第367回:WiMAX内蔵でバッテリー駆動のモバイルルータ
NECアクセステクニカ「AtermWM3300R」


 NECアクセステクニカから、WiMAX通信モジュールを内蔵したバッテリー駆動のモバイルルータ「AtermWM3300R」が登場した。実際に持ち歩いた際の使用感、バッテリーの持ち時間などを検証してみた。

スペック充実のモバイルルータ

NECアクセステクニカのWiMAX内蔵モバイルルータ「AtermWM3300R」

 数々の海外製製品、そして本コラムでも以前紹介したNTTブロードバンドプラットフォームの「Personal Wireless Router」、イー・モバイルが11月18日に発売する「Pocket WiFi」と、いわゆるモバイルルータが花盛りだ。

 そんな中、NECアクセステクニカから通信回線にWiMAXを利用するモバイルルータ「AtermWM3300R」が登場した。もちろん、モバイルルータと一口に言っても、回線に何を使うか、通信モジュールが内蔵か外付けか、バッテリーで動作するかなど、製品によって機能に違いがある。今回取り上げる「AtermWM3300R」の主なスペックは以下のとおりだ。また、店頭実売価格は2万5000円前後となっている。


  • 下り最大40Mbps/上り最大10MbpsのWiMAX通信モジュール内蔵
  • バッテリー内蔵で最大2.5時間動作
  • USB接続のアダプタとしても利用可能
  • 本体サイズは約94×67×22mm(幅×奥行×高)、重量は約145g
  • IEEE 802.11b/g準拠の無線LAN機能を内蔵
  • 別売オプションで交換用充電池パックを用意

 回線にWiMAXを利用するため、現状は対応エリアに難があるのは否めない。その一方で、契約する事業者を自由に選べたり、既存のWiMAX契約に機器追加をすることで利用できたり、1日プランで使いたい時だけ利用できたりと、契約のバリエーションが豊富というメリットがある。

 PCをインターネットに接続したいという場合だけでなく、iPod touchやPDA、ゲーム機などの無線LAN対応機器を使って気軽に外出先でもインターネットを利用できるので、これからの時代に注目の製品の1つと言えるだろう。

持ち運びと安定性を考慮した適度なサイズ

 では早速、使い勝手を見ていこう。まずは外観だが、サイズは前述したように約94×67×22mm(幅×奥行×高)となっている。身近なモノと比べてみると、iPod touchより若干幅は広いものの、長さは短く、厚さはかなりあるといった感じで、手のひらサイズと言っても差し支えない大きさだ。


正面側面

手のひらに収まるコンパクトサイズiPod touchとの比較

 バッテリーと通信モジュールを内蔵したモバイルルータの場合、あまりサイズを小さくしてしまうと発熱の問題が出てきてしまう。単に熱いだけならまだ良いが、それが原因で動作が不安定になる場合も考えられるため、安定動作を考えると適度な大きさと言えるだろう。

 実際、1週間近く本製品を持ち歩いて使ってみたが、本体が過剰に熱くなったり、動作が不安定になるようなことはなかった。夏場などは、設置場所によっては本体の熱が高くなる場合もありそうだが、基本的に本体の熱対策がしっかりしているため、安定性は心配なさそうだ。

 インターフェイスに関しては、通信モジュールを内蔵していることもあり、充電用/PC接続用のUSBミニポートが搭載されるのみとなっている。スイッチ類も電源とモード切替を兼ねたスライドスイッチが1つ、無線LAN設定で利用するボタンが1つのみとなっており、非常にシンプルな構成だ。

 動作状況などは本体前面に備えたランプで確認できるようになっており、電池残量などの状態は電源ランプで、WiMAXの電波状況はアンテナマークで表示される(電波状況はWLANモード時のみ)。


USB接続のポートとモード切替スイッチを装備正面には電源、電池残量などを確認できるランプを用意。半円の部分はボタンになっており、無線LAN接続に利用できる

USB接続でMVNO事業者と契約

 続いて初期設定について見ていこう。実際にWiMAXで通信するには、UQコミュニケーションズもしくはNECビッグローブ(BIGLOBE)などのMVNO事業者との契約が必要になる。本製品を使ってWiMAXサービスを契約する場合には、他のWiMAX用アダプタと同様にPCに本製品を繋いだ上でオンラインで手続きする。

 本製品は、PCとUSB接続してWiMAX用通信アダプタとしても利用可能となっているので、まずはこのモードでオンラインサインアップをするわけだ。本体上面のスイッチを「USB」に切り替えてPCに接続すると、オートインストールでドライバとユーティリティがPCにインストールされる。対応OSはWindows 7/Vista/XP SP2以降で、Windows 7では64bit版のドライバも同梱されている。


USB接続のアダプタとしても利用可能。この場合はUSBバスパワーで駆動し、バッテリー電力は消費しない(ただし、このモード時の充電には対応しない)ドライバとユーティティリティはオートインストール。Windows 7(64/32bit版)でも利用可能

 PC側にアダプタとして認識されると、WiMAXの統合ポータルに接続されるので、ここで契約するWiMAX事業者を選択して手続きを進めれば良い。通常は手続き後、5分程度ですぐにWiMAXの利用可能な状態になる。

 ちなみに、UQコミュニケーションズの場合、月額定額制の「UQ Flat」は月額4480円、申し込みから24時間の利用が可能な「UQ 1 Day」は600円となっている。また、すでに「UQ Flat」を契約している場合は、「機器追加オプション(1台ごと月額200円、2010年1月末までは無料)」を利用して既存の契約にプラスして利用することも可能だ。ただし、同時接続可能な台数は1台に限られる。

 契約が完了すると、USBアダプタとして利用できるだけでなく、無線LANルータとしても利用可能になる。とは言っても、無線LANルータとしての設定は何も必要ない。WiMAXでの接続設定は標準で設定済みとなっている上、無線LAN設定も標準で完了している。

 このため、契約後は本体のスイッチを「WLAN」に切り替えるだけで良い。スイッチを入れて30秒ほど待つと、無線LANルータとして動作し、WiMAXの接続も確立される。


最初はオンラインサインアップの手続きが必要。接続後の統合ポータルから申し込むWLANモード時は設定画面にアクセス可能。とは言っても、WiMAX関連の設定はない。無線LANのセキュリティなどを変更できる

 あとはPCから通常の無線LANルータと同様に接続するだけだ。無線LAN設定システム「らくらく無線スタート」を利用してボタン設定で接続してもかまわないし、SSIDを検索し、本体背面のバッテリーカバー内に記載されている暗号キーを手動で設定することでも接続できる。

 残念ながら「WPS」による無線LAN設定には対応していないのだが、暗号化方式や暗号キーなどは、接続後に設定画面を表示することで変更できる。また、「マルチSSID」によってゲーム機用にWEPのSSIDを設定できるなど、無線LANルータ部分の設定はAtermシリーズ共通の高機能ながらわかりやすいものとなっている。

 なお、本製品はWiMAXの契約さえしてしまえば、設定画面にアクセスしなくても利用できるのだが、必ず1度は設定画面にアクセスすることをおすすめする。というのも、本製品は仕様上、最初のアクセス時に管理者パスワードを設定するようになっているため、そのままにしておくと設定画面をパスワードで保護できないからだ。友人にアクセスポイントとして開放したり、外出先で使うという場合は、忘れずに設定しておこう。

無線LAN対応の携帯電話でも使える

auの「biblio」を無線LANで接続。WiMAX経由でコンテンツにアクセスできる

 もちろん、PC以外の機器も無線LAN機能を持っていれば本製品に接続が可能だ。筆者が試した限りでは、ゲーム機やiPod touch、BlackBerry Boldに加え、auの無線LAN機能を持った「biblio」でも利用することができた。

 この中で面白いのは「biblio」が対応する「Wi-Fi WIN」だろう。「Wi-Fi WIN」は無線LAN経由でEZWebを利用できるサービス(月額525円。2011年6月末までは無料)で、YouTubeやニコニコ動画などのコンテンツにも対応しているのだが、本製品を使えばこれらのサービスをWiMAX経由でいつでもどこでも利用できる。

 実際の利用シーンを考えると、効率的なのか非効率的なのか、コストが安いのか高いのかがわからない状況に陥りそうだが、とにかく今までにない使い方という点では大変興味深いところだ。

 先日、ソフトバンクモバイルから発表された携帯電話の多くも無線LANに対応していることを考えると、こういった使い方もこれからは面白そうだ。ただ、これまでの無線LANは、その先、つまりインターネットへの接続は固定回線であることが前提とされていたが、今後は決してそうとは限らないという点も考慮しなければならなくなりそうだ。

 現状、3Gでは通信量をさばききれないため、無線LANでリッチなコンテンツを提供する傾向にあるが、その無線LANの先が、同じく無線で接続するWiMAXだったなどというのでは笑い話でしかないだろう。


本製品を使って「biblio」を利用している様子

速度は環境次第、バッテリー駆動時間は予想以上

 この手の製品でもっとも気になるのは、やはり速度とバッテリー駆動時間だろう。

 まずは速度だが、これはWiMAX次第だ。本製品の無線LANはIEEE 802.11b/g準拠なので最大54Mbpsとなっているが、ほぼPCのそばに置いて使うことになるので無線のスピードはあまり考慮する必要はない。

 このため、WiMAXの電波状況が良い場所であれば6~7Mbpsでの通信も可能となるが、そうでない場合は2~3Mbps程度となる。実際に筆者宅で速度を計測してみたところ、下り3.9Mbps、上り958kbpsだった。速度に関しては、エリア次第といったところだ。


筆者宅での「speed.rbbtoday.com」による測定結果。下りは3.9Mbps、上りは958kbpsとなった

 一方、バッテリー駆動時間に関してはなかなか優秀だ。カタログスペック上は2.5時間となっているが、筆者がテストした限りでは3時間の連続動作が可能だった。

 無線LANで接続したPCから、HTTPのGETとPINGをコマンドラインで実行し続け、本製品のバッテリーが切れて通信不能になるまでのログを記録し続けてみたところ、1回目は15時54分15.12秒の開始で、終了は18時58分55.40秒。2回目は7時47分31.35秒の開始で、終了は10時46分42.94秒と、いずれも約3時間の動作を確認できた。

 移動中などに利用すると、電波を探したり、再接続などが発生ため、駆動時間は短くなる可能性あるが、実環境でもカタログの2.5時間はほぼ達成できると考えて差し支えないだろう。

 なお、本製品では交換用充電池パック「PA-WM01B」も別売りオプションとして提供される(実売5000円前後)。このため、交互に充電する必要はあるものの、複数の充電パックを持ち歩くことで連続稼働時間を延ばすこともできる。これは長期間の利用でバッテリーの性能が落ちてきたときでも元の状態に戻せると言うメリットもあるだろう。


背面のフタを開けるとバッテリーを交換可能。交換用バッテリーも販売される

 もちろん、充電しながら利用することも可能だ。USBモードでアダプタとしてPCに接続している場合は充電できないが、電源をオフもしくはWLANモードでの利用中はUSBからの電源供給で充電できるようになっている。このため、WLANモードで使う場合もPCにUSBで接続しておけば、給電しながら利用することができる(WLANモード時は7~8割までの充電)。

 この方法を応用すると、サポート外の使い方になるが、なかなか面白いことができる。試しに、三洋電機のUSB出力付きeneloop充電器「eneloop mobile booster(KBC-E1A)」を本製品に接続し、eneloopで給電しながら、先ほどと同じテストを実施してみたところ、連続で約4時間(19時25分20.35秒開始、23時24分39.50秒終了)の連続通信を確認できた。


「eneloop mobile booster」を利用すると、バッテリー動作時間を延長可能。単3形eneloop2本を使った「KBC-E1A」の場合、プラス1時間の動作を確認できた省電力機能も利用可能。標準では無線LAN機器から10分間通信がないと電源がオフになる

 今回利用した「KBC-E1A」は単3形eneloop充電池2本を使うタイプで給電時間は70分とされているので、この時間分、ちょうどプラスされたことになる。「eneloop mobiel booster」には、専用リチウムイオン電池を利用したより大容量の製品もラインナップしているので、これを利用すれば5~7時間の連続通信も夢ではないだろう。なお、繰り返しになるが、こうした利用方法はメーカーのサポート外となるため、ユーザーの自己責任での利用となる点を注意して欲しい。

 また、省電力機能も搭載しており、無線LAN機器から10分間通信がない場合は自動的に電源がオフになるように設定されている。再び利用する際に電源スイッチをいったんオフにして戻すのが若干手間だが、電源オフ設定は最短で1分の指定も可能なので、こまめに電源を切るようにすれば、1日を通して利用することも不可能ではなさそうだ。

課題はWiMAXのエリアのみ

 以上、NECアクセステクニカのWiMAXモジュールを内蔵したモバイルルータ「AtermWM3300R」を実際に試してみたが、製品としての完成度は非常に高い。モバイルルータの中には、もっと小さく、もっと長時間動作する製品も存在するかもしれないが、本製品は安定性や使いやすさなどを犠牲にすることなく、サイズやバッテリーなどのバランスをうまく取っており、実用性が極めて高い。

 とは言え、課題はやはりWiMAXという点に尽きる。現状、都内の大きな駅の周辺などであれば問題なく利用できるが、地下や建物の中などでは使えない場所も存在するほか、現時点では地方などのエリアも整っているとは言い難い。従って、購入を検討する際は、必ずWiMAXのエリアを確認することを忘れないようにすべきだ。自宅や会社、よく訪れる場所など、想定できる場所のエリアを調べてから購入するように心がけたい。

 個人的には、こういったモバイルルータの利用を前提としたデバイスがもっと登場してきて欲しい感じている。無線LANさえ実装すれば、あらゆるモノがインターネットにつながる可能性があるのだから、カーナビやPDA、デジタルカメラなどなど、いろいろな世界が広がる可能がある。やはり、1つの契約、1つのWAN回線に、さまざまな機器がつながるのが理想だ。


関連情報







2009/11/17 10:00  

清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 7」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ