ハードウェア暗号化機能を備えた“フォルダ型”ポータブルHDD

アイ・オー・データ機器「HDPN-HSUシリーズ」


「HDPN-HSUシリーズ」の本体色はブラックのみ。直販サイトでの価格は250GBモデルが1万1800円、320GBモデルが1万2800円

 アイ・オー・データ機器の「HDPN-HSUシリーズ」は、ハードウェア暗号化機能を搭載したポータブルHDDだ。セキュリティ機能以外にも、70cmの高さからの落下に耐える耐衝撃性能を持つほか、USBケーブルを本体に巻きつけられるなど、モバイルユースに必要とされる機能をふんだんに盛り込んでいる。

 以前紹介したバッファローの「HD-PXU2シリーズ」もそうだが、ハードウェア暗号化機能を搭載したポータブルHDDは、昨今1つのトレンドになりつつあるようだ。

 ハードウェア暗号化機能自体は、これまでUSBメモリ製品でおなじみだったが、製品単価が安いUSBメモリでは、通常タイプの製品との価格差が際立ってしまっていた。その点、ポータブルHDDであれば、USBメモリと比べて基板サイズが大きいことからの専用チップの実装が容易であり、価格差もそれほど目立たないというメリットがある。

 今回は、以前取り上げたバッファロー「HD-PXU2シリーズ」との比較を交えながら、本製品を紹介していこう。なお、今回試用したモデルは試作機となるため、製品版とは一部異なる場合がある点をあらかじめお断わりしておく。

フォルダ型の筐体を採用。一発でアンマウントできるファンクションボタンが便利

形状はWindowsのフォルダを模しているが、色の関係であまりWindowsのフォルダらしく見えないのは残念。従来モデルでもそうだが、品揃えの一環としてフォルダライクなイエローの筐体は用意して欲しかった

 本製品は、アイ・オーが販売するポータブルHDD「HDPN-Uシリーズ」のセキュリティ強化モデルという位置付けで、Windowsのフォルダライクな筐体は、HDPN-Uシリーズを踏襲したものだ。フォルダで言うところのタブにあたる左上部の突起部をキャップがわりに、USBケーブルがぐるっと本体を1周する形で巻きつけられる構造が特徴的だ。

 ほぼ同じ仕組みを持つバッファロー製品と比べた場合、フラットケーブルでないぶん本体との一体感には欠けるが、USBケーブルの長さは約33cmと実用的な長さをキープしている(バッファロー製品は約18cm)。また、USBケーブルは取り外しも可能だ。


手に持ったところ。バッファロー製品に比べると全長が短いぶん横幅がやや広い本体側面にスリットを備え、USBケーブルを巻きつけて固定できるUSBケーブルは直付けではなく取り外しも可能。コネクタ形状はminiB。延長ケーブルの類は付属しない

フォルダのタブにあたる突起部分に、USBコネクタを収納できるUSBコネクタを収納したところPCに接続した状態。USBケーブルは約33cmと十分な長さ

 タブ型の突起を含んだ本体サイズは約95.4×122.5×20mm(幅×奥行×高)だが、実際にはケーブルを巻きつける関係で若干大きくなる。一方、バッファロー製品は90×134×20mmなので、「タテに長いバッファロー製品、ヨコに広いアイオー製品」という印象だろうか。もっとも、アイ・オー製品の場合は丸みがあるせいか、実際に手に持つとずんぐりした印象を持つので、購入を検討している際は店頭でモックなどを確認したほうが良いだろう。

 本体はラバー調のコーティングが施されている。光沢調塗装の製品に比べると、ついた指紋がほとんど目立たないのは好印象だが、実際に試用した範囲ではホコリを吸着しやすいのが気になった。また、バッファロー製品が本体裏面に備えていたリング状の滑り止めラバーに比べると、滑り止めの効果はあまり高くないようだ。

 本製品は耐衝撃構造を採用しており、最大70cmの高さからの落下に耐えるとされている。つまり、一般的なテーブルからの落下には十分耐えられるわけで、こうした数値が実測値で表記されているのは心強い。

 バスパワーで駆動することもあり、電源スイッチは持たない。唯一備えるボタンは「FUNC」と書かれたファンクションボタン。これは、本来マウスを使ってタスクトレイから操作する取り外し作業を、ボタンを用いてワンプッシュで済ませられる便利な機能だ。この機能は、製品をPCに接続した際に常駐するユーティリティから実行されるので、わざわざPCにユーティリティをインストールしなくとも利用できるのもメリットだ。


本体側面にはファンクションボタンを備えるファンクションボタンの長押しによって取り外しが可能。タスクトレイからマウスで操作しなくて良いので便利。このほか、パスワード認証ダイアログの表示やエクスプローラの表示も可能だLEDの色でステータスを判別可能。アンロック時は緑、ロック時は赤に点灯する

 動作のステータスは本体のLEDで確認できる。ロック状態は赤点灯、アクセス可能になると緑に点灯する。これらのステータスは本体裏面に印字されており、説明書なしでいつでも確認できるので有り難い。

わかりやすいパスワード認証ダイアログ。暗号化方式は256bitのAESを採用

 次にセキュリティ機能を見ていこう。本製品をPCに接続すると、ダイアログが自動的に起動する。初回のみパスワード設定用のダイアログが起動し、2回目以降はパスワード認証のダイアログが起動する。正しいパスワードを入れるとドライブが認識されて利用できるようになるが、パスワードを間違えるとドライブ自体が認識されず、内容を読み取ることができないという仕組みだ。

 また、パスワード入力を連続して5回以上間違うと、自動的にPCから取り外される。USBケーブルを抜き差しすれば再度パスワード認証ダイアログが表示されるが、リトライを繰り返して100回連続でパスワードを間違うと、本体の初期化が必要になる。ちなみに、この回数を変更する方法は用意されていない。


製品を初めて接続した際は、パスワードとヒントを設定するためのダイアログが表示される2回目以降の接続時は、パスワードを入力するためのダイアログが表示される5回連続でパスワードを間違うと強制的に取り外される

 パスワード認証のプログラムは、本体ROM領域に内蔵されているため、別途ユーティリティをインストールする必要はない。このため、複数のPCで利用する場合などの使い勝手に優れている。初めて本製品を接続するPCで、自動的にユーティリティのインストーラが起動してイライラする、というのがないのはメリットだ。

 なお、このダイアログ表示については、前回のバッファロー製品では、最初に「ドライブナビゲータ」の画面が起動したのち、手動でパスワード認証ダイアログを起動するという2段構えの仕組みだったが、本製品の場合は自動的にパスワード認証ダイアログが起動するので、非常にわかりやすいと感じた。

 一方、本製品ではハードウェア暗号化機能自体をオフにして利用することはできない。バッファロー製品では、ハードウェア暗号化をオフにすることでMac OSで利用できたが、本製品ではサポート外となっている。なお、対応OSはWindows Vista/XP/2000 SP4およびWindows Server 2008/2003 R2/2003 R2。また、ハードウェア暗号化は256bitのAESを採用している。


パスワードの変更や初期化といった作業は、タスクトレイのアイコンをクリックして行なう「CrystalDiskMark」にて読み書き速度を測定した結果(CPU:Core2Duo 2.13GHz、メモリ:2GB、OS:Windows XP Professional SP3)

 なお、本製品はスタンダードモデル「HDPN-Uシリーズ」のセキュリティ強化モデルという位置付けだが、HDPN-Uシリーズとは異なり、アイ・オー独自のUSB高速化規格「マッハUSB」への対応は本稿執筆時点ではアナウンスされていない。また、バックアップソフトなども省略されているほか、省電力モードもサポートされない。コストの関係か、それとも何らかの制限があるのかは不明だが、こうした違いがあることは製品選びの際に知っておいたほうが良いだろう。

堅実で使い勝手に優れた製品。競合に比べラインナップの少なさがネック

 以上、HDPN-HSUシリーズを試用してきたが、使い勝手は良好で、セキュリティ機能を中心に堅実に作られた製品であると感じた。「Firefox」や「Thunderbird」など、豊富なソフトウェアを搭載したバッファロー製品に比べると“全部入り”と呼べるほどのボリュームはなく、Mac OSに対応しないといった弱点はあるが、挙動がシンプルでわかりやすいという点は好印象だ。

 独自機能であるファンクションボタンも実用的で製品の使い勝手を高めており、1度使うとタスクトレイ経由の取り外しが面倒に感じるほどだ。このほか、発売当初からWindows 7への対応予定がアナウンスされている点も、購入にあたってはアドバンテージになるだろう。

 ネックがあるとすれば、機能や形状よりも、HDD容量が250GBと320GBの2モデルのみで500GBモデルが用意されない点や、カラーバリエーションがブラックのみであるなど、競合製品と比べて選択肢の幅が少ない点かもしれない。ハードウェア暗号化機能の使い勝手のよさが個人ユースでも徐々に認められつつある昨今、早期のラインナップ拡充を望みたいところだ。


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(山口 真弘)
2009/8/26 11:00