アイ・オー・データ機器から、LAN接続HDD「LANDISK」の新モデルとして「HDL-GXシリーズ」が発売された。1000BASE-T対応のギガビットイーサ対応LAN接続HDDである点は従来製品と同じだが、HDDのインターフェイスがIDEからSATAに変更されているのが最大の特徴だ。SATAの採用によってどのような恩恵が受けられるのかを検証した。
■ インターフェイスをSATAに変更。eSATA HDDとのミラーリングも可能に
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HDD容量が250GBの「HDL-GX250」
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アイ・オー・データ機器から発売された「HDL-GXシリーズ」は、LAN接続HDDとしてはかなり完成度の高い製品だ。見た目は従来モデルのHDL-Gシリーズとほとんど変わりはないが、いくつかの新機能の搭載により、実用的なシーンでの使い勝手が向上している。
まずは、従来製品との違いについて見てみよう。今回の新シリーズではプロセッサがIntel 80219(HDL-Gシリーズ)からARM9(HDL-GXシリーズ)に変更されているが、それ以上に注目されるのがHDDのインターフェイスが変更された点だ。内蔵されるHDDは従来のIDEからSATAに変更されており、インターフェイスもPCI Express接続のSATAとなった。PC向けのHDDもIDEからSATAへのシフトが徐々に進みつつあるが、LAN接続HDDにもこの波が訪れているようだ。
内蔵HDDがSATAに変更されただけであれば、ユーザーにとってあまり大きなメリットはなさそうだが、今回のHDL-GXシリーズでは、外付けハードディスクなどを増設するためのインターフェイスとして、USB(2ポート)のほかにeSATA(1ポート)が新たに追加されている。これにより、eSATA対応の外付けハードディスクを接続し、増設用やバックアップ用のドライブとして利用したり、さらには内蔵HDDと外付けHDDを利用してミラーリング環境を構築することまで可能となっている。
つまり、単なる時代の流れというわけではなく、データの信頼性を向上させるというきちんとした理由からインターフェイスがSATAに変更されているというわけだ。
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HDL-GX250の全面。USBポート×1を搭載
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背面にはLANポート、USBポート、eSATAポート
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■ ミラーリングの構築はカンタン
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外付けのeSATA HDD「HDC-UXシリーズ」でミラーリング環境を構築
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では、実際の利用方法を見てみよう。まず通常のセットアップだが、これは従来モデルとほとんど変わりがない。本体をネットワークに接続すれば、DHCPサーバーから自動的にIPアドレスを取得でき、この状態で「\\landisk」にアクセスすれば共有フォルダを利用できる。ユーザーやグループの追加、共有フォルダの設定など、細かな設定もブラウザで設定画面にアクセスすることで可能だが、家庭で利用するなら特に設定を変更する必要はないだろう。
肝心のミラーリング環境の構築だが、これには前述したようにeSATA接続の外付けHDDが必須のため、同社製の「HDC-UXシリーズ」を用意した。この状態では単純にeSATA接続のHDDが共有フォルダとして利用できるだけなので、改めてミラーリングの設定が必要になる。PCから設定画面にアクセスし、「ディスク」メニューにある「ミラーリング」から「内蔵HDDからeSATA HDD1へミラーリング開始」をクリックすれば、ミラーリング環境の構築が開始される。
eSATA HDDを接続し、メニューからミラーリングを開始するだけでミラーリング環境の構築が可能。非常に簡単に設定できるので誰でも手軽に利用できる
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この処理によって外付けHDDのデータは削除され、ファイルシステムも変更されるが、ミラーリング開始処理、およびその後に行なわれる再構築処理の間でも本体HDDのデータにはアクセス可能だ。再構築に多少の時間はかかるが、PCのミリーリングなどと比べると難易度は低く、誰にでも手軽に設定できるようになっているのは高く評価したい。
■ 障害からも手軽に復旧可能。「ごみ箱」もついに利用可能に
このようなミラーリングの設定により、HDL-GXに保存したデータはリアルタイムにeSATA HDDにミラーされるようになり、HDDの物理的な故障などから高い確率で保護されるようになる。ただし、ミラーリングの場合、設定はカンタンでも復旧が難しいというケースも多い。このあたりを検証してみることにした。
試しに擬似的に内蔵HDDが故障した場合を再現するために、ミラーリングを設定後にeSATAのHDDを取り外し、内蔵のハードディスクをフォーマットしてみた。この状態でHDL-GXを起動すると、本体前面のランプが点滅しながら「ピ、ピー、ピピ」という警告音が発せられ、特殊なモードでHDL-GXが起動する。
この状態でPCからブラウザを利用し、「http://192.168.0.200」にアクセスすると、以下のように内蔵HDDとeSATAの間でデータの不一致が発生したというメッセージが表示され、内蔵HDDとeSATAのどちらからシステムを起動するかを選択できる。HDL-GXシリーズではデータはもちろんのことシステムもミラーリングされるため、内蔵HDDが故障した場合でもeSATAからシステムを起動することができるわけだ。
ミラーリング構成のHDD内容に不一致が生じると、警告音とともに特殊なモードで起動。設定画面から起動するHDDを選択できる。起動後、ミラーリングの再構成によって元の状態に手軽に復旧できる
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eSATAからの起動を選択すれば、以前の状態に復旧するので、あとは設定画面でeSATAから内蔵HDDへのミラーリングを再度設定すれば完全に元の状態に復旧する。つまり、本体のHDDが故障してもeSATAから起動して連続稼働させることができるだけでなく、故障した本体を新品に交換した場合などでもeSATAから従来の設定で起動でき、手軽に元の状態へ復旧できるというわけだ。
このように、ミラーリングによってLAN接続HDDの最大の不安要因であるHDDの物理的な故障を心配する必要がなくなることになる。正直、ここまで手軽に復旧できるとは思わなかっただけに非常に感心してしまった。
しかも、今回のHDL-GXシリーズからは、本コラムで以前から指摘していた「ごみ箱」機能もついに搭載されるようになった。標準では無効になっているので、設定画面から共有フォルダの設定画面を表示し、「ごみ箱」機能を有効に設定しておく。この状態で共有フォルダに保存してあるファイルを削除すると、「ごみ箱」フォルダが新たに作成され、削除したファイルがそこに一旦保存されるようになる。これにより、HDDの物理的な故障に加え、ユーザーのオペレーションミスによるデータの消失にも対応できるようになった。
待望のごみ箱機能も新たに追加され、オペレーションミスによるファイル消失にも対応できるようになった
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さらにUSB接続の外付けHDDを接続し、スケジュール機能を利用して定期的に共有フォルダのデータをバックアップするようにすれば、「ごみ箱」「バックアップ」「ミラーリング」の3段階の防御策で、あらゆるトラブルから容易にデータを復旧することが可能となる。ここまでの信頼性を備えていれば、家庭での利用はもちろんのこと、企業のファイルサーバーとして利用してもまったく問題のないレベルだろう。
正直、従来のLANDISKシリーズは速度や静音性などは優れていたが、データの保護という点で他社製品に比べて若干劣る面があった。しかし、今回のモデルでは、この点が完全に払拭され、さらにワンランク上の信頼性を手に入れたことになる。もはや文句の付けようのない製品に仕上がったと言って差し支えないだろう。
■ パフォーマンスも実用上は問題なし
このように信頼性を大幅に向上させたHDL-GXシリーズであるが、パフォーマンスも十分実用的なレベルだ。搭載されるプロセッサがHDL-Gシリーズに比べて若干劣るうえ、ミラーリングやごみ箱などの機能強化で処理に負担がかかるのではないかとも思われたが、その心配は必要なさそうだ。
試しに、FTPとWindowsのファイル共有でPCから50MBのファイルを転送してみたのが、以下の表とグラフだ。参考のために、以前、本コラムで計測した従来製品のHDL-Gシリーズの値も掲載しているが(以前の計測と利用したPCが異なるなど環境がことなるためあくまでも参考値)、さほど遜色のない速度を実現できている。もともと、Windowsのファイル共有の場合、PC側(OS)の速度がボトルネックとなるため、LAN接続HDDのパフォーマンス自体はあまり影響しないのだが、ここまでの速度が実現できていれば実用上の問題はないだろう。
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HDL-G160U |
HDL-GX250 |
PUT |
GET |
PUT |
GET |
FTP |
128.04Mbps |
435.40Mbps |
115.81Mbps |
426.16Mbps |
Windowsファイルコピー |
66.90Mbps |
127.20Mbps |
75.05Mbps |
116.34Mbps |
※50MbpsのZipファイルを転送したときの速度を計測。単位はMbps
※クライアントにはAthlon64 X2 3800+、RAM1GB、HDD160×2(SerialATA RAID0)のPCを使用
※FTPはWindows XP SP2のコマンドプロンプトからFTPコマンドを実行して計測
※Windowsコピーはcopyコマンドとtimeコマンドを組み合わせたbatファイルを利用して計測
]※Jumbo Frameを有効(9000)にして計測※HDL-GX250はeSATAハードディスクへのミラーリング、およびゴミ箱機能を有効にして計測 |
■ 現段階でもっともおすすめできるLAN接続HDD
このように、新型のLANDISK「HDL-GXシリーズ」は、データの保護をほぼ完璧に実現できる非常に優れた製品と言える。しかも、パフォーマンスに不満もないうえ、省電力機能を利用してハードディスクやファンの回転を止めれば動作音もほとんど気にならない(動作中はファンの音が若干する)。
現状は、HDL-AVシリーズで対応しているDLNA機能が搭載されていないが、将来的にファームウェアのアップデートを期待したい。本体とeSATAの外付けハードディスクをセットで揃えるとなると、それなりの投資が必要になってしまうが、大切なデータの保存先と考えた場合、現段階ではもっともおすすめできる製品と言えそうだ。
■ URL
HDL-GXシリーズ
http://www.iodata.jp/prod/storage/hdd/2006/hdl-gx/
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2006/03/14 11:05
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