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第83回:IEEE 802.11a/b/g同時通信の実力は?
アイ・オー、バッファローの新製品2機種を比較する


 アイ・オー・データ機器、およびバッファローから、無線LANの1つの完成形とも言える製品が登場した。IEEE 802.11a/b/gの同時通信に対応した無線LANルータだ。主に2.4GHzと5GHzの同時通信時のパフォーマンスを中心に、その実力を検証していこう。





無線LAN躍進の1年

 こと無線LANに関して言えば、今年は激動の年だったと言えそうだ。春にはドラフト版の802.11g製品が登場し、間もなく切替え式の802.11a/b/g準拠製品が登場。秋頃から無線LAN製品のWPA対応が進み始めたと思ったら、今年最大の注目とも言うべき802.11a/b/g同時通信機器が早くも登場することになった。今後、Atherosのチップセット採用機器で飛躍的にスループットを向上させる「SuperA/G」も、早ければ年内投入と噂されており、まさにめまぐるしい進化を感じた1年だった。

 また、無線LANという存在そのものが、非常に身近な存在になったのも今年の無線LAN市場の特徴だろう。製品価格の低価格化に加え、ADSL事業者がレンタルモデムに無線LAN機能を搭載することも珍しくなくなりつつある。正確な数は把握していないが、無線LANの普及も今年でかなり進んだのではないだろうか。

 しかし、ここまで技術的な変化が激しく製品のライフサイクルが短いと、正直なところ、製品を買うタイミングが難しかったという印象が強い。せっかく購入した製品が、あっという間に旧機種になってしまったという経験をした人も少なくないのではないだろうか? ADSLもそうだが、今年である程度、技術的な進歩に区切りがついたとも考えられるので、来年こそはじっくりと製品(やサービス)を選べる年になることを望みたいところだ。





低価格でIEEE 802.11a/b/g同時通信を実現

 と、前置きはさておき、そんな状況の中、年内ギリギリの発売にこぎ着けた新製品が、今回取り上げるアイ・オー・データ機器の「WN-APG/BBR」とバッファローの「WHR2-A54G54」の2製品だ。どちらも前述した802.11a/b/gの同時通信に対応しており、今後、無線LANの主流を担うであろう製品となっている。

 もちろん、これまでにも802.11a/b/gの同時通信に対応する製品は存在した。以前、本コラムでも取り上げたが、エレコムの「LD-WLS54AG/AP」などが、これに当たる。

 しかし、今回のアイ・オー・データ機器とバッファローの製品が、以前の製品と決定的に異なるのはその価格帯だ。実際、前述したエレコムの「LD-WLS54AG/AP」などは、企業ユーザー向けという位置付けであったにしろ、標準価格が68,000円(アクセスポイントのみ)と非常に高価だった。しかし、今回の製品はアイ・オーのWN-APG/BBRが21,000円(無線LANカードセットのモデルは27,000円)、WHR2-A54G54が27,800円(同じくカードセットモデルは34,800円)と、非常にリーズナブルな価格設定になっている。

 特にアイ・オー・データ機器のWN-APG/BBRは、カードセットのモデルでも実売価格23,000円前後と、非常に戦略的な価格設定となっている。今回取り上げるバッファローの「WHR2-A54G54」よりも7,000円近くも安いうえ、他社製のIEEE 802.11a/b/g切替え式の製品、もしくは802.11g準拠製品とほぼ同じという価格設定だ。価格で比較すれば、アイ・オー・データ機器の「WN-AGP/BBR」が頭ひとつ抜けているという印象だ。

 なお、これまでのIEEE 802.11a/b/g同時通信機器は、内部にIEEE 802.11aとIEEE 802.11b/gの2つのモジュールを搭載していたが、今回取り上げる製品のうち、アイ・オーは1つのモジュールで同時通信を実現している。具体的には、アイ・オー・データ機器のWN-APG/BBRがAtheros Communications社の「AR5002AP-2X」を採用しており、これによってIEEE 802.11a/b/gの同時通信がサポートされている。

[お詫びと訂正]
 初出時、バッファローの「WHR2-A54G54」が1つのモジュールでIEEE 802.11a/b/gを実現するとしておりましたが、実際には2つのモジュールを使用しております。お詫びして訂正いたします。


バッファロー「WHR2-A54G54」 アイ・オーデータ機器「WN-APG/BBR」




同時通信時のパフォーマンスは

 とは言え、やはり気になるのは同時通信時のパフォーマンスだ。前述した2つの無線LANモジュールを搭載した製品であれば、2.4GHzと5GHzの規格をそれぞれのモジュールで分担して処理できるので、同時通信を行なってもほとんどパフォーマンスには影響しない。これと同レベルの処理が果たして1つのモジュールのみで可能なのだろうか?

 そこで今回は、複数の方法でテストを実施することにした。ひとつはIEEE 802.11a/gの各方式個別の速度、もうひとつは802.11aと802.11gの間でのデータ転送速度、最後に実用環境を考慮した802.11a/gの同時通信テストだ。

 まず、IEEE 802.11aとIEEE 802.11gの個別のパフォーマンスだが、これは既存のIEEE 802.11aやIEEE 802.11g製品とほぼ同レベルと考えてよさそうだ。


メーカー名 ルータ クライアント IEEE 802.11a IEEE 802.11g
バッファロー WHR2-A54G54 WLI-CB-AG54 26.58Mbps 24.99Mbps
アイ・オー WN-APG/BBR WN-AG/CB2 21.20Mbps 19.37Mbps
IEEE 802.11aとIEEE 802.11gで、それぞれ方式を切り替えて速度を計測。FTPを利用し、有線接続されたサーバーから50MBのファイルをGETしたときの速度を計測。アクセスポイント、クライアント共に同じ部屋に設置して計測した。なお、以下、すべてのテストにて、128bitのWEPをオンに設定。IEEE 802.11gの速度向上機能などもすべてオンの状態で計測している


 結果としてはアイ・オー・データ機器のWN-APG/BBRの方が若干遅いが、それでも20Mbps近いスループットを計測できているので実用上は問題ないレベルと言える。印象的なのは、両製品ともIEEE 802.11gよりも802.11aの方がパフォーマンスが高い点だろう。Atherosのチップは以前からIEEE 802.11aの方が高速な傾向が見られたが、バッファローのBroadcomチップでも同様の傾向が見られた。IEEE 802.11aは電波の干渉も少ないので、少しでも高速な転送速度が求められるシーンではIEEE 802.11aを利用した方が良さそうだ。

 続いて、肝心の同時通信時のテストだ。IEEE 802.11aとIEEE 802.11gの両クライアントを用意し、無線LAN間で直接ファイルを転送してみた。


メーカー名 ルータ クライアント 11a→11g 11g→11a
バッファロー WHR2-A54G54 WLI-CB-AG54 18.10Mbps 21.49Mbps
アイ・オー WN-APG/BBR WN-AG/CB2 19.48Mbps 16.62Mbps
IEEE 802.11a/gの2台のクライアントを用意し、相互にFTPにてファイル転送。バッファローの製品の計測時には相手クライアントにアイ・オー・データ機器の無線LANカードを、アイ・オー・データ機器の計測時には逆にバッファローの無線LANカードを利用した


 結果を見ると、同時通信でもほとんど速度の低下は見られなかった。確かに単独利用時に比べると若干、速度が低いが、これは利用環境に起因するものと考えられる。今回のテストでは、2台のクライアントのうち、片方に他社製の無線LANカードを装着している。アクセスポイントとクライアント側の無線LANチップが異なると、パフォーマンスが低下する傾向がある(場合によっては1桁Mbps程度まで低下することもある)ので、これが結果に表われた格好だ。2台のクライアントの両方にアクセスポイントと同一メーカー製の無線LANカードを利用すれば、単独利用時とほぼ変わらない速度も期待できると考えられる。

 最後に、実際の利用環境を想定したテストを実施してみた。具体的には、IEEE 802.11a接続のPCにてネットワーク上のサーバーで録画したテレビ番組(SONY VAIOのGigaPocketを利用。ビットレートは8Mbps)を再生しながら、IEEE 802.11gと有線接続のPCにてファイル転送をするというテストだ。

 一般的に、無線LANの規格の使い分けとして、IEEE 802.11aはビデオ伝送などの家電用途に、IEEE 802.11gはデータ通信にと言われている。そこで、このような使い方が同時にできるかをテストしてみたわけだ。


メーカー名 ルータ クライアント 11gデータ転送速度 11a映像の状態
バッファロー WHR2-A54G54 WLI-CB-AG54 23.95Mbps 途切れなく再生可能
アイ・オー WN-APG/BBR WN-AG/CB2 18.97Mbps 途切れなく再生可能
IEEE 802.11aにて8Mbpsの映像を再生しながら、IEEE 802.11gと有線PC間でファイル転送を実施


 結果は上記の通り。IEEE 802.11gでFTP転送を実施しても、その影響はIEEE 802.11aの映像側にもまったく表われなかった。もちろん、IEEE 802.11gの通信速度にも影響は出ず、単独利用時とほぼ同等の速度での通信が可能だった。テレビ番組の再生などでは、連続的で途切れのないデータ転送が要求されるが、同時通信時でも映像の途切れなどはまったくなく、極めてスムーズに映像を再生できることを確認できた。

 正直なところ、同時通信時のパフォーマンスは、もう少し低いのではないかと危惧していたが、無用の心配だったようだ。単独利用時の速度も優秀だが、同時通信でもほとんど速度の低下が見られない。特に、バッファローの製品はほとんどのテストで20Mbpsを軽く越える速度を実現できている。ことパフォーマンスという点では、この製品を選ぶ価値が高そうだ。

 ただし、アイ・オー・データ機器の製品は、ファームウェアのアップデートで無線LAN高速化技術「SuperA/G」にも対応する予定となっている。事前の情報によると、SuperA/Gによって、30Mbps以上の速度を実現することも可能だという話なので、この登場に期待したいところだ。





機能的には両者ともに不足無し

 なお、今回は主にパフォーマンスについて検証したが、機能面や使いやすさに関しても、両製品とも目立った問題はなかった。使いやすさとしては、付属のCD-ROMにムービー形式のガイドを収録していたり、初期のインターネット接続設定時にフレッツ・スクウェアへの接続をチェックボックスひとつ付けるだけで設定できるバッファローの製品に一日の長があるが、すでに無線LANを利用しているユーザーであれば、アイ・オー・データ機器の製品も使い方に迷うことはないだろう。


 バッファロー「WHR2-A54G54」の設定画面。インターネットの接続設定時に、「フレッツ・スクウェア接続先設定を有効にする」にチェックを付けると、PPPoEマルチセッションとルーティングの設定が自動的に行なわれる。以外に面倒だったPPPoEマルチセッションが手軽に使える点は高く評価できる

アイ・オー・データ機器「WN-APG/BBR」の設定画面。IEEE 802.11a、IEEE 802.11b/gの設定は左側のメニューで選択して、別々に設定する方式となる

 ただし、機能的には多少の違いがあるので、どちらを買うか迷ったときは、機能の違いを見て、自分に必要とされる機能を搭載している製品を選ぶべきだろう。以下、機能的な違いについて簡単にまとめておいたので参考にしてほしい。

項目 機能 バッファロー/WHR2-A54G54 アイ・オー/WN-APG/BBR
無線 プライバシーセパレータ ×
フレームバースト ○(11a/11g共に) ×
802.11専用モード
WEP 64/128bit 64/128bit
WPA(TKIP/AES) △(802.11gのみ) ○(11a/11g共に)
802.1x認証 ×
ESS-ID保護
送信出力調整
MACアドレスフィルタ 無線の接続許可のみ 有線/無線、許可/拒否設定可能
WDS ○(11a/11g共に) ×
設定画面 ヘルプ あり なし
ウィザード あり(インターネット接続のみ) あり(WAN、LAN、無線など含む)
有線 PPPoEマルチセッション ○(ウィザードによる自動設定)
ファイアウォール機能 アタックブロック、SPI SPI
UPnP
VPNパススルー(IPSEC/PPTP)
WEBフィルタ × ○(URL、ドメイン指定可)
ダイナミックDNS ×
ログ機能 SYSLOG対応 SYSLOG対応
ユーティリティ 設定用 簡単導入ムービー 特になし
クライアント用 簡易 電波状況確認、プロファイル管理可
WN-APG/BBRとWHR2-A54G54の主な機能の違い


 簡単に解説すると、WHR2-A54G54で特徴的なのはWDSに対応している点だが、802.11gでしかWPAが使えないのが欠点と言える。一方、WN-APG/BBRはURLフィルタやダイナミックDNSに対応しているが、設定画面にヘルプなどが用意されていない点など、使いやすさという点で多少劣る印象を受けた。

 また、有線のスループットについてはほぼ互角の結果だった。どちらも40Mbps前後のスループットが実現できているので、FTTHなどでも問題のないレベルと言って良いだろう。

メーカー名 ルータ 有線スループット
バッファロー WHR2-A54G54 43.68Mbps
アイ・オー WN-APG/BBR 42.24Mbps
Bフレッツ・ニューファミリータイプを利用し、フレッツ・スクウェアにて有線のスループットを計測





チャネルがさらに足りなくなる?

 このように、今回、登場した802.11a/b/g同時通信対応機の実力は相当に高いものであることが確認できた。これから無線LAN製品を購入を検討している場合は、どちらかの製品を選択肢として考えれば、まず製品選びで後悔することはないと言っていいだろう。

 ただし、このような同時通信機が普及するのは、個人的には多少の戸惑いも感じる。以前、本コラムでも紹介したが、最近では無線LANの普及によって、近隣での電波の干渉が問題になりつつある。これまでは、2.4GHz帯が混雑していれば、5GHz帯を使うといったように周波数帯を変更することで干渉を避けるという手が使えたが、同時通信が一般化してしまうと、この方法でも干渉を避けられなくなってしまう。いや、むしろ2.4GHz帯と5GHz帯のチャネルの両方をよく考えて設定しなければならなくなるので、もっと複雑になってしまいそうだ。

 もちろん、同時通信機器が普及するまでにはまだ時間がかかるであろうし、それほど干渉の問題は表面化しないかもしれない。しかし、何らかの対策はメーカー側にも考えて欲しい。両メーカーともに、ぜひ複雑化するチャネルの設定を誰にでも簡単にできるような工夫を検討して頂きたいところだ。


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2003/12/16 11:13

清水理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ
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