第340回:UQ WiMAXのエリア展開の現状と今後は?

UQコミュニケーションズに聞く


 2月26日に東京23区と神奈川県横浜市、川崎市の一部でサービスを開始したUQコミュニケーションズのモバイルWiMAXサービス「UQ WiMAX」。4月20日には羽田空港をサービスエリアに追加するなど、有料サービスを開始する7月1日に向けて、着実に歩みを進めている印象だ。

 ただ、現状では使用できるエリアが限られ、通信速度も利用環境によって大きな開きがある。そうした影響もあってか、UQ WiMAXに対する評価も人によって異なる状況だ。それでは「どこでも快適に使える真のブロードバンド」となるためには、どのような課題があるのだろうか。

 今回は、UQ WiMAXの現状と今後、特にサービスエリア展開の話題を中心に、UQコミュニケーションズの福島徹哉建設部長と小池竜太コーポレート部門長に話を伺った。

サービス開始から2カ月

2月26日に行われたサービス開通式イベントの模様

 まず、サービス開始から約2カ月が経過した加入者数についてだが、小池氏によれば現在の加入者数は「当初モニターの5000名で、ほとんど解約されていません」。これに加えて、有料で端末を購入した加入者が個人・法人を含めて2000名程度、さらに先日のWi-Fiゲートウェイセットの1000名で、合計8000名ほどが利用しているという。

 6月30日までは試用期間として通信料金が無料である点も影響は多いと思うが、有料で端末を購入してサービスを利用する加入者が2000名前後と、それなりの数が存在する点は興味深い。それだけ、UQ WiMAXに対する注目度が高いという証なのだろう。

 なお、モニターの大半は30代の男性で、女性は少なかった模様だ。イー・モバイルのデータ通信サービスなどの場合、ネットブックとのセット販売などの影響もあるが、女性など比較的幅広いユーザーユーザーに加入者を広げつつある。そのことを考えると、7月の有料サービス開始後は、利用者層の開拓も課題の1つになりそうだ。

サービスエリアの充実を望む声が多い

 それでは、実際に利用しているユーザーの反応は? というと、やはりエリアの拡充を望む声が多いようだ。特に本コラムでも以前に紹介(掲載URL)したが、例えば東京23区内でも通信できないエリアの“穴”が存在する。また、秋葉原では高速な通信が可能だったが、新宿ではあまり速くないなど、地域によって速度に差が出るケースがあった。

 こうした点について、基地局の配置を統括する福島氏はこう語る。「エリアの展開という意味では、現在の東京に加えて、7月にサービス提供を予定する名古屋、大阪、京都、神戸への展開を進めています。また、関東では埼玉や千葉周辺での展開を進めている最中です」とのことだ。

 ただ実際にUQ WiMAXを利用する人から話を聞くと、正式なエリアとしては告知されていない埼玉などの一部でも、通信可能な場所も存在しているようだ。このことから、UQ WiMAXのサービスエリア情報で示されている9月までの拡大予定地域は、非公式ながら徐々に広がっていると考えられる。

 インタビュー中に確認すると、正式なサービス提供エリアとしては告知していないものの、すでに基地局設置が完了し、電波を受信できる場所も存在するようだ。現状、UQ WiMAXを利用するユーザーは、いろいろな場所で通信が可能などうかを確認してみると面白いかもしれない。

 一方、サービスエリア内に存在する“穴”の部分の対応だが、福島氏はこの対策を「現在の最優先課題」と述べた。サービスエリアの拡大と同時に対応している最中だといい、当初はエリア外だった場所でも、現在は通信が可能になっている場所も存在するという。

 残念ながら、筆者宅は圏外の状態が続いているが、1度ダメだったからと諦めてしまうのではなく、定期的に使えるかどうかをチェックしてみると良さそうだ。


UQ Comの福島建設部長2012年度末までのサービスエリア展開計画

「ちょっと動いてみる」と繋がりやすいことも

 こうした“穴”の部分は、やはり高いビルなどに囲まれた地域が多いようだ。福島氏によると「(UQ Comが本社を置く)JR品川駅の駅前もそうですが、壁になるようなビルがある場合、電波の受信状況が悪くなってしまうことがあります」という。このため、こうした穴のある場所に対して、重点的に基地局を配置していくつもりであると述べている。

 ちなみにUQ Comの基地局は、同社に出資するKDDIが持つauの設備も利用して設置が進められている。このため、エリア内に存在する“穴”を潰す場合も、まったく新たにUQ WiMAX用の基地局を建設する必要はなく、エリア内にある別のauの設備を利用することでカバーできる場合が多いという(福島氏)。もちろん、都内の場合は電波の出力や方向などをチューニングする必要はあるだろうが、これにより比較的短期間でのエリア拡充も不可能ではないと言えそうだ。

 また、これも少し余談になるが、基地局を1から建設しようとすると、それなりの期間を要するケースもあるそうだ。特に郊外の鉄塔などの場合、用地の確保や建設作業などはもちろん、行政への申請や許可などで膨大な時間がかかるという。そう考えると、au基地局を利用したエリア展開が可能である点にあるというUQ Comの強みは、今後の迅速なエリア展開にも有利に働くことになるだろう。

 このようにエリアは順次拡充されてはいるが、それでも穴が存在する以上、ユーザーとしては何とか通信できるようにならないかと工夫したくなるところだ。

 例えば、電波が弱いのであれば、高層階に移動してみたらどうかと考えたくなるところだが、福島氏によれば「一概に状況が良くなるとはいえない」という。高層マンションや高層ビルなどの非常に高い場所の場合、見通しは良い一方で、周辺にある複数の基地局からの電波によって混雑(干渉)することがあり、電波状況があまり良くならない場合もあるという。このため、高い場所にいる場合には、少し低層階に下がってみると、通信ができる場合もあるとのことだ。

 従って、「見通しが良ければ通信しやすい」「高い場所の方が通信しやすい」といったわかりやすい目安というものはなく、あくまでケースバイケースになるという。

 ただし、「あくまでも今の段階では、屋内よりは屋外の方が状況が良いケースが多いため、例えば、ビルの1階のロビーで繋がらなかったら外に出てみる、中にいる場合でも東西南北の反対方向の場所に移動してみる、といったように、少し動いてみるという工夫をしていただけると有り難いところです(福島氏)」という。


(左から)3月末時点のエリア状況と2月末時点のエリア状況。2月末と比較して、3月末時点ではエリアの“穴”が減っている

屋内エリアも将来的にはカバー

屋内基地局。屋外基地局とは別に、2012年度末までに1万9000局を設置する計画

 もちろん、このようなユーザー側の工夫が未来永劫必要となるわけではない。例えば、東京23区であれば、2009年度をめどにほぼ全域をカバーし、既存の携帯電話やデータ通信サービスと同様に、ほとんと場所を選ばず使える状況にする予定という。

 また、7月からサービス提供を開始する予定の名古屋/大阪/京都/神戸でも、使用できないエリアがなるべく少なくなるよう、基地局の準備を進めているとした。もちろん、ユニバーサルサービスではないため、全国どこでもというわけではなく、ユーザーが利用する可能性がある場所中心でのエリア展開となる。ただ、将来的にPCだけではなく、カーナビなどのノンPC製品への広がりを想定すると、なるべく広いのエリアでの展開も予想できるだろう。

 また屋外だけでなく、屋内基地局だけ見ても、2012年度末までに1万9000局を開設する予定で、小池氏によれば地下や大型ショッピングモール、店舗などへの展開も進めていくそうだ。冒頭の羽田空港の例もそうだが、今後は屋内でのエリアも拡大していくと考えられる。

 なお、UQ Comでは公衆無線LANサービスを無料オプションとして提供を予定しているが、エリア展開で無線LAN頼みにするつもりはないという。羽田空港でもそうだが、無線LANが利用できるエリアだからといって、UQ WiMAXの基地局を設置しないということはなく、きちんとエリアとしてカバーしていく予定となっている。

 このほか、家庭での利用環境も順次充実させていく予定とのことだ。無線LANルータ機能を持ち、UQ WiMAXをWAN回線として利用できる「Wi-Fiゲートウェイセット」もそうだが、電波法の整備が進めば、フェムトセルを提供するような展開も十分に考えられるだろう。

「アンテナ本数=速度」というわけでもない

ユーティリティでは、電波の受信状況を確認できる

 このように今後エリアが充実してくれば、どこでも快適にモバイルブロードバンドを楽しめるようになる。とはいえ、「快適に」を実現するには十分なパフォーマンスも要求される。このあたりの状況は、どうなっているのだろうか。

 UQ WiMAXの通信速度は現在、下り最大40Mbps、上り最大10Mbpsだ。しかし、現状では下りの場合で、速い場合で7~10Mbps、一般的には2~3Mbps程度の通信速度が一般的と言える。この点に関して福島氏は「1基地局のカバーするエリア(セクター)で、セクター全体のスループットが3~4Mbpsでは面白くないと考えています」と、今後の意気込みを語る。

 具体的な数値は、環境によって異なるため明示されなかった。しかし、1つの目安として、UQ Comの田中孝司代表取締役社長が発表会などで言及している「10Mbpsを体験」というパフォーマンスを目指して、エリアの整備やチューニングを進めている最中なのだろう。

 また、実際にUQ WiMAXのユーザーであれば体験したことがあるかもしれないが、下りと上りの速度でパフォーマンスにアンバランスさが目立つ場合がある。例えば、下りは7Mbpsで通信できるのに、上りは数十~数百kbpsほどしか出ないといったケースである。

 福島氏によれば「実効速度は環境にも依存するので一概には言えませんが、WiMAXの特性として、上りだけが極端に遅くなることはありません。ただ、上りの方が環境の影響を受けやすい場合は考えられます」という。

 これは要するに出力の差だ。基地局から出る電波(下り)と、端末が出す電波(上り)では、どうしても上り側が弱くなる。このため減衰したり、干渉を受けると、その影響が出やすいということになる(規制や消費電力などの問題もあるので単純に出力を上げるというわけにもいかない)。もちろん、この特性を考慮した補正技術などもきちんと実装して、チューニングもしているそうなので、上りだけ極端に遅いというのは特殊な状況とも言えそうだ。

 ちなみに、4月22日には、ウィルコムが同じ2.5GHz帯を利用する次世代PHSサービス「WILLCOM CORE XGP」のエリア限定サービスを発表している。ただ、同じ2.5GHz帯といっても、周波数帯域に空き幅があるため、今後のエリア展開や電波干渉などの影響は基本的にないとのことだ(福島氏)。

デバイス市場への展開に期待

現在のUQ WiMAXに対応した端末。今後はPC内蔵型やノンPC製品への展開も見込んでいる

 最後に今後の方向性について話を伺った。小池氏によると、第3世代携帯電話サービスなどと比較した際の優位性は、「通信速度に加えて、内蔵モジュールのデバイスが低コストで作れる点」にあると言う。

 先ほどから触れている「Wi-Fiゲートウェイセット」もその1例といって良いかもしれないがPCであれば内蔵モジュール、また、カーナビや他の家電などへの応用もモバイルWiMAXでは、短期間・低コストで可能になる。しかも、モバイルWiMAXと無線LANの双方を搭載したデバイスも容易に作れる。

 UQ Comでは、そのための下地作りとしてエリア展開を現在積極的に進めているが、今後はMVNOによるサービスの多展開、デバイスの拡充も進めていくことになる。もちろん、そのためには1人のユーザーが複数のデバイスを使い分けて利用するための「1セッション/マルチデバイス」の仕組みを実現する必要がある。これについても、7月から有料サービス開始以降の提供に向けて、具体的な方法を社内で検討している最中という。

 こうしたPC以外への機器への展開、そしてマルチデバイスが実現すれば、速度だけでなく、真のWiMAXの強みとなり、さらなる発展も期待できそうだ。


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2009/4/28 11:09  

清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ