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第89回:無線LANの実効速度60Mbpsオーバー?
Super G対応で驚異的な速度を実現したMN8300W


 Super A/Gの登場によって、大幅な速度向上を果たしつつある無線LAN機器。そんな中、また1つ速度の壁を超えた製品が登場した。NTT-MEから発売されているIEEE 802.11g対応の無線LANルータ「MN8300W」だ。まだ一般公開前のベータ版だが、Super G対応のファームウェアを利用することで、実効速度60Mbpsを実現できるという。早速、その実力を検証してみた。





60Mbpsオーバー?

MN8300W
 今回、メーカーのご厚意により、近日公開予定というMN8300Wのベータ版ファームウェアを試用させてもらったのだが、先方の担当者からのメールが届いたとき、まず目を疑ったのがメールのタイトルに記載された「60Mbpsオーバー」という謳い文句だった。

 ご存じの方も多いと思うが、IEEE 802.11gの理論上の最大速度は54Mbpsで、実効速度ともなれば、CSMA/CAによる通信方式のボトルネック、TCP/IPの手順などのさまざまな制約から、その速度はさらに落ちる(一般的には25Mbps前後)。以前に本コラムで取り上げたアイ・オー・データ機器のWN-APGの40Mbpsという実効速度を見たときにも驚いたが、それを遙かに超えるだけでなく、理論上の54Mbpsを超えるということなど現実にあるのだろうか? と疑いたくなるのも当然だろう。

 しかし、製品を実際にテストしてみて、この疑いは完全に晴れた。詳しいテスト結果については後述するが、確かに特定の条件下では60Mbpsオーバーの速度を実現できていたのだ。





54Mbpsを超えることが可能なのか?

 では、なぜ54Mbpsを超える速度が実現できるのだろうか? これは、よく考えてみれば単純な話だ。MN8300Wで採用されているSuper Gでは、送受信するデータをリアルタイムに圧縮することができる。これによって、60Mbpsオーバーという実行速度が実現されているのだ。

 もう少し、具体的に説明しよう。前述した通り、IEEE 802.11gの理論上の最高速度は54Mbpsだ。当然のことながら、MN8300Wでもこの速度はまったく変わりがない。もちろん、Super GではフレームバーストやFASTFRAMEなどの技術によって(本コラム第84回参照)、実効速度を上げることはできる。しかし、この実効速度自体が理論上の54Mbpsという速度を超えることはない。おそらく、MN8300Wでも圧縮機能を使わない場合の実効速度は30Mbps前後といったところだろう。これが伝送路自体の速度というわけだ。

 ポイントは、この30Mbpsという速度の伝送路に圧縮したデータを流せるという点だ。30Mbpsという速度は、1秒間に30Mbit(3.75MB)のデータを送れるということに他ならない。これはあくまでも説明のために簡略化した説明となるが、たとえばFTPなどのアプリケーションで、30Mbitのデータの伝送に1秒の時間がかかれば速度は30Mbpsとなり、2秒の時間がかかれば速度は15Mbpsという計算になる。

 しかし、MN8300WのSuper Gでは、ここに圧縮という概念が加わることで、速度が変化してくる。たとえば、60Mbitのデータが30Mbitに圧縮されれば(くどいようだがあくまでも仮定の話)、伝送路の速度は30Mbpsなので、やはり1秒で送信が完了する。このとき、伝送路の速度は30Mbpsと変わりはないものの、FTPから見れば60Mbitのデータを1秒で送信できたことになるので、その速度は60Mbpsになるというわけだ。


圧縮によって、伝送路の速度が同じでも、同一時間帯により多くのデータを送信できる。これによって、54Mbps以上の実効速度が得られることになる

 つまり、MN8300Wの60Mbpsという速度は、決して伝送路自体が54Mbpsを超えるわけではなく、アプリケーションから見たときの実効速度が60Mbpsを超えるという意味となるわけだ。





60Mbpsオーバーは特定の環境下のみだが、全体的に高速

 それでは、実際に60Mbpsオーバーの速度が実現可能なのだろうか? 筆者宅にてテストした結果が以下の表とグラフだ。

製品名 通信方式 TEXT1
(20MB)
TEXT2
(24MB)
JPEG
(3.31MB)
MPEG-2
(110MB)
PDF
(3MB)
ZIP
(20MB)
有線 100BASE-TX 40.86Mbps 40.13Mbps 40.21Mbps 39.51Mbps 40.18Mbps 39.91Mbps
WN-APG/BBR IEEE 802.11a 40.46Mbps 34.65Mbps 26.94Mbps 27.35Mbps 36.33Mbps 27.60Mbps
IEEE 802.11g 38.87Mbps 31.20Mbps 26.15Mbps 26.91Mbps 33.57Mbps 25.05Mbps
MN-8300W IEEE 802.11g(圧縮あり) 40.36Mbps 36.81Mbps 31.89Mbps 31.33Mbps 35.84Mbps 31.17Mbps
IEEE 802.11g(圧縮なし) 31.37Mbps 32.05Mbps 32.22Mbps 30.49Mbps 30.14Mbps 30.15Mbps
※TEXT1はすべての文字を「0」で埋めたテキストファイル
※TEXT2は本コラムの原稿をコピーして24MBにまでサイズを拡大したテキストファイル
※サーバーにはPentium4 3.02GHz、RAM1GB、HDD160GBのPC(XP Pro)を、
 クライアントにはCeleron 1.6GHz、RAM512MB、HDD40GBのPC(XP HE)を利用
※FTPサーバーには、3comの3CDaemonを利用
※FTPクライアントには、WindowsXPのコマンドを利用し、getの速度を計測
※すべて128bitのWEPを設定して計測
※クライアント側ではMTU/RWINのパラメータを変更。サーバーではこれに加えてAFDのレジストリ値も変更済み
※上記条件は以下すべてのテストにて共通



 FTPによる実効速度は最高で40.36Mbps。60Mbpsには遠く及ばない値だ。比較のために、以前に本コラムで紹介したときに計測したアイ・オー・データ機器「WN-APG/BBR」の値も掲載したが、これとほぼ同等の値となっている。

 しかしながら、こちらも参考のために計測した有線の速度を見ると、こちらもやはり40Mbps前後となっている。どうやら、FTPサーバーの処理性能がボトルネックになっており、この値はMN8300Wが真の実力を発揮できていないようだ。

 そこで、サーバーOSをLinuxに、FTPサーバーをProFTPdに変更して計測し直したのが、以下の表とグラフだ。すると、今度はgetで最高50Mbps弱、putでは最高61.36Mbpsという驚異的な速度を実現することができた。有線の実効速度も70〜80Mbps程度となっているため、やはり先ほどの結果はサーバーがボトルネックになっていたようだ。

製品名 通信方式 get/put値 TEXT1
(20MB)
TEXT2
(24MB)
JPEG
(3.31MB)
MPEG2
(110MB)
PDF
(3MB)
ZIP
(20MB)
有線 100BASE-TX get 78.62Mbps 79.19Mbps 79.88Mbps 76.56Mbps 78.56Mbps 76.42Mbps
put 82.53Mbps 83.77Mbps 82.56Mbps 83.67Mbps 85.21Mbps 84.02Mbps
MN-8300W 802.11g(圧縮あり) get 49.71Mbps 39.65Mbps 31.27Mbps 31.12Mbps 37.49Mbps 30.84Mbps
put 61.36Mbps 35.26Mbps 30.25Mbps 31.67Mbps 37.73Mbps 29.03Mbps
802.11g(圧縮なし) get 31.25Mbps 31.67Mbps 31.58Mbps 31.13Mbps 30.60Mbps 31.83Mbps
put 29.54Mbps 29.20Mbps 30.58Mbps 29.61Mbps 29.51Mbps 29.36Mbps
※サーバーOSはFedraCore1、FTPサーバーにはProFTPdを使用




 ただし、60Mbpsオーバーを実現できたのは表中で「TEXT1」と記載したすべて「0」で埋めたファイルの、しかもput時のみだ(筆者宅の環境ではputの方が速い傾向にある)。他のファイルを転送したときやget時の速度は、30〜35Mbpsとなっているので、これが現実的な実効速度と考えるのが妥当だろう。

 もちろん、実効速度で30〜35Mbpsであれば、無線LAN製品としては傑出して速いレベルであり、速度的には最速と言っていいだろう。この製品は、CPUにインテルIXP422を採用しているのだが、このおかげで処理能力に余裕があり、圧縮の効果などが出やすいのだと考えられる。

 ちなみに、Super A/G対応の他社製品の場合、転送するファイルによっては圧縮機能をOFFにした方が高速な場合もあったが、本製品ではその傾向は見られない。圧縮ONのままで利用した方が効率的だろう。


圧縮のON/OFFも設定画面にて切り替え可能。圧縮ONで利用する方が効率的だ

 なお、これまで本コラムでは最速のスループットを示していたアイ・オー・データ機器のWN-APG/BBRだが、残念ながらLinux環境ではテストできなかった。ただし、前述の通り以前のサーバー環境ではMN8300Wと同程度のスループット結果だったため、新しいサーバー環境ではMN8300Wと同様、更に高いスループットを実現する可能性があることを付け加えておく。





現実的には速度を活かしきれない

 このように、実力としては相当に高い製品と考えて差し支えなさそうだ。設定面では、インターネットへの接続方式を設定しないと無線LANの詳細ができないなど、多少、クセがあるが、WPAへの対応など機能は豊富だ。また、有線ルータとしての実力も高い。欠点と言えるのは、対応する無線方式がIEEE 802.11gのみで、値段が高い(カードセットの実売で27,000円前後)ことくらいだろうか。


WPAにも対応しており、機能的な不足はほとんどないだろう

 もちろん、前述した通り、この製品に実力を発揮させるのは現実的には難しいかもしれない。実際、60Mbpsオーバーを実現するには、サーバー環境を整え、転送するファイルも選ばなければならない。ユーザーが実際の利用シーンで60Mbpsという速度を目にすることはほとんどない可能性も高い。

 しかし、60Mbpsオーバーという値にこだわらなくても、全体的に高速な転送が可能である点は高く評価できる。IEEE 802.11g準拠の製品としては、まちがいなくトップレベルの実力を持った製品と言えそうだ。


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2004/02/17 11:18

清水理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ
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