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第324回:携帯電話で音楽や動画を手軽に楽しめる「au BOX」
KDDIが提案する新コンセプトのSTB


 音楽・映像配信サービスの利用や携帯電話との連携が手軽にできるSTB「au BOX」の提供が昨年11月に開始された。筆者も個人的に申し込みをした端末が到着したので、その使用感をレポートしていこう。





好調なスタートを切った「au BOX」

au BOX
 昨年末のニュースで恐縮だが、auが提供する「au BOX」の契約数が2008年12月26日付けで10万台を突破した。

 「au BOX」は、テレビに接続して利用するSTBタイプの機器で、音楽CDのリッピング/再生と携帯電話への転送、LISMOの音楽・映像配信サービスの利用ができる専用端末だ。サービスの開始は昨年11月だが、そこから約2カ月で10万台を突破したのだというのだから、意外と言っては失礼だが、かなり好調なスタートと言えるだろう。

 製品に関しては、すでにさまざまな媒体で紹介されており、僚紙「ケータイWatch」で法林氏が詳細なレポートを掲載されているので(「手軽にLISMO Videoを楽しめるau BOX」)、こちらも参照していただきたいが、このau BOXはブロードバンド向けサービスという観点で見ても、なかなか興味深い製品となっている。

 まず、「au BOX」って何? という人向けに、この端末でできることを以下に紹介しておこう。
  • 音楽CD・DVDの再生
  • 音楽CDの取り込みと携帯電話への転送
  • 「mora for LISMO」からの音楽購入と転送
  • 「LISMO Video」からの映像購入と転送
  • 「ひかりone TV」の利用
  • 「au one」の利用(Webページの閲覧)
 最初の2つが端末と携帯電話のみで利用できるオフラインの機能で、残りの4つがインターネット接続を利用するオンラインの機能だ。実際にauの携帯電話を利用している人であれば、ピンと来るかもしれないが、若干の機能の違いはあるものの、要するにこれまでPC向けのソフトウェアとして提供してきた「LISMO Port」をSTB化したものと考えるとわかりやすい。

 「わざわざPCでできることをSTBでしなくても……」、と思う人も少なくないかもしれないが、1人1台の携帯電話と比べると、そもそもPCを持っていないという人も少なくない。また、若年層を中心に家族で共有のPCを利用しているため自由に使えないという人も存在する。

 筆者もそうなのだが、PCは持っていてもLISMO Portはインストールしていないというケースも存在する。LISMO Portを利用しない理由は、そもそも知らない、使い方がわからない/面倒、興味がない、PCに余計なアプリケーションを入れたくないなど、さまざまな理由が考えられ、筆者は最後の口なのだが、要するに普及にさまざまな障害が存在している。

 この状況を、専用のSTBを提供することで打開しようというのが、au BOXの狙いなのだろう。





「なるほど」と思わせる良いさじ加減

「au BOX」。テレビに接続して利用するSTBタイプの端末。携帯電話への音楽転送や各種オンラインサービスが利用できる
 というわけで、携帯電話から申し込みをして(auショップでも申し込み可能)実際に使ってみたのだが、全体の印象としてまず感じたのは、その絶妙な「さじ加減」だ。

 正直な話、製品自体の欠点を挙げようとすれば、遅い、UIの見栄えが貧弱、容量が少ないなどなど、いくらでも挙げることができる。特にスペック重視のPCユーザーの視点で見ると、逆に欠点しか見えてこない。

 しかし、前述したように、PCを持っていない、もしくは何らかの理由でLISMO Portを使っていない人の目線で製品を見てみると、「悪くない」と素直に感じさせられる印象を受ける点も多い。

 まず「なるほど」と感心したのは、その料金だ。

 本製品はauの携帯電話を利用しているユーザー向けにレンタルで提供されるのだが、その価格は月額315円となっている(13カ月以内の解約の場合、5,250円の契約解除手数料が必要)。

 もちろん、携帯電話自体の料金も必要だが、ハードウェアのレンタルとしてはかなり低価格で、イメージとしては携帯電話の月額制のコンテンツサービスと同じような感覚で利用できる。これが月額525円と言われると、ちょっと考えたくもなるが、315円となるとはじめの一歩も踏み出しやすい絶妙な価格と言えるだろう。





すぐに使える

 続いて「なるほど」と感心したのはその手軽さだ。

 この手の製品で、一般的に利用の障害になるのは最初のセットアップだが、手軽にできるようになかなか工夫されている。

 物理的な接続は、必要最低限の機能の場合、テレビとはAVケーブル(S端子接続も可)で、携帯電話とはUSBケーブルで接続し、電源を入れるだけで良い。これで、音楽CDやDVDビデオを再生したり、音楽CDからの音楽の取り込み、さらに携帯電話への音楽の転送までが可能となる。


au BOXの正面。シンプルなデザインの筐体だ
背面に携帯電話音声入力、ビデオ入力/出力端子、USBポート×2、LAN端子を備える

 もちろん、音楽CDの楽曲情報を入手するためにはネットワークに接続しておく必要があるのだが、「手持ちのCDをケータイで聞ければOK」と割り切ってしまえば、無理にネットワークにつなぐ必要はない。

 固定電話はもちろんのことブロードバンド環境も家にはない……、回線はリビングのパソコンにはつながっているけど部屋には引かれていない……、そういったユーザー層こそターゲットにしている「au BOX」だが、この割り切り方はなかなか思い切りが良い。

 初期設定も、携帯電話の登録、接続するテレビの画面比率のみとなっており、比較的短時間で設定できる。


初期設定は携帯電話の登録(ロックNoの入力)とテレビの設定程度と簡単
au BOXのトップページ

 もちろん、前述した音楽CDの情報取得に加えて、「mora for LISMO」「LISMO Video」を利用する場合はネットワークへの接続と設定が必要だが、これも基本的にはLANケーブルをつなぐだけで利用できる。

 「できればネットワークにつないで欲しいけど、つながなくても良いよ」という控えめさを感じさせる製品だ。

 なお、同じことをPCでやろうとすると、実は面倒なことが多い。前述したようにPCの場合、LISMO Portを使うが、USBドライバを入れてからソフトをインストールする必要があったり、さらにLISMO Videoのサービスを利用するには著作権保護機能に対応した環境(HDCP接続、COPPドライバ)なども考慮しなければならない。

 このような面倒なことを考えずとも、テレビとネットにつなぐだけで、数分で使えるのだから、au BOXは確かに手軽だ。





CDの音楽を手軽に携帯電話に転送できる

 実際の使い方も簡単だ。音楽CDからのリッピングは、本体前面のイジェクトボタンを押してトレイにCDをセット。すると、自動的に画面が切り替わり、「CD/DVD再生&CD取り込み」画面が表示される。

 メニューから「CD取り込み&ケータイ転送」を選ぶと、ネットワークに接続している場合は自動的にCDDBから楽曲情報が取得され、取り込み画面が表示され、リモコンの再生ボタンを押して取り込みを開始すれば、あとは放っておくだけで良い。CDからATRAC3plusの64kbpsで音楽がリッピングされ、本体メモリに保存される。

 取り込みが完了したら、表示されたメニューで「ケータイに転送」を選べば、USBケーブルで接続した携帯電話へと自動的に転送できる。


トレイにCDをセットすると自動的に取り込み画面が表示される。あとは画面を見ながら操作を進めるだけで迷わずリッピングと転送が完了する


トレイにCDをセットすると自動的に取り込み画面が表示される。あとは画面を見ながら操作を進めるだけで迷わずリッピングと転送が完了する

 一旦取り込んだ後に転送する場合は、ミュージックライブラリからの操作となるため手順は変わるのだが、通常はCDをセットしたら、後は画面のメッセージに従って操作するだけ。これで、音楽を携帯電話へと転送できる。

 迷いようがないほど簡単だ。速度は若干遅いのだが、PCを起動してケーブルでつないでという手順に比べればはるかに手軽だろう。

 ただし、本体メモリ1GBのうち、ユーザーが利用できるのは200MB弱のため、CDで換算すると10枚分保存できるかどうかという容量となっている。ミュージックライブラリとして使うには、少々物足りないところなので、携帯電話に転送したらau BOXから削除すると言ったように、あくまでも携帯電話に転送するための一時保管場所と考えると良さそうだ。





メリハリの効いたUI

 「なるほど」という感覚は、メリハリの効いたオンラインのサービスの操作性でも感じさせられることが多い。

 前述したように、au BOXでは、「mora for LISMO」、「LISMO Video」にインターネット経由でアクセスして音楽やビデオを購入することができるのだが、これらのうち特に「mora for LISMO」では、別の端末か? と思えるほどUIが一変する。

 au BOXのUIは、正直、あまり完成度は高くない。シンプルなデザインと言えば聞こえは良いが、メニューは味気なく、ボタンも文字が四角で囲まれているだけだ。操作感も機敏性に欠け、ボタンを方向キーで選んで押すというスタイルも、いかにもSTB的で、携帯電話のUIのノウハウが活かされているとも思えない。

 しかし、mora for LISMOにアクセスすると、これが一変する。トップページにはランキングや新着の楽曲のアルバム写真が表示され、メニューもグラフィカルで大きなアイコンを使ったわかりやすいものとなる。


mora for LISMOのトップページ。同じSTBとは思えないほど凝ったUIに変化する

 ランキングや新着で楽曲を選べたり、検索ではテレビで放送されているドラマ主題歌やCMソングなども手軽に検索できるようになっている。しかも、リストから楽曲を選べば自動的に音楽が再生されてすぐに試聴できるなど、感心するほど使い勝手が良い。

 音楽の購入も実に簡単だ。決済は携帯電話の料金と一緒に請求される「まとめてau支払い」を利用できるため、ユーザーに求められる操作は、携帯電話の接続とauプレミアムパスワードの入力のみとなっている。

 映像、音楽配信サービスの多くは、クレジットカードを登録してそれを決済に利用する場合が多いが、通信に若干時間がかかるものの、手軽さという点ではこちらの方法もなかなか良い。今後は、こういった決済方法の活用も増えてくるのではないだろうか。


音楽の購入手続も簡単。携帯電話の料金と一緒に支払うことができるため、接続した携帯電話経由で決済するだけで良い


 要するに、au BOXの場合、ユーザーがよく使う機能(もしくはユーザーに使って欲しい機能)に関しては、徹底的に手軽さや利便性が追求されており、そうでない部分は良い意味で手が抜かれているわけだ。

 もちろん、すべての面で利便性や快適さが実現されているのが理想だが、au BOXというハードウェアのリソースに制限がある以上、どの部分にパワーを掛けるかというのは、言わばメーカー(担当者)の腕の見せ所というところになる。この製品ではそのバランスが実にうまく取られており、感心させられる。

 使っていて、ストレスを感じるSTBというのは、このバランスが悪く、あらゆるシーンでユーザーに無理を強いることがあるのだが、au BOXの場合、よく使う機能に関しては、この無駄がない。貧弱なスペックのSTBながら、ストレスをあまり感じないのは、このおかげだろう。





映像配信サービスとしても手軽に利用できる

 最後に、「なるほど」と感心したのは、au BOXが提供する付加価値だ。

 テレビCMなどから得られるau BOXの第一印象は、ほとんどの場合、携帯電話に音楽を転送するための機器というものだろう。実際、これはその通りで、前述したようにau BOXの機能も、音楽の取り込みや購入、転送で、いかにユーザーにストレスを感じさせないかが工夫されている。

 しかし、実際に使ってみると、音楽だけでなく、映像の機能、つまり「LISMO Video」もなかなか面白いサービスであることに気がつく。


LISMO Videoを利用すると、映画やドラマなどの映像コンテンツをオンラインで試聴することができる


 映画やアニメ、ドラマ、お笑いなど、さまざまなジャンルの映像をダウンロードできるようになっており、基本的にはダウンロードした映像を携帯電話に転送して試聴するサービスとなっている。

 コンテンツの価格は作品によって異なるが、105~525円程度で、ダウンロードした映像は72時間程度(作品によって異なる)の時限で楽しめる。

 映像を携帯電話で楽しむ場合、個人で楽しむだけだけでなく、お気に入りの映画やクリップを常に身に付けておきたいとか、「これ面白いよ」と他人に勧めたくなるという欲求もあり、一定期間しか見られない「時限」というのはあまり馴染まないのではないかと個人的には思っていた。

 しかし、au BOXでは、このLISMO Videoを、ストリーミングでそのままテレビで楽しむことができる。つまり、「アクトビラ」や「ひかりTV」などの映像配信サービスと同じ感覚で利用できるわけだ。こうなると、映像は見たいときに見れば良いので、時限でもまったく気にならない。

 再生時に「標準画質」を選択すると、コンテンツによっては画質が気になることがあるが、高画質なら、画質を気にせずドラマなども楽しむことができるだろう。

 また、KDDIの光ファイバを利用したインターネット接続サービス「ひかりone」を利用しているユーザーは、この映像配信サービスである「ひかりone TV」のSTBとしても、au BOXを利用できる。

 正直、当初は「この機能は不要なのでは?」とも思っていたのだが、LISMO Videoで映像配信サービスを体験したユーザーの「もっと」という要求に応える道筋を示すという点では、確かに意味がある機能と言える。ユーザーに映像配信サービスを体験してもらうための第一歩を、au BOXという手軽な環境で提供するというのは、なかなか良いアイデアと言えそうだ。





月額315円の価値は十分にある

 このほか、同社ではau BOXユーザー向けに、DVDマガジン「U.」も配布している。送られてきたDVDをセットすると、自動的にメニュー画面が表示され、音楽や映像コンテンツのおすすめ情報に加えて、DVDで再生可能な映像コンテンツを楽しむことができる(ファームのアップデートDVDも同時に配布される)。

 2008年末に配布されたNo.001では、au「LISMO」のCMソングのミュージッククリップ、海外ドラマの第1話などが収録されていた。



 これも、「なるほど」と感心するが、こういった定期刊行物の提供によって、ユーザーに定期的にau BOXを使ってもらう工夫をしているわけだ。

 ユーザーに配布したは良いが、そのままホコリをかぶってしまうのでは意味がない。しかし、U.をきっかけに、定期的に電源を入れてもらうことができれば、そこから音楽や映像の購入へとつながる可能性も高くなる。

 というわけで、au BOXは、実際に使ってみるとなかなか便利で楽しめる端末に仕上がっている製品だ。音楽CDのリッピング用としてだけ使うのはもちろんのこと、DVDマガジンが送られてくるだけでも月額315円の価値は十分にあるので、auユーザーなら申し込んでも損のないサービスと言えるだろう。


関連情報

URL
  au box
  http://www.au.kddi.com/pr/aubox/

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清水理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ
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