韓国は国をあげてのブロードバンド戦略を着々と実行し、世界のブロードバンド市場の先頭集団を走るまでになった。その中で、ADSLの覇者そして韓国ブロードバンド市場の牽引車ともいわれるHanaro Telecomは、2002年から従来のADSLに軸足を置いたブロードバンド戦略から大きく方向を転換しようとしている。
そこで、ADSL熱に冒されている日本のブロードバンド市場に敢えて苦言を呈する意味も込めて、最近のHanaro Telecomの状況を紹介しよう。
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ADSLはブロードバンドの集合住宅対策か?
Hanaro Telecomは、金大中政権のブロードバンド政策の先陣を切る格好でベンチャー創業して以来、ADSLを武器に韓国NCCの最大手キャリアとしてKorea Telecomの立場を脅かす勢力までになった。
では、ADSLが爆発的なブームを巻き起こした要因はなんであったのか。それは、韓国の住宅環境を見れば答えが出る。韓国では、全人口の2/3がソウル首都圏に集中しその中の1/3が集合住宅に居住している。しかし、過半数の集合住宅は1970年代に建設された古いアパートであり、ブロードバンド化のために新規にケーブルを敷設するのが困難であった。この点に目をつけてHFA(Hybrid Fiber ADSL)を推進してきたのがHanaroをはじめとするADSLオペレータの勝因だったのだ。いわば、わが国でも悩みの多い集合住宅対策をHFAという大胆な手法で解決したところが功を奏したわけである。日本のADSLのように電話局舎から加入者宅内までをスター状にADSLサービスを提供している形態は、ソウル市など大都市の一戸建て住宅やPC房向けでありほんの一部に過ぎない。
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日本型ADSLビジネスモデルは通用しない!?
韓国では最大の電話会社であるKorea Telecomは、局舎の空スペースをはじめとする自社施設をNCCに貸し出すことにきわめて消極的だ。Korea Telecomと話してもコロケーションなどという概念はないようだ。したがって、Yahoo! BBのようなコロケーション+芯線借り+ダークファイバというビジネスモデルは成立しない。
Hanaro TelecomなどのNCCは、光ファイバを韓国電力(東京電力のようなもの)の通信関連子会社PowerComから借りてFTTB(Fiber To The Building)を実現している。集合住宅(Building)内は居住者側の共有施設であるのでそれらを使用するケースが多い。つまり、老朽配線設備をだましながらADSLでブロードバンド化を行なってきたというのが真実だ。したがってADSLである必然性はなく、HomePNAやHomeRFでもよかったのだ。現に、HanaroではHomeLANと称してHomePNAを用いたソリューションも有している。
最近、Hanaroは競争相手であるKorea TelecomやLocal Loopにも進出する気配のあるPowerComからの借用回線だけでは先行き危うしと判断し、自前の光ネットワーク整備も積極的に行なっている。
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Hanaroの新戦略
Hanaro Telecomでは、2002年以降のブロードバンドビジネスモデルを次の4本柱で整理している。
- CATV
ADSLの限界を打破。市場環境に柔軟に対応
- BB Access
ADSL、無線アクセスの導入
- Voice
VoIPの充実
- BB Application
CDN事業の立ち上げ
Hanaroは、これまでソウルを中心に7大都市の300世帯以上の集合住宅へのADSLサービスの提供に営業の軸足を置きながら今日の事業基盤を確立してきた。しかし、自社光ネットワークを有し、モバイル事業をも傘下に持ち、資金力も豊富なKorea TelecomのADSL市場参入に屈する格好でADSL事業は苦境に立たされている。このため、2002年からはCATV事業の充実・拡大に注力する戦略を打ち出してきた。具体的なCATV事業は、
- CATV High Speed Internet
一戸建て住宅向け。3~5Mbpsを提供
- CATV Internet Multi-line
SOHO、PC房向け。1台のケーブルモデムでパソコン10台分のADSL回線を提供
- PC+CATV
CATV High Speed Internet+新型パソコンのレンタルをパッケージ化したサービス
- HomeLAN
集合住宅向け。HomePNAを利用し1Mbpsを提供
を柱にしており、今やHanaro TelecomのパンフレットではADSLの広告スペースは極端に減少しCATV一辺倒になろうとしている。数年後の日本市場を見るようだとは言い過ぎだろうか。CATV市場拡大のために、すでにCATV-ISP最大手のThrunetを買収し事業を一気に拡大していく模様だ。
また、ADSL戦略強化の一貫として、これまでの集合住宅中心型の営業戦略を約300万社ある中小事業所にも拡大していく戦略だ。この背景には、韓国全世帯数1500万のうち2002年末には約1100万世帯にインターネットが普及することから住宅市場から事業所市場へのシフトをせざるを得ないのだろう。現在、ADSLのサービスメニューは下表のとおりだが、この中でProの販売勧奨を積極化しようという作戦だ。
ADSLのサービスメニュー
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サービスメニュー | 帯域 | 月額料金 |
HanaFOS ADSL Pro(+Phone) | 8Mbps | 約3800円 |
HanaFOS ADSL Mid(+Phone) | 4Mbps | 約3100円 |
HanaFOS ADSL Lite(+Phone) | 1Mbps | 約2800円 |
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さらに、これまでのADSL単純提供型の事業から、コンテンツも含めたトータルサービスプロバイダを目指す意向である。なかでも共稼ぎ世帯の多い韓国ではホームショッピングが有力と判断している模様だ。
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Digital CATV戦略にも積極的
CATV業界の競争他社は、2002年3月開始のデジタル衛星テレビサービスのコンテンツ配信に向けて、DSTB(Digital Set Top Box)の開発に積極的で、ほぼ準備が整っている。この動向に対応するために、Hanaro TelecomはThrunet買収に合わせてデジタル化にも取り組んでいる。またVoIP事業も重要な収入源と見ており、サービスを計画中の様子である。さらにはADSLやCATVを使った無線アクセス事業にも参入し、設備稼働率の向上に努めているようだ。
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