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第248回:月額3,900円で全タイトルが見放題に
有料サービスで新展開を図るGyaOの新サービス「ギャオネクスト」


 GyaO、ギャオプラス、そして今回のギャオネクストと、USENが映像サービスの積極展開に乗り出した。6月1日から開始された有料の映像配信サービス「ギャオネクスト」を実際に利用した。





「ネクスト」という名前に込めた思い

 次世代を担う事業収益モデルをいかに構築するか。6月1日、USENは有料の映像配信サービスとなる「ギャオネクスト」を開始したが、このサービス名に付けられた「ネクスト」という文字を見たとき、そんな同社の意図が込められているのではないかと感じた。

 同社の発表によると、2007年4月時点でのGyaOの視聴登録者数は約1,412万。2005年4月の正式サービス開始以来、着実に登録者数伸ばしてきたが、ここにきての伸びは鈍化しつつある。また、同社の事業計画書によると、ギャガ・コミュニケーションズも含めた映像・コンテンツ事業の営業損失は縮小するどころか拡大しており、知名度や売上高のわりに儲からない事業となりつつある。

 広告モデルによる無料の映像配信という「GyaO」のコンセプトは、確かに映像配信サービスの分野に大きなインパクトを与えた。しかし、有線放送やカラオケなどの同社の他の事業の収益も減少傾向にある中、そろそろ「次世代」サービスにも収益の目処が立たないと厳しい状況になってきている。広告だけでなく、サービスへの課金によって収益性を改善するという方向に進化させようというのが、今回の「ギャオネクスト」登場の意図だろう。





利用環境と料金体系で既存サービスと差別化

ギャオプラスと共通のSTB端末
 それでは、実際のサービス内容について見ていこう。ギャオネクストは、先行して提供が開始されたSTB型の映像配信サービス「ギャオプラス」を利用した発展系のサービスだ。ギャオプラスはインターネット上で提供されているギャオを家庭用のテレビで楽しむためのSTBだが、このSTBを利用し、無料番組だけではなく有料配信サービスの映像を受信できるようになっている。

 現状、光ファイバなどの通信回線を利用した映像配信サービスには、専門チャンネルなどを視聴できるテレビサービスと、映画などのビデオを見たいときに選んで再生するオンデマンドサービスの2種類が存在するが、ギャオネクストが提供するのは後者のオンデマンドサービスとなる。映画やアニメ、海外ドラマ、カラオケなど、最終的には約15,000タイトルが提供される予定だが、6月1日時点ではサービスが開始されたばかりということもあり、まだ数十~数百タイトルのみの提供となっている。

 前述したように、同様にブロードバンド環境を利用した映像配信サービスは、他事業者によって数多く提供されている。では、後発となるギャオネクストの既存のサービスに対するアドバンテージはどこにあるのだろうか?

  これは大きく2点が挙げられる。その1つは利用環境だ。4th MediaやオンデマンドTV、BBTVなど、既存のサービスは回線サービスのオプションサービス的な位置づけとなっており、サービスを利用できる回線、もしくはISPが限られている。これに対して、ギャオネクストはどちらの環境も一切問わない。映像を再生できるだけの帯域(4Mbps前後)さえ確保できれば、どの回線、ISPでも利用できる。実際に良いかどうかは別にすれば、極端な話、会社や学校のネットワーク、ホテルなどでも利用可能というわけだ。

 自社のインフラだけでなく、他社のインフラも利用できる方が当然多くの利用者を見込むことができる。回線のオプションサービスとしてではなく、映像配信サービス単体として確実に収益を見込むという計画なのだろう。なお、従来のギャオプラスでは映像配信元としてフレッツ網も選択できたが、ギャオネクストではこの設定が廃止され、インターネット経由での利用のみとなった。





すべてのコンテンツが月額料金のみの完全定額制

 ギャオネクストのもう1つの特徴は料金体系にある。以下に現状の映像配信サービスの特徴や料金をまとめてみたが、基本料だけ見ると、ギャオネクストの料金はさほど魅力的に見えない。他事業者で必要な回線のオプションサービスの料金などを考えても、むしろ高いくらいだ。

 しかしながら、その内容に注目したい。多の映像配信サービスはオンデマンドのビデオ視聴に105~315円前後の料金が必要になる。中には見放題をうたうサービスも存在するが、見放題対象の映像は限られており、新作などはその対象から外されていることの方が多い。

 これに対してギャオネクストは、すべてのコンテンツが月額料金の範囲内で見放題になっており、コンテンツ単位で課金されることがない。しかも、このコンテンツには映画やアニメなどだけでなく、アダルトも含まれているというあたりも、実はかなり戦略的だ。

サービス名 コース 初期費用 基本料金(月額) 多チャンネル オンデマンド 多チャンネルオプション カラオケ チューナー 回線 備考
4th Media レギュラー 5,229円 2,835円 40ch 毎月2本無料 735円/月~ 525円/日 レンタル月額525円
買い取り24,150円~
フレッツ
(要IPv6要)
ISPフリープランの場合、月額料金に+210円
ライト 5,229円 577円 - 毎月2本無料 - 525円/日 レンタル月額525円
買い取り24,150円~
フレッツ
(要IPv6要)
OCNシアター 100タイトル見放題コース 5,145円 1,050円 - 100タイトル見放題 - 840円/月 レンタル月額525円 フレッツ
(要IPv6要)
OCN利用者のみ
エントリーコース 5,145円 504円 - PPV - 840円/月 レンタル月額525円 フレッツ
(要IPv6要)
オンデマンドTV みほうだいプラン 5,250円 2,100円 - 見放題対象無料 - - レンタル月額315円 フレッツ
(要IPv6要)
ハイビジョン対応STBの場合月額525円
多ちゃんねるプラン 5,250円 2,100円 32ch PPV 945円/月~ - レンタル月額315円 フレッツ
(要IPv6要)
よくばりプラン 5,250円 3,150円 32ch 見放題対象無料 945円/月~ - レンタル月額315円 フレッツ
(要IPv6要)
おてがるプラン 5,250円 577円 - 毎月2本無料 - - レンタル月額315円 フレッツ
(要IPv6要)
ひかりone TV - 回線費用に準ずる 2,520円 50ch 毎月3本無料 1,300円/月~ 月額945円(300回)
日額315円(100回)
基本料に含む KDDIひかりone
BBTV - - 2,394円(00ch) PPV 945円/月~ - レンタル月額1,260円 Yahoo! BB 特割プランによるADSL料金525円割引
ギャオネクスト ベーシック 3,150円 3,900円 (GyaOプラス) すべて見放題 - 使い放題 購入(24,800円) - STB購入済みの場合のみ
基本プラン 13,650円 4,950円 (GyaOプラス) すべて見放題 - 使い放題 基本料に含む -
とくとく6プラン 3,150円 3,900円 (GyaOプラス) すべて見放題 - 使い放題 割引 - 6ヶ月間の最低利用期間あり
※いずれも通常料金の場合。キャンペーンなどを利用すると初期費用や一定期間の月額基本料などが無料になるケースもある


 もちろん、最終的には見たいコンテンツが提供されるかどうかが大きなポイントだが、正直、お金を払ってまで見たくはないというようなタイトルであっても、定額の範囲内なら気軽に見られるのは大きなメリットだ。映画やアニメなどの視聴に割く時間が多いのであれば、ギャオネクストの方がコストパフォーマンスは明らかに高いだろう。

 そういう意味では、この料金体系を採用したこと自体が画期的であり、他の映事業者に与えるインパクトもそれなりに大きいだろう。





ギャオプラスから変更されたトップページ

 サービスへの申し込みは同社のホームページから可能だ。新規加入の場合は送られてきたギャオプラスを接続することでサービスを利用できる。一方、筆者もそうだがすでにギャオプラスを所有している場合は、ホームページからの加入後、加入者情報がセンターに登録され次第サービスの利用が可能になる。この登録作業には1週間前後の期間がかかる場合もあり、申し込みから利用できるようになるまでの期間は若干長い印象だ。


ギャオネクストの申し込みはホームページから可能。STBの利用形態によってメニューを選択して契約する ギャオプラスを所有している場合、センター側での登録に1週間前後の期間がかかる。登録が完了すると画面にメッセージが表示される

 なお、ギャオプラスのトップページは、6月1日のサービス開始のタイミングでアップデートされたファームウェアとともにその構成が変更された。以前、本コラムでテレビ的で演出に優れたギャオプラスのトップページの構成を高く評価したが、ギャオネクストで一新されたトップページの構成は残念ながらあまり優れているとは言えない。画面上にカテゴリのアイコンが一覧表示され、各階層をたどっていくことで映像タイトルの一覧が表示されるというオーソドックスなスタイルになっている。パッケージ写真なども表示され、決してわかりにくくはないが、GyaOのような楽しさを感じさせるような演出からはほど遠い。

 もちろん、ギャオネクストに加入しても従来のGyaOコンテンツを閲覧することもできるが、GyaOもギャオプラスのカテゴリのひとつになっており、しかも、そのメニューは画面右下、つまりもっとも端に追いやられてしまった。


ギャオネクストのサービス開始と同時に更新されたギャオネクストのトップページ。GyaOはメニューの一項目となり、端に追いやられてしまった。わざわざメニューを選ばないと、従来通りのトップページを表示できない


 残念なのは、この画面構成がギャオネクストへの加入にかかわらず共通なことだ。つまり、ギャオプラスを家庭用テレビで使うGyaO端末として利用しているユーザーは、端末に24,800円も出費しているにもかかわらず、メニューの端からわざわざギャオを選ぶという手間を強いられ、すぐにコンテンツを見られないようになってしまったことになる。

 USENの構想としては、当然のことながらギャオネクストを利用してほしいのだろう。なぜなら、それによって月額料金を得ることができ、映像配信サービスの収益構造を改善できるからだ。しかし、先に家庭用テレビでGyaOが見られることを売りとしてギャオプラスを発売し、後から端末の位置づけを変えるというのはいかがなものだろうか。正直なところ、これでは無料の映像サービスをテレビで楽しもうとギャオプラスを購入したユーザーを裏切っているような気がしてならない。





ペアレンタルロックも可能

 一方、配信されるコンテンツだが、768kbpsのWMVエンコードというとGyaOと同じ品質だ。最近ではH.264のハイビジョン映像も配信されていることを考えると、決して画質は高いとは言えないが、実用上は十分という印象だ。もちろん、早送り、巻き戻しなどもできるので、ビデオ感覚で映像を楽しめる。


トップメニューからカテゴリを選択すると、さらにジャンルの選択画面が表示され、ジャンルを選ぶと見たい映像がリストアップされる


映像は768kbpsのWMV。一時停止や早送りも可能だ。個人的にはレジューム再生ができるとうれしかったが、残念ながら現時点では非対応

 家族での利用を想定してペアレンタルロックをかけることも可能で、ユーザーごとに有効、無効を設定できる。起動時にペアレンタルロックを有効にしたユーザーでログオンすると、アダルトなどのメニューが非表示になり、年齢制限されたコンテンツの視聴を禁止できる。


ユーザーごとにペアレンタルロックの設定が可能。有効にするとトップメニューから「アダルト」などのカテゴリが非表示になる。ただし、グラビアなどは残るので子供の年齢によっては使いづらい


 ただし、ロックをかけてもグラビアなどの判断が微妙なコンテンツは残ってしまうため、子供の年齢によっては、この方法が適切とは思えない。実際、我が家では子供に「グラビアってなに?」と質問され、答えに窮してしまった。

 ギャオプラスでは、せっかくユーザーによる管理ができるようになっているのだから、もう少し、細かく年齢を設定して表示内容を絞り込むとか、場合によっては画面に表示できるメニューをユーザーが選んで設定できるようにするなどの工夫が欲しいところだ。





普及のポイントは販売力

 以上、サービスが開始されたばかりのギャオネクストを利用してみたが、インフラの形態を問わない点、あらゆるジャンルのビデオを見放題で提供している点など、サービスとしてはかなり戦略的と言える。

 しかしながら、このサービスが普及するのは少々難しいかもしれない。普及の鍵の1つはコンテンツではあるが、営業力で他社とどこまで勝負できるかが大きな課題と言える。たとえば、NTTグループは、トリプルプレイと称して、映像配信サービスの販売にもかなりの力を入れている。こういった取り組みがUSENとしてどこまでできるかがポイントになるだろう。

 コンテンツさえ充実すれば、サービスは他事業者と互角以上の勝負ができるはずだ、しかし、その土俵に上がるためには、ユーザー、それも決してリテラシーが高くないユーザー層にサービスをいかに認知してもらえるかが重要だろう。


関連情報

URL
  ギャオネクスト
  http://next.gyao.jp/

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清水理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ
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