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第3回:ADSLサービスの特性
[2001/11/22]
第2回:ADSLの種類とISDNとの干渉
[2001/11/21]
第1回:ADSLとは
[2001/11/20]
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第3回:ADSLサービスの特性


■ ADSL接続サービスの特性

 日本での普及の環境が整ってきたADSLだが、従来のアナログ回線やISDNとは少し違った形でサービスが提供されている。実際のサービス提供のしくみを簡単に解説しよう。

 まず、最初にも説明したように、ADSLは契約者宅とNTT収容ビルの間がメタルケーブルで結ばれていることが第一条件になる。ADSL事業者がADSL接続サービスを提供する場合、各ユーザーの住んでいる地域のNTT収容ビルにDSLAM(Digital Subscriber Line Access Multiplexer)と呼ばれる機器を設置し、契約者宅のADSLモデムからのメタルケーブルを引き込む。DSLAMのもう一方には自社の回線やネットワークを接続し、最終的にインターネットと接続する。

 しかし、このNTT収容ビルはその昔、「電話局」と呼ばれた各地域のNTT施設のことで、非常に数が多い。東京都内だけでも150を超えるNTT収容ビルがあり、ADSL事業者がサービスを提供するには、それぞれのNTT収容ビルに必要な数のDSLAMを設置しなければならない。つまり、ADSL事業者が提供するサービスはすべてNTT収容ビル単位(局単位)でエリアが拡大し、多くのADSL事業者はNTT収容ビルに基づいたエリア展開スケジュールを自社のホームページで公開している。ADSL導入を検討するユーザーは、まずここを十分にチェックする必要がある。ちなみに、自分の回線がどこのNTT収容ビルの引き込まれているのかは電話番号から調べることもできるが、NTTに問い合わせて教えてもらうこともできる。

 ADSL接続サービスはNTT収容ビルに設置されたDSLAMと契約者宅をメタルケーブルで結び、インターネットと接続することにより、サービスを提供できるが、実はここにもうひとつADSLならではの特長が隠されている。それは通信速度だ。現在、多くのADSL接続サービスはG.992.2(G.lite) Annex Cを採用しているため、仕様的には1.5Mbpsがひとつの上限となっている。しかし、ADSLはその特性上、すべての契約者に対して、同じ通信速度でサービスを提供することができない。これまでもフレッツ・ISDNやOCNエコノミーのように、速度を保証しない「ベストエフォート型」の通信サービスは存在したが、ADSL接続サービスの速度保証がない点はこれらと少し趣が異なる。

 従来のベストエフォート型の通信サービスは、契約者宅とNTT収容ビルの間を一定の速度で接続している。たとえば、OCNエコノミーであれば128kbps、フレッツ・ISDNであれば64kbpsだ。しかし、その先の回線(フレッツ・ISDNなら地域IP網)を複数のユーザーで共有するため、結果的にフルパフォーマンスが得られず、ベストエフォートで提供されることになったわけだ。

 これに対し、ADSL接続サービスは、そもそも契約者宅とNTT収容ビルの間の通信速度が一定ではない。ADSLは高い周波数まで利用して信号をやり取りしているため、距離が遠くなると、必然的に信号が弱くなり、通信速度が低下する。雑音やノイズの影響を受ける場合も同様だ。つまり、同じ「速度を保証しない」サービスではあるものの、フレッツ・ISDNやOCNエコノミーのベストエフォートとはまったく性質が異なるわけだ。

ISDNとの干渉が軽いケース
電話ケーブルでは、絶縁材にプラスチックを使ったものと紙を使ったものがあるが、紙絶縁のケーブルでは1本のケーブル中に、電話線(銅線2芯)が100回線分収容されている。このグラフはケーブル中に1回線だけ、ISDNがある場合の理論値
ISDNとの干渉が大きいケース
上のグラフ同様、紙絶縁ケーブルで100回線中、24回線がISDNの場合の理論値。実際には、最近敷設されたものはプラスチック絶縁のケーブルが多く、プラスチック絶縁の場合は干渉の影響が少なくなる。また逆に、実際には放送電波などの影響も受けるので、これより悪い結果になる場合もある

 これらのことからもわかるように、ADSL接続サービスを利用する上で重要なのは、NTT収容ビルからの経路と距離ということになる。距離のことをまったく無視して、通信速度の計測結果に一喜一憂することはあまり意味のない行為だ。

 通信速度と距離の関係について、何kmなら何bps程度という明確な指針は示されていないが(本来、参考資料として、行政や各事業者が示すべきだが……)、フレッツ・ADSLの場合、2km以内がひとつの目安とされている。それ以上、離れてしまう環境では極端に通信速度が低下したり、通信そのものができないというケースがある。もちろん、2km以内でもノイズや経路の関係上、十分なパフォーマンスが得られないことも起きる。ADSL接続サービスを導入するときは、まず市販の地図ソフトなどでNTT収容ビルと自宅の間の距離を計測し、その上で比較検討することをおすすめしたい。最近の地図ソフトではルート検索もできるので、実際の経路にほぼ近い距離を知ることができるはずだ。

 また、距離と通信速度の関係を考える上で、もうひとつ注意しなければならないが第2回で触れたISDNとの干渉だ。ISDNは現在国内で1000万回線を超えており、都市部ではISDNとの干渉は避けがたい面がある。ISDNとの干渉を緩和したAnnex Cを採用するADSL接続サービスであれば問題はないが、Yahoo!BBのように、ISDNとの干渉緩和機能を持たないG.992.1(G.dmt) Annex Aを採用するADSL接続サービスの場合、環境によっては簡易版ADSLのG.992.2(G.lite)Annex Cよりも遅くなってしまうことがあるのだ。

 G.992.1(G.dmt) Annex Aを採用するADSL接続サービスはISDNとの干渉が起きた場合、NTT収容ビルから契約者宅までのメタルケーブルの総延長(線路長)が2.5kmを超えると、G.992.2(G.lite) Annex Cと通信速度が逆転してしまう(遅くなってしまう)ことが理論的に明らかになっている。しかもISDNとの干渉が大きくなるにつれ、G.992.1(G.dmt) Annex AとG.992.1(G.lite) Annex Cの通信速度が逆転する線路長が短くなる傾向があることもわかっている。

 つまり、より安定したADSLの通信環境を望むのであれば、G.dmt Annex CやG.lite Annex Cを採用したサービスを利用することが望ましく、今後、両規格のAnnex Cが国内での事実上の標準規格になることが確実視されている。ちなみに、こうした状況に対し、Yahoo!BBではNTT収容ビルから遠いユーザーに対し、米Paradyne社が開発した『ReachDSL技術』を採用した通信機器で対応することを明らかにしている。



目先の数値で選ばず、じっくり検討しよう

 ADSLを利用したブロードバンドクラスのインターネット接続サービスは、まだ本格的なサービス展開が始まってから日が浅い。とりあえず、現時点ではエリア展開が都市圏に限られており、郊外などではADSL接続サービスを利用できない地域も多い(というより、利用できない地域の方が多いはずだ)。今後、CATVインターネットや光ファイバによるインターネット接続サービス、無線インターネットなど、いろいろな技術を採用したブロードバンドサービスが登場してくるはずだが、コストパフォーマンスやエリア展開の早さで言えば、現時点ではADSL接続サービスに一日の長があるはずだ。

 ここではADSL接続サービスのごく基本的な解説をしてみたが、実際にADSL接続サービスを利用するにはこの他にも割り当てられるIPアドレスやADSLモデムの購入、接続機器やプロバイダの対応など、いろいろと検討しなければならないことがある。しかし、ここで紹介した基本的な内容が理解できていれば、どのようにサービスを選べばいいのかも判断しやすくなるはずだ。

 ADSL接続サービスは非常に魅力的なサービスである半面、どうしても速度や料金といった項目にばかり目が行ってしまいがちだ。しかし、目先の数値や噂に振り回されることなく、本当に自分の環境にマッチしたサービスを選択することをおすすめしたい。



(2001/11/22)

法林岳之
1963年神奈川県出身。パソコン関連のレビューや解説記事を幅広く執筆するが、とくに通信関連を得意とする。最新刊「できるWindows XP アップグレード編」のほか、「できるISDN 4th Edition」「できるZaurus」「できるPocket PC」など、著書多数。ホームページも公開中
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