Super A/Gの登場によって、大幅な速度向上を果たしつつある無線LAN機器。そんな中、また1つ速度の壁を超えた製品が登場した。NTT-MEから発売されているIEEE 802.11g対応の無線LANルータ「MN8300W」だ。まだ一般公開前のベータ版だが、Super G対応のファームウェアを利用することで、実効速度60Mbpsを実現できるという。早速、その実力を検証してみた。
■ 60Mbpsオーバー?
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MN8300W
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今回、メーカーのご厚意により、近日公開予定というMN8300Wのベータ版ファームウェアを試用させてもらったのだが、先方の担当者からのメールが届いたとき、まず目を疑ったのがメールのタイトルに記載された「60Mbpsオーバー」という謳い文句だった。
ご存じの方も多いと思うが、IEEE 802.11gの理論上の最大速度は54Mbpsで、実効速度ともなれば、CSMA/CAによる通信方式のボトルネック、TCP/IPの手順などのさまざまな制約から、その速度はさらに落ちる(一般的には25Mbps前後)。以前に本コラムで取り上げたアイ・オー・データ機器のWN-APGの40Mbpsという実効速度を見たときにも驚いたが、それを遙かに超えるだけでなく、理論上の54Mbpsを超えるということなど現実にあるのだろうか? と疑いたくなるのも当然だろう。
しかし、製品を実際にテストしてみて、この疑いは完全に晴れた。詳しいテスト結果については後述するが、確かに特定の条件下では60Mbpsオーバーの速度を実現できていたのだ。
■ 54Mbpsを超えることが可能なのか?
では、なぜ54Mbpsを超える速度が実現できるのだろうか? これは、よく考えてみれば単純な話だ。MN8300Wで採用されているSuper Gでは、送受信するデータをリアルタイムに圧縮することができる。これによって、60Mbpsオーバーという実行速度が実現されているのだ。
もう少し、具体的に説明しよう。前述した通り、IEEE 802.11gの理論上の最高速度は54Mbpsだ。当然のことながら、MN8300Wでもこの速度はまったく変わりがない。もちろん、Super GではフレームバーストやFASTFRAMEなどの技術によって(本コラム第84回参照)、実効速度を上げることはできる。しかし、この実効速度自体が理論上の54Mbpsという速度を超えることはない。おそらく、MN8300Wでも圧縮機能を使わない場合の実効速度は30Mbps前後といったところだろう。これが伝送路自体の速度というわけだ。
ポイントは、この30Mbpsという速度の伝送路に圧縮したデータを流せるという点だ。30Mbpsという速度は、1秒間に30Mbit(3.75MB)のデータを送れるということに他ならない。これはあくまでも説明のために簡略化した説明となるが、たとえばFTPなどのアプリケーションで、30Mbitのデータの伝送に1秒の時間がかかれば速度は30Mbpsとなり、2秒の時間がかかれば速度は15Mbpsという計算になる。
しかし、MN8300WのSuper Gでは、ここに圧縮という概念が加わることで、速度が変化してくる。たとえば、60Mbitのデータが30Mbitに圧縮されれば(くどいようだがあくまでも仮定の話)、伝送路の速度は30Mbpsなので、やはり1秒で送信が完了する。このとき、伝送路の速度は30Mbpsと変わりはないものの、FTPから見れば60Mbitのデータを1秒で送信できたことになるので、その速度は60Mbpsになるというわけだ。
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圧縮によって、伝送路の速度が同じでも、同一時間帯により多くのデータを送信できる。これによって、54Mbps以上の実効速度が得られることになる
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つまり、MN8300Wの60Mbpsという速度は、決して伝送路自体が54Mbpsを超えるわけではなく、アプリケーションから見たときの実効速度が60Mbpsを超えるという意味となるわけだ。
■ 60Mbpsオーバーは特定の環境下のみだが、全体的に高速
それでは、実際に60Mbpsオーバーの速度が実現可能なのだろうか? 筆者宅にてテストした結果が以下の表とグラフだ。
製品名 |
通信方式 |
TEXT1
(20MB) |
TEXT2
(24MB) |
JPEG
(3.31MB) |
MPEG-2
(110MB) |
PDF
(3MB) |
ZIP
(20MB) |
有線 |
100BASE-TX |
40.86Mbps |
40.13Mbps |
40.21Mbps |
39.51Mbps |
40.18Mbps |
39.91Mbps |
WN-APG/BBR |
IEEE 802.11a |
40.46Mbps |
34.65Mbps |
26.94Mbps |
27.35Mbps |
36.33Mbps |
27.60Mbps |
IEEE 802.11g |
38.87Mbps |
31.20Mbps |
26.15Mbps |
26.91Mbps |
33.57Mbps |
25.05Mbps |
MN-8300W |
IEEE 802.11g(圧縮あり) |
40.36Mbps |
36.81Mbps |
31.89Mbps |
31.33Mbps |
35.84Mbps |
31.17Mbps |
IEEE 802.11g(圧縮なし) |
31.37Mbps |
32.05Mbps |
32.22Mbps |
30.49Mbps |
30.14Mbps |
30.15Mbps |
※TEXT1はすべての文字を「0」で埋めたテキストファイル |
※TEXT2は本コラムの原稿をコピーして24MBにまでサイズを拡大したテキストファイル |
※サーバーにはPentium4 3.02GHz、RAM1GB、HDD160GBのPC(XP Pro)を、
クライアントにはCeleron 1.6GHz、RAM512MB、HDD40GBのPC(XP HE)を利用 |
※FTPサーバーには、3comの3CDaemonを利用 |
※FTPクライアントには、WindowsXPのコマンドを利用し、getの速度を計測 |
※すべて128bitのWEPを設定して計測 |
※クライアント側ではMTU/RWINのパラメータを変更。サーバーではこれに加えてAFDのレジストリ値も変更済み |
※上記条件は以下すべてのテストにて共通 |
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FTPによる実効速度は最高で40.36Mbps。60Mbpsには遠く及ばない値だ。比較のために、以前に本コラムで紹介したときに計測したアイ・オー・データ機器「WN-APG/BBR」の値も掲載したが、これとほぼ同等の値となっている。
しかしながら、こちらも参考のために計測した有線の速度を見ると、こちらもやはり40Mbps前後となっている。どうやら、FTPサーバーの処理性能がボトルネックになっており、この値はMN8300Wが真の実力を発揮できていないようだ。
そこで、サーバーOSをLinuxに、FTPサーバーをProFTPdに変更して計測し直したのが、以下の表とグラフだ。すると、今度はgetで最高50Mbps弱、putでは最高61.36Mbpsという驚異的な速度を実現することができた。有線の実効速度も70~80Mbps程度となっているため、やはり先ほどの結果はサーバーがボトルネックになっていたようだ。
製品名 |
通信方式 |
get/put値 |
TEXT1
(20MB) |
TEXT2
(24MB) |
JPEG
(3.31MB) |
MPEG2
(110MB) |
PDF
(3MB) |
ZIP
(20MB) |
有線 |
100BASE-TX |
get |
78.62Mbps |
79.19Mbps |
79.88Mbps |
76.56Mbps |
78.56Mbps |
76.42Mbps |
put |
82.53Mbps |
83.77Mbps |
82.56Mbps |
83.67Mbps |
85.21Mbps |
84.02Mbps |
MN-8300W |
802.11g(圧縮あり) |
get |
49.71Mbps |
39.65Mbps |
31.27Mbps |
31.12Mbps |
37.49Mbps |
30.84Mbps |
put |
61.36Mbps |
35.26Mbps |
30.25Mbps |
31.67Mbps |
37.73Mbps |
29.03Mbps |
802.11g(圧縮なし) |
get |
31.25Mbps |
31.67Mbps |
31.58Mbps |
31.13Mbps |
30.60Mbps |
31.83Mbps |
put |
29.54Mbps |
29.20Mbps |
30.58Mbps |
29.61Mbps |
29.51Mbps |
29.36Mbps |
※サーバーOSはFedraCore1、FTPサーバーにはProFTPdを使用 |
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ただし、60Mbpsオーバーを実現できたのは表中で「TEXT1」と記載したすべて「0」で埋めたファイルの、しかもput時のみだ(筆者宅の環境ではputの方が速い傾向にある)。他のファイルを転送したときやget時の速度は、30~35Mbpsとなっているので、これが現実的な実効速度と考えるのが妥当だろう。
もちろん、実効速度で30~35Mbpsであれば、無線LAN製品としては傑出して速いレベルであり、速度的には最速と言っていいだろう。この製品は、CPUにインテルIXP422を採用しているのだが、このおかげで処理能力に余裕があり、圧縮の効果などが出やすいのだと考えられる。
ちなみに、Super A/G対応の他社製品の場合、転送するファイルによっては圧縮機能をOFFにした方が高速な場合もあったが、本製品ではその傾向は見られない。圧縮ONのままで利用した方が効率的だろう。
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圧縮のON/OFFも設定画面にて切り替え可能。圧縮ONで利用する方が効率的だ
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なお、これまで本コラムでは最速のスループットを示していたアイ・オー・データ機器のWN-APG/BBRだが、残念ながらLinux環境ではテストできなかった。ただし、前述の通り以前のサーバー環境ではMN8300Wと同程度のスループット結果だったため、新しいサーバー環境ではMN8300Wと同様、更に高いスループットを実現する可能性があることを付け加えておく。
■ 現実的には速度を活かしきれない
このように、実力としては相当に高い製品と考えて差し支えなさそうだ。設定面では、インターネットへの接続方式を設定しないと無線LANの詳細ができないなど、多少、クセがあるが、WPAへの対応など機能は豊富だ。また、有線ルータとしての実力も高い。欠点と言えるのは、対応する無線方式がIEEE 802.11gのみで、値段が高い(カードセットの実売で27,000円前後)ことくらいだろうか。
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WPAにも対応しており、機能的な不足はほとんどないだろう
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もちろん、前述した通り、この製品に実力を発揮させるのは現実的には難しいかもしれない。実際、60Mbpsオーバーを実現するには、サーバー環境を整え、転送するファイルも選ばなければならない。ユーザーが実際の利用シーンで60Mbpsという速度を目にすることはほとんどない可能性も高い。
しかし、60Mbpsオーバーという値にこだわらなくても、全体的に高速な転送が可能である点は高く評価できる。IEEE 802.11g準拠の製品としては、まちがいなくトップレベルの実力を持った製品と言えそうだ。
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2004/02/17 11:18
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