無料で100MBのファイル送信可能! ストレージサービス「quanp」の進化とは


 オンラインストレージサービス「quanp(クオンプ)」が、サービス開始からまもなく約1年半を経過しようとしている。ほぼ毎月のように新たなサービスを追加し、利便性を向上。これによって、利用者数を着実に増やしている。リコーMFP事業本部CPS事業室 生方秀直室長は、「年度内には100万人の利用者にまで拡大させたい」と意欲をみせる。quanpの取り組みを追った。

「quanp」サービスのトップページ。IDの取得や、Webブラウザから利用する「quanp.net」へのトップページには、右下のクイックメニューからジャンプできる


無料会員でも容量1GBまで、ファイル送信は100MBまでサポート

リコーMFP事業本部CPS事業室 生方秀直室長

 quanpは、リコーが提供する画像共有機能をメインとしたオンラインストレージサービスで、2008年5月にスタート。オンラインストレージサービスを核として、画像のプリントサービスをはじめとした付加サービスを多数提供している。

 quanp利用には会員登録が必要で、会員コースは無料で1GBまでアップロードできる「トライアルコース」、月300円で10GBまでの「スタンダードコース」、月980円で100GBまでの「クオンタムコース」の3つが用意されている。

 各コースの違いとしては容量の違いのほか、有料会員コースのみに提供される機能が用意されている。共有メンバーの招待、携帯電話からのアクセス、テレフォンサポートの3つだが、月980円の「クオンタムコースではこの3つすべてが利用可能、月300円の「スタンダードコースではテレフォンサポートを除いた共有機能と携帯電話からのアクセスが利用できる。

 その他、後述するがファイル送信機能における容量制限や送信相手の数などもコースごとに違いがある。

 Webブラウザから利用する無料サービスが多い中、quanpは、利用するためのWindows対応専用クライアントソフト「quanp.on」をはじめ、多くのツールが提供されている点も特徴と言えるだろう。なお、一般のWebブラウザからquanpを利用するWebサービスは「quanp.net」という名称が付いている。

Webブラウザから利用できる「quanp.net」。外出先のパソコンからでも利用できる。ファイル送信機能は「quanp.net」にログインして利用する専用クライアントソフト「quanp.on」をインストールすると、PDFファイルの内容も表示可能に。リモートストレージとしての使い勝手が向上する
専用クライアントソフト「quanp.on」でのマップ表示画面。自分にわかりやすいようにカテゴリ分けできるので、目的のファイルが探しやすい「quanp.on」での3Dビュー表示画面。個別の写真を探す時などはサムネイルを一覧できるこのモードが便利。書類も同様に3Dビュー表示することができる


ストレージに上げたファイルを有効活用するためのツール

リコーMFP事業本部CPS事業室マーケティングユニット 中島喬敬氏。「quanp drop」は、「女性でも楽しく、簡単にアップロードできるように工夫した」という

 付加サービスとして提供されているツールを挙げておくと、Microsoft Officeから直接quanp上のファイルを操作できるプラグインソフトの「quanp add-in for Office2003/2007」、保存された写真をデスクトップ上で閲覧できる「quanp slideshow」、ファイルのアップロードを簡便にするとともに楽しさを追求した「quanp drop」、富士フイルムと提携して提供する高画質写真プリントサービス「quanp photo print」がある。また、有料会員向けに限定されるが、携帯電話のブラウザからquanpに保存されているファイルを操作、閲覧できる「quanp.mobile」も提供する。

 これらのツールを活用することで、画像や各種データが有効利用できるという仕掛けだ。こうした各種サービスは毎月のように新しくリリースされており、常に改良が加えられている。

 中でも、今年3月にリリースされたアップロード専用ウィジェットの「quanp drop」は、「女性でも楽しく、簡単にアップロードできるように工夫した」(リコーMFP事業本部CPS事業室マーケティングユニット 中島喬敬氏)。簡単な使い勝手と楽しい視覚効果により、新たな利用層拡大を狙ったものだ。

 ファイルのアップデート作業は、メニューに沿った無機質な作業になりがちで、しかも画像データなどではアップロードに時間がかかり、待たされるという印象が強い。

 だが、「quanp drop」ではアドビシステムズのAdobe AIRを活用することで、視覚的な効果を提供。ウィジェットの中にファイルをドロップすれば、魔法のランプを彷彿とされるようなアニメーションで、ファイルがアップロードされる様子が表示される。アニメーションにはいくつかのパターンが用意されており、まさに楽しみながら、ファイルをアップロードできるというわけだ。

「quanp drop」では、ドラッグ&ドロップの簡単操作を実現するとともに、ファイルが転送される様子をビジュアルで楽しめるよう工夫されている


直感的な操作を可能にする、視覚的なこだわり

 視覚的な効果にこだわっているのは、quanpサービス全般にわたる特徴と言える。

 基本ツールであるクライアントソフト「quanp.on」では、3D表示によって視認性を高め、一般的なオンラインストレージサービスとは、まさに一線を画している。

 「いかにアップロードしやすい環境を作るか。人生のなかで身の回りにあるファイルを気軽に、簡単に保管してもらい、それをさまざまな形で利用してもらう。そこにquanpの役割があると考えている」と、リコーMFP事業本部CPS事業室 生方秀直室長は語る。

 アップロードしたファイルは、携帯電話で閲覧したり、Macユーザーでも利用できるようにWebブラウザ対応を図ったりと、範囲を広げているのも気軽な利用促進を図るためだ。

 今年2月から開始した「quanp photo print」は、quanp上のファイル活用拡大に向けた第1歩ともいえるものだ。

 「quanp photo print」は、quanpに保管した写真を、そのままプリント注文することができ、富士フイルムの提供するプリントサービスを利用して、個別の写真のプリントや、写真アルバムとしてのプリントが可能になる。富士フイルムならではの高画質で、長期保存が可能なプリントが、手軽に利用できるサービスとなっている。

 「写真を保存したり、共有していただくだけでなく、さらに写真を楽しむサービスとして提供している。こうした利用をもっと増やしていきたい」(中島氏)とする。

「quanp photo print」ログイン画面「quanp photo print」注文画面。チェックボックスにチェックを入れるわかりやすい操作。一括選択も可能だ


ファイル送信機能の強化で利用が拡大

 さらに、ここにきて注目を集めているのが、Webブラウザから利用する「quanp.net」でのファイル送信機能の強化だ。

 今年7月から最大で1GBまでの大容量ファイルの送信を可能としており、動画ファイルなどの大容量データを扱うユーザーを中心に利用が拡大しているという。

 月980円の「クオンタムコース」では一度に送信できるファイル数は30個まで、一度に送信できる相手は20人までに拡張されている。また、月額300円の「スタンダードコース」では500MBまでのファイルが送信可能だ。

 ファイル送信サービスが注目を集めている理由がもうひとつある。それは、無料で利用できる「トライアルコース」の存在だ。前述の通り、無料の会員登録をしてquanp IDを取得する必要はあるが、その手続きはきわめて簡単。無料ながら、100MBまでのファイルを最大10人に送信することができる。

 使い勝手の点で重要なのが、送信先の相手のID登録は不要という点だ。受け取る側も会員登録の必要があるサービスと違って、気軽に利用できる。

 加えて、9月にはquanp.netの機能を強化。タグリストの表示の追加やソート機能の追加、サムネイル表示の改善などを図っており、ファイル送信環境をさらに使いやすくした。

 「無料サービスを100MBまで拡張したことで、quanp IDの登録者が増えている。さらに、無料サービスを利用していたユーザーが、有料サービスに切り替えていただくケースも増加している」(生方室長)という。

 実際、無料での利用を100MBまで拡張した以降の7~8月には、1日あたりの登録者数がそれまでの1.5~2倍に増加したという。

 実は、こうしたサービスは、随時開催しているquanp利用者による座談会quanp Labによって、直接寄せられた要望をもとに検討。サービスとして展開しているものが多い。

 「どんなサービスを必要としているのか、ユーザーの要求はどの方向に向かおうとしているのか、そうしたことを直接聞くことで、いち早くサービスに反映している」というわけだ。

有料会員向けには携帯電話のブラウザでの利用もサポートする出先でも携帯電話で簡単にドキュメントが参照でき、この画面のようにドキュメントを拡大表示することも可能だ


オンラインストレージサービスの総合デパートへ

大手メーカーのリコーが提供することによる安心感からか、「企業や学校などのイントラネット内でquanpを使いたいという引き合いもあり、今後プラットフォームとしての提供も対応していきたい」(生方室長)

 生方室長は、「2009年度上期におけるquanpの新サービスを振り返ると、情報をスマートに活用するためのビジュアルオンラインストレージとしての進化を果たした」と総括する。

 ドラッグ&ドロップの簡単操作でアップロードできる「quanp drop」やquanpにアップロードした画像ファイルを写真プリントする「quanp photo print」といったサービスは、それを象徴するものといえるだろう。

 「さまざまなサービスを開始したことで、オンラインストレージサービスの総合デパートへの道を歩み始めたともいえる。」(生方室長)

 だが、 サービスが林立することで、体系的にも複雑さを感じざるをえない部分も出てきた。

 「確かにシンプル化して、ユーザーがどのサービスを利用すると、より有効な活用ができるのかといった提案をしていく必要がある。ユーザー自身が、自分流といえる使い方を探し出せる仕組みも必要」とも語る。

 一方で、quanpそのものの認知度を高める活動も必要だ。これは2009年度下期の重要なテーマとなりそうだ。

 プロバイダーとの連携によるquanpの訴求を開始するほか、大学生協などを対象にして、アカデミックプログラムを用意し、quanpの利用促進を図るといった取り組みも開始するという。

 「実際にお問い合わせもいただいているので、リコーが持つ法人ルートに対してSaaS型でquanpを提供するといったことも考えたい。quanpをBtoB向けのプラットフォームとして展開することもできるだろう」(生方室長)と、新たな販路拡大にも意欲を見せる。

 一方で、重点課題のひとつとする海外展開についても、具体的な形で展開を開始している。今年3月には、数100人規模でのベータテストを米国で開始。6月には、米国のニュースサイト各誌でquanpが取り上げられ、高い評価を得たという。

 「利用者の声やプログ、ニュースサイトの評価が高く、いつ正式サービスを開始するのかといった問い合わせもいただいている。北米市場の景気低迷の影響もあり、米国での展開はやや遅れているが、長期的視点に立って、準備を進めて行きたい」とする。
 
 これまでリコーでは、quanpの具体的な会員数などには言及してこなかったが、生方室長は初めて、「年度内には有料、無料会員を含めて100万人の獲得を目指したい」と明かした。

 「極めてチャレンジングな目標ではあるが、来年度以降のさらなる飛躍を目指すのであれば、100万人のquanp ID取得者の獲得が前提となる」と意欲をみせる。

 ファイル送信サービス利用者の広がりや、新たなサービスの提供も、100万人に向けた大きな布石となる。現在、バージョン2.2となっている専用クライアントソフト「quanp.on」の進化もこれに寄与することになるだろう。

 「quanp.on」は正常進化を遂げる一方で、どこかのタインミングでは、これまでのしがらみを越えた大きな進化を図りたい。そのための準備も水面下で進めている」と生方室長は語る。

 「file your life」をキーワードに掲げるquanpの進化は、ますます加速することになりそうだ。  



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(大河原克行)
2009/9/25 15:14