サンフランシスコで2月25日から28日まで開催されていたIDF(Intel Developer Forum)にあわせ、Intelから3種類のネットワークプロセッサが発表された。メインとなるのは、OC-48からOC-192までをカバーする、IXP2800/IXP2400というハイエンド製品なのだが、同時に隠れるように発表されたIXP425というプロセッサは、ブロードバンドルータのマーケットを席巻し得る可能性を秘めた製品に仕上がっている。
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ネットワークプロセッサというマーケット
一昨年あたりから、ネットワークプロセッサというマーケットが存在する。要するにルータ内部の処理を行なう専門のプロセッサというマーケットである。意外とこのマーケット、参入者が多い。たとえば40Gbps(OC-768)に向けてはXelerated Packet DevicesやClearSpeedのPixelFusion、EZchipのNP-2といった製品が、10Gbps(OC-192)のマーケットにはAMCCのnP7250、IBMのRainier、C-PortのC-5、AgereのPayload Plus、OnexのOMNIなどがひしめいている。その下のGbE~OC-12のマーケットには、IntelのIXP1200シリーズ、VitesseのIQ2000シリーズ、AMCCのnP7120といった具合だ。
こうした製品はエンタープライズ向けの内部LANとか、あるいは通信事業者のアクセスルータやコアルータといったマーケットをターゲットにしていたのだが、ご存じのとおりここ1~2年の不況もあって、あまりマーケットが活性化しない(というか、場所によっては縮小している)状況のためどこかが主導権を握れるという状況ではなく、これがまたマーケットの混乱につながっている。
このネットワークプロセッサがターゲットとするマーケットのローエンドには、家庭あるいはSOHOに設置される小規模アクセスルータも含まれる。この小規模アクセスルータのマーケットで主なプレイヤーとなっているのは、
- 台湾RDC R8800シリーズ
80186/188互換の16bit RISCプロセッサ。処理性能は推して知るべしといったレベルだが、ルータを構成するシステムコストが異様に安いため、特に市販価格で1万円を切るような製品を中心に多く利用されている。
- Samsung Electronics S3C4510シリーズ
ARM7コアをベースに、ルータの構成に必要な要素を組み込んだSOC。性能や価格、拡張性はそこそこといったところである。
- Conexant CX82100 Network Processorシリーズ
ARM9コアに、ルータの構成に必要な要素を組み込んだSOC。性能はさすがに高く、現在のルータ製品の中では最高速に近い。ただし拡張性にいまいち欠ける嫌いがある。
- Motorola MPC850 PowerQUICCシリーズ
PowerPC 603eのコアにコミュニケーションプロセッサというRISCチップを組み込み、さらに外部インターフェイスをてんこ盛りにした製品。コアの処理性能が低い半面、UTOPIAインターフェイスを内蔵しているなど拡張性は非常に高い。
といったあたりである。この中で主流になりつつあるのがARM系の製品だが、これにはちょっと裏もある。Samsung、Conexantともに、単にチップだけではなく設計のコンサルテーションも同時に提供してくれるのだ。これにはリファレンスデザインとかファームウェアのサンプルも含まれており、極端な話エンジニアがほとんどいなくても、それなりに製品を作れてしまったりする。当然この場合、製造はEMS(Electronics Manufacturing Services)に委託するわけで、結果として企画だけ立てると製品ができてしまうという状態になる。あまりエンジニアリングに強くないハズの会社がいきなりブロードバンドルータを出している場合、このパターンを疑ったほうがいいだろう。ただ誤解なきよう書いておけば、リファレンスデザインをそのまま製品にしているわけだから、動作がおかしいとかいうことはあまり考えられない。ただ、あまり特徴のない製品になることは想像できるが……。
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IXP425の戦略と特徴
話が逸れたのでもとに戻そう。Intelは今回、XScaleプロセッサコアを搭載した7種類の製品を一気にリリースした。ここで重要なのは、開発ツールがかなりの部分で共通化されることだ。もちろんPDA向けのPXA250と、ハイエンドのOC-192を睨んだIXP2800がまるきり同じということはあり得ないし、各製品ごとにXScaleコアを積んでいるとはいえ違いはあるから、開発キットは別々にならざるを得ない。
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性能に応じて7つのラインナップを擁するIntelのネットワークプロセッサ |
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ただ、ツールやソフトウェア/ハードウェアベンダの側からすれば、ある程度の違いは吸収しやすい。特にソフトウェアベンダの側からすれば、(パケットプロセッサを統合するIXP2800/2400を別にすれば)個々の製品の違いはライブラリを用意すれば吸収できる程度のものである。IDFではこのXScaleベースの各製品をサポートするサードパーティが合計60社ほどあるとしており、個々の製品ベースで考えてもハードウェア/ソフトウェアをあわせて10社以上が何かしらのツール類を提供する計算になる。IXP425についても、このサードパーティのサポートの厚さで他社を圧倒できると考えているようだ。
加えて、製品自身のパフォーマンスにも自信があるようだ。XScaleの特徴は、同じ消費電力ならほかのどんな組み込み用プロセッサよりも高性能であると謳っており、実際IXP425に内蔵される533MHzのXScaleコアは、推定ながら700MIPS以上を叩きだす。144MHz動作のARM9を搭載したConexantのCX82100が160MIPS弱だから、圧倒的な性能差である。
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XScaleの性能と消費電力(出展:IDF Spring 2002) |
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また、内部の構造も充実している。下図はIXP425の内部ブロックだが、まずWAN/音声用のNPE(Network Processor Engine)とイーサネット用NPEを2個内蔵している。イーサネット用NPEはMACも内蔵しているので、外部にPHYを取り付けるだけでそのままイーサネットが接続できる。特にイーサネットNPE Aのほうは、内部にVPN用のアクセラレータまで内蔵されている。またWAN/Voice NPEにはUTOPIA Level-2が装備されているから、たとえばADSL用のDSPを接続したりできるし、必要ならこれをVoIP用のエンコーダ/デコーダとすることも可能としている。ほかに汎用のシリアルポート×2やUSB 1.1ポート、16本の汎用I/Oポートなども用意されている。これらのデバイスはAPE(ARM Peripheral Bus)で接続されており、その一方で3つのNPEは直接SDRAMのコントローラにAHB(ARM Host Bus)で接続されている。
一方XScaleコア側は32bit幅の33MHz/66MHzのPCIバスインターフェイスを用意しており、これと(フラッシュメモリやDSPなどを接続できる)16bitインターフェイス、それとキューマネージャをやはりAHBで接続しているという構造だ。この構造により、たとえば送受信パケットをメモリにRead/Writeする場合、CPUを介さずに直接NPEがメモリとアクセスできるし、CPUが介在する処理の場合はAHB-AHBブリッジを介して通信ができるという仕組である。
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IX425の内部ブロック図 |
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設計目標として、イーサネットNPEは100Mbpsのフルスピードのペイロードに耐える性能を持つとされており、全体としても単にADSLだけでなくVSDLなどに十分耐え得る性能を持っているそうである。これまで家庭/SOHO向け製品でこれだけ高い性能を持ったものはあまり見当たらないから、これだけでもかなりの競争力である。加えて、周辺バスの豊富さも大きなメリットである。強いていえばパラレルポートかLPCバスのインターフェイスがあればなおよかったのだろうが(プリンタサーバーを簡単に構成できる)、PCIバスでカバーできなくもないから、大きなデメリットとはいえないだろう。
サードパーティのサポートも強力だ。たとえばConexantのCX82100向けにファイアウォールソフトeFirewallを提供している米Intotoによれば、eFirewallはポータビリティを重視しており、IXP425もサポートするという。その際の製品価格は(ハードウェアの構成や出荷台数、ライセンス形態などで変わってくるが)200ドル近辺を狙えるとしている。eFirewallの場合、フルステート・パケット・インスペクションを搭載したファイアウォール兼ルータ機能を丸ごと提供しているから、ほかのソフトを載せる必要はない。これまでこのレンジの製品で200ドルという価格は存在しなかったもので、実現すればかなりのインパクトになり得る。
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はたしてIXP425搭載製品は入手できるか?
ではIXP425は、日本におけるブロードバンドルータのマーケットを席巻するかといわれると、これまたはなはだ難しいものがある。実のところ、現在日本できちんとエンジニア部隊を抱えて設計を一からやっているベンダは、両手に満たない程度であると聞いている。ほとんどのベンダが、台湾あたりからのOEMあるいはODMであり、ODMにしてもどうにかすると設計しているのは外観のデザインだけだったりする。こうした状況では、性能よりコストに目がいくのはムリのないことで、そうなると設計がこなれたSamsungあるいはConexantのプロセッサが引き続き使われていく可能性は高い。
その一方、たとえば最近のトレンドであるIP電話やUPnPのサポート、IPv6への対応などを考えると、ますますもってブロードバンドルータには高い性能が求められていく。こうしたマーケットには、IXP425は非常にアピールするだろう。特にIP電話は、現在のところPC上からしか行なえないようになっているが、使い勝手を考えればブロードバンドルータに電話機が接続できるほうが便利である。こうした製品を考えた場合、IXP425には利点が多い。つまるところ、こうしたマーケットが本格的に立ち上がるのと、競合メーカーが同じような製品を出してくるのと、どちらが先かという問題になる。もし競合メーカー製品に先んじてこのハイエンドマーケットを掴むことができれば、IXP425が大きなマーケットシェアを確保することも夢ではないだろう。
(2002/03/15)
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