第369回:有線がギガ対応の11n無線LANルータ
NECアクセステクニカ「AtermWR8300N」


 NECアクセステクニカからIEEE 802.11nおよびIEEE 802.11b/gに準拠した無線LANルータ「AtermWR8300N」が登場した。1万円前後と手に入れやすい価格帯ながら、理論値で最大300Mbpsの無線LANと最大1Gbpsの有線LANを合わせ持った製品となっており、100Mbpsを超えるWAN環境を利用している場合などに最適な製品だ。

無線LAN環境を見直すタイミング

NECアクセステクニカのIEEE 802.11b/g/n準拠無線LANルータ「AtermWR8300N」。ギガビット対応の普及価格帯製品。直販サイトでは9800円で販売されている

 ゲーム機を利用したオンラインサービスの利用やネットワーク対戦、携帯電話の対応による映像や書籍などのコンテンツ配信サービスなど、最近では「Wi-Fi」という言葉をよく聞くようになってきた。しかし、肝心の無線LANが使える環境がなかったり、無線LANは使えるものの環境は一昔前のままというケースも少なくないのではないだろうか。

 無線LAN製品は、IEEE 802.11nの規格策定が長引いたこともあり、なかなか購入するタイミングが難しかったが、ようやく規格が正式策定された点に加え、比較的高性能で多機能な製品が低価格で入手できるようになってきている。

 現状の無線LAN製品は、実売が5000円前後と低価格が特徴の最大150Mbps対応の製品。IEEE 802.11nに準拠して最大300Mbpsの通信が可能で、有線LANもギガビット対応となる1万円程度である普及帯の製品。そして、5GHz帯への対応やデバイス共有などの付加機能を備えた1万円を超える高機能/多機能製品の大きく3タイプに分類されるが、やはり狙い所は1万円前後の普及帯の製品だろう。

 手頃な価格の150Mbps対応製品も悪くはないが、高性能なノートPCなどに内蔵されている300Mbps対応のIEEE 802.11n無線LANを活かせないほか、有線LANも100Mbps対応であることが多い。このため、NTT東日本が先日開始した下り最大200Mbpsの「フレッツ 光ネクスト ハイスピードタイプ」、最大1Gbpsに対応したKDDIの「ひかりone」などのFTTH、さらには160Mbpsのサービスも提供されるCATVなど、WAN側の回線速度が100Mbpsを超えるようになってきたことを考えると、せっかくの環境を活かし切ることができない。

 かといって、高性能・多機能な製品は、その機能を使いこなせれば非常に便利なものの、単純に無線LANだけ使いたいという人にとっては使わない機能にお金を支払うだけとなってしまう。

 これに対して普及帯製品の場合、無線LANはIEEE 802.11b/g/n準拠の最大300Mbps、有線LANは最大1Gbps対応のギガビットと通信に関わる部分の性能は必要十分でありながら、1万円程度のリーズナブルな価格で手に入れることができる。ゲーム機や携帯電話などで無線LAN対応の製品が増えてきたことを考えても、タイミングとしては今が買い時もしくは買い換え時と言っても過言ではないだろう。

無線LAN経由でも130Mbpsでの通信を実現

 今回、NECアクセステクニカから登場した「AtermWR8300N」も、そんな実売1万円前後の普及帯に位置する製品だ。


「AtermWR8300N」正面背面。有線がギガビット対応となり、100Mbps以上の回線での利用に支障がなくなった

 NECアクセステクニカの無線LANルータ製品では、ギガビット対応の有線LANを搭載していたのはIEEE 802.11a/n、IEEE 802.11b/g/n切り替え式のハイエンド機「AtermWR8500N」のみとなっていた。今回取り上げる「AtermWR8300N」は、無線LANはIEEE 802.11b/g/nのみの対応ながら、WAN×1ポート、LAN×4ポートとすべての有線インターフェイスが1Gbpsの通信が可能な1000BASE-Tに対応している。

 これにより、下り最大200Mbpsの「フレッツ 光ネクスト ハイスピードタイプ」や最大1Gbpsの「ひかりone」、160MbpsのCATVサービスなどのサービスを利用している場合でも、有線LANの制限によってせっかくの速度を損なうことなく、フルに回線の性能を活かすことができるようになった。

 実際、「フレッツ 光ネクスト ハイスピードタイプ」と「ひかりone」を回線として利用して、本製品でどれくらいの速度が実現できるのかを計測したのが以下のグラフだ。有線LANでPCを接続し、「Radish Network Speed Testing」のマルチセッション版βを利用して速度を計測した。

グラフ1:100Mbps以上の回線を利用し、有線でインターネットに接続した際の速度を測定。クライアントには富士通LOOX R/A70(Core2Duo SL7100 1.2GHz/RAM4GB/OCZ Vertex 120GB)を使用した

 有線インターフェイスが100Mbps対応のルータを利用した場合、当然のことながら100Mbpsを超えることはないが、本製品では「フレッツ 光ネクスト ハイスピードタイプ」で実効速度が下り187.3Mbps/上り93.57Mbps、「ひかりone」で下り657.6Mbps/上り524.8Mbpsという速度となった。

 いずれのサービスも標準でレンタルされるルータがギガビット対応となるが、ここに不用意に100Mbps対応の無線LANルータをつなげると、せっかくの速度が損なわれることになる。100Mbpsを超える回線を利用している場合は、やはりギガビット対応の無線LANルータを使うべきだろう。

 続いて、無線LANで接続したPCからも同様に速度を計測してみた。アクセスポイントから約3mほど離れた場所にPCを設置して、それぞれの回線の速度を計測したのが以下の画面だ。「フレッツ 光ネクスト ハイスピードタイプ」の場合はかろうじて100Mbpsを超える程度だったが、「ひかりone」を利用した場合は130Mbpsを超える速度を計測できた。無線LANでこのスピードというのはなかなか優秀だ。


「フレッツ 光ネクスト ハイスピードタイプ」を利用し、IEEE 802.11nの無線LAN経由で速度を計測した結果「ひかりone」を利用し、IEEE 802.11nの無線LAN経由で速度を計測した結果

 また同様に、木造3階建ての筆者宅において、2階と3階でも同様に「Radish Network Speed Testing」でテストしてみたが、下り速度は2階で65.13Mbps、3階で54.95Mbpsという結果になった。2.4GHz帯の場合、周辺にあるアクセスポイントの数や利用状況によって速度が大きく変動する場合があるが、インターネット上でのテストでここまで速度が出れば実用性は十分と言ったところだ。

 これであれば、無線LANでファイルをダウンロードしても有線とほとんど差がない上、映像サービスを利用するといった場合でも帯域を気にする必要もなくなるだろう。

グラフ2:木造3階建ての筆者宅において1階にアクセスポイントを設置し、各フロアで速度を計測。測定には同じくRadish Network Speed Testingを利用し、クライアントには富士通LOOX R/A70(Core2Duo SL7100 1.2GHz/RAM4GB/OCZ Vertex 120GB)を利用した

無線LAN設定は「らくらく」「WPS」の両対応

 使い方も簡単だ。本製品は、NECアクセステクニカ独自の無線LAN設定方式である「らくらく無線スタート」とWi-Fi Allianceの「WPS」による無線LAN設定に対応しており、標準で両方のモードを利用可能な設定となっている。

 例えば、USB無線LANアダプタセットモデルの場合、USB無線LANアダプタのドライバと一緒にPCへインストールされるユーティリティを利用して「らくらく無線スタート」での接続ができる。また、ニンテンドーDSiやauの「Wi-Fi WIN」に対応する携帯電話など、無線LAN機器側が「らくらく無線スタート」をサポートしている場合も同様に接続できる。

 一方、無線LAN内蔵PCなどの場合でも、OSが「WPS」をサポートしてればボタン操作で、本製品との無線LAN設定が可能だ。例えば、Windows 7を利用した場合、通知領域の無線LANアイコンからアクセスポイントを検索すると、「WPS」のボタン設定画面が表示され、本体のボタンを押すだけで手軽に接続が可能になる。

 「らくらく無線スタート」は2回、「WPS」は1回とボタンを押す回数こそ異なるが、いずれも暗号キーなどを意識することなく、ボタンを押すだけで設定できるのは大きなメリットだ。


WPSとらくらく無線スタートの両方をサポート。Windows 7ではWPSを利用してボタン設定が可能付属のユーティリティを利用したり、対応機器を利用すればらくらく無線スタートでの接続ができる

 なお、本体には設定用のボタンに加え、「eco」モード用のボタンも用意されている。無線LANルータの省電力機能は、もはやさまざまなメーカーの製品に搭載される標準的な機能となったが、この「eco」モードもその1つだ。

 標準設定では、「eco」ボタンを長押しすることで無線LANが停止し、有線LANの速度が100Mbpsに落とすことができるようになっているが、新たに無線LANの速度を最大65Mbpsに落とし(おそらくデュアルチャネルとMIMOを無効と思われる)、有線LANを100Mbpsに落とすモードも追加された。

 残念ながら、細かな組み合わせを自分で選ぶことはできないほか、タイマーによる動作も時間設定のみに限られるが、その分、シンプルでわかりやすいのが特徴だ。企業での利用を考慮すると曜日などでの設定もできた方が好ましいが、家庭での利用であれば、これくらいシンプルな方が使いやすいだろう。


本体前面に設けられたecoボタン。長押しすると無線が65Mbps、有線が100Mbpsへと低下し、消費電力を節約する省電力設定は2のプロファイルを切り替え可能。さらに時間設定によって自動的にecoモードに移行することもできる

Atermシリーズではもっともお買い得

 以上、NECアクセステクニカの「AtermWR8300N」を利用してみたが、リーズナブルな価格を維持しながらギガビット化によってパフォーマンス面が強化されたことで、Atermシリーズの中ではもっともお買い得なモデルに仕上がっている。100MbpsオーバーのFTTHやCATVを利用しているユーザーに最適な製品と言えそうだ。

 ライバル製品に比べると若干価格が高いイメージがあるのも確かだが、運用後の安定度の高さを考慮すると、あまり気にする必要はないと言える。長期間利用しても動作が不安定になるようなことがなく、安心して使える安定度の高さは同社製品ならではの特徴の1つだろう。

 いろいろな機能を楽しむというよりも、純粋に高速、かつ使いやすい無線LANルータが欲しいというユーザーにおすすめできる製品だ。


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2009/12/1 06:00  

清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 7」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ