すでにメーカーのホームページなどで盛んに告知されているが、5月16日に総務省から「電波法施行規則の一部を改正する省令」が発表された。これを受け、早くもバッファローから世界標準11aに対応した新製品「WER-AM54G54/P」が発売された。電波法の改正で何が変わるのか、新しいIEEE 802.11aに対応した製品はどのようなものなのかを検証してみよう。
■ 5.2GHzはJ52からW52へ、新たにW53も追加
電波法の改正というと、なんだか難しいイメージが先行してしまうところだが、今回のIEEE 802.11aの変更はさほど複雑なものではない。簡単に言ってしまえば、「既存の帯域の変更」と「新たな帯域の追加」だ。
これは、文字で説明するよりも図を見た方がわかりやすいだろう。すでに無線LAN機器メーカーのページなどで見かけた人も少なくないだろうが、以下の図のような変更が行なわれる。
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既存の5.2GHz帯(J52)のチャネルが10MHzずれた「W52」になり、新たに「W53」と呼ばれる5.3GHz帯の帯域が利用可能になる
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既存のIEEE 802.11aの周波数帯域は5.2GHz帯の電波を34/38/42/46という4つのチャネルで利用していたが、このチャネルが10MHzほどずれた「W52」へと変更された。W52の場合も利用可能なチャネル数は4と変わらないが、チャネル番号が36/40/44/48に変更された点がポイントだ。
なぜチャネルが変更されたのかというと、これは世界標準に合わせるためだ。もともと海外ではW53の体系で5.2GHz帯が利用されていたのだが、日本は5.26GHzの帯域を気象レーダーが利用しているため、この干渉を避けるために10MHzほど周波数をずらしたJ52の体系が採用されていた。これが、今回の改正で国際的な体系に合わせられた形になる。
また、上図を見てもわかる通り、5.3GHz帯(W53)も新たに利用可能になった。これにより、従来の4チャネルにさらに4チャネルが追加され、合計8チャネルが利用可能になった。無線LANの場合、干渉を避けるためにはチャネルの設定が非常に重要だが、合計8チャネルが利用可能になったことで、干渉を避けつつ利用できるチャネルの組み合わせが増えたというわけだ。
個人宅で近隣からの干渉を避けるという意味や、1フロアに複数のアクセスポイントを設置したい企業などでも、今回のチャネル変更は大きなメリットと言えるだろう。
■ 既存11aとの相互接続は?
以上のようにIEEE 802.11aが大幅な変更を受けたわけだが、この新しい規格に対応した無線LAN製品がさっそく登場した。バッファローから発売されたセットモデル「WER-AM54G54/P」だ。同じく世界標準11aに対応した製品としてはセットモデル「WER-AMG54/P」も存在するが、AMG54/PがIEEE 802.11aとIEEE 802.11b/gの切り替え式であるのに対して、WER-AM54G54/PはIEEE 802.11a/b/gの同時利用が可能だ。
世界標準11aに対応したIEEE 802.11a/b/g準拠の無線LANルータセットモデル「WER-AM54G54/P」
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実際に利用してみると、アクセスポイントとクライアントのセットモデルを利用する限り、世界標準11aに変更されたからと言って、特に何か特別なことを意識させられることはない。バッファローの製品には、「AOSS」と呼ばれる自動設定機能が搭載されているが、この機能を利用して接続してみたところ、W52のIEEE 802.11aで簡単にクライアントからアクセスポイントに接続できた(初期出荷時のチャネルは36ch)。もちろん、チャネルをW53の52~64chに変更できるが、それでも付属のクライアントを利用している限りは何の問題もない。
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WER-AM54G54の設定画面。W52およびW53のチャネルを設定できる。なお、W53のチャネルを選択した場合、気象レーダーなどとの干渉を検出すると自動的にチャネルが変更される仕組み
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では、どのような場合に世界標準11aであることを意識させられるのかというと、既存のJ52のIEEE 802.11a機器から接続する場合だ。試しに、Intel製の無線LANモジュールを内蔵したノートPC(富士通 FMV Biblo MG70LN8)およびNECアクセステクニカのAterm WL54AGを装着したPCからの接続を試みたが、当然のことながらアクセスポイントを発見することはできなかった。
新11aのアクセスポイント(WER-AM54G54)と旧11aのアクセスポイント(Aterm WR7800H)を両方稼働させた状態で、クライアントからの接続をテストしてみた。新11a対応クライアント(WLI-CB-AMG54)では、新旧両アクセスポイントを発見できるが(画面左)、旧11a対応のクライアント(中および右画面)からは新11aのアクセスポイントは見えない
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前述の通り、既存のJ52とWER-AM54G54が対応しているW52では、利用するチャネルが異なる。また、J52対応のクライアントからは、追加されたW53のチャネルも利用することができない。現状、既存のクライアントから世界標準の11aへ接続する場合は、IEEE 802.11aをあきらめてIEEE 802.11gでつなぐしかない状況だ。
では、世界標準11aと既存11aとの相互接続はあきらめなければならないのかというと、そうではない。現状は、まだほとんど対応が進んでいないが、今後、ファームウェアのアップデートなどで、既存11aでも世界標準11aへの対応が可能だ。もちろん、完全に世界標準11aに対応できるわけではない。基本的にはJ52からW52へのチャネル変更が行なわれるのみで、新たに追加されたW53への対応は今のところ不可能だ。
この点を整理しておこう。世界標準11aの登場により、市場には3タイプのIEEE 802.11a製品が混在する。従来の11a、アップデートした11a、世界標準11aの3つだ。
従来11a、アップデート11a、バッファローの国際標準11a対応機器を利用時の相互接続関係
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このため、当分の間は従来の11aをそのまま使うという選択肢で問題ないが(法的にも問題ない)、今後、アクセスポイントや無線LAN内蔵ノートPCを購入する予定があるという場合は、この関係を頭に入れておく必要がある。もちろん、11aは使わないという選択肢も十分にあるだろう。
なお、余談だが、今回試用したWER-AM54G54には、インターネットの接続を簡単に行なえる「らくらくセットアップ」という機能が搭載されているのだが、これがなかなか面白い。初期設定時にAOSSで無線の設定を行なった後、ブラウザを起動すると自動的にインターネット接続の設定画面がポップアップする(DHCP接続の場合はそのままインターネットに接続可能)。ルーターのIPアドレスをまったく意識することなく設定ができるようになった点には感心させられた。
■ 既存ユーザーは11aのチャネルに注意
さて、このようにIEEE 802.11aが変更されるわけだが、すでにIEEE 802.11aを利用しているユーザーは互換性以外にも注意が必要となる点がある。電波の干渉をどう避けるかだ。
従来のJ52のみの環境であれば、製品の付属のユーティリティやバッファローのAirStation Monitorを利用することで、近隣ですでに利用されているチャネルをチェックし、干渉を避けられるチャネルを選ぶことが簡単にできた。
しかし、前述したようにJ52のクライアントからは、W52、およびW53のアクセスポイントを検出することはできない。たとえば、自宅がJ52の34chで運用していたとして、隣の家や部屋でW52の36chを利用されていたとしても(10MHz帯域が重なる)、それをユーティリティなどで発見することはできないわけだ。
このため、IEEE 802.11aでの通信を本当に必要としているユーザーは、この機会にバッファローの世界標準11aのクライアント「WLI-CB-AMG54」だけでも入手しておくことをおすすめしたい。このクライアントでは、J52/W52/W53、すべてのアクセスポイントを検出できたため、空いているチャネルを簡単に探すことができる。もちろん、アクセスポイントも変更してしまえば、現状、ユーザーがほとんどいないW53で無線LANを運用することも可能だ。
現状、IEEE 802.11aは、IEEE 802.11gと比べるとさほど普及していないため、あまり問題にならないかもしれないが、それでもIEEE 802.11aを利用しているユーザーは、ビデオ伝送など、高速な転送を切実に必要としているからこそ、あえて利用しているのだろう。今回のIEEE 802.11aの変更は、一見、既存のユーザーにはあまり影響がないように見えるが、実は互換性にしろ、干渉の問題にしろ、注意すべき点がいくつかある。これを考慮して、無線LANの運用を見直してみるべきだろう。
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2005/05/31 11:04
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