第362回:高速&静音でアプリの追加もOK
高性能な万能NASケース QNAP「TS-219P」


 2004年の設立後、瞬く間に世界屈指のNASベンダーへと成長した台湾QNAP社。今回、QNAP製品を取り扱うユニティが8月に販売を開始したのがNASケース「TS-219P」だ。高速、静音、高機能と三拍子揃った「TS-219P」の実力を検証してみた。

サーバー並の性能とNAS並の手軽さを両立

 ファイル共有やメディア共有、バックアップ、Webサーバー、グループウェアなど、家庭内のネットワーク環境をいろいろと活用したいが、手間と労力は最小限に抑えたい。そんな用途に最適な製品が、今回取り上げるQNAPのNASケース「TS-219P」だ。本製品では、別途用意した3.5インチまたは2.5インチのSATA型HDDを2台搭載できる。


QNAPの「TS-219P」。高速、静音、高機能と三拍子揃ったNASケースだ。実売価格は4万5000円前後

 家庭もしくは10人以下のSOHOや中小企業などのネットワークを想定した場合、ファイル共有などを利用する方法は、現状では大きく3つ考えられる。1つ目はPC同士をつないだ「ワークグループ」を利用する方法。2つ目はWindows ServerやLinuxなどでサーバーを構築する方法。そして、3つ目はNASを導入する方法だ。

 この中で、最近注目を集めているのがNASを利用する方法だろう。Windows 7の登場で「ワークグループ(ホームグループ)」環境も見直されつつあるものの、Windows VistaやWindows XPなど、異なるOSが混在する環境では柔軟性の低い「ワークグループ」を使わなければならない。それでは、高性能で拡張性が高いサーバーを構築するかと言われると、そこまで費用と手間をかけられない場合が多いだろう。

 これに対して、家電量販店などでも普通に見かけるようになったNASは、サーバーほど手間をかけずに本格的なファイル共有環境を構築でき、しかもバックアップやメディア共有なども利用可能だ。また、安価なもので1万円台から購入できるリーズナブルさも手伝って、ここ数年で急速に普及しつつある。


表1:家庭やSOHOでのファイル共有環境の比較

 ただ、その一方で「速度が遅い」や「動作音が気になる」、「データの信頼性が心配」、「決められた使い方しかできない」など、NASならではの課題も浮き彫りになってきている。NAS自体はもともと、サーバーの機能を使いやすくして低価格化を図った製品だが、それがユーザーの不満のタネになりつつあるわけだ。

 そこで注目されはじめてきたのが、QNAP製品に代表される高性能NASだ。従来からあるNASの使いやすさやリーズナブルな価格はそのままに、サーバー並のパフォーマンスや信頼性、拡張性を確保できるようになっている。

 QNAPの「TS-219P」では、速度性能や拡張性をはじめ、以下のような特徴を持っている。今回はこうした特徴を検証していこう。


表2:TS-219Pの特徴

圧倒的なパフォーマンスと静音性

本体正面

 既存のNASユーザーが、現状の製品に対して抱いている大きな悩みは、恐らく転送速度と騒音だろう。最近では、高性能なCPUやギガビットイーサネットポートを搭載することで、高速化を実現した製品も登場してきているが、低価格なNAS製品の場合は転送速度が160Mbps(20MB/s)前後と遅い場合もある。

 もちろん、この速度でも普通に利用するぶんには十分かもしれないが、例えば複数のユーザーで頻繁にNASへアクセスする場合や、動画などのような大容量のファイルを転送する場合などには、転送時間がかかってしまい、ストレスを感じることもあるだろう。

 これに対して「TS-219P」では、家庭用NASとしてトップレベルのパフォーマンスを持っており、サーバーOSを搭載したPCを上回る性能を実現している。

 以下のグラフはFTPによる速度を計測したものだ。TS-219は、最大2台のHDDを搭載可能になっており、RAID機能も利用できる。そして、2台のHDDをストライピングする「RAID 0」と、ミラーリングする「RAID 1」の両方で、読み込み速度(GET)に関しては最大1Gpbsのギガビットイーサネットの上限値に近い速度を計測できた。


※Windows Home Server:ATOM330/RAM2GB/HDD1TB×1(複製なし)、IISのFTPサーバー利用
※クライアント:ThinkPad X200/Core2duo P8400/RAM4GB/Intel X25-M/Windows 7

 また、以下の画面は、共有フォルダをクライアントPCのネットワークドライブとして割り当て、「Crystal Disk Mark 2.2」を使って計測したものだ。ミラーリングのRAID 1(左画面)では書き込みのパフォーマンスが若干劣るが、それでも読み込み速度で480Mbps(60MB/s)を超える数値を計測した。


(左から)TS-219のRAID 1、RAID 0、Windows Home Serverの計測結果

 前述したように、家庭用NASの中で低価格モデルの場合、160Mbps(20MB/s)程度の速度しかでない場合があることを考えると、本製品はかなり高いパフォーマンスであることがわかる。本製品では、CPUに「Marvell 6281(1.2GHz)」を採用しており、これが処理速度の向上に貢献しているのだろう。


側面背面

 一方、パフォーマンス重視では「それなりにうるさいのではないか」と、心配になる人もいるかもしれない。しかし、本製品は静音性も重視されており、動作中の音はほとんど気にならない。もちろん、無音というわけにはいかず、アクセスした際にはHDD独特のカリカリというアクセス音が聞こえてくる。ただ、ファンの音はほとんど聞こえず、本体の30cm付近にまで顔を近づけると、わずかに風の音が聞こえる程度となっている。

 本製品の背面に備える70mmファンは、システム温度に応じて回転数が自動的に制御されるようになっている。標準では47度より低いと低速で回転し、52度を超えると高速で回転する設定になっている。

 夏を過ぎた今の時期であれば、電源をオンにした直後に「フゥォン」と一瞬高速でファンが回転するくらいで、普段はほぼ低速で回転していることになる。カタログ上の騒音レベルも待機時で32.7dB、動作中で36.3dBとなっており、設置場所などにもよるが、この手の高性能NASとしては静かな部類に入る製品と言えるだろう。


背面の70mmファンは動作が静かスマートファン設定により温度に応じてファンの速度をコントロール

静音性と消費電力重視なら2.5インチHDDで

HDDはホットスワップ対応のカートリッジ式

 もしも、より静かな環境で使いたいのであれば、搭載するHDDを2.5インチにするのも1つの手だ。本製品は、HDDの交換が可能なNASとしては珍しく、3.5インチと2.5インチの2種類のHDDに対応している。フロントベイからカートリッジを取り出すと、底面に2.5インチHDD用のネジ穴が用意されている。ここに2.5インチHDDを取り付ければ、NASのストレージとして利用できるというわけだ。


内部はSATAで接続される3.5インチだけでなく2.5インチHDDにも対応。音も静かになり、消費電力も半減する

 2.5インチHDDを利用すると動作音はさらに数段静かで、3.5インチHDDのときに気になっていた「カリカリ」というアクセス音もほとんど聞こえてこない。また、消費電力も低く抑えることが可能で、3.5インチHDD構成の場合と比べて半分程度の9~10Wにまで電力を抑えることが可能だ。

 この場合、当然のことながら発熱も抑えられることになり、ファンの回転数も上がりにくいという相乗効果もある。2.5インチHDDの価格はまだ高いものの、500GB以上の製品も比較的手に入れやすくなってきたことを考えると、500GB×2の構成で1TB、もしくはデータの安全性まで考慮してRAID 1の500GBとして利用するのも十分実用的だ。また、2.5インチHDDを利用した場合でも、パフォーマンス上の劣化は見られなかった。

 HDDのかわりにコスト度外視でSSDを利用すれば、無音に近いNASというのも夢ではないかもしれない。


消費電力の比較2.5インチHDDのスループット

アプリケーションも追加できる

 ここまでパフォーマンスや動作音、消費電力、信頼性などを紹介してきたが、QNAPのNAS製品では、アプリケーションの追加も可能な汎用性の高さも大きな特徴となっている。


TS-219Pの設定画面。Ajaxを使ったなかなか凝ったデザインファイルサーバーとしての機能は必要十分。アクセス制限やクォータも設定可能

 本製品は標準状態でも、かなり多機能なNASと言える。その機能を以下にリストアップしてみたが、これだけ見ても多彩な用途で利用できることがわかる。


  • ファイルサーバー(Windows/Mac/Web)
  • FTPサーバー
  • iSCSI
  • バックアップサーバー(NetBak Replicator付属)
  • リモートレプリケーション(QNAP/RSYNC)
  • Webサーバー(DynamicDNS利用可)
  • データベースサーバー(MySQL/SQLite)
  • プリンタサーバー
  • UPnPメディアサーバー(DLNA対応)
  • マルチメディアステーション(Webベースのメディア参照)
  • iTunesサーバー
  • ダウンロードサーバー(HTTP/FTP/BitTorrent)
  • 監視サーバー(要ネットワークカメラ)
  • アプリケーションサーバー(PHP/joomla!/WordPressなどを追加可能)

Webサーバーの設定画面付属のバックアップツール「NetBak Replicator」

Webベースのメディア共有UPnP機能を利用してDLNA対応クライアントからメディアも参照可能

 最近のNASで利用される機能としては、ファイル共有とメディア共有機能が主に利用されているが、本製品ではこれら機能に加えて、PHPやデータベースと組み合わせたアプリケーションサーバーとして利用できるのもポイントだ。

 このような機能は一般的なNASでは利用できないため、これまではLinuxなどを利用して自分でサーバーを構築する必要があった。このため、専門的な知識が必要とされ、構築にも手間がかかったが、これらが簡単な初期セットアップだけで利用できるようになっているわけだ。

 中小企業やSOHOなどで、外部に公開するための自社サイトやコミュニティとして活用するのも良いだろうし、社内の情報共有やコミュニケーション用途に利用するのも良いかもしれない。

 また、こうしたアプリケーションは、インターネット上から「QPKGプラグイン」としてダウンロードが可能になっており、必要に応じて本製品に機能を追加できるわけだ。


オープンソースCMS「joomla!」なども利用可能パッケージは後から追加することもできる

 例えば、本製品をメールサーバーとして構成することもできるし、インターネット経由でのファイル共有を想定したAjaxのUIを利用したり、Logitech社の「Squeeze box」という海外で利用者が多いメディアプレーヤー向けのサーバーとしても利用できる。

 つまり、単にNASとして利用するだけではなく、さまざまな用途のサーバーとして手軽に活用することができるわけだ。この汎用性の高さは、一般的なNASとは一線を画すQNAP社製品ならではの特徴と言えるだろう。

6万円で本格サーバー並のNAS環境を

 以上、「TS-219P」を実際に試用してきたが、高いパフォーマンスを誇りながら、静音性が高く、3.5/2.5インチHDDに対応。また、RAID構成も可能なハードウェア完成度の高さに加え、アプリケーションを追加できるソフトウェアの良さなど、どの点を見ても関心させられる製品だ。

 本体のみの実売価格は4万5000円前後となるため、1TB容量の3.5インチHDDを2台購入した場合でも合計で6万円前後といったところになるだろう。低価格NASが1TB容量で2万円前後と、USB接続型の外付けHDD並の価格にまで下がりつつある点を考えると、価格だけで単純比較すると高くみえてしまうが、本製品はそれだけの付加価値を十分すぎるほど備えたNASと言える。

 個人ユーザーはもちろんだが、SOHOや小規模なオフィスでの利用を検討してみたい製品と言えそうだ。


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2009/10/6 11:00  

清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ