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第5回:ギガビットイーサネットスイッチ
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第5回:ギガビットイーサネットスイッチ


 第5回目はちょっと毛色を変え、GbE(Giga bit Ethernet)スイッチに焦点を当ててみたい。取り上げるのは、GbEポートを1ポートと10BASE-T/100BASE-TXを8ポート持つスイッチングハブである、プラネックスコミュニケーション株式会社のFX-1008TEである。



主なスペック

 100BASE-TXが当たり前になりつつある昨今、特にIntelは「これからはGbEだ」とばかりに、チップセットにGbEのMACを内蔵する計画をアナウンスするなど、普及に向けての下地作りに余念がない。また企業内バックボーンとしては既に普及期に入っており、大体は16~32ポートのインテリジェンススイッチにアドオンでGbEモジュールを追加するというパターンのようだ。実際、トランク接続(複数のポートを束ねて1本の論理ラインを作成する機能。Link Aggricationなどとも呼ぶ)を使って2~4Gbps程度のリンクでスイッチ間を接続すれば、100BASE-TXのポートを100近く接続しても耐えるバックボーンができあがる計算だ。  ただし、家庭向けにはまだまだ敷居が高いのが実状。大体スイッチのポート単価が少なくとも1万を切らねば、クライアントにGbEを使う気にはなれないのが正直なところだろう。現在一番安い製品は、(筆者が知る限り)プラネックスコミュニケーションのFXG-08TWで、前製品にあたるFXG-04TEよりは大幅にコストダウンを図ったものの、まだポート単価は1万8500円ほど(ちなみにFXG-04TEでは2万4500円)。ちょっと家庭向けとは言いがたい(実際メーカーも家庭向けとは言っていない)。GbEカードの方は、既に1万円を切った製品があるだけに、やはり割高感を感じてしまう。  そうした中で、家庭用途にも結構使えそうなのが同社のFX-1008TEだ。GbE 1ポートと10BASE-T/100BASE-TXを8ポートという構成で、参考価格は2万9800円となっている。ファイルサーバーだけをGbEで接続し、クライアントは100BASE-TXでブラ下げるといった使い方に適した製品だ。もちろん、クライアントのスピードは100BASE-TXだから最高速は100Mbpsだが、サーバーも100BASE-TXで接続されると、複数のリクエストが届いた時にはこのサーバー/ハブ間のスピードがボトルネックとなってしまう。ところがここをGbEにすると、極端な話、8台のクライアントが一斉にリクエストを出しても最大800Mbpsでしかないから、GbEの1000Mbpsというリミットに届かない、つまりここがボトルネックになる事が回避できるわけだ(筆者注*1)。

筆者注*1
 実際には家庭内に、こんなスループットを出せるサーバーを置くケースは考えられないから、まぁ気分の問題なのかもしれないが。ただAMD-761MPマザーボードにRAIDカードという比較的安価な構成で、200Mbps程度の処理性能を出すサーバーは組めるから、100Mbpsでの接続はやはりボトルネックとなることは間違いない。もっとも、これは留保条件がつくのだが、それは後述する。



ハードウェア的スペック

 そんなわけでFX-1008TEのスペックを説明すると、1ポートのみ10BASE-T/100BASE-TX/1000BASE-Tポートが用意され、他に10BASE-T/100BASE-TXポートが8ポートある。全ポートともAUTO MDI/MDI-X、つまり極性を自動判別してくれるため、ストレート/クロスケーブルに気を使う必要がないという特徴がある。

 スイッチングはストア&フォワード方式で、パケットバッファ2MB、MACアドレス数4096、フィルタリング/フォワーディングスピードは100Mbpsで148,810パケット/秒だから、ごく一般的なスペック。ちょいと昔の10BASE-T/100BASE-TXスイッチングハブに近いもので、GbEポートがついている事だけが違いだと言えなくもない。

 前面パネルはこんな具合だ。筐体はスチール製で、サイズは220×130×44mm(幅×奥行×高)、重さは1.5kgとなっている。ちょっと太めではあるが、意外にかさばらない。裏面はというと電源ポートとファンのみのシンプルな構成である。ちなみに分解は側面の6カ所と底面の2カ所のネジを取り外すことで可能になる。

10BASE-T/100BASE-TXポート毎にLink/ACT、10BASE-T/100BASE-TX、FDX/Col.の各LEDが用意される。GbEポートは、10BASE-T/100BASE-TX/1000BASE-Tのメディア選択と、FDX/Col.、TX、RXで合計6つのLEDが用意される豪華さ。 電源は100~240V、50/60Hzの全世界仕様。最近のちょっと高価なスイッチだと、ポート毎にスピードやDuplexなどを設定するジャンパスイッチが裏側に用意されていたりするが、このFX-1008TEには存在しない



内部構造

 内部の回路はこんな具合だ。基板上には色々な空きパターンが見られるが、シリーズ展開している製品はともかくちょっとこの製品については解せないところだ。ちなみに肝心のスイッチ部に関しては、高さ12mmほどのヒートシンクが接着してある。

電源部は小さくまとまっており、それなりにスマートな配置にまとまっている 基板を横から見た図。さすがにGbEスイッチともなると、かなり発熱が大きいようだ

 全体のブロック図を下に示す。以下、各パーツ毎の詳細を説明してゆきたい。

図:全体ブロック図


【スイッチ】

 FX-1008TEの心臓部となるのが、このAtanのAT8989Gである。8ポートの10BASE-T/100BASE-TX MACと1ポートのGbE MACがワンチップ化された優れものである。内部に2MbitのRAMを内蔵しており、後はPHYを取り付けるだけでスイッチングハブが出来上がるというものだ。(Photo06)ちょっと気になるのは、カタログの数値(バッファ2MB)と一致していないこと。ただボード上には他にメモリチップは搭載していないし、ブロック図からも明らかなとおり外部にパケットメモリを装着する余地はない。だからといって2MBものメモリをオンチップで搭載しているとは思えないし、大体Specificationと一致しない。おそらくはカタログのミスではないかと思う。ちなみにこの製品、2001年第4四半期に量産を始めたばかりである。

低価格帯製品には意外に多く使われているのがこのATANの製品。これでもTrunkingやVLAN、QoSのサポートなどが含まれている 内部ブロック図。Specificationを読む限り、クロスバースイッチではなくバッファを利用した利用した構成の様だ。まぁ最近のCMOS回路は高速だから、100MHzかそこらのスイッチングにいちいちクロスバー回路を入れる必要性はないだろうが


【GbE PHY】

 GbEのPHYに利用しているのは、米MARVELL88E1000である。"Alaska"というシリーズの製品である。Alaskaシリーズは現在7種類、16製品が用意されているが、88E1000は単に1ポートの10/100/1000BASEに対応しただけのPHYである。ちなみに低消費電力がウリのこの製品だが、ポート当たりの消費電力は1.8Wと、現在の水準から言えばやや消費電力は多いほうに入ってしまう。

かなり厳重にヒートシンクが取り付けられており、外すのには難渋した ちょっと見た目は汚いがご勘弁いただきたい


【10/100BASE PHY】

 10/100BASE-Tのポートに関しても、同じくMARVELLの88E3081を採用している。先の88E1000もそうだが、Auto MDI/MDI-Xの機能が含まれており、これが製品の特徴の1つともなっている。ちなみに消費電力は280mW/ポートで、8ポート動作時は2.2W余りの消費電力となる。

接着面積が大きい分、さらに外れにくかった MARVELLの製品は、スイッチの他にもGbEカードなどにも多用されている。また同社はMACも提供しているが、機能が多い分コストも上がるようで安価な製品ではあまり見かけない


【GbE Transformer】

PulseのH5008。GbE向けとしては小型な方である(13.77×15.24×5.72mm)

 GbEポート用のTransformerには、米PulseのH5008が採用されている。Transformerの機能はこの連載で何度か触れているので繰り返さないことにする。



【10/100BASE Transformer】

安価ハブを開けると、割合高い頻度で見かける"FUN-JIN"ブランド。知り合いの部品問屋に聞いてみたのだが、「ウチでは扱ってない」というつれない答えが返ってきた

 こちらは4ポートのTransformerである。時折低価格帯製品で見かけるこのFUN-JINブランドだが、今回は調査が間に合わなかった。ただ配線から考えて、Transformer以外のものが入るとも思えない。典型的な4ポートのTransformerであろうと思われる。



【シリアルEEPROM】

このEEPROMには、AT8989Gの動作モードのパラメータなどが入っている。9つのポート毎にスピードの設定やVLAN動作の可否、LEDの設定までが含まれる。VLANを構成するためには、このEEPROMを交換して設定を変更できる、ということだろう。

 基板の端にあるのが、Atan AT8989G用のEEPROMである。搭載しているのは台湾 Holtek Semiconductor Inc. のHT93LC46だ。このメモリは、3本の信号線だけで読み出しが出来る1kbitのシリアルEEPROMというものだ。信号線が少ないから実装は楽であり、こうした組み込み機器などにしばしば使われている。

 アクセス速度は、5Vをかけた時でもたかだか2MHzに過ぎないが、(OSのブートローダーではないので)そもそもロードすべきデータ量は極めて少ないから、こんなものでも十分であろう。



ということで

 非常にあっさり、説明が終わってしまった。高機能な製品とか、GbEポートを多数用意する場合、複数のGbEスイッチ間を高速バスで接続するなんて事が必要になるのでもっと内部回路がにぎやかになるのだが、8+1ポートくらいならこんな簡単に済んでしまうわけだ。ここまで簡単だと、もう少し価格が下がっても良さそうに思える。せめて2万は切って欲しいところだ。ちなみに、ほぼ同スペック(Auto MDI/MDI-Xはない)のコチラは、実売価格で1万9800円ほどだった。メーカーからすれば、GbEということで多少なりともプレミアを付けて売りたい、と言うことは理解できるが、そういう状態ではホームユーザーにはなかなか手を出しにくいわけで、もう少しアグレッシブな価格を期待したいところだ。ちなみにプラネックスコミュニケーションの名誉のために書いておけば、それでもほとんどのメーカーの製品よりもこれは安価なのである。いかにGbEスイッチが現在高いか、ということだ。他社の健闘も期待したい。



(2002/04/11)
槻ノ木隆
 国内某メーカーのネットワーク関係「エンジニア」から「元エンジニア」に限りなく近いところに流れてきてしまった。ここ2年ほどは、企画とか教育、営業に近いことばかりやっており、まもなく肩書きは「退役エンジニア」になると思われる。
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