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第104回:他社ISPでも使える050対応のIPテレビ電話
OCNの「ドットフォンパーソナルV」


 OCNが、PCを利用したIP電話サービス「ドットフォンパーソナルV」を新たに開始した。サービス内容的には、以前に本コラムでも紹介したドットフォンパーソナルと同じだが、他社ISPからも利用可能である点が最大の違いだ。このサービスの登場によって、IP電話はどのように変化するのだろうか?





新しい形態のIP電話サービス

 IP電話の世界が変わりつつある。本コラムの第102回で紹介したNTT-BPの無線LAN端末を利用したVoIPトライアルなどもそうだが、単なる安い固定電話との位置付けから、付加価値を加えた新たな方向性を模索し始めている。

 今回、紹介するOCNの「ドットフォンパーソナルV」も、このような新しい付加価値を与えられたIP電話サービスだ。ドットフォンパーソナル自体は、以前に本コラムでも取り上げた通り、通常の固定電話に割り当てる050番号とは別に、個人向けの050番号をさらに割り当てる。追加された番号をPCで利用することで、Webカメラなどを利用したIPテレビ電話サービスが利用できる。

 「ドットフォンパーソナルV」は、いわばこの発展系のサービスだ。従来のドットフォンパーソナルはOCN会員向けのサービスで、利用するにはOCNのISPサービスに加入することが不可欠であった。これに対してドットフォンパーソナルVは、OCN以外のISPでも利用可能となっている。つまり、現在、他のISPサービスを利用している場合でも、ドットフォンパーソナルと同様のサービスを受けることができるわけだ。

 IPテレビ電話のようなサービスは、通話相手側にも同じ環境(ソフトウェアなど)が整えられていないと意味がない。素直に考えれば、他社ISPの会員も取り込むことによって、ドットフォンパーソナルのIPテレビ電話という使い方をより広めようというのが、その狙いだろう。





オンラインで手軽に利用可能

 ドットフォンパーソナルVの利用方法は、意外に手軽だ。普通に考えると、サービスへの加入、050番号の割り当て、ソフトウェアのインストール、設定と、いくつかの作業が必要になりそうだが、これらはすべて一連の流れの中で完結するように工夫されている。

 実際の流れとしては、まずNTTコミュニケーションズの専用サイトから、「みんなでTV電話スタータ」をダウンロードし、インストール後、実行する。すると、このソフトウェアの中で、前述した申し込みから専用ソフトのインストール、設定などが、すべて一連の流れの中で行なわれるようになっている。


ドットフォンパーソナルVの申し込みや設定などを自動的に行なうことができる「みんなで電話スタータ」。誰もが手軽に利用できる環境を提供したことは高く評価できる

 ともすれば、複雑になりがちな申し込みや設定を、よくここまで簡潔にまとめることができたものだと感心するほどだ。さすがに設定しなければならない項目は多く、時間も多少かかるが、次に何をすればいいのかを迷うことがない。利用方法は固定のIP電話の方がはるかに手軽だが、こと設定に関しては固定のIP電話を設定するよりも手軽だ。


ドットフォンパーソナルVの画面。PCのマイクとスピーカーを使って通話するタイプで、Webカメラを使ったテレビ電話も可能。留守番電話機能も備えており、PCが起動していない場合などはセンター側でメッセージを受け取ってくれる

 なお、ドットフォンパーソナルと異なり、ドットフォンパーソナルVでは、SIPサーバーやユーザーID、パスワードなどの情報がすべて自動的に設定されるため、ユーザーには一切通知されない。このため、本コラムで以前に紹介したように、IP電話対応ルータなどに設定を登録して通常の電話機などでIP電話を使うことはできない。

 詳しくは後述するが、PC以外でドットフォンパーソナルVが利用可能になると、既存のIP電話の構造が瓦解する恐れがある。これを防止するための処置だと予想される。





利用するISPに注意

 このように、手軽に利用できるドットフォンパーソナルVだが、1つ注意しなければならない点がある。それは利用するISPだ。前述したように、ドットフォンパーソナルVはOCN以外のISPでも利用可能なサービスだが、ISPをまったく問わないというわけではない。実際に利用可能なISPは限られており、NTTコミュニケーションズのサイトか、「みんなで電話スタータ」の中で選択可能なISPでしか利用することができないのだ。


ドットフォンパーソナルでは050番号が割り当てられる。ちなみに、電話番号は選択肢から選ぶ方法(手数料無料)と希望番号を入力する方法(手数料有料)の2通りから選択できる

 なぜ、利用可能なISPが限られるのかというと、おそらく050番号を利用するからだろう。050番号を利用するためには、定められた品質基準をクリアしなければならない。他社ISPを経由して接続するとなると、この間の回線品質やトラフィックがIP電話の品質に大きな影響を与えてしまう。このため、一定の品質が確保できるISPからでないと利用できないように制限されているわけだ。


ドットフォンパーソナルでは050番号が割り当てられる。ちなみに、電話番号は選択肢から選ぶ方法(手数料無料)と希望番号を入力する方法(手数料有料)の2通りから選択できる

 感心させられるのは、この点に関しての対策が徹底されていることだ。利用するISPは「みんなで電話スタータ」の申し込み手順の中で選択する必要があるのだが、試しに「@nifty」を選んで設定を行ない、実際はサービス非対応の「ぷらら」で接続してみた。これでも当分の間は問題なくドットフォンパーソナルVを利用できるのだが、しばらくするとNTTコミュニケーションズからメールが届いてしまった。その内容は以下の通りだ。


対応ISPでしか使えないのは建前と考えると大間違い。申し込み時にIPアドレスからISPがチェックされ、非対応の場合は解約を促すメールが送られて来る

 要するに、対応ISP以外から接続している場合は、自分で解約するか、一定期間後に強制的に解約させられてしまうことになる。どうやら、申し込み時に接続先のISPをチェックしているようだ。050番号の利用にあたって、総務省あたりから品質に関する厳しい指示があったのかもしれない。





IP電話市場を大きく変える可能性も

 このように、利用可能なISPが限られてしまうのは非常に残念なことではあるが、それでも他のISPから050番号のIP電話サービスが使えることは、実に画期的なことだ。

 現状のIP電話サービスは、無料通話できる相手が同じIP電話網を使う場合に限られている。しかし、IP電話サービス自体は回線やISPと密接に関係しており、IP電話網を基準にユーザーがサービスを選ぶことはできない。

 たとえば、回線が「フレッツ」でISPが「ぷらら」の場合はぷららのIP電話網、回線が「アッカ」でISPが「So-net」ならNTTコミュニケーションズのIP電話網、Yahoo! BBならYahoo! BBのIP電話網と、回線やISPによって利用するIP電話網がほぼ自動的に決まってしまう。

 しかし、ドットフォンパーソナルVの登場で、この構図は崩れつつある。たとえば、ドットフォンパーソナルVが対応しているISPとしてBIGLOBEがあるが、BIGLOBEでは、これまで回線がフレッツの場合はぷらら、イー・アクセスの場合はフュージョンのIP電話網しか利用できず、NTTコミュニケーションズのIP電話網を使えるのは回線にアッカのADSLを利用している場合のみであった。

 これに対して、ドットフォンパーソナルVでは、BIGLOBEでフレッツやイー・アクセスの回線を利用しているユーザーでも、NTTコミュニケーションズのIP電話網が利用可能となる。つまり、これまで有料だった相手との通話料を無料にすることもできるわけだ(ドットフォンパーソナルVの基本料金525円は必要になるが……)。

 この影響は決して小さくはない。確かに、現状はPCでしか利用できないという不便さがあるため、ユーザーがIP電話網を積極的に切り替える可能性は低いだろう。しかし、PCならISPを問わないIP電話サービスが問題なく可能で、電話機やアダプタ、ルータを利用したサービスが許可されないというのも考えにくい。既存のIP電話と同じスタイルで、ISPを問わず使えるIP電話サービスが登場すれば、ユーザーによるIP電話網の契約変更が少なからず発生する可能性がある。

 もちろん、ドットフォンパーソナルVで可能なのだから、他のIP電話事業者でも、一定の条件さえクリアすれば、ISPを問わない050番号のIP電話サービスは可能だろう。以前、ライブドアがISPを問わないIP電話サービスを展開しようとした経緯があるが(現状はライブドアのISPからのみ利用可能)、これが再び現実のものとなる可能性も見えてくる。

 ただし、IP電話の無料通話はユーザーにとっては魅力だが、事業者にとっては決して歓迎すべきものではないことも確かだ。機器やネットワークに対する投資、維持費を通話料や相互接続料という形で回収できず、基本料金のみでまかなうとなればビジネスとして成立させることさえ難しくなるからだ。現状は、言葉は悪いがある程度ユーザーを囲い込むことで収益構造を確立しているが、これが成立しなくなってしまう可能性がある。そうなれば、IP電話網の統廃合が一気に進む可能性もある。

 ドットフォンパーソナルVは、そのサービス内容よりも、その仕組みこそがIP電話の世界を大きく変える可能性を持ったサービスと言える。今後、どのような形で市場が動いていくのかが大いに注目されるところだ。


関連情報

URL
  ドットフォンパーソナルV
  http://coden.ntt.com/service/pv/

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2004/06/08 11:11

清水理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ
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