インターネット上で提供されているUSENの動画配信サービス「GyaO」を、を家庭用テレビで楽しむために発売された端末が「ギャオプラス」だ。約1カ月間に渡って実際に使用した印象をレポートする。
■ サービス開始から2年を経て登場したSTB
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ギャオプラス
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2005年4月に広告モデルを採用した無料の動画配信サービスとして「GyaO」が開始されてから、約2年が経過した。当初は手探りの状態で始めたサービスも、今や登録者数が1,200万を超え(2007年1月時点)、一般にも広く知られる存在にまで成長している。
本コラムでも以前にGyaOのインタビューを行なったが、そのときにもプラットフォームの拡大が話題に上がっていた。GyaOがテレビ放送のようなサービスになるには、当時からPC以外のプラットフォーム、特に家庭用テレビでの視聴がカギと言われていた。
GyaOのサービス自体は、すでにMedia Centerへの提供が開始されており、HDMI装備などテレビ接続タイプのPCの登場なども手伝って、リビングへの進出という目的の一部は達成されつつあると言える。しかし、より裾野を広げるためには、PC以外のプラットフォームでの提供が望まれていた。それが、今回の「ギャオプラス」の登場で、ようやく実現されたことになる。
ギャオプラスは、モトローラのIPセットトップボックス「VIP1200」をベースとしたGyaO視聴用のSTBだ。本体に搭載されたLAN端子を利用してインターネット上のGyaOのサービスにアクセス、その映像をビデオ出力経由で家庭用のテレビに映し出すことができる。もちろん、リモコンでの操作が可能となっており、手軽にGyaOのサービスを楽しむことができるようになっている。
ギャオプラスのハードウェアの詳細についてはGyaOをテレビで視聴できる「ギャオプラス」ハードウェアレポートで詳しく紹介されているので、こちらを参照していただくとして、今回はユーザーインターフェイスやサービス内容について詳しく検証することにする。
■ 「演出」がきちんとなされたユーザーインターフェイス
インターネット上のサイトもそうだが、GyaOのサービスはユーザーを楽しませようとする演出がなかなか上手だ。
インターネット上のGyaOのトップページを表示すると、プロモーション映像が自動的に再生され、「何か楽しそうだ」というイメージが直感的に伝わってくる。突然映像が再生されると仕事中などに困るという意見もあるが、GyaOはこういった「演出」に長けたサービスの代表と言ってもよいだろう。
このような方向性はギャオプラスでも踏襲されている。ギャオプラスの電源を入れてメイン画面を表示すると、インターネット上のサイトを表示したときと同様に、画面中央に番組のプロモーション映像が自動的に再生される。
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ギャオプラスのメイン画面。メイン画面を表示するだけで、自動的に中央にプロモーション映像が自動再生される
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現状、家庭用テレビ向けの映像配信サービスはいくつか存在するが、そのどれもがSTBの電源を入れても、せいぜいおすすめコンテンツの静止画が表示されるくらいで、演出どころか音声も再生されず、「シーン」と静まりかえってしまう。楽しいコンテンツを提供しようとするトップページで利用者に静寂を感じさせることには常々疑問を感じていたが、ギャオプラスのトップページの良い意味でのにぎやかさを体験してしまうと、他のサービスのUIだけでなく、そのサービス内容までも物足りなく感じてしまうほどだ。
操作性もよく工夫されている。トップページの左端には「0 トップ」「1 ニュース・ビジネス」「2 映画」といったように、数字が記載されたカテゴリ一覧が表示されているが、これがリモコンの数字ボタンの操作に対応しており、リモコンの「1」を押せばニュースカテゴリのページへと移動する。
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右上に表示された数字をリモコンから入力することで、カテゴリをチャンネルのように切り替えられる
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■ 完成度は高いがまだ改善の余地はあり
ただし、この操作性もまだ改善の余地はありそうだ。たとえば、各カテゴリのページ上部には「ランキング」や「スペシャル」といったように、視聴可能なコンテンツを分類したり、特定のコンテンツをピックアップするためのタブが用意されている。このタブの操作は、リモコンの方向ボタンを使ってカーソルを動かし、決定ボタンで選択するというPCのマウス的なオペレーションとなる。このあたりは、方向ボタン(もしくはほかのボタン)を1度押すだけでタブが切り替わるようなテレビ的(家電的)なオペレーションにして欲しかった。
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画面上部のタブの移動やページの切り替えなどは、カーソルを移動して決定を押すという2ステップの操作が必要。マウスを使った操作に近い考え方のオペレーション
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もちろん、マウス的なオペレーションがすべてダメというわけではない。問題は用途に適したオペレーション方法を採用するということだ。たとえば、前述した数字ボタンによるチャンネル操作などはテレビ的操作の代表だが、これはチャンネルのザッピングのように、確固たる目的意識なくコンテンツをサーチする操作に適している。ユーザーはどこに何があるのかを確認したいだけなので、手数が少なく、素早く行なえるオペレーション方法が望ましい。
これに対して、見たい映像を選んで再生するといったように、ユーザーの目的意識がはっきりとしている場合はPCのマウス的なオペレーションが適している。複数の選択肢の中から自らの意志で対象を選択し、「決定」ボタンを押すという2段階の操作によって意志を確定する。つまり、この2つの操作性をバランス良く採用することが重要というわけだ。
そういった意味では、カテゴリをチャンネルのように選択でき、再生するコンテンツはマウス的なオペレーションで選ぶギャオプラスの思想は悪くないが、もう一歩進めて、上部のタブ、コンテンツのページ切り替えといったように、一覧性が重要になる部分の操作性を1ステップのテレビ的なオペレーションに改善すべきだろう。
また、演出という面でもまだまだ物足りない。前述したようにトップページではプロモーション映像が自動的に再生されるが、トップページからカテゴリごとのページに移動すると、残念ながらコンテンツの一覧が静止画と文字で一覧表示されるだけで、映像は表示されなくなってしまう。インターネット上のGyaOの場合、カテゴリを選択するとそのカテゴリのプロモーション映像が自動的に流れるが、ギャオプラスではカテゴリごとの映像は流れない。
「バラエティ」カテゴリのページをギャオプラスとインターネット上のGyaOで比較。インターネット上ではトップページ同様に自動的に映像が再生されるが、ギャオプラスではこの演出が省略されている
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おそらく画面解像度の関係で映像の再生が難しいのだと予想されるが、こうした楽しさの演出が中途半端になってしまっているのは個人的には非常に残念だ。ファームウェアのアップデートによって将来的にはD3/D4(現状はD2まで)、HDMIに対応予定となっているが、個人的にはHD映像の配信だけでなく、解像度の向上によるインターフェイスの改善、演出の工夫がなされることを期待したいところだ。
■ 充実してきたオリジナルコンテンツ
肝心のコンテンツはどうだろうか? 一部のコンテンツを除き、ギャオプラスではインターネット上のGyaOと同じコンテンツを視聴することができる。このため、すでにインターネット上のサービスを利用しているユーザーにとってはあまり新鮮味はない。
と言っても、サービス開始当初に比べると、オリジナルコンテンツが増えてきており、テレビの地方局というか、ケーブルテレビのオリジナルチャンネルというか、なかなか存在感のあるサービスに成長したと言える。もちろん、映画やアニメなどは既存のコンテンツだが、なつかしいと感じさせるようなアニメが提供されており、ラインナップとしては悪くない。
また、シャープがテレビCMとして放送していたクイズ番組風のCMがオリジナルコンテンツとして提供されているなど、テレビメディアをうまく活用したコンテンツ展開もなされている。実際、あらためてバラエティやニュースなどのコンテンツを見てみると、テレビとはひと味違う感覚でなかなか面白い。こういったあたりは、ニッチなファンが付く地方局に近いイメージだ。
GyaOが単なる動画配信サービスではなく、テレビの放送局のような存在感を出すためには、「GyaOが見たい」というサービス主導ではなく、「GyaOのxxxが見たい」というコンテンツ主導の発展が必要だろう。そういう意味では、今後、独自コンテンツの中から起爆剤になるようなコンテンツが誕生する可能性は秘めていそうだ。
ただし、見たくても見られないというジレンマがある地方局などのコンテンツと異なり、GyaOのコンテンツはインターネットでカンタンに見ることができる。このためGyaOのユーザーを獲得するためにはオリジナルコンテンツが大きな魅力だが、それがギャオプラスの普及に直結するかというと話は別だ。
ギャオプラスが普及するには、おそらく家庭用テレビという機器、リビングという場所、家族という視聴者に必要とされる付加価値を創造することが不可欠だろう。たとえば、家族向けのコンテンツを増やすなどの工夫が必要だ。しかしながら、現状のオリジナルコンテンツは、ニッチであるがゆえにどことなく深夜番組的というか、ラジオ的というか、良くも悪くも「さわやかさ」に欠ける印象がある。
要するにインターネット上のGyaOのユーザー層が求めるコンテンツと、ギャオプラスのユーザー層が求めるコンテンツが同一とは限らないことになる。たとえば、現状、ニュースカテゴリを表示すると、いきなりグラビア系の話題がトップに表示される。これはプライベートな利用であれば悪くはなさそうだが、リビングなど家族の目がある場所での利用を考えると適しているとは言いがたい。提供するコンテンツの内容は同じにしたとしても、そのラインナップ、もしくは画面上に表示されるコンテンツをギャオプラス用に最適化した方が良いのではないだろうか。
■ 専用端末によるビジネスモデルは成功するか?
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ギャオプラスの付属リモコン
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このように、ギャオプラスの方向性は面白く、STBも課題はあるものの見せるための工夫がなされている上に、何より豊富なコンテンツがある。ただし、この機器がリビングに普及するかというと、これは難しいだろう。
その理由はいくつかある。まずは価格の問題だ。GyaOのコンテンツを無料で視聴することはできるものの、ギャオプラス自体の価格は24,800円と非常に高価だ。もちろん機器のコストを考えれば妥当なのかもしれないが、利用者から見ればコストは関係なく、金額の天秤にかけられるのは、その代償として受けられるサービスの内容だ。
しかも、GyaOのコンテンツ自体はPCなら無料で視聴できることを考えると、ギャオプラスに対して利用者が支払う24,800円は、視聴できるコンテンツへの代償ではなく、家庭用テレビでGyaOを見るというスタイルに対しての代償となるわけだ。このあたりは、考え方に個人差があるため判断しにくいが、個人的には「PCでも良いかも」と考えてしまう。
そう考えると、特にリビングでの利用は受け入れられにくい可能性が高い。前述したコンテンツや画面の精査が十分ではないのもその理由の1つだが、ギャオプラスを設置することによって、利用者はビデオ入力端子を1つ消費する、リモコンが増える、ネットワークの配線をしなければならない。24,800円という価格に加えて、このような「手間」という代償を支払ってまでテレビでGyaOを見たいとニーズがどこまであるかは判断が難しい。
さらに、STBやリモコンなどのハードウェアデザインは、正直なところ優れているとは言い難い。リビングのような人の目に触れる可能性がある場所への設置は、もしかすると家族から反対を受けてしまうかもしれない。
そもそもオンデマンドで映像コンテンツを見るというのは、リビングという空間とはなじまないのかもしれない、という発想もある。チャンネルボタンを押せばコンテンツが流れてくるのがあたりまえのテレビに慣れてしまった利用者にっては、積極的にコンテンツを選ぶという行為自体が苦痛に感じられる可能性もあるだろう。
それでもリビングへの進出を目指すというのであれば、テレビ的な工夫が不可欠だろう。ユーザーにコンテンツを選んでもらうのではなく、家族での利用を想定したり、ユーザーが見たいだろうと思われるコンテンツを事業者が選んで流す、要するにテレビと同じようにタイムテーブルに従ってコンテンツが放送される仕組みの方が、場合によっては利用者には受け入れやすいのかもしれない。
■ ターゲットは2台目、3台目の個人向けテレビか?
このように、現状のギャオプラスのままではリビングという空間への進出には課題が多そうだ。また、元々がPCユーザー向けの無料サービスだっただけに、リビングを主な活動場所にする主婦層や高齢者層へのリーチも敷居が高そうだ。
ただし、薄型テレビの需要が2台目、3台目へと移行している状況を考えると、そこにギャオプラスが利用されるというシーンは十分に想定できる。映画のようなコンテンツなら家族で見るという選択肢もなくはないが、GyaOのコンテンツは基本的にニッチでパーソナル色が強い。自分の部屋のテレビ、書斎のテレビといったように、パーソナル空間での利用にはむしろ好都合だ。
ギャオプラスが目指しているのは、むしろこちらなのかもしれない。リビングへの進出を目指すのは、もう少し知名度を上げ、さらに機器やサービスをブラッシュアップしてからでも遅くはなさそうだ。
■ URL
ギャオプラス
http://tv.gyao.jp/
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2007/03/06 10:57
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