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第294回:デジカメ写真を「撮る」「貯める」から「見る」「飾る」楽しみへ
ソニーの無線LAN対応デジタルフォトフレーム「Canvas Online VGF-CP1」


 ソニーから無線LAN対応のデジタルフォトフレーム「Canvas Online VGF-CP1」が発売された。PCやNASにため込んだ写真を手軽に見ることができ、情報端末としての一面も備えたユニークな製品だ。ホームネットワークの新しい形として注目に値する同製品の使い心地を実際に検証した。





明快なコンセプト

無線LAN搭載フォトフレーム「Canvas Online CP1」
 何か新しいコンセプトの製品が登場したとき、特にそれがホームユースを想定した製品である場合、筆者はできるだけ妻の意見を聞くことにしている。

 たいていの製品の場合、「これ何?」という反応から始まって、使い方を説明しても「ふーん」で終わる。こういうときは、使い方がよくわからなかったか、まったく興味がなかったかのどちらかだ。

 少し興味をそそられると、「こういう使い方はできるの?」と具体的な機能について聞いてくる。こういう反応のときは、筆者から見てもなかなか面白い機能の製品が多い。

 しかし、今回ソニーから発売された無線LAN対応のフォトフレーム「Canvas Online CP1」で写真を再生して見せたときは、これまでとはまったく違う反応が返ってきた。いきなり「いくら?」と聞いてきたのだ。

 3万円という値段を伝えると、「うーん」と考えるそぶりは見せたが、「どの写真を表示できるのか」「線はつなぐのか」「メモリカードを入れなくてもいいのか」と根掘り葉掘り質問攻めに合った。写真と一緒に音楽を再生してみせると相当に気に入った様子で、自らどこに置こうかと考え始めたほどだ。

 筆者が知る限り、これほど我が家の妻に評判がよかったデジタル機器はこれまでになかった。それほどまでに、製品のコンセプトが明快だったのだろう。


リビングに設置したCanvas Online CP1




写真、音楽、ニュースを表示可能

 CP1は、デジタルカメラの写真を表示できるフォトフレームだ。7インチ、800×480ピクセルの液晶ディスプレイを搭載し、メモリーカードスロット(メモリースティック/PRO、メモリースティック Duo/PRO Duo、SD/SDHCカード、コンパクトフラッシュ)、および本体の内蔵メモリ(100MBのうち画像用85MB)に保存された写真を表示できる。


本体正面 本体背面 本体側面

 いわゆるデジタルフォトフレームと呼ばれる同様の製品は、すでにさまざまなメーカーから発売されているが、今回の製品の最大の特徴はIEEE 802.11b/gの無線LANに対応している点だ。これにより、ネットワーク上のPCやサーバーに保存されている写真を表示することが可能なだけでなく、インターネットとの連携機能まで搭載されている。

 具体的にどのような機能が利用できるのかというと以下の通りだ。大きく3つのコンテンツをさまざまな通信形態で再生できる。

写真 Vaio Media
DLNA
Samba
インターネット
(Picasa/フォト蔵)
音楽 Vaio Media
DLNA
情報 RSS
CP1のコンテンツ利用形態


 使い方は手軽だ。まずは、無線LANだが、AOSSに対応したアクセスポイントを利用している場合は、本体での設定開始後、アクセスポイント側のボタンを押して接続するだけで利用できる。AOSS以外の場合は手動設定となるが、SSIDは自動検出でき、暗号キーもリモコン(もしくは本体のボタン)とスクリーンキーボードを利用して設定できるので、さほど手間はかからないだろう。


内蔵のIEEE 802.11b/g無線LANによって、LAN内のPC、NAS、さらにはインターネット上のサービスと連携可能。設定はAOSSまたは手動

 物理的な接続設定が完了したら、電源を入れて写真の保存先を参照すると、付属の「Vaio Media」をインストールしたPCやネットワーク上のDLNAサーバーが自動的にリストアップされ、フォルダから写真を選べば再生できる。これで1枚ずつ写真を見るというビューワ的な使い方ができる。


LANに接続すると、LAN内のDLNAサーバーが自動的に表示される。Sambaやインターネット上のサービスに関しては接続設定が必要
付属のVAIO MediaもしくはDLNAサーバーが存在する場合は、写真をすぐに再生できる

 もちろん、自動的に写真を表示することも可能だ。写真が保存されているフォルダを選んでから「アルバム」を作成すれば、フォルダ内の写真をスライドショー形式で表示できる。画面の右から左へとゆっくり写真を切り替えながら、ときどきその上を早めに別の写真が横切るといったように、なかなか凝った演出も設定できるようになっており、眺めているだけでも面白い。

 前述したようにスライドショーに合わせて音楽を再生することも可能で、こちらもDLNAサーバー上の音楽を再生できる。どちらも複数の音楽をアルバムとして登録することが可能だ。

 思い出の曲に合わせて、娘が小さかったころの写真をスライドショーで再生したりすれば、思わず「大きくなったなあ」なんてホロリと来る。


ソースとなる写真の保存場所(DLNAサーバーのフォルダなど)を指定してフレームを作成すると、写真をスライドショーとして表示可能
再生の様子(動画)





コンテンツの新しい出口

 このようなCP1の製品としての存在価値は、個人的には3つあると考える。1つはコンテンツの出口としての提案だ。

 デジタルカメラの普及でPCやサーバーに何百枚、何千枚と写真が保存されている人も多いことだろう。しかし、その写真をどれくらいの頻度で見ているか? といわれると、ほとんど見ていないという人も少なくないはずだ。

 つまり、写真の場合は「撮る」「貯めるという使い方は一般化しているものの、アウトプットとしての「見る」という楽しみ方があまり一般化していないのだ。もちろん、印刷する、オンラインアルバムに保存するといったソリューションは存在するが、これも見て楽しむというよりは保管や第三者に渡すという用途が主であり、個人的に楽しむためのアウトプット手段ではない場合が多い。

 これに対して、フォトフレームは写真を眺めて楽しむことができるデバイスであり、いわばコンテンツの新しい出口となっているわけだ。

 我が家の娘は7歳で、今年小学2年生になるが、今回CP1を使ったことで、ストレージの奥底に7年間たまっていた写真が、久しぶりに日の目を見た。

 撮って、ためる。これまで主に2ステップだった写真の楽しみ方が、「見る」もしくは「飾る」という3ステップになるのだから、この意義は非常に大きいだろう。

 もちろん、ネットワーク経由だけでなく、メモリカードの写真を表示することもできるので、外出先で撮った写真を見るといった単純な使い方もできる。ネットワークやDLNAによる接続がわからないような初心者層でも手軽に楽しめるのはありがたい。


底面にメモリカードスロットを用意。CF、メモリースティック、SDカードの写真も再生できる




テレビ、PC、携帯に次ぐ第4の情報端末

 コンテンツの出口という価値に加え、筆者が考えるCP1のもう1つの価値は、新しい情報端末としての使い方ができる点だ。

 前述したように、CP1ではRSSによるニュースの表示が可能となっている。標準では、「Yahoo!ニュース・トピックス」「Yahoo!天気情報」がプリセットされているが、これらを写真と一緒に表示しておくと、ちょっと気になったときにすぐに最新のニュースや天気を確認することができる(時間も表示可能)。


RSSによってインターネット上のニュースなどをティッカー表示可能
ブラウザ(Opera)も搭載しているため、RSSからニュースの詳細を表示することもできる

 ほのぼのとした子供の写真の下に、凶悪な犯罪のニュースなどが表示されてしまうとかなりミスマッチになってしまうのが難点だが、きれいな風景写真のスライドショーに時刻や天気などを組み合わせれば、ちょっとしたインテリアを兼ねた情報端末として通用する。

 こういった情報端末があると便利ではないかという提案は、ことあるごとに本コラムでも主張してきたが、こうして現実のものとして登場した製品を使ってみると、やはり便利だと感じる。時計やカレンダーを見るような感覚でフォトフレームにふと目をやれば、写真と一緒に天気やニュースなどの実用的な情報も手に入れることができる。

 テレビ、PC、携帯電話に次ぐ第4の情報端末としての普及も期待できそうだ。





写真によるコミュニケーション

 さらに、もう1つ、CP1が提供する新しい価値としては、写真によるコミュニケーションができる点が挙げられる。

 CP1はGoogleの「Picasa ウェブ アルバム」ウノウの「フォト蔵」に対応しており、PCからアップロードした写真を表示できる。これにより、ンターネット経由で第三者に写真を見せる、もしくは第三者の写真を見ることが可能となる。

 まずは見せる方法だが、これは単純で、見せたい人にCP1を使わせれば良い。たとえば実家の両親にCP1をプレゼントし、インターネット上のフォトアルバムから写真を表示するように設定しておく。この状態で、自宅から子供の写真をアップロードすれば、その写真が自動的にCP1に表示され、実家の両親に見せることができるというわけだ。

 撮影した写真を印刷して送るとなると手間、かといってインターネット上のアルバム共有サービスを使ってもらうことも期待できないなどという場合に便利だろう。


GoogleのPicasa、ウノウのフォト蔵に対応。メールアドレス(ID)とパスワードを指定すれば接続できる

 続いて、これが実に面白いのだが、第三者の写真を見る方法だ。具体的にはCP1のシェアフレームの活用方法だ。シェアフレームというのは、CP1の画面を最大4つのフレームに区切り、各フレームを別々のユーザーで共有する方法だ。たとえば、シェアフレームに、自分のPicasaのアルバム、Picasaで共有されている友人のアルバム、フォト蔵のアルバムの3つを登録したとしよう。

 すると、画面の左上には自分のPicasaのアルバム、右上に友人の共有アルバム、右下にフォト蔵のアルバムが同時に表示される(3つの場合、あまった部分には時計が表示される)。要するに、自分の写真だけでなく、友人が撮影した写真までも楽しめるというわけだ。



 正直、こんな使い方があるとは思いもよらなかった。友人が共有アルバムに写真をアップロードすれば、それが自動的に表示される。毎日更新されるというのは希ではあるが、まるでブログでも見ているかのように、フォトフレーム経由で友人の姿、写真を撮影したときのストーリーが思い浮かんでくる。これは実に面白い。

 離れたところに住む家族、恋人同士で使うなどというのにももってこいだろう。別々の場所で平行して進む生活が、まるでシェアフレームによってつながっているかのようにシンクロする。しかも、この“つながり”が物言わぬ写真で実現されているというのが絶妙だ。文字や音声のような直接的なコミュニケーションではないため、かえって想像力がかき立てられる。この何とも言えない「ゆるやか感」が非常に良い感じだ。

 ハードウェア、ソフトウェア、サービスと、現状あるものを組み合わせることで単純に何ができるかを考えたのではなく、どうすれば「楽しいか」が徹底的に考え抜かれている印象だ。テクノロジーによるライフスタイルの提案とは、こうあるべきというお手本のような製品だろう。

 なお、CP1では、写真の表示だけでなく、Picasaやフォト蔵への写真のアップロードも可能となっている。たとえばPicasaの場合、あらかじめメールアドレス(ログイン用のID)とパスワードを設定しておき、スロットにメモリカードをセットする。すると、メモリカードのデータが表示されるので、アップロードしたい写真(もしくはフォルダ)を選択する。その後、アップロード先となるPicasaのアルバムを指定すれば、そこに写真がアップロードされることになる。

 インターネット上のサービスを利用するため、写真の表示、アップロードに若干時間がかかるのが難点だが、これによりインターネット上のサービスがより身近になった印象だ。





一家に1台お勧めしたい製品

 当初、本製品にはさほど期待しておらず、とりあえず新製品でネタになりそうだからという理由で購入したが、フタをあけてみると、実に多機能であり、いろいろな使い方ができるのに驚いた。しかも、単に多機能なだけでなく、それぞれの機能の目的やメリットが明確で、メーカー側が提案するCP1があるライフスタイルがきちんと利用者に伝わってくる点がすばらしい。

 無線LANによる接続、DLNA対応NASの利用、インターネット上のフォトアルバムと、各機能の敷居が若干高いのは事実だが、設定なども手軽にできるように工夫されているため、少なくともPCやデジカメを使いこなせているユーザーであれば、十分にCP1の世界を楽しむことができる。また、タイマーによる自動起動なども搭載されており、実用シーンを想定したさまざまな配慮がきちんと盛り込まれている。


タイマーによる自動起動/終了など、実際の利用シーンを想定した機能がきちんと実装されている

 特に写真によるコミュニケーションというスタイルを提案している点には感心した。もちろん、写真を見たくなるような友人などがいない場合も考えられるが、アイドルのブログ写真、美しい風景、動物の写真、ニュースの写真など、コンテンツビジネスとしての可能性も大いに広がる。

 技術的、機能的な面白さと、実用的な面白さが一致する製品というのは非常に珍しいのだが、本製品はまさにそんな製品の1つで、個人的に使ってみて率直に楽く、便利だと感じた久しぶりの製品だ。一家に1台あって損のない、むしろ積極的に使ってみてほしい製品と言える。


関連情報

URL
  製品情報
  http://www.vaio.sony.co.jp/Products/CP1/

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2008/05/27 11:09

清水理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ
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