえば土曜日に家にこもるって決めたとき、2時間くらいで読み終わるマンガだと1日はつぶせないな、と思ったんですね。DVDをレンタル店で借りるときにも時間を見て決めるので、どれくらい時間をつぶせるのかがわかったほうがいいと思ったんです。」(安藤さん)

 注目したのは、「作品を読むことでどれくらい時間をつぶせるか」ということ。これは書店ではなくサービス業の発想だ。この書店らしくないところが、「漫画全巻ドットコム」の魅力である。

「はじめの一歩」の購入画面。推定完読時間は35時間12分 「ジョジョの奇妙な冒険」は関連シリーズとのセットもオプションで用意

しょこたんのブログがきっかけで大人気に

 最近では、すでに数冊持っているマンガの残りを補完して、全巻にするサービスを始めた。

 「たとえば全50巻の作品の一部が、家に3冊あると。それなのに全巻を買ったら、すでに持っている3冊が無駄になってしまうので、その分を埋めるような買い方を提案したいと思いました。」(安藤さん)

 ランキングが充実しているのもこのサイトの特徴だ。月ごとの販売ランキングを載せているのだが、なんとベスト500位まで発表している。ランキング表にも表紙の画像が掲載されているので、これを順々に見ていくだけでも、「この作品、懐かしいな」と思い出したりして面白い。

 ちなみに、これまでにもっとも売れた作品は、浦沢直樹氏の「20世紀少年」と「21世紀少年」のセットだという。ランキングの上位に入る作品は、映画化やドラマ化で話題になったものが多く、今だと「カイジ」や「JIN−仁−」、「僕の初恋をキミに捧ぐ」などが人気だそうだ。

 「売っている作品は男性コミックの割合が8割と多いのですが、女性のお客さまも意外と多いんですよ。お客様の割合を見ると、今は女性が4割くらいです。とくに40〜50代の女性が購入されることが多いのですが、おそらく自分ではなく、お子さんへのプレゼントですね。」(安藤さん)

 確かに子どもに好きなマンガを全巻プレゼントしたら、かなり喜ばれるだろう。「漫画全巻ドットコム」では、ギフト包装にも対応している。

 「ただ、中には女性がドラマや映画を見て、面白そうだから自分で読むために買うという人も増えています。書店のコミックコーナーって若い人ばかりで、30代以上のお客さんってあまり見ないですよね。女性だとマンガ喫茶にも1人で入りにくいので、購入して家でじっくり読むという人も多いです。」(安藤さん)

 「漫画全巻ドットコム」は、送料がすべて無料。書店で大量のマンガを買っても、自分で家に持って帰るのはなかなか大変だし、女性ではなおさらだ。それが送料無料で届くのは大きなメリットといる。

 実はこの店、アイドルの“しょこたん”こと中川翔子さんのお気に入りの店として、彼女のブログで紹介されたことがあり、これがきっかけで一気に認知度が高まった。男性・女性にかかわらず、幅広い層から支持されている店なのだ。

手持ちの漫画に補完して全巻にするサービスも開始 月ごとにベスト500のランキングを発表

マンガ家へのインタビューも掲載

 “試し読み”のコーナーも見逃せない。実はもっともアクセスが多いのがこのコーナーだという。見開きの2ページ程度しか読めないものもあるが、中には数十ページ読める作品もあるので、面白い作品を探している人はここを足がかりにするといいだろう。

 また、「漫画全巻ドットコム」ではこれまでさまざまな作品のキャンペーン販売を展開してきたが、過去のキャンペーンのページを集めたコーナーが「カテゴリ」だ。ここには、「ドラゴン桜」や「カバチタレ!」などの名作を紹介するとともに、なんとマンガ家へのインタビューも掲載している。

 「『ドラゴン桜』は、もしかしたら当店が日本で一番売っているかもしれませんね(笑)。この作品は、現在ドラマで放映されているわけではないし、連載が終わって何年も経っている作品なので、置いていない書店もあると思います。でも、内容としては受験生のバイブルになり得るような名作ですので、そのあたりをインタビューや特集記事で訴えたかったんですね。」(安藤さん)

 同様に、学生が買ったり、親が子どもに買い与えたりで「源氏物語」のマンガ「あさきゆめみし」を購入する客も多いそうだ。

 バラ売りが基本のマンガ本を、あえてセット売りすることで新たな価値を生み出した「漫画全巻ドットコム」。その誕生のきっかけはどのようなものだろうか。後編では、「漫画全巻ドットコム」の創業当時のエピソードや、これからの展開について紹介しよう。

中身の一部を読める「試し読み」のコーナー 「ドラゴン桜」のキャンペーンでは作者へのインタビューを掲載

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2009/11/12 06:00  
碓氷 貫
フリーライター/編集者。Eコマースや地図サービス、データベース・コンテンツなど、Webサイトの価値を高めるさまざまなサービスをテーマに活動している。地図やハンディGPSを片手に街や山を徘徊する一方で、通販サイトでお買い得品をチェックすることにも余念がない。
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