Broadband Watch logo

第38回:フレッツ・ADSL モア開通
~NTT東西の12Mbpsの実力はいかに?~


 筆者宅に導入していたフレッツ・ADSLが、8Mbpsから12Mbpsのフレッツ・ADSL モアへと移行された。これで、既設のYahoo!BB 12Mとアッカ・ネットワークスの12Mbpsを加え、3つの12Mbps方式がそろったことになる。果たして、その実力はどれほどのものなのだろうか? 早速、テストしてみた。





オーバーラップではなくフルビットローディングで12Mbps化

フレッツ・ADSL モアに対応したADSLモデムMNII
 12Mbpsサービスとしては、大手ではもっとも遅れてスタートしたNTTのフレッツ・ADSL モア。筆者宅でも12月初旬に8Mbpsから12Mbpsへの移行が完了し、ようやく使える状態となった。これで、現在採用されている異なる3つの方式のADSLをほぼ同じ環境に導入できたことになる。果たして各社の違いはどれほどあるのだろうか?

 まず、フレッツ・ADSL モアのしくみについておさらいしておこう。現状、ADSLで12Mbpsを実現する技術は大きく2つに分けられる。オーバーラップを使う方式と使わない方式の2つだ。オーバーラップを採用する事業者としてはYahoo! BB、アッカ・ネットワークスが存在し、オーバーラップを採用しない事業者としてイー・アクセス、そして今回のNTT東西が存在する。

 もちろん、Yahoo! BBとアッカ・ネットワークスに関しては、その方式がAnnexAとAnnexCという違いがあり、さらに本コラムでも以前に触れたようにアッカ・ネットワークスはDBM OLやXOLなど複数の方式を切替えるという複雑な方式を採用している。このため、厳密に分類するならば、Yahoo! BBのAnnex Aオーバーラップ、アッカ・ネットワークスのDBM OL+XOL、そしてイー・アクセス、NTT東西のオーバーラップなしという3つの方式とするのが正確だろう。

 では、他社と違ってオーバーラップを利用しないのに、なぜ12Mbpsという高速な速度が実現できるのだろうか。これには、イー・アクセスとほぼ同様に、センティリアム・コミュニケーションズ社のeXtreme DSL技術が採用されている。ADSLでは、理論上、ひとつのサブキャリアで最大15bitのデータを転送できる仕様となっている。しかし、これまでは距離による減衰やノイズの影響、エラー訂正などのためのデータ確保のため、実質的に11~12bitのデータしか伝送できなかった。eXtreme DSLでは、ここにS=1/2技術やトレリスコーディングなどの新しいエラー訂正技術を投入することで、最大のデータ伝送量を15bitになるべく近づけるフルビットローディングを実現している。これにより、12Mbpsという速度を実現しているわけだ。

 このようなフルビットローディングの考え方は、アッカ・ネットワークスなどでも一部採用されているが、エラー訂正にトレリスコーディングを採用しているのは、現時点でNTT東日本/西日本とイー・アクセスのみとなる。





速度の向上は450kbps程度と控えめ

 では、このようなフレッツ・ADSL モアは、実際にどれくらいの実力を持っているのだろうか。筆者宅で8Mbps時と12Mbps時のデータを比較してみたところ、リンクアップ速度でこれまでの2048kbpsから約450kbpsほど速度が向上し、2464kbpsでリンクアップしていることが確認できた。筆者宅はNTT収容ビルからの距離が2.7kmで、伝送損失が39dB(NTTの線路情報ベース。実際には47dBほどもある)ため、あまりADSLに向いた環境とは言えないが、それでも12Mbpsに変更することである程度の速度向上が見られたことになる。


フレッツ・ADSL 8M時の回線状況。下りは2048kbps、上りは832kbpsでリンクアップしている

フレッツ・ADSL モア(12Mbps)の回線状況。上り、下りとも速度は向上しており、2464kbpsと450kbps程度の速度向上が見られた

 もちろん、450kbpsの速度向上が実質的な効果があるのかという議論もあるが、筆者宅のように2Mbps前後の速度の環境では、この数百kbpsの向上がかなり大きな意味を持ってくる。現状、インターネット上では1Mbps程度のストリーミングが提供されることが珍しくないが、リンクアップ速度で2Mbpsを切るような環境では、1Mbpsのストリーミングを快適に再生できるとは言い難い。実際、これまでのフレッツ・ADSL 8Mでは、映像が途切れたり、ビットレートが落とされて再生されることも珍しくなかった。

 しかし、12Mbpsに移行後は、このような問題は発生せず、1Mbpsのストリーミング映像も快適に再生できるようになっている。現状、2Mbps以上の速度が実現されている環境では、確かに450kbpsの向上にあまり意味はないが、環境によってはこの速度向上が大きな意味を持ってくる良い例と言えるだろう。

 ただし、他社の回線と比較すると、この450kbpsという速度向上はかなり控えめなようだ。筆者宅に敷設している3つの回線を8Mbps時と12Mbps時で比較してみると、アッカ・ネットワークスの回線のように1Mbps以上の速度向上が見られるケースも確認できる。また、Yahoo!BBはリンクアップ速度をユーザーが参照することはできないが、実効速度で2.5Mbps前後とかなり高い速度を実現していることがわかる。

ADSLの方式によるリンクアップ速度の違い
ADSL回線 通信タイプ 下りリンクアップ速度
(kbps)
上りリンクアップ速度
(kbps)
下り実効速度
フレッツ・ADSL 8M 2016 832 1824
12M 2464 864 2101
アッカ・ネットワークス 8M 2304 992 1991
12M 3680 1024 3081
Yahoo! BB 12M - - 2602

 もちろん、この結果は筆者宅という限られた環境であり、同一カッドに収容された全く同じ回線でテストしていないことも考えると、この結果がすべてとは言えない。しかし、単純な比較ではフレッツ・ADSL モアの速度はかなり控えめだと判断せざるを得ない。技術的な面から見れば、一概にオーバーラップの方が優れているとも言い難いのだが、結果としては多少残念だ。





モデム変更の効果もごくわずか

フレッツ・ADSL モア対応の社外品ADSLモデムNTT-ME「MN7320
 なお、上記の結果は、NTT東日本からレンタルで提供されたADSLモデムMNIIを利用して計測した値となる。そこで、モデムを変更した場合に結果が変わるのかも検証してみた。

 今回、テストで利用したのは、NTT-MEから販売されている「MN7320」というADSLモデム内蔵ルーターだ。この製品の最大の特徴は、国内で初めてBroadcom社製のADSLチップを採用している点だ。NTT東日本のフレッツ・ADSL モアでは、前述したようにADSLモデムや収容局のDSLAMにセンティリアム・コミュニケーションズ社のADSLチップを採用しているが、この製品では他社チップでありながら互換性が確保されており、フレッツ・ADSL モアでも利用可能となっている。

 早速、フレッツ・ADSL モアの回線に接続してみたところ、実際に何の問題もなく利用できた。速度も大きな変化などは見られず、下りで2496kbps、上りで864kbpsという結果となった。わずかに下りの速度が向上しているが、ほぼ誤差と言える範囲の値で、劇的に速度が変わるというものではなかった。


MN7320接続時のリンクアップ速度。わずかながら速度が向上していることが確認できる

MN7320では、回線の状況を詳細に参照することができる。ビットマップなどの表示も可能だ
ADSLモデムによるリンクアップ速度の違い
  下りリンクアップ速度
(kbps)
上りリンクアップ速度
(kbps)
ADSLモデムMN II 2464 864
MN7320 2496 864


 ADSLモデムのインターオペラビリティ(相互接続性)は、8Mbps時に事実上頓挫した経緯もあり、12Mbpsという複雑な方式はほぼ不可能だと見られていた。しかし、MN7320の接続結果を見る限り、現時点で、しかもセンティリアム・コミュニケーションズ社とBroadcom社の間であれば特に問題がないようだ。センティリアム・コミュニケーションズ以外のチップを採用する事業者となると、オーバーラップなどのからみがあるため、また難しい問題となるが、これなら互換チップを採用したADSLモデムでも安心して利用できそうだ。

 ただし、これはあくまでも現時点での評価という点に注意してほしい。12Mbps ADSLはまだサービスが開始されたばかりであり、今後、ADSLモデムのトレーニング方法が変更されたり、DSLAM側でのチューニング方法が変更される可能性もある。事業者としてみれば、自社で提供しているモデムを利用していることを前提に、これらの仕様変更を行なっていくと予想できるため、その変更にMN7320のような互換チップ搭載機が、今後、どこまで対応するかは、はっきり言ってわからない。事業者側が変更内容を公開するとも思えないので、それに対応できなければ、将来的にインターオペラビリティが確保できなくなったり、速度の向上が見られなくなるなどの可能性もある。このあたりは、発売元であるNTT-MEにしっかりとした対応を期待したいところだ。





500kbps向上なら事実上は何の問題もない

 このように、他の回線と比較した場合、多少控えめな速度となったフレッツ・ADSL モアだが、現実的に考えれば、ほぼ問題はないと言えるだろう。品質や安定性も高く、切断されたことなども開通以来一度もない。

 問題は、速度向上の幅をどう考えるかだろう。確かに単純な値を見れば他社の方が有利だ。しかし、前述したように、現実問題としては、ある一定の速度が現時点で実現できているのであれば、そこに500kbps上乗せされようが、1Mbps以上上乗せされようが、実際の使い心地には大ききな変化はない。それであれば、品質や安定性などを基準にサービスを選ぶという方が賢いだろう。そういった意味では、今回のフレッツ・ADSL モアは十分に満足のできるサービスと言えるはずだ。


関連情報

URL
  フレッツ・シリーズ(NTT東日本)
  http://www.ntt-east.co.jp/flets/

関連記事
第33回:アッカ・ネットワークスの12Mbps ADSL開通
オーバーラップの効果は如何に?

第22回:Yahoo! BB 12M開通!
他のADSLへの影響はいかに


2002/12/17 11:09

清水理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ
Broadband Watch ホームページ
Copyright (c) 2002 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.