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第293回:PCリモータでサーバーを遠隔操作 NECの新発想ホームサーバーPC「Lui」
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NECから、家庭に設置したホームサーバーへリモートアクセスして画面を遠隔操作するという斬新な発想のPC「Lui」が登場した。HDDレコーダとしても使えるホームサーバーの実力を検証した。
■ 3つの側面を持つ「Lui」
NECから登場した「Lui」は、その全貌を理解するのが非常に難しい商品だ。
基本的にはPCだが、HDDレコーダ機能も内蔵しており、さらにPCリモータという専用クライアントも構成機器の1つとなっている。しかも、「コンテンツオンデマンド」や「PCオンデマンド」などというキーワードも登場し、正直、原稿で「ひと口で言うと……」などと表現するのが極めて難しい製品となっている。
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NECから発売されたHDDレコーダー機能搭載ホームサーバーPC「Lui」。ホームサーバーの「Lui SX」と「PCリモータ」2製品から構成される製品群
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NECとしては、このLuiをプラットフォーム的なものとして成長させていきたいという狙いがあるようだが、消費者にとって気になるのは、この商品で一体何ができるのかという点だろう。
これは非常にザックリとLuiの機能を切り分けてしまえば、PC、HDDレコーダ、ホームサーバーという3つの側面を考えるのがわかりやすいだろう。
映像出力端子がHDMIに限られるが、家庭用テレビや液晶ディスプレイなどに接続すれば、付属のキーボードとマウスで、普通のWindows Vistaマシンとして利用できる。後述する他の機能との関係上、このPCはリビングのテレビに接続するのが妥当と考えるが、そういった意味ではPC業界が古くから進出を目指してきたリビングPCの1つの姿と言っても良さそうだ。
2番目のHDDレコーダは、PCに録画用ソフトを搭載する従来のスタイルではなく、かつてのNECのAXシリーズの流れを汲んだ機能だ。まさに「PC+レコーダ」という表現がピッタリだが、ハードウェア的にも1台の筐体の中に、PC部とレコーダ部が個別に組み込まれており、これによって地上デジタル放送(2系統)、BS/CSデジタル(1系統)を受信し、HDDに録画できるようになっている。
実際、HDDもPC部が320GB、レコーダ部が1TB(もしくは500GB)と2台搭載されており、CPUやOSなども完全に個別構成となっている。おそらく、はじめて本製品を目にした人は「大きい」という印象を持つはずだが(430×360×180mm、15kg)、これはPC+レコーダという構造の影響だ。
ホームサーバーの「Lui SX」。PC+レコーダという構成により、サイズは大きい。リビングへの設置を考慮して静音性にはかなり気が配られている
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最後のホームサーバーが、言わばLuiの真骨頂と言える機能だ。ネットワーク機能によるコンテンツ配信、そして前述したPCリモーターによる遠隔操作などが可能となっている。本コラムでは、この点について詳しく検証していくことにする。
■ コンテンツとクライアントの関係が重要
将来の拡張性の話はさておき、現在のLuiのホームサーバー機能を理解するにあたってのポイントとなるのは、コンテンツとクライアントの関係だ。
Luiの機能を整理すると、コンテンツとクライアントの関係は大きく2つに分けられる。1つは「コンテンツオンデマンド」と表現されているデータの共有だ。Luiのホームサーバー(Lui SX)は、前述したようにPC+HDDレコーダであり、ここには写真、音楽、映像(場合によっては文書なども)などのデータが蓄積されている。これをネットワークで公開し、他の機器からも使えるようにしようという機能だ。
これはDLNAによって実現されている機能で、DigiOnの「DiXiM Media Server for NEC」がLui SXには搭載されており、これを利用してDLNAクライアント(PC、テレビ、ゲーム機)でコンテンツを再生できる。
このサーバーソフトウェアでは、標準でレコーダ部の録画データも公開に設定されており、DTCP-IPに対応したクライアントであれば、録画したデジタル放送もネットワーク経由で再生できる。実際にテストしてみたところ、SONYの液晶テレビ「BRAVIA」の「KDL-20J3000」で問題なく映像を再生できることを確認できた。
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DTCP-IPに対応したソニーの液晶テレビ「BRAVIA KDL-20J3000」で録画した地上デジタル放送を問題なく再生できた
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ただし、前述したようにDiXiM Media Server for NECによってコンテンツが公開されているため、クライアントからコンテンツを参照できるのはOSが起動している場合に限られる。Lui SXは、PC部とレコーダ部が分離されており、PC部がオフ(OSが起動していない状態)でもレコーダー部で録画を実行することができるのだから、録画番組の共有もできるように工夫してもよかったのではないかと少々残念だ。
このほか、「Lui Station/PLAYER」と呼ばれる専用クライアントをPCにインストールすることで、ネットワーク上の他のPCでもLui SXと同じUIで録画予約や番組再生などを行なうことができるが、このアプリケーションは同社製のPCで、かつ対応機種のみにしかインストールできない。このあたりも少々残念だ。
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クライアントソフトの「Lui Station/PLAYER」。他のPCにインストールすればネットワーク経由でLui Stationと同一UIによる録画、再生操作が可能となる
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■ PCリモータを利用したPCオンデマンド
ホームサーバー機能のポイントとなるもう1つの機能が、NECの言うところの「PCオンデマンド」だ。このPCオンデマンドは、リモートデスクトップ、もしくはシンクライアントと考えると非常にわかりやすい。
Luiには、ホームサーバーとなる「Lui SX」に加えて、ノートPC型の「Lui RN(RN700/1C)」とUMPC型の「Lui RP(RP500/1C)」の2つの「PCリモータ」と呼ばれる機器が提供されている。
ノート型のPCリモータ「Lui RN(RN700/1C)」。重量はわずか650gとかなり軽量。IEEE 802.11b/gの無線LANと100BASE-TXの有線LANポートを搭載。Windows CE 5.0を搭載するが、単体アプリはブラウザとソリティアしか利用できない
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B5サイズのノートPC(ThinkPad X61)との比較。横幅はさほど変わらないが、奥行きが短く、圧倒的に薄い
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UMPC型のPCリモータ「Lui RP(RP500/1C)」。タッチパネル搭載の4.1型WVGA液晶モニターを搭載し、スライドさせるとQWERTY配列のキーボードを利用できる
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これらの機器を利用してネットワーク経由で「Lui SX」に接続すると、手元のPCリモーターにLui SXのデスクトップ画面が表示され、ホームサーバーの遠隔操作が可能となる。先ほどのDLNAがコンテンツを配信する機能だとすれば、こちらはPCの画面そのものを配信する機能のため、「PCオンデマンド」と表現されるというわけだ。
ノート型、UMPC型とも、Windows CE 5.0を採用した非常に小型軽量なクライアントのため、ハードウェア的にも面白い製品ではあるが、このクライアントでWindows Vistaが使えるのだから、なかなか興味深い。
同社では、PCリモーターを利用したネットワーク経由での画面操作を「リモートスクリーン」と呼んでいるが、この機能はホームサーバー側に搭載された専用の画像圧縮LSI(リモートスクリーンエンジン)によってハードウェア的に実現されており、高い画質とパフォーマンスを発揮できるのが特徴だ。同社製のサーバー製品にも、遠隔操作用の画像圧縮LSIが採用されていた記憶があるが、この技術が応用されているのではないだろうか。
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設定の流れ。PCリモータから接続設定を開始
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ネットワーク接続設定を行なう
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ホームサーバー(Lui SX)で設定開始。オートログオンの設定をする
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外出先からのアクセス用にメールアドレスを設定
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接続パスワードを設定
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設定情報が相互にやり取りされ設定完了
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実際に試してみたところ、確かに画質は高い。ビデオ出力が映像として転送されてくるため、ホームサーバー側のWindows VistaのAeroによる画面効果などもそのままクライアント側に表示される。
Lui RNでホームサーバーに接続した画面。Windows Vistaのデスクトップがそのまま表示される。Lui Stationを利用して録画予約などもできるが、地上デジタル放送は著作権の問題で再生できない
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Lui RPでの接続画面。全画面表示だと、かなり文字やアイコンが小さい
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画質調整機能の影響で、アイコンのエッジ部分がジャギーに表示されることもあるが、マウスカーソルを移動させて映像を更新すれば、すぐにクリアに表示される。パフォーマンスもホームサーバー側に依存するため、Core 2 Duo T7200(2.0GHz)、ATI Mobility Radeon HD 2600のパワーによって、アプリケーションの起動や動作などは実に快適だ。
もちろん、映像を再生することも可能で、PC上のファイルを再生すれば、それがそのまま端末側に表示される。著作権の関係で、録画した地上デジタル放送の番組などを再生することはできないが、PCに取り込んだデジタルビデオカメラの映像などを楽しむということもできるだろう。
しかしながら確かに画質も高く、画面表示もスムーズなのだが、実際に操作していて軽快感というのがあまり感じられない。その原因は、おそらく入力と画面上の反応のタイムラグにあると考えられる。マウスポインタの移動、キー入力など、ワンテンポとまではいかずないほどではあるのだが、わずかなタイムラグが気になってしまう。
また、ノート型のLui RNに関しては、好みの問題もあるのだが、ポインティングデバイスの操作性があまり良くない。スティックタイプのポインティングデバイスなのだが、倒してもなかなか移動しないかと思えば、急に長い距離を移動するなど、なかなか思うように操作できない。USBポートが用意されているので、外付けのマウスを使って操作することをお勧めしたい。
基本的にはリモートスクリーン専用となるPCリモータ。単体のアプリケーションとしてはブラウザとソリティアだけが利用できる
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■ 公衆無線LAN経由でも利用できる
このようなリモートスクリーン機能は、家庭内だけでなく外出先からも利用できるのがLuiの特徴だ。
フレッツ・スポット、HOTSPOT、BBモバイルポイント、Mzone、livedoor Wireless、FREESPPOTの各接続情報があらかじめプリセットされており(接続先として選択して設定する必要はある)、ブラウザを利用したユーザー認証もサポートされているため、外出先などからも自宅のホームサーバーにアクセス可能だ。
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公衆無線LANの設定情報もプリセットされており、選択するだけで手軽に設定できる
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外出先からのアクセスとなると、通常はダイナミックDNSやポートフォワードの設定などが必要になるが、本製品には、同社製のPCなどですでに採用されいる「セーフコネクト」という機能によって、面倒な設定なく安全(128bitのAES暗号を採用)に外出先からのリモートアクセスを実現できる。
具体的には、メールを利用してグローバルIPアドレスの通知などを行なう。このため、メールアドレスの設定などが必要になるが、これらはすべてPCリモータを接続する際に実行する「PCリモーター初期設定」ツールによって、一連の流れの中で設定できる。
ユーザーから見た場合、PCリモーターを起動して画面の表示に従って、ホームサーバー側のユーティリティを起動、メールの送受信情報の設定、接続パスワードの設定などを行なうだけで、手軽に設定が完了する。
無線LANの接続が手動というのが改善の余地がありそうだが、設定の手軽さという点では完成度は高いと言えそうだ。
なお、外出先からの接続の場合でも、印象としてはLANとさほど変わりなく、PCリモータからホームサーバーを操作することができた。無線LANの電波状況によっては、若干もたつく印象もあるが、これなら飲食店やホテルなどでも十分実用範囲内だろう。
■ 個々の技術は優秀だが利用シーンの想像が難しい
以上、NECのLuiを実際に検証してみたが、レコーダおよびDLNA(DTCP-IP)サーバーとしてなかなか実用的であり、PCリモーターを利用したPCオンデマンドという発想もなかなか面白い印象だ。
画像圧縮LSIによる画質、軽量なクライアントと、技術的に見ても非常に高いレベルでまとまっており、今後、NGNのような次世代のネットワークが家庭に普及したり、WiMAXのようなモバイルインフラが立ち上がるこをとを考えると、未来を一歩先取りした面白い製品と言える。
しかしながら、個人的には未来的すぎて使っている人の姿がまったく想像できない。DLNAによる映像配信は家電側の対応が進んできたので現実的だが、PCリモータに関しては、果たしてこの使い方に共感してくれるユーザーがどこまでいるのかが疑問だ。
本格的な普及の前のビジョナリーへの提案と考えれば納得できなくもないが、リモートデスクトップ、EeePCのようなネット端末、さらにはロケーションフリーなど、Luiでできることに対する代替が皆無ではないだけに、Luiでならなければならないという強烈なインパクトという点では厳しい。本体とPCリモータを含めて総額40万円以上という価格も気になるところだ。
ホームサーバーという市場でNECが先駆者として立ち上がったことは高く評価したい。ただし、ユーザーが誰もついてこなかったという自体を避けるためにも、Luiによるライフスタイルや提案に加え、ユーザーの理解を深めるための活動を期待したい。
■ URL
製品情報
http://121ware.com/lui/
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2008/05/20 11:27
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