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第190回:ネットワーク機能が充実した無線LAN搭載デジタル複合機
ブラザーの「MyMio MFC-820CN」


 ブラザーから、デジタル複合機「MyMio」シリーズの新製品「MFC-820CN」が発売された。プリンタやカラーコピー、スキャナ、FAX、フォトメディアキャプチャ機能を備えた複合機で、IEEE 802.11b/g準拠の無線LANも搭載している。ネットワーク機能を中心に、その実力を検証してみよう。





プリンタとして使うかFAXとして使うか

ブラザーの「MyMio MFC-820CN」。オープンプライスで店頭販売価格は37,000円前後
 現状、SOHOや家庭向けの複合機は、インクジェットプリンタから派生した製品とFAXから派生した製品の2種類が存在する。前者がHPやCanon、EPSONなどの製品、後者がSHARPや今回のブラザーの製品だ。いずれの場合も利用可能な機能に大きな差はなく、ほとんどの場合、プリンタ、スキャナ、コピー、ダイレクトプリントといった機能を利用可能だが、ひとつ違いを挙げるとすれば、やはりFAX機能だろう。

 インクジェットプリンタから派生した製品でFAX機能をサポートしているのは、ハイエンドの一部の機種、もしくはビジネス向けとして位置づけられている製品に限られるが、FAXから派生した製品は当然のことながらFAXの送受信をサポートしている。

 メールの普及によって、特に家庭ではFAXが使われる機会は確実に減りつつあるが、ビジネスシーンにおいては、まだまだFAXが利用されるケースも少なくない。そう考えると、同じ複合機でも、複数の原稿をまとめて送信するためのシートフィーダーを標準で搭載していたり、PCでのFAX送受信に対応していたり、場合によってはコードレス子機や留守番電話機能が利用可能(今回のMFC-820CNは未対応)なFAX/電話機能が主体の製品の方が使いやすいケースも少なくないだろう。


キー操作部 本体側面




無線LANは基本的に手動設定

 さて、今回、ブラザーから発売されたMFC-820CNもFAXから派生した製品であるが、その最大の特徴はIEEE802.11b/g準拠の無線LANを標準搭載している点にある。もちろん、USB接続や有線LANでの接続にも対応しているが、前述したようにFAXとしての使い勝手を考えると電話回線の近くに設置する必要があり、USBや有線LANでは設置場所が限られてしまう。その点、無線LANを搭載したMFC-820CNであれば、基本的に電波の届く場所ならどこにでも設置できるというわけだ。


無線LANに加えて、USBや有線LANでの接続にも対応。USB、および有線LAN端子は本体カバーを開けた内部に用意されている

 これにより、ネットワーク経由で接続したPCからMFC-820CNをカラープリンタとして利用したり、スキャンした原稿をPCにネットワークで取り込んだり、本体に用意されているメモリカードスロットに装着したメモリのデータをネットワーク経由で参照したり、ネットワーク上のPCからFAXを送受信するといったことをすべてワイヤレスで実現できるようになっている。

 というわけで、実際に無線LANで利用してみた。まずは無線LANの設定だが、これには大きく分けて3種類の方法が用意されている。ひとつはMFC-820CNでの手動設定、もうひとつはPCからの設定、最後は「Secure Easy Setup」を利用した自動設定だ。

 もっとも基本的な設定方法となるのは、おそらくマニュアルでも紹介されているMFC-820CN本体での手動設定だろう。本体前面の液晶画面を見ながら、メニューを操作し、テンキーを利用してSSIDやWEPキーを入力することで無線LANでの接続が可能になる(SSIDは検出が可能)。携帯電話方式の入力となるため、128bit、16進数などのWEPキーを利用していると入力がかなり面倒だが、設定方法としてはもっとも確実な方法だろう。


手動設定の場合、本体に搭載された液晶ディスプレイを利用してSSIDやWEPキーを設定する。入力は面倒だが、確実性の高い設定方法だ

 続いてのPCを利用した設定も基本的には手動設定と言える。USB、もしくは有線LANでMFC-820CNをPCと接続し、付属のユーティリティを実行する。ここで接続するアクセスポイントの情報を入力し、MFC-820CNに転送するというイメージだ。

 なお、この方法は、必ずしも有線で接続する必要はなく、無線LAN接続のPCでも利用可能となっている。MFC-820CNはアドホックモードでの接続も可能となっているため、PC側の無線LAN設定を一時的にアドホックモードに変更(SSID:SETUP、暗号化なしで接続可能)し、同様にユーティリティでアクセスポイントの情報を転送後、再びPC側の無線LAN設定をインフラストラクチャモードに切替えることで設定が可能となる。

 暗号化なしの状態でアクセスポイントの情報を転送するのに若干の抵抗があるが、本体のテンキーを利用して文字を入力するよりは簡単だ。個人的には有線接続での設定を勧めたいが、どうしても無線LANでしか設定できないという場合はこの方法での設定も検討すると良いだろう。


PC用のユーティリティを利用した設定も可能。無線LANのアドホックモードを利用し、無線LAN経由でも設定できる

 最後の「Secure Easy Setup」を利用した自動設定は、事実上、利用できないと考えた方が良いだろう。「Secure Easy Setup」は、バッファローのAOSS、NECアクセステクニカのらくらくセットアップ、アセロスのJUMPSTARTなど同様に無線LANの自動設定が可能なBroadcomの技術であるが、この技術に対応したアクセスポイントはリンクシスの「WRT54GS-JP」などごく一部の製品にしか採用されていない。運良くSecure Easy Setupに対応したアクセスポイントを利用していれば、自動設定が可能だが、そうでない場合は前述した本体からの設定か、PCからの設定で手動設定するしかないだろう。


Broadcomの「Secure Easy Setup」にも対応。ただし、対応アクセスポイントが限られるため、事実上、利用できるケースは少ない




受信したFAXをPCに転送可能

 ネットワークに接続されてしまえば、その後の使い方はUSB接続などの場合と何ら変わらない。登録されたプリンタを指定してアプリケーションから印刷すればMFC-820CNを利用して印刷が可能なうえ、「Control Center2」と呼ばれるアプリケーションを起動すればMFC-820CNにセットした原稿をスキャンし、その画像をPCに転送することができる。使い勝手としては、一般的な複合機とほぼ同様だ。


MFC-820CNのユーティリティ「Control Center2」。PC経由でスキャナなどを利用するときに利用する

 ただし、ひとつ感心したのはネットワーク経由でのFAX機能だ。ネットワーク経由での印刷と同様に登録されたFAX用のプリンタを指定してアプリケーションから印刷することでFAXを送信できるのは当然として、MFC-820CNで受信したFAXをPCに自動的に転送する機能も搭載されている。具体的には、PC側で「PC-FAX受信」ユーティリティを常駐させ、MFC-820CN側で受信したFAXをPCに転送するように設定しておく。これで、受信したFAXがネットワーク経由で自動的に転送され、PC側で参照可能になる。

 この機能で面白いのは、FAX受信時に必ずしもPCが起動している必要がないということだ。FAX受信時にPCが起動していない場合、MFC-820CNは本体のメモリに受信したFAXを保管する。その後、PCの起動によって、前述した「PC-FAX受信」ユーティリティがアクティブになると、MFC-820CNに接続し、起動前までに受信されていたFAXを自動的に取得するようになっている。


MFC-820CNのPCファックス受信機能を利用すると、受信したFAXをPCにネットワーク経由で転送することが可能。PCが起動していない状態で受信したFAXも起動後、自動的に受信される


 筆者は受信したFAXを紙媒体で出力することがあまり好きでないため、PCで構築したFAXサーバーでFAXを受信後、それをメールで普段利用しているPCに転送するという使い方をしているのだが、MFC-820CNであれば、転送方法に違いはあるものの、ほぼ同じような使い方ができることになる。このように、受信したFAXをPCにデータとして転送するという機能は、サポートしている機種が意外なほどに少ない。できればメールで転送して欲しいところだが(メールは頻繁にチェックするためFAXが届けばすぐにわかるうえ、メールサーバーに残しておけば外出先でもチェックできる)、とりあえず受信したFAXを必ずしも紙で出力する必要がないように工夫されているのは高く評価できる。





電話回線の呪縛からの解放を

 このように、ブラザーのMFC-820CNは、FAX機能を無線LANで手軽に利用できるのが特徴の複合機と言える。もちろん、プリント品質なども悪くないので、カラープリンタやスキャナとして利用しても不満はないが、やはりSOHOなどFAXの利用頻度が高いユーザー向けの製品と言えるだろう。個人的には、留守番電話機能まで備えていれば、現在の留守番電話機+PC FAXサーバーという環境から本気で乗り換えても良いと感じたほどだ。

 また、今後、この手の製品には電話回線の呪縛からの解放にも期待したいところだ。ひかり電話の複数番号サービスなどを利用し、SIPクライアントの搭載によって、機器自体に電話番号を割り当てられるようになってくれるとありがたい。そうすれば、電話回線に接続する必要さえもなくなり、無線LANによって本当の意味で設置場所がフリーになる。せっかくの無線LAN機能をもう少し活かせるようになると面白そうだ。

 現状、SOHO環境では、家庭用のFAXでは機能がもの足りず、かといって本格的な企業向けの製品では価格が高すぎるという中間を埋める製品が存在しない状況にある。こういった場合は、MFC-820CNのような製品は候補として悪くない選択と言えそうだ。


関連情報

URL
  MFC-820CN製品情報
  http://www.brother.co.jp/jp/mymio/info/mfc820cn/mfc820cn_ove.html
  関連記事:ブラザー工業、無線LAN装備の低価格インクジェット複合機[PC Watch]
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0131/brother.htm

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2006/04/04 11:06

清水理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ
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