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第1回:ブロードバンドルータの内側


 ネットワーク機器の中身はブラックボックスな事が多い。が、その中身がどうなっているか興味ある読者も少なくないだろう。そこで、ネットワーク機器内部のハードウェア構成を細かく紹介してゆこうというのがこの企画。第1回目はcoregaのBAR SW-4P Proを例にとって、ブロードバンドルータというものの内部構造を解説したい。

主なハードウェア的スペック

 coregaのWebサイトに置かれた製品情報によれば、スループットはテストパターンを使って65Mbps、coregaによる測定値で45Mbpsとなっている。その割に、という言い方も変だがサイズは177×103×32mm(幅×奥行×高)、重量はACアダプタを別にすると270g程度。手のひらサイズというには無理があるが、小さくまとまっている。

 フロントパネルには電源とセルフテスト、およびLAN側4ポートとWAN側1ポートについて各々スピード、Link/Act、Collision/Full Duplexのインジケータが用意されている。一方背面には、WAN側ポートが1つとLAN側ポートが4つ、電源コネクタとリセットスイッチ、LAN側の4番ポートのカスケード設定スイッチがそれぞれ設置されている。ちなみにWAN/LAN側ともに10BASE-T/100BASE-TX対応である。ちなみに底面の4カ所のゴム足を剥がすと、ケースを固定している4つのネジが見えるようになる。これを外すと簡単に分解が可能だ。

corega BAR SW-4P Pro
フロントパネルには電源とセルフテスト、各ポートのインジケータがある
底面の4カ所のゴム足を剥がすと、ケースを固定する4つのネジが見える



内部回路のスペック

 ケースを取り外し、基板を見る。構造自体は図1に示すように非常に簡単である。では各パーツごとに詳細を説明してゆこう。

corega BAR SW-4P Proの基板

図1:全体ブロック図


【CPU】

 米CONEXANTの"Network Processor" CX82100-11を搭載している。CPUの左下に“ARM”のロゴが入っている事でも判るとおり、ARMプロセッサコアを内蔵したSOC(System On Chip)である。

 この製品、詳細なスペックシートは非公開(カタログはこちらに公開されている)ということで突っ込んだブロック図はご紹介できないが、判っている範囲では以下のような点が主な特徴となっている。


  • 内部に144MHz駆動のARM9TDMIプロセッサコアを内蔵する。これが大体どの程度の性能かであるが、150MHz動作のARM9TDMIは処理性能165MIPS・消費電力225mWとなっており、144MHz駆動では158MIPS・216mWという計算が成立する。ちなみに158MIPSというのはPentium/75MHzよりちょい高速な程度だと考えれば良い。
  • 2ポートの10BASE-T/100BASE-TXインターフェイスを内蔵する。ただし内蔵されるのはMAC(Media Access Control)層までで、外部にPHY(PHYsical)層のコントローラを接続する必要がある。また10BASE-T/100BASE-TXの代わりに、例えばHome PNA 2.0のインターフェイスにすることも可能である。
  • 内部に32KBのRAMを内蔵するほか、EMC(External Memory Controller)経由で外部にSDRAMもしくはSRAMを装着できる。メモリバス幅は16bit。
  • 外部に16bit幅のパラレルバスを持ち、フラッシュメモリを接続できるほか、(BAR SW-4P Proにはないが)必要ならSuperI/Oチップを接続して、シリアル/パラレルインターフェイスを装備できる。(図1中で点線で記した部分)
  • (これもBAR SW-4P Proにはないが)USB 1.1コントローラを内蔵し、PCなどと簡単に接続できる。

 ちなみに消費電力は聞くところによれば、通常で200mW程度、最大でも300mW程度でしかないそうで、ヒートシンク無しでも全く運用には問題ない。

 この上で何が動くかだが、これは様々である。例えばCONNEXANTではCX82100-12という製品パッケージを持っているが、これはCX82100に米IntotoのeFirewallというソフトウェアをパッケージしたものだ。このeFirewallは、別にOSとかを必要とせずにそのままファイアウォールとして動作する。だからこれを採用した製品ベンダーが行なうべき作業は、せいぜいメッセージの日本語化程度のものである。

 一方、CX82100-10の場合は単にチップのみの販売となっており、この上にARMコアに対応したEmbedded Linuxをポーティングすればとりあえずはブロードバンドルータとして動作する。手間は掛かるが、もっともコストを抑えたアプローチである。特に、変わった構成をとりたい場合にはこのアプローチが最も柔軟性が高い。

 ではこのBAR SW-4P Proに搭載されたCX82100-11は何かという話だが、これまた聞くところによると、チップ+CONNEXANTのパッケージソフトという構成らしい。つまりハードウェアの設計からファームウェア、上位アプリケーションまでワンパッケージとなった商品で、-12との違いは全部CONNEXANTから提供されるという事「らしい」。曖昧なのはそもそもこのCX82100-11という製品がCONNEXANTのWebでは発見できないためで、あくまでもOEM/ODM向けのスペシャルパッケージということらしい。ちなみに筆者が知る限り、アライドテレシスのAR230E、エレコムのLD-BBR4M、アクトンテクノロジィ/SMCのSMC7004ABR、京セラのMETEORなどはいずれもこのCX82100-11を利用しており、違うのは例えばフラッシュメモリの容量とかユーザーインターフェイス部分(つまりブロードバンドルータ内部のCGIのプログラム)程度ということのようだ。


【メモリ】

 搭載しているメモリは、台湾EtronTechEM638165TS-7である。4Mwords×16bit、アクセス速度143MHzのもので、それほど珍しい製品ではない。これはCX82100のCPUコアに接続され、要するにメモリ8MBということになる。

 (構成にもよるが)Embedded Linuxのカーネルだけなら3MB程度でお釣りがくると言われており、作業領域やフィルタルールの蓄積、アクセスログなどに容量を割いても、それほどキツいメモリ配置とはならないだろう。


【フラッシュメモリ】

 フラッシュメモリはブロードバンドルータを構成するソフトを全てとユーザー設定類を格納する。例えばEmbedded Linuxベースのものならカーネル全部と必要なモジュール、WebサーバとCGIがここに収まるわけだ。使われているのはIntelのTE28F800C3BA90で、データ幅16bit、容量8Mbit、アクセス速度90nsのものである。

 8Mbitというのは1MBの事で、フロッピー1枚にも足りない容量ではあるが、実はこんな程度でも十分である。Embedded Linuxに限らず最近の組み込み系システムはどれも、プログラムは圧縮形式で格納し、メモリにロードする際にこれを展開する方式をとっているからで、メモリさえ十分にあれば不自由しないのである。またARMの場合、特に16bitのThumb命令はコード密度(一定量の命令の記述に必要なメモリ量)が高いから、x86系などと比較しても少ない容量で所定のプログラムを格納できる。

 もっとも、あれこれ周辺機器を付けたり、将来の拡張(例えばUPnPの対応)を考えるとちょっとこのサイズは心もとないのも事実である。このため、一部メーカーの中には2MBとか4MBなんてサイズのフラッシュメモリを搭載しているものもある。


【10/100BASE-T PHY】

 先に書いたとおりCX82100にはMAC層までのコントローラが内蔵されているので、PHY層のコントローラを取り付ける必要がある。ここで利用しているのは台湾DAVICOMDM9161Eである。MAC層はあくまで論理層であって、実際に10/100BASE-Tの通信で使われる電気信号が出てくるわけではない。そこで、言ってみれば10/100BASE-Tで使うアナログ信号と、CX82100から出てくるデジタル信号を双方向変換するのがこのDM9161Eの役割である。



【5port L2 Switch】

 BAR SW-4P Proの場合、LAN側に4台までのマシンを接続できるようになっている。が、あくまでCX82100から出るのは1ポート分なので、どこかでハブを入れてやる必要がある。従って外部4ポートとCX82100 1ポート、合計で5ポートのハブが必要になる。この機能を果たすのが米KENDINのKS8995(製品情報はこちら、PDF)である。このチップは内部で5ポートのレイヤ2スイッチとして機能するほか、5ポート各々分のPHYも内蔵しているというものである。実際、多くのブロードバンドルータや安価な10/100BASE-Tスイッチには、必ずといっていいほどKENDINの製品が使われており、隠れたベストセラー製品と言っても過言ではない(もっとも最近は台湾RealTekのRTL8305S/8308Bといった安価な製品も登場しているため、次第に押され気味のようではあるが)ちなみに消費電力は1.25Wとそれほど多いわけではないが、ケース側に特に強制空冷の仕組みがないためか、写真のようにヒートシンクを接着してあった。これを取り外してもすぐに動作しなくなる事はないだろうが、次第に熱の影響で内部がおかしくなる可能性がある。


【Single Port Transformer】

 トランスフォーマーとは、要するにプロテクターのようなものである。10/100BASE-Tに限らず、電線を使ったイーサネットの場合、高電圧が不意に掛かることがありえる。それは例えば周囲にある電力線からの誘電だったり、極端な場合は雷が落ちたりといったことだが、こうしたものが直接PHYチップに入ると、間違いなく破壊されてしまう。そこで直前にこのトランスフォーマーを入れ、ここで規定外の電力がそのまま伝わらないようにしている。内部的には単なるパルストランスで、これによりパルス状に伝わる高電圧の波をPHY側に伝えない仕組みだ。

 この分野も多くのベンダーがあるが、ここで使われているのは米DELTA Electronics Inc.のLF8278である。DELTAといえば、ちょっと前のPCのマザーボード(Socket5~Socket7頃)を触った経験のある人には懐かしいベンダーである。バッテリー入りのリアルタイムクロックモジュールとして同社の製品が搭載されている事が多かったからだ(最近はボタン電池を使うのが一般的になってしまった)。これに限らず、様々なアナログ部品を同社では取り扱っている。さて肝心のLF8278だが、なぜか当該する型番の製品がWeb上には存在しない。ただLF8271/LF8275/LF8279がいずれも1ポート用のトランスフォーマーなので、この製品も同じく1ポートのトランスフォーマーと考えて間違いなさそうだ。


【4-port Transformer】

 こちらは4ポート分のトランスフォーマーをまとめてパッケージした製品である。同じくDelta Networkring Inc.のLF8708(製品情報はこちら、PDF)を利用している。



ということで

 BAR SW-4P Proのハードウェアの各コンポーネントの紹介を行なってきた。意外と簡単だと思われるか、結構難しいと思われるかは人それぞれだろうが、最近のブロードバンドルータの構成は大体この程度である。CPUに関する主流はARM系プロセッサを使った構成だが、FTTHなどを睨んでより高性能を狙った製品は日立のSH-3やSH-4、東芝製のMIPS32互換プロセッサなどを搭載するものもいくつかある。ただ今後は、より強固なパケットフィルタリングやUPnPへの対応、そしてYahooBBやe-Accessなどで始まったVoIPへの対応などのために、より高性能のプロセッサと大容量のメモリ/フラッシュが要求されるようになりつつある。

 このジャンルにおける製品内部の進化(と製品ラインナップ)は今のPCより遥かに早く、その結果陳腐化が進むのがかなり早くなっている。3カ月程度で売れ線が綺麗に入れ替わっているのがここ1年ほどの状況であり、したがって今でこそ「最近の製品の内部構造」だがあと半年もすると「ちょっと前の製品の内部構造」になりそうなのが怖い今日この頃である。



□corega BAR SW-4P Pro製品情報(コレガ)
http://www.corega.co.jp/product/list/router/barsw4ppro.htm

(2002/03/07)
槻ノ木隆
 国内某メーカーのネットワーク関係「エンジニア」から「元エンジニア」に限りなく近いところに流れてきてしまった。ここ2年ほどは、企画とか教育、営業に近いことばかりやっており、まもなく肩書きは「退役エンジニア」になると思われる。
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