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第27回:フレッツ・ADSL モアで何が変わるのか?
NTT東日本インタビュー


 NTT東日本では11月8日から、NTT西日本では11月1日から、下り最大12MbpsのADSL接続サービス「フレッツ・ADSL モア」が開始される。あまり多くの情報が公開されていない同サービスだが、技術的にどのような方式が採用され、その効果はどれほどあるものなのだろうか? NTT東日本のサービス開発部フレッツサービス推進室担当課長である日森氏、および営業推進部光IP販売推進室光IP商品担当課長である滝澤氏に詳しいサービス内容について話を聞いてみた。





センティリアム・コミュニケーションズ社のeXtreme DSL技術を採用

NTT東日本
 NTT東西がようやく12MbpsのADSL接続サービスを開始する。すでに国内ではYahoo! BBが12Mbpsサービスを開始し、他の事業者も10月のサービス開始を予定しているが、今回の「フレッツ・ADSL モア」の登場により、国内でADSL接続サービスを提供する主な通信事業者から12Mbpsサービスが出そろったことになる。今回の12Mbpsサービスは、他社のサービスも含めて、1.5Mbpsから8Mbpsへの変化ほどのインパクトには欠けるものの、TTC標準をめぐる騒動などもあり、非常に高い注目を集めている。

 では、NTT東西の「フレッツ・ADSL モア」では、果たしてどのような技術が採用されているのだろうか? これについて尋ねてみたところ、「基本的にはイー・アクセスさんと同じ方式と考えていい(日森氏)」との回答が得られた。つまり、DSLチップベンダーのセンティリアム社のeXtreme DSL技術によって12Mbpsが実現されていることになる。eXtreme DSLの基本的な考え方は、既存の8Mbpsの周波数帯域をそのまま利用しながら、ひとつのサブキャリアで伝送できるデータをなるべく15bitに近づけようというものだ。

 詳しくは本連載で過去に取り上げた記事を参考にしてほしいが、通常、ADSLでは、利用する帯域をサブキャリアと呼ばれる4kHzごとの帯域に分割し、それぞれのサブキャリアごとに変調を行なうことでデータを伝送する。理論上、それぞれのサブキャリアでは最大15bitのデータを転送できる仕様となっているが、実質的には11~12bitのデータしか伝送できなかった。そこで、eXtreme DSLでは、S=1/2技術やエラー訂正方式にトレリスコーディングなどを採用することで、これを15bitに近づけ、12Mbpsの伝送速度を実現していることになる。「フレッツ・ADSL モア」でもほぼこれと同じ方式を採用している。

 12Mbpsを実現する技術にはこの他にもさまざまなものがあるが、これまでに同社は1.5Mbps、8Mbpsサービス共にセンティリアム社のDSLチップを採用した局側のDSLAM、およびモデムを採用してきた経緯がある。このような状況から考えれば、12Mbpsの技術としてeXtreme DSLを採用したのも当然の成り行きと言えるだろう。





8Mbps以上の速度は線路損失25dB程度で実現

 では、実際にどれくらいのユーザーが12Mbpsの伝送速度を実現できるのだろうか? もちろん、12Mbpsというのは最大速度なので、そのままの速度が出ることはほとんど考えられない。要は8Mbps以上の速度が、どのようなケースで実現できるかだ。


NTT東日本が発表した「フレッツ・ADSL モアにおける下りリンクアップ速度と伝送損失の関係」のグラフ。フレッツ・ADSL モアでは全体的に速度アップが確認できる

 これについては、「だいたい線路損失が25dB以内で8Mbpsを上回る速度が期待できる(日森氏)」とのことだ。このため、回線状況があまりよくない場合やNTTの収容ビルからの線路長が遠い場合は、8Mbps以上の速度は実現できないことになる。なお、自宅までの理論上の線路損失については、インターネット上の「電話回線の線路情報(http://www.ntt-east.co.jp/line-info/)」ページで検索することができる。実際には、この値とは異なる場合もあるが、導入時の目安にすると良いだろう。

 では、回線状況が良い場合でないとフレッツ・ADSL モアを導入する意味はないのかというと、そうでもない。前述した損失25dBというのは、あくまでも8Mbps以上の速度を実現するための目安だ。日森氏によると「トレリスコーディングの採用やハードウェアの性能向上などにより、全体的に500kbps前後の速度向上は見込める」とのことなので、既存の8Mbpsサービスなどに比べても同一条件下での速度は高くなる傾向にあると言えるだろう。

 ただし、この500kbpsの上積みをどう考えるかはユーザー次第だ。たとえば、4~6Mbpsほどの速度でリンクアップしているユーザーが、さらに500kbps速度が向上しても実用上は大きなメリットはないと言える。現状、ベンチマークテストは別にして、回線速度が重用視されるのはストリーミングを再生するときくらいだ。一般的にストリーミングを快適に再生するには、ビットレートの2倍の回線速度が必要と言われているが、高品質といっても1Mbps程度のストリーミングが主流の現在では、大きな違いは現れないだろう。

 変更に工事費がかかることを考えると、これから新規にADSLを導入するのであれば、8Mbpsよりも12Mbpsを選ぶメリットもあるが、既存のサービスからの乗り換えを検討する場合は、費用に見合った効果があるかどうか注意する必要がありそうだ。現状のサービスで満足行く速度が得られているのであれば、無理をして新サービスに移行する必要もないかもしれない。





距離延長とオーバーラップの採用は検討中

NTT東日本で提供されるフレッツ・ADSL モア用の「ADSLモデム-MNII」
 さて、現状12MbpsのADSL接続サービスではオーバーラップ技術が大きな話題となっているが、これについてはフレッツ・ADSL モアでは、現在は採用しない見込みとなっている。

 ただし、全く採用しないというわけではない。前述したようにセンティリアムのDSLチップでは、オーバーラップ技術もサポートされている。実際の利用には、ファームウェアの更新などが必要になるかもしれないが、フレッツ・ADSL モア用の12Mbps対応モデムでオーバーラップを利用することは技術的に可能という。このため、今後の検証次第では、サポートする可能性もあるとのことだった。

 これはTTC標準の問題にセンシティブになっているからというわけではなさそうだ。そもそも、センティリアム社のeXtreme DSLでは、オーバーラップ技術を使わなくても、前述したトレリスコーディングなどの採用によって500kbps前後の速度向上を実現できる。このため、現時点では無理にオーバーラップ技術を使う必要がないと判断したのであろう。このスタンスは、ほぼ同じ技術を採用するイー・アクセスも同じだ。イー・アクセスのADSLプラスでも、将来的には採用するかもしれないが、サービス開始時点ではオーバーラップ技術を利用しない(イー・アクセス広報)とのことだ。

 一方、提供距離の延長に関しても変化がないと発表されているが、これは検証中だからという理由にすぎないという。同じくeXtreme DSL技術では、DSLモデム起動時のトレーニングの際に利用するパイロット信号の周波数変更や多重化によって、伝送距離を6~7kmにまで延長することができる。この技術に関しては、現在、検証を行なっている最中であり、その効果が見られれば、その時点でサービス仕様の変更を発表する可能性があるとのことだった。





サービス開始が待ち遠しい

 このように、NTT東西のフレッツ・ADSL モアの登場により、主要なADSL通信事業者各社が速度面で同等の競争力を得ることになった。発表当初は回線品質が良い環境でしか12Mbpsサービスの恩恵を受けられないようなイメージが持たれていたが、実際はそうではないことが今回のインタビューで明らかとなった。実際にサービスが開始されていないので、確かなことは言えないが、おそらく既存の8Mbpsサービスに比べてのアドバンテージは損失が小さくない環境でも享受できるうえ、検証の結果次第だが、提供距離の延長にも期待が持てるだろう。実際のサービス開始が待ち遠しい。


関連情報

URL
  フレッツ・ADSL モア(NTT東日本)
  http://www.ntt-east.co.jp/flets/adsl/more_top.html
  関連記事:NTT東西、下り最大12Mbpsの「フレッツ・ADSL モア」を11月に開始
  http://bb.watch.impress.co.jp/news/2002/09/09/fmore.htm
  関連記事:Yahoo! BB、TTCに動議を提出しスペクトル管理について意見
  http://bb.watch.impress.co.jp/news/2002/08/20/bbtttc.htm

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清水理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ
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