12日間で100万PV突破。漫画でニュースを配信する「漫画の新聞」


 10月15日、カバネット株式会社はニュースを漫画で配信するWebサイト「漫画の新聞」を開設した。カバネットによれば、漫画でニュースを配信する専門サイトは「世界初」。ページビュー(PV)は開始から12日後の10月27日付で100万PVを超え、NHKやテレビ朝日のニュース番組で取り上げられるなど、マスメディアでの注目度も高い。

 カバネットは10月7日に「漫画の新聞」サイトの設立・運営を目的として設立された会社だ。現在の事業は「漫画の新聞」のみ。ニュースの配信に“漫画”を選んだ狙いや今後の展開について、「漫画の新聞」編集長の孫氏に話を伺った。


「漫画の新聞」は難しいニュースの入門編

――はじめに、ニュースを配信する方法として、漫画を選んだ狙いについて教えてください。

「漫画の新聞」の孫編集長

 まず、“難しいニュースをわかりやすく伝えたい”という思いがあります。「ニュースを漫画で伝える」という発想は、役員の飯田(カバネット取締役)が思いついたのですが、それを聞いたとき「そんなサイトが欲しい」と、まず自分が思いました。

 活字のニュースメディアだと、その記事を1回だけ読んでも問題がよくわからない。たとえば、普天間基地移設の話であれば、「キャンプシュワブ沿岸に建設する代替施設を、予定より50m沖合いに移すことをアメリカが納得した」ことが事実(10月18日時点)。

 でも若者の目線だと「50mなんか大したことないじゃん」というのが普通の感覚だと思うんです。そこに壁があって、普天間基地移設の問題を以前から追っていると、騒音や暴行の問題で地元の人に「基地は少しでも遠くに行って欲しい」という思いがあることがわかる。

 既存メディアはその部分を伝えるのが難しいので、「漫画の新聞」を入門編としたいんですね。今までニュースを見てなかった人たちにもアプローチできるし、ニュースを見ていた層にも別の見方が提供できる。漫画だと、絵のイメージで「飛行機がうるさい」「沖合いに移動して欲しい」という感覚が伝わってくると思うんです。

 既存のニュースメディアを否定するわけではありません。難しい内容のニュースも理解できる人が増えるための入り口となればと思います。活字ニュースを読まない層へ訴求するほか、読む層には別の見方を提供できる。その2点を考えたときに、社会的な意義が大きいと思いました。もちろんビジネス的な側面もありますが、こんなに人のためになることはない。これがお仕事としてできればいいなと。

――サービス開始から2週間でのテレビ取材など、注目度の高さをどう思いますか。

 自信はあったのですが、3カ月くらいかけてテレビ取材まで行けばいいなという印象でした。なんとなくですが、Webで有名なサービスはテレビ取材まで3カ月から6カ月かかっているので。「漫画の新聞」はまだ未熟なサイトなので、広めてもらった媒体や読者の期待に沿えるサイトにしたいと思います。

 PV数は、サービス開始から10月27日までの12日間で100万を突破しました。11月10日には200万PVを超え、ユニークユーザーは11月10日時点で約27万人です。少ないと思われるかもしれませんが、1ユーザーが何記事も見てくれています。私が携わってきたサイトでは、ちょっと見てすぐに離脱する人が多い。「漫画の新聞」では1記事を2ページの漫画で掲載していますが、1日1人あたり3分から10分と滞在時間が長いんです。


「漫画の新聞」トップページ。「政治」「経済」「国際」「社会」「芸能」「スポーツ」の6カテゴリに加え、全記事を一覧表示する「ヘッドライン」、1つのテーマをシリーズで扱う「特集」がある「漫画の新聞」ニュース部分(画像は普天間基地代替施設の移設問題をテーマとしたもの)。2ページで構成される。ビューワーは利用せず、クリックすることで読み進められる


――人気のカテゴリは。

 “政治もの”ですね。「漫画の新聞」には、「政治」「経済」「国際」「社会」「芸能」「スポーツ」の6カテゴリがありますが、「芸能」「スポーツ」はさほど見られていません。「政治」が1番人気です。「こんな面白くなさそうなものをどう読ませるんだろう」という部分でクリックされているのかなと思います。

 普天間基地移設問題の記事もそうですが、難しい内容のものをわかりやすく伝えられた記事は人気が高いです。わかりやすいものをそのまま伝えたものよりは、ニュースを漫画で伝えるという価値を感じていただいているようです。

――「漫画の新聞」でこだわっている部分は。

 何をユーザーに伝えるべきか、そこを1番に考えています。漫画なので、面白くしようと思えば面白くなるネタはある。たとえば、トルコで「スルタンさん」という2m47cmの世界一身長の高い人がニュースになった。漫画的にはとても面白いけど、ニュース的には弱い。

 漫画的なネタばかりやっていればPV数は稼げて、ビジネス面でも良いかもしれない。でも、それではただ消費されるだけで意義がないじゃないですか。ユーザーに向けて何を伝えなければいけないのかを考えて、どこよりもわかりやすく伝える。そこを大事にしています。新しいジャンルなので、社会的な意義と同時に責任もあると思います。

――ターゲット層は。

 当初想定していたのは20代~30代の男性です。その層に設定した理由は、あるアンケート調査で20代~30代の男性が活字でニュースを読まない層、ネットでニュースを見る層だったからです。実際蓋を開けてみると、10代~60代まで幅広いユーザーからメールをいただいています。7対3くらいで男性が多いですね。


ネタ集めから掲載までは最短で6時間。抱える漫画家は40~50人

――ネタ集めから掲載までの流れは。

カバネットのオフィス風景

 ネタ拾い、事実確認、シナリオ作成、ネームチェック、作画チェックですね。掲載するニュース本数は、1日に1本から5本。最低1本で、平均すると2~3本です。

 掲載までにかかる時間は、専属の漫画家さんの場合で最短6時間、最長12時間。情報を全部確認して伝えなければいけないので、絵を描く部分より考える部分の時間がかかります。また、情報を盛り込みすぎてもわかりにくい。どこまで単純化して伝えるかという部分を、6時間くらい漫画家と議論したこともあります。ネタのピックアップは「何を伝えるべきか」を基準にしています。

 たとえば、日本郵政の人事に関する記事を載せた日は、郵政以外に、海上自衛隊と韓国の船が衝突して炎上した事故と、第一幸福丸が転覆した事故がありました。第一幸福丸の事故は人命が救われたという点でも大きなニュースだったと思うんですが、今回は日本の変革、大きな流れとして日本郵政を優先しました。漫画としては船が衝突した話や人命が救われた話は面白いものに仕上がりますが、そういうことで選んではダメだろう、と。

 ネタが決まったら、そのネタの事実調査や人物の経歴などを調べます。そのニュースの本質をつかんだ、というところで事実に基づいてシナリオを考えます。

 シナリオは、漫画家と相談して私がテキストに起こします。シナリオができあがったら、メールなどで漫画家に渡す。シナリオをもとに漫画家からネームが送られてくると、そこでイメージと違う、事実と違う、表現がだめ、そもそも面白くないなど、チェックを入れます。

 文章表現に問題がある場合は表現を変えますが、絵に問題がある場合は、漫画が完成するとこちらでは直しようがないので、ネームの段階で漫画家さんと話を詰めます。また、ネームの段階でネタが古くなりすぎた場合や、「読者にとって面白くない」という漫画としてのクオリティでボツになる場合もあります。

 ネームに問題がなければ作画をお願いします。作画が終わると、文言や表現などの最終チェックですね。問題が無ければ見出しやテキストを付けてアップ。問題があれば修正したり、稀ですがボツにすることもあります。ボツってつまり、自分のシナリオが悪いという話なんですけどね(笑)。

――掲載までの流れの中で、誰がどんな役割を担当していますか。

 基本的に構成を私が考えて、制作は漫画家さんにお願いしています。漫画家は専属2名、契約が40~50名です。漫画家さんはネットの求人、秋葉原のお店での求人広告、夏のコミックマーケットで気になる同人誌を買って作家さんにメールを送ったりして募集しました。あと、デザイナーさんの知り合いに漫画家がいることもあるので、そこから芋づる式にお願いしたり。

 筆が早い人には新鮮なニュースを、遅い人には腐らないニュースをお願いしています。たとえばプロ野球のドラフト会議では、菊池雄星君が西武ライオンズに決まりましたが、決まる前日と決まった当日では全く内容が違ってきますから。逆に「竹やぶで1000万円見つかりました」のようなネタはいつやっても面白いので、描くのに時間をかける作家さんにお願いします。

ネームをチェックする孫氏専属の漫画家さんによる作画風景


――漫画の効果として、事実の脚色や大げさな表現についてどう思いますか。

 その点は1番注意しています。政治的に言えば右寄りや左寄りなどの偏りがないようにしていますね。ただ、漫画というものは主軸が決まっていないとストーリーが成り立たない。なので、1本1本は偏りがあっても、全体を見ると右寄りも左寄りもあり、中道なものになっています。たとえば鳩山氏の所信表明演説の記事だけを見ると、民主党に批判的に見えますが、他の記事では応援している記事もある。全体ではバランスを取っています。

 ちょっと大げさですが、偏った思想のために使ってしまってはいけないと思いました。ニュースを漫画で配信するという新しいジャンルが偏って利用されてしまうともったいないと思うんですね。

仕事風景。オフィス内にはラジオのニュースと音楽が流れている社内に設置されたホワイトボード


改善点は「すべて」。質・スピード・本数の向上が目標

――「漫画の新聞」の収益は。

 主に3種類です。広告と、ポータルサイトへの2次配信、漫画によるプレスリリース制作受託ですね。特に2次配信については複数の会社から話をいただいています。どこかは現段階では公開できませんが、大手ポータルサイトなどです。

 漫画でのプレスリリースの制作受託は、企業のプレスリリースを漫画で制作して「漫画の新聞」内に掲載するほか、データは先方で自由に使っていただきます。医療機器メーカーや金融機関など、説明が必要な商材を扱う会社や、若年層向けの新商品を扱う会社など、いくつかの会社に興味を持ってもらっています。

 また、会社としては漫画の制作受託もできるので、この方向でも営業する予定です。

――現在の改善点は。

 改善点はすべてですね。まだまだ未熟なサイトなので。具体的には、まず漫画の質を上げたいです。絵とテキスト、表現などすべて含めた漫画としての質の向上です。

 次に、スピードですね。わかりやすさを売りにしてはいるとはいえニュースサイトなので。たとえば掲載までに必要な時間が最低6時間であれば、どんなネタでも6時間で仕上げる。写真を撮るだけの人、デッサンをするだけの人、それらを元に他の人が漫画化する。将来的にはそういう分業体制まで持って行き、6時間よりさらに時間を短縮する予定です。

 3番目は1日に公開する記事数の向上です。現状の1日1本から5本というのは少ない。たとえば1日10本、あるいは1ジャンルで1記事以上掲載するようにして、ユーザーが1日1回来てくれれば「けっこう勉強になるな」と思っていただけるようにしたいです。

 あとは、現在は速報を意識しているため1記事を漫画2ページとしていますが、もっと内容を掘り下げた記事を掲載したいです。長編ですね。今企画しているのは、長崎で被爆者の方々に取材して、それを複数の漫画家さんに描いていただくというものです。

 「ルビを振って欲しい」という要望も4件くらいいただいています。親御さんから「子どもに見せたいので」と。現状は人数が少ないので体制的に厳しいですが、将来的には対応したいです。改善点は山ほどありますね。いただいたご意見に1つずつ対応していくという感じです。

――今後の展開は。

 携帯電話対応とiPhoneアプリ化は具体的に進んでいます。iPhoneアプリは年内にリリースできればと考えています。

 外国語版の配信も、3カ月から6カ月後の間で開始したいです。漫画は活字が少ないので、さほどコストがかからないんです。今は、海外のニュースサイトで勝手に「漫画の新聞」がアップされていて、日本語が読めないのにそこからアクセスが何百も来ている。海外向けに早く出してみたい、とは思います。ゆくゆくは日本版の翻訳ではなく、その国のニュースをその国の言語で漫画にするというのが夢ですね。

 外国語展開の重要度順でいうと、韓国語、フランス語、英語の順です。これは漫画の文化が浸透している順ですね。とはいえポルトガル語、スペイン語、英語、中国語圏を母国語とする人口は、韓国語圏やフランス語圏とは比較にならないくらい多いので、そちらでの展開も視野に入れています。アラビア語など、中東向けにも出したいです。

 実は私はもともと記者出身で。韓国からイギリスまで31カ国経由の取材旅行を1年かけて行ったこともあり、その経験は海外のネタを多く扱う「漫画の新聞」でも確実に活きてますね。国内・海外に関わらず、ネットの向こう側にいる人に「何を届けるべきか」を意識して運営しています。

――ありがとうございました。


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(村田 奏子)
2009/11/13 06:00