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多様化する個を集めて新しい価値を生み出す「Wisdom of Crowds」

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The Wisdom of Crowdsとは

 「The Wisdom of Crowds」という書籍があります。James Surowieckiという方が執筆した本で、そのサブタイトル“Why the Many Are Smarter Than the Few and How Collective Wisdom Shapes Business, Economies, Societies and Nations”にも見られる通り、「なぜ集団はときに(優秀な)個人よりも優れているのか」というのがテーマの書籍です。

 最も優れた個人よりも、集団の意見を集約した集合知こそが正しい場合がある。なんとなくインターネットの匂いがしてきます。今回は“Wisdom of Crowds”を元に、インターネットの世界を考えてみたいと思います。

 まずはじめに、Googleを思い浮かべてみてください。

 Googleの検索で探せるWebサイトは、個人のホームページや企業サイト、ブログなど、それぞれ独立したものです。これはWisdom of Crowdsで言うところの「個」に相当します。一方、Googleはそれら無数に拡がる“個”をひたすらに集めた個の集合体、集合知です。


Googleで「Wisdom of Crowds」を検索

 インターネット上で何か正解を探したいときは、独立したページをたどっていくのではなく、まずは集合知としてのGoogleに聞いてみるというのが基本中の基本ですね。1つ1つの小さな知恵が集まった結果、大きな知恵になりました、それがGoogleです。

 個よりも集団が優れていることの具体例であるGoogleは、インターネットのWisdom of Crowdsの代表例とも言えるでしょう。





Wisdom of Crowds が成立するための条件

 さて、この集合知としてのWisdom of Crowdsですが、単に数を集めればいいというものではありません。GoogleがWisdom of Crowdsであるためには、欲しい情報を見つけるための「検索システム」という優れた技術が必要です。もちろん、インターネットの世界で、第三者にとって有益な情報をアウトプットしている人たちの存在も忘れてはいけません。

 つまり、Wisdom of Crowdsが形成されるためにはいくつかの条件があるようです。書籍によるとその条件とは、以下のようになります。

  • 個が互いに独立していること
  • 個が分散していること
  • 個が多様であること
  • 個を集約する優れた仕組みがあること
 もう一度Googleにあてはめて考えてみましょう。最も重要な条件である「集約の仕組み」が、被リンク数に基づいて重要度を判定する「PageRank」を元にした検索システムであることは言うまでもないでしょう。また、検索対象となるWebサイトははそれぞれ独立分散していて、その内容は私的な日記からエンターテインメント、ビジネス、学術論文まで多岐に渡ります。つまり、GoogleはWisdom of Crowdsのすべての条件を満たしているというわけです。





Folksonomy と Wisdom of Crowds

 前回、「みんなで分類する」という考え方として「Folksonomy」を紹介しました。それぞれが自分のために分類した結果を集めるFolksonomyによって分類された結果も、集合知としてのWisdom of Crowdsと言えます。

 Folksonomyと言えばソーシャルブックマーク、ということで、はてなブックマークのTOPページを見てください。


はてなブックマークのTOPページ

 はてなブックマークのTOPページでは、ブックマーク数に基づいた人気エントリーや注目エントリーが表示されます。はてなブックマークのユーザーが自分のためにブックマークした結果を集約して、その時々で人気のあるものをピックアップしています。この人気エントリーにあがってくる記事はさすがに面白いものが多く、一度読み始めると思わず時間を消費してしまいます。

 Folksonomyの結果としてのタグページ。例えばいま流行のPodcastingタグのページはいかがでしょうか。Podcastingに関する記事が一覧できます。これも、それぞれのユーザーが自分のために「Podcasting」というタグで分類した結果を集約して価値を与えた集合知と言えるでしょう。


「Podcasting」タグが付与されたはてなブックマーク

 ソーシャルブックマークを見ると「個が独立、分散して多様性を発揮しながら創り上げたものが集約されてより大きな知恵が生み出される」というWisdom of Crowdsの方程式に、ぴったりと当てはまる例がいくつも見られます。

 アレクサンドル・デュマの小説「三銃士」の物語で出てくる、「1人はみんなのために、みんなは1人のために」(All for one and one for all)という有名な台詞があります。テレビアニメ化された作品でも、主人公の若き冒険家ダルタニャンと銃士隊が剣を掲げてその志を確認し合う、お決まりのシーンで使われる名台詞です。これに対してFolksonomyは、「1人は自分のために、気付けばみんなのために」という台詞が合うなと、近ごろ思い始めました。

 FolksonomyのようなWisdom of Crowdsが成立するためには「1人はみんなのために」ではダメ。それぞれが独立分散している必要があるから「1人は自分のために」でなければならない。「みんなが1人のために」動くのではなく「気付けばみんなのために」が実現されるような優れた集約システムがなければいけない。なんて考えられます。われながらいいフレーズを思いついたものです。





Wisdom of Crowdsの具体例

 Googleやソーシャルブックマーク以外にも、インターネット上には Wisdom of Crowds がたくさんあります。みなさんもいろいろ思い浮かべてみてください。

 Googleに限らず、Webの検索サイトはWisdom of Crowdsを実践している良い例です。Yahoo!、MSN、Ask Jeeves。そして近頃の検索システムでは、サイトとサイトがリンクされている関係などを数値化して利用する検索アルゴリズムを採用しています。Web全体を集合知にするためには、Webの最大の特徴でもあるハイパーリンクを使って集約システムを考えるのが正しい、よくよく考えてみると自然な考え方ですね。

 だれでも書き込めるWebサイトをベースにした辞書システムであるWikipedia、それから同様にWikiをベースにしたはてなダイアリーのキーワードシステム。集団と多様性、それからその集約システムであるところの Wiki。すこしかたちは違いますが、これもWisdom of Crowdsの1つと言えそうです。


WikiPedia はてなダイアリー

 Yahoo!オークションも、それぞれの個人から見ると、自分の売りたいものを売る、欲しいものをより安く買う、あるいはレアなものを手に入れるための場で、それぞれが独立して参加していますが、オークションのシステムがうまくそれを集約して、最も安いもの、あるいは最も短時間で手に入れられるものを知ることができる、ある種の集団知を創り上げていると言えます。


Yahoo!オークション

 それから関心空間。それぞれが自分の興味や関心ごとを書き込んでいくのですが、そこに「他者とつながる」という集約のシステムを用意したことで、レストランだとかコスメだとか音楽だとか、嗜好性の高い物に関する集団知が形成されるという非常に面白いアプリケーションです。嗜好性の高いものに関する集団知という意味では、Amazon.co.jpのレビューシステムもその好例でしょう。


関心空間

こうして見てみると、インターネットはその性質上、人と人とをつなげる、その逆に人それぞれに独立分散して動いてもらう、さらにそれらを集めるためのインフラとして非常に扱いやすいもので、Wisdom of Crowds を実践するためのこの上ない土壌だということがよくわかります。そして、構築された集団知には他に変えがたい莫大な価値があるがあるがゆえに、そこでは大きなビジネスが回り始めます。Google、Yahoo!、Amazon.co.jp、eBay、インターネットで成功した怪物企業に共通しているのは、インターネットで Wisdom of Crowds を実践して、そこでビジネスを回すことに成功したということなのではないかと思います。





Amazon.co.jpと楽天に見るショッピングサービスのWisdom of Crowds

 最後にショッピングサービスに見るWisdom of Crowds、ということでAmazon.co.jp楽天を見てみましょう。


楽天 Amazon.co.jp

 僕が普段よく使うショッピングサービスはAmazon.co.jpと楽天です。どちらかというとAmazon.co.jpで買い物する機会が多いですし、テクノロジー的にも面白いサービスなのでひいきにしたいのですが、インターネットにおけるショッピングサービスの形としてみた場合には、楽天の方が優れているなあと考えることがあります。。

 それはなぜかと言えば、楽天がWisdom of Crowdsだからです。

 楽天というサイトは、店舗そのものは自分たちでは極力もたずに、インターネットでお店を出したいと思っていた各種店舗の店長を集めることで成立しているショッピングモールです。一般の消費者からみると「楽天」というショッピングサービスに見えますが、その実体はそれぞれ独立・分散した個々のショッピングサイトです。Googleをインターネットの扉として各Webサイトにたどり着くように、楽天を入り口にして各ショッピングサイトへと人々はたどり着きます。

 そのため、Amazon.co.jpより楽天の方が品揃えに多様性がありますし、欲しいものは探せばだいたい見つかります。また、店舗ごとに独立分散しているがゆえに競争原理が働いているので、より安く欲しいものが手に入る可能性が大きい場合もあります。

 その一方で、Amazon.co.jpはWebサービスやアフィリエイト・プログラムなどによって、うまく Wisdom of Crowdsを形成していると言えるでしょう。

 在庫は自分たちで持ってそれをWebで売るという基本的なパターンをコアにしつつ、その周辺でインターネットの性質をうまく使っているAmazon.co.jp。一方でサービスのコアそのものにインターネットの性質を取り込んだ楽天。比べてみるとなかなか面白いものです。そして両者とも、インターネットの性質をうまく使ってWisdom of Crowdsを実践したからこそ、ネット上で成功できたんだろうとも思います。





より詳しくは……

 さて、Wisdom of Crowds の話はここまで。集団知を構築すること、その集団知には前例からも分かる通り、大きな価値があることをご理解いただけたかと思います。

 より詳しく知りたい方は、僕が今回このコラムを執筆するにあたって参考にしたH-Yamaguchi.net The Wisdom of Crowds: Why the Many Are Smarter Than the Few and How Collective Wisdom Shapes Business,Economies, Societies and NationsMy Life Between Silicon Valley and Japan - Wisdom of crowdsあたりもご一読ください。(冒頭で紹介した Wisdom of Crowds の4条件はこれらの記事にあったものを僕の言葉で言い換えたものです)。


関連情報

URL
  はてな
  http://d.hatena.ne.jp/
  naoyaのはてなダイアリー
  http://d.hatena.ne.jp/naoya/

2005/08/11 11:05

伊藤直也
はてな取締役最高技術責任者。はてなの新サービスの企画・開発を行なう。個人でRSS検索「FeedBack」、Amazonアフィリエイト支援ツール「amazletツール」なども開発。自身のブログでも技術やブログ関連の話題などを紹介している。(写真撮影:近藤淳也)
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