日本放送協会(NHK)によるインターネット経由での映像配信サービス「NHKオンデマンド」が12月1日から開始された。
以前からサービス内容についてアナウンスされていた通り、PC向けの配信に加えて、「アクトビラ ビデオ・フル」「J:COM オン デマンド」「ひかりTV」への配信も開始され、テレビやPCなどさまざまな形式でで楽しめるようになっている。
■ 放送と密接した配信が特徴
NHKでは、ドキュメンタリーなどを中心に、以前から映像配信サービスへの一部コンテンツの提供を行っていたが、今回のNHKオンデマンドは放送と配信がより密接に連携しているのが最大の特徴。ドラマなどは放送の翌日から1週間程度配信するほか、、ニュース番組を放送の数時間後に配信するなど、放送と配信のタイムラグが非常に少ない。
今回のサービスによって同社によって製作された番組が、電波を使ったリアルタイムの放送と同様にIPを利用したオンデマンドの配信の形でも本格的に楽しめるようになったわけだ。
これまで、テレビ放送を自分の都合に合わせて視聴したいときは録画するのが一般的であったが、録画し忘れたり、放送後に面白かったという評判を聞いた番組なども、オンデマンドで視聴できるようになったことになる。
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PC版のNHKオンデマンド
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アクトビラ対応の東芝製液晶テレビ(REGZA 42ZV500)で表示したNHKオンデマンド
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■ さまざまなジャンルの番組を105円から視聴できる
オンデマンド配信と言っても、もちろん現状はすべての番組が配信されるわけではない。
番組の提供方法は2種類あり、放送中の番組を翌日から配信する「見逃し番組」では、現在放送されているニュースや趣味系の番組、NHKスペシャルに代表されるドキュメンタリーなどが放送の翌日から配信される。一方、「特選ライブラリー」では過去に放送された大河ドラマやドキュメンタリーなどが配信される。
いずれもコンテンツの価格は番組の種類によって異なる。たとえば、大河ドラマの場合、過去に放送された「武田信玄(1988年)」や「翔ぶが如く(1990年)」が現在視聴可能だが、武田信玄は1~8回のパック料金で1,890円、「翔ぶが如く(1990年)」は1~6回までのパック商品で1470円。単品はそれぞれ315円となる。
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特選ライブラリで提供される大河ドラマ「翔ぶが如く(1990年)」。パックで1470円、単体で315円で視聴できる
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また、来年放送予定の「天地人」も315円の予定だが、残念ながら現在放送中の「篤姫」に関しては、現時点では特選ライブラリーでも見逃し番組でも提供されていなかった。
このほか、NHKスペシャル「宇宙、未知への大紀行」、NHK特集「シルクロード」、NHK特集「プロジェクトX」など、過去に放送されたドキュメンタリーの特選ライブラリーも315円となる。
ニュースや教養系の番組は、これよりも若干安くなり、たとえば「きょうの料理」、「ペット相談」「趣味の園芸」「経済最前線」、さらにアニメの「おじゃる丸」などは210円となる。もっとも安いのは現在放送中の連続テレビ小説(だんだん)や「みんなのうた」などで、こちらは105円となる。例外もあるが、基本的には放送時間によって金額が変わると考えるとわかりやすいだろう。
なお、「見逃し番組」で提供される番組については、1470円で1か月間見放題になるパック料金が用意されている。「おはよう日本」「正午のニュース」「BS列島ニュース」「ニュース7」「ニュースウォッチ9」のニュース5番組については、見逃し番組での提供となるものの、単体での購入は不可能で、見放題のパック料金で購入した場合のみ視聴可能だ。オンデマンドで好きなときにいつでもニュースをチェックしたいという使い方の場合は、パック料金での契約が便利だろう。
■ PCでのアクセスは現状Windowsのみ
それでは、実際の視聴方法について見ていこう。PCで視聴する場合はブラウザを使って専用ウィンドウで再生され、IE6以上とWindows Media Player 10以上、さらにFlash Playerが必要になる。このため、OSはWindows Vista(32bit)、Windows XP SP2以上となり、Mac OS Xでの視聴はできない。
なお、PCのスペックはPentiumIII 800MHz相当以上(推奨はPentium4 2GHz以上)とさほど高くはなく、画面解像度も800×600が最低条件。このため、ATOM搭載のいわゆるネットブックなどでも番組の視聴は可能だ。ただし、回線速度が要注意で無線LANであっても回線速度が2~3Mbpsほど確保できれば問題なく視聴可能だが、イー・モバイルなどのモバイルブロードバンドでは、通信環境によっては高画質の映像(1.5Mbps)の再生が途切れ途切れになる可能性はある。
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ASUS EeePC S101にて再生。縦解像度が少々厳しいが、回線速度さえ確保できれば視聴は問題なく可能
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実際の視聴方法は、一般的な映像配信サービスとほぼ同じ使い方だ。NHKオンデマンドのページにアクセス後、メールアドレスと氏名などの最低限の情報、さらにログインに利用するIDとパスワードを会員情報として登録する。ログイン後は見逃し番組や特選ライブラリー、特集/おすすめ、ランキングなどのカテゴリを選んで、見たい番組を選ぶ。検索も可能なので、番組名や出演者などで検索しても良いだろう。
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特選ライブラリーのコンテンツ
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検索で番組名や出演者などから見たい番組を検索できる
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個人的にNHKの番組では土曜ドラマが好きで、「氷壁」「ハゲタカ」「監査法人」などを本放送で見て、もう一度見たいと思っていたが、残念ながらこれらの番組はなかった。
ただ、今年の大河ドラマは「篤姫」だったが、同じような時代背景を扱った「翔ぶが如く」が視聴できるようになっているのはなかなか興味深い。島津斉彬を演じているのが「篤姫」も「翔ぶが如く」も高橋英樹であるが、見方を変えて同じような時代のドラマを楽しめるのはなかなか面白い。
話がそれたので元に戻そう。このようにカテゴリから見たい番組を選択すると、あらすじなどが表示されるので、そのうえで視聴する場合は「購入する」ボタンをクリックする。すると決済画面になるので、クレジットカード番号を入力する。
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決済はクレジットカードとYahoo!ウォレットに対応
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なお、クレジットカード番号は登録しておくことも可能で、登録した場合は次回以降は購入ボタンのみで即座に視聴可能となる。また、クレジットカード以外ではYahoo!ウォレットでの決済が可能だ。
映像は768kbpsのスタンダードと1.5Mbpsの高画質の2種類。できれば1.5Mbpsの高画質で視聴したいところだが、回線環境やPCのスペックが低い場合などはスタンダードの選択になる可能性もある。
画質は768Kbpsと1.5Mbps。標準ではウィンドウ表示で再生されるが、1.5Mbpsなら全画面表示での視聴も悪くはない
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筆者が試した限り、映像は非常にスムーズに再生されたが(回線はフレッツ 光ネクスト100Mbps)、現状はサービスが開始されたばかりで知名度があまり高くないため、混雑していないことが幸いしている可能性も高い。
NHKオンデマンドの場合、見逃した番組を翌日に見るという使い方が想定されるため、番組によっては特定の時間帯にアクセスが集中する可能性も考えられる。こういったケースで、どこまでスムーズに再生されるかは、今後の注目ポイントだろう。
■ テレビやSTBでも再生可能
今回のNHKオンデマンドの特徴は、PC向けのサービスに加えて、家庭用テレビ向けのサービスも提供される点にある。
具体的には、ケーブルテレビ事業者J:COMが提供する「J:COMオンデマンド」、比較的新しい薄型テレビ製品に搭載されている「アクトビラビデオ」、そしてNTTぷららが運営するフレッツ光向けの映像配信サービス「ひかりTV」の3種類だ。
J:COMとひかりTVは、回線がそれぞれCATV、NTT東西のFTTH(フレッツ光)と限られるうえ、サービスの契約と専用のSTBが必要になる。一方、アクトビラの場合、回線やISPは問わないが、そもそも対応テレビ、それもHD画質のアクトビラビデオフル対応の液晶テレビやプラズマテレビが必要になる。
大画面テレビでリモコンを使ってで映像を楽しめるのは大きなメリットだが、PC向けのサービスと比べると利用できる環境が制限される点は注意だ。
今回は、3つのサービスの中から、東芝の「REGZA 42ZV500」およびソニーのネットワークTVボックス「BRX-NT1」を利用し、アクトビラのサービスを利用した。リモコンを使ってアクトビラのトップ画面にアクセスすると、NHKオンデマンドの入り口が新たに追加されていることが確認できる。
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アクトビラビデオのトップページ。オープンしたばかりなのでNHKオンデマンドのバナーが大きく表示されている。今後は、提供者一覧などからアクセスすればよさそうだ
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これをリモコンで選択すると、左側にカテゴリ、右側に番組のサムネイルとあらすじなどの情報が表示される。リモコンの上下左右ボタンを利用して、ジャンルから番組を選んでいくとPCの時と同様に購入画面が表示されるので、クレジットカードなどで決済すれば視聴できる。
NHKオンデマンドのトップページ。PC版と同様に見逃し番組や特選ライブラリーのコンテンツを楽しめる
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アクトビラの場合はクレジットカードかSmash決済での購入となる。クレジットカード情報はアクトビラへの会員登録によって記憶させておくこともできる
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なお、アクトビラでは、カード番号を入力したその都度の決済に加えて、「Smash決済」、またカード番号をあらかじめ登録しておくことで手軽に購入できる「かんたん決済」を選択できる。J:COMやひかりTVの場合、扱いとしては他のオンデマンドコンテンツと同様なので、月額料金と一緒に料金が課金される。なお、PCのようなNHKオンデマンドへの会員登録は不要で、ログインの必要はない。このあたりは手軽だ。
肝心の映像だが、やはり大画面テレビでの視聴は迫力が違う。アクトビラの場合、映像はH.264の6Mbpsで配信されるようになっており、確かにハイビジョン並の高画質な映像を楽しむことができた。ただし、アクトビラの場合はインターネット経由での接続であり、ビットレートも6Mbpsと高いため、状況によっては正常に再生できない場合も考えられる。
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アクトビラビデオフルでの再生画面(左写真、右キャプチャ画像)。6MbpsのH.264なのでPC版に比べて画質が非常に良好
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なお、当然と言えば当然だが、PC向けのサービスとテレビ向けのサービスはそれぞれ独立したものとして提供される。たとえば、PC向けサービスで購入した番組は、視聴期限内であれば、別のPCでも視聴できる。これはIDによってユーザーが区別されているからだ。
しかし、その同じ番組をアクトビラやひかりTVで見たいときは、たとえ視聴期限内であっても、改めて購入手続が必要となる。視聴者からするとコンテンツ自体を購入しているイメージがあるため、せっかく買ったコンテンツをいろいろなところで見たいと思うのも無理はないのだが、実際にはフロントエンドとなるサービス提供事業者が異なり、配信に要するコストなども発生するため、1度でどこでも見られるというわけにはいかないことになる。
■ オンデマンド配信の本格的な幕開け
以上、NHKがサービスを開始したNHKオンデマンドを実際に試してみたが、有料ながら番組をいつでも楽しめるのはとても便利だ。もちろん、毎日、毎週見るようなドラマは録画して見れば十分なのだが、見逃したドキュメント、ドラマなどをもう一度見られるのはとてもありがたい。
しかしながら、現状は提供されるコンテンツが限られるようで、個人的に見たいと思っていた過去のドラマが見られなかった。過去の番組に関しては難しい面もあるが、今後放送される番組は、ぜひすべてを見逃し番組で提供して欲しいところだ。
このようなオンデマンド配信の試みはすでに民放各局でも行なわれており、過去の番組や放送後の見逃し対策のために、PC向けのネット配信やアクトビラなどへの配信も行なわれている。民放ではドラマのスピンオフムービーの提供なども行なわれているが、今回のNHKのサービス開始で、ようやくオンデマンド放送の本格的な幕開けが訪れたと言って良さそうだ。
とは言え、こういったサービスが普及すると、テレビを家に設置せず、PCだけで見たい番組だけを見るという人も出てきそうで、NHKとしては収入に響くのではないか? とも心配になる。
その一方で、前述した「翔ぶが如く」の例のように、優良なコンテンツを良いタイミングで提供すれば、眠っていたコンテンツを新たな収入源とすることもできる。また、配信のしくみや課金の仕組みを考慮すれば、同社の優良な教育コンテンツを教育機関などでの利用を想定した有償提供に発展させることなどもできそうで、将来性の高いサービスと言うことができる。
時間がなくてテレビを見ないという人も多くなる中、オンデマンドによって再びテレビの価値に人々を振り向けることができるのか、放送の通信へのアプローチによる今後の展開が注目される。
■ URL
NHKオンデマンド
https://www.nhk-ondemand.jp/
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2008/12/02 11:56
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