今回も、ブログを導入した企業サイトの例を見ていきましょう。ブログにはさまざまな特徴があり、どこに注目して導入したのかは、各企業によって少しずつ異なるようです。
■新しい見せ方、見つけられ方を目指して ~青い鳥株式会社
福岡の不動産会社・青い鳥株式会社では、4月にサイト全体をMovable Typeによってリニューアルしました。
一般的な不動産会社のサイトでは地域や価格など条件を入力して検索すると初めて物件のリストが表示される、という構成が定番ですが、青い鳥のサイトではMovable Typeの1記事ごとにひとつの物件情報を入れ、カテゴリ機能をうまく使って「おすすめ物件」、「売り土地」、「売り家」など物件の分類をしています。Movable Typeを使ってリニューアルした理由や効果について、担当の吉田さんに伺いました。
「Movable Typeを導入する前は、物件データをXMLファイルとして作り、アクセスがあるたびに、それをHTMLの形に変換して表示させていました。この方法だとデータの管理はしやすかったのですが、物件情報が検索エンジンに登録されないようで、物件情報をHTMLとして作る必要性を感じていました。
その頃、インターネットマガジン等の雑誌でブログやMovable Typeのことを知りました。HTMLの静的生成ができ、SEO(検索エンジン最適化:検索エンジンで上位にヒットしやすいように対策をすること)にも有効で、その上データの再利用も容易であるということを知り、さっそくリニューアルを検討し始めました。まずは個人サイトの日記ページに使ってみて、期待通りの効果と、柔軟性に優れた機能に触れて商用ライセンスを購入する決心がつきました」
青い鳥にとって、Movable Typeを使う目的はアーカイブの生成機能と高いSEO効果。不動産会社のサイトから物件を探すのでなく、検索エンジンから直接「福岡 土地」のようなキーワードを入力して検索するユーザーを考えています。もっとも、これには同社の商売上の事情も影響しているそうです。
「当社の扱い物件は売買物件が主で、件数も他社と比べて多いとはいえず、普通の不動産会社のサイトのように条件を入力して検索する方式だと、該当物件をお出しすることができずに失望させてしまうかもしれません。そこで、Moable Typeを使ったサイト構成にして、まずはおすめ物件や新着物件を見ていただき一般的な条件以外のセールスポイントもアピールする、という方式を選びました。同時に検索エンジン対策もでき、このような新しい見せ方によってお客様に物件を見つけていただければ、と考えています」
■ユーザーと交流する新しいメディアとして ~ミート田村「グルメ@美味しいメモ帖」
「グルメ@美味しいメモ帖」は、ミート田村が運営するサイト「グルメワールド」の1コーナー。豚や牛はもちろん、鴨、羊、七面鳥、兎などありとあらゆる肉、加工肉、チーズなどを扱う「グルメワールド」は、眺めているだけでお腹が空きます。
「美味しいことにはルールがあることと、あまり必要ないことがあると思います」というのは店長の田村さん。「ルールがあることとは、肉の扱い方、冷凍や解凍の方法、熟成することなど。その反面で、新しい調理方法の探求などは、ルールの必要ないことです。たとえば数十年前までは、誰も醤油をフランス料理に使おうとは考えませんでした。でも、誰かがそれを使ったら、そこから新たな美味しさの発見があったのです」。
もともとグルメワールドはオンラインショップではなく、「美味しいことのルール」を伝えるサイトが始まりだったそうです。「取引先の厨房に入ると、肉に対する扱いなど、もっとこうしたらいいのに……と思うことが多いのですが、その場でこちらからアドバイスをするのには抵抗がありました。そこで、ホームページを作って見てもらおうと思い立ったのです。実際のところ、取引先の方には見てもらえていなかったのですが、一般のお客様からの反響が大きく、オンラインショップも作ることになりました」。
その後、掲示板やメールマガジンによってユーザーとの交流を重視しつつグルメワールドは発展し、SEO効果なども考えて今年の1月から「グルメ@美味しいメモ帖」にMovable Typeを導入。記事の中には、ユーザーからの質問に答える内容や、メールで送られたレシピが数多くあり、ネット上のコミュニケーションはコメントやトラックバックだけではなかった、ということを改めて気付かされました。現在の「グルメ@美味しいメモ帖」にコメントやトラックバックはほとんどついていないのですが、今後ブログそのものの認知度が上がっていけば、増えていくだろうと想像できます。
掲示板、メールマガジン、ブログの使い分けについて、田村さんはこう捉えています。「掲示板は今までの流れで、お客様にとっての情報発信のしやすさの取っ掛かりとして現在も設置しています。メールマガジンは当社にとっては新商品の紹介、お客様とのコミュニケーション、おすすめ商品の紹介などで、欠かせないメディアです。
ブログに関しては、本来の意味での『相互通信』が実現するメディア、と捉えています。今後はお客様にブログのコメント欄に書き込んでいただけるよう案内を作ったり、レシピなどのブログ化も予定しています。コメントやトラックバックを使って、実際に作った感想や、他の人へのアドバイスなどを寄せていただければ、さらにサイトの情報が充実していくでしょうね」
■現場からの情報発信ツールとして ~松坂屋本店「@honten-nikki」
松坂屋といえば、誰もが認める一流デパート。私などは特別に「いい物」を贈るときや物産展などのイベントがあるときに行く程度で、とても気軽には近寄りがたい印象です。その松坂屋本店が、5月10日からブログ「@honten-nikki」を開始しました。
担当者の関さん(名古屋事業部企画室)いわく「広告や新聞雑誌広告などの紙媒体や松坂屋オフィシャルサイトのコンテンツは、制作コストもかかりますし、また会社全体としての戦略に沿って編集されるため、どうしても大きなイベントが優先となってしまいます。大きなメディアから漏れた、小さな情報も何らかの形として伝えたいと思っていて、以前からブログには注目していました。
制作コストをかけず、普通の方に親しみを持っていただけるよう表現も肩肘張らずに『あれっ、こんなところにおもしろいものがあるよ』ぐらいの軽い気持で紹介できればいいなと思いながらやっています」。
現場からの発信、一般の視点からの発見にこだわって、現在のところ@honten-nikkiで取り上げる題材の8割は関さん自身が店内を回り、集めた情報だそうです。後の2割は売り場からの掲載依頼があった情報ですが、売り場の都合で記事を作っては@honten-nikkiを作った意味がなくなってしまうので、毎日1~2時間は売り場を歩いて現場の生の声を集め、担当者と話をしているとのこと。とはいえ毎日それだけの時間を割くのは人的コスト面の問題もあり、今後、主旨が担当者にも理解されてきたら、もっと効率のいい流れにしていくことも検討しているそうです。
@honten-nikkiを始めるにあたり、もっとも重要なポイントとなったのはツールの選定だったそうです。関さん自身はHTMLの知識もありMovable Typeも試したのですが、企業では人事異動がつきもの。そして、次の担当者もパソコンに詳しいとは限りません。
「スムーズな引き継ぎが可能になるように、MovableTypeの多機能さよりも、誰でも簡単に使えることを重要視しました。ちょうど他のシステム開発を依頼していた会社に相談したところ、a-Newsという日記ツールを開発しているappleple.comさんを紹介していただき、a-Newsの強化バージョンであるa-Blogを開発していただいて利用しています」
■ブログの本格利用は、まだまだこれから!
青い鳥株式会社では、Movable Typeの特長を活かして、新たな商品の見せ方、検索エンジンを使った情報提供の試みを見ることができました。グルメミートワールドの田村店長は、ユーザーとの相互通信メディアとしての可能性を語っていただきました。松坂屋の「@honten-nikki」は、前回の株式会社カレンの例でも伺った「親しみやすさ」を利用した新しい情報発信の試みでした。
三者三様にブログ(ブログツール)の可能性を感じることができたインタビューでしたが、ブログを使ったビジネスの可能性、利用方法はこれで全部ではないはずです。今回は記事にできませんでしたが、企業内部(イントラネット)での情報共有ツールとして、メーリングリストのかわりにブログ+RSS、という動きもあります。
しかし、実際にブログを利用している事例はまだまだ少数。今から始めても、ブログを利用して一躍大人気ショップになったり、ブログを使ったビジネスモデル特許を取ったり、といったことも可能かもしれません。
(2004/06/11)
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