PLC技術を採用し、電力線を使って音楽を伝送できるパイオニアの「music tap」。コンセントさえあればどこでも音楽を楽しめるという個性的な製品だ。その使い勝手に加え、既存のPLC製品と混在させたときの影響について検証した。
■ まさに「蛇口をひねる感覚」で音楽が楽しめる
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music tap。オープンプライスで、店頭想定は68,000円
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水道の蛇口をひねれば、そこから水が勢いよくあふれ出す。もはや普段の生活に染みこんだ当たり前の出来事だが、水道の蛇口ではなくコンセントから、しかも「音楽」が流れ出すとなれば、この感覚は確かに新鮮だ。
2月の末にパイオニアから発表された「music tap」は、PLC技術を採用することで家庭内の電力線を使って音楽を配信できるようにした、まったく新しいコンセプトの製品だ。残念ながらPLC技術については、その規格が「DMCR-PLC」であるということ以外は公表されていないが、ベースステーションとネットワークスピーカーL、ネットワークスピーカーSという3つの製品から構成されており、それぞれを電力線を使ったネットワークで接続することが可能となっている。
スピーカーをPLCで接続するというのが少々わかりづらいかもしれないが、要するにオーディオシステムのスピーカー配線を電力線に置き換えたようなものと考えるとわかりやすい。ベースステーションで再生された音楽が電力線を通じてネットワーク配信され、各スピーカーで受信して音楽を再生するという仕組みだ。
つまり、家庭内でコンセントがある場所ならどこでも音楽を楽しむことが可能なわけだ。たとえばベースステーションをリビングに設置し、スピーカーを離れた場所やほかの部屋に設置するといった使い方や、コンパクトで持ち運びが楽なネットワークスピーカーSをキッチンで楽しむという使い方ができる。
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ネットワークスピーカーL(左上)、ネットワークスピーカーS(右上)、ベースステーション(中央)
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ベースステーション前面
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ベースステーション背面
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付属のリモコン
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ネットワークスピーカーS
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ネットワークスピーカーL
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■ 設定は一切不要、つなぐだけで音楽が聞こえてくる
早速使ってみたが、その使い勝手はおどろくほど手軽だ。そもそもPLC自体、ネットワークに関する知識がなくともコンセントにつなぐだけで使える点で設定は簡単だが、music tapのベーステーションと各スピーカーも出荷時状態でペアリングの設定がなされており、設定は一切必要ない。
ベースステーションをコンセントに接続して電源をON、続けてスピーカー側もコンセントに接続して電源をONにする。これでベースステーションに接続したソースから音楽を再生すれば、その音楽がスピーカーから聞こえてくる。PLCだとわかっていても、特別な配線なしに音楽が聞こえてくるのは新鮮な感覚だ。
なお、スピーカーシステムというジャンルの製品であることからもわかる通り、music tapでの音楽再生には、別途音源のソースが必要だ。具体的には、背面の2系統のオーディオ入力、USBポート、USB接続型のオーディオ(フロント側のUSBのみ)を接続して音楽を再生する必要がある。
別売のiPodコントローラードック(IDK-01)を利用すれば、iPodを遠隔からリモコン操作できるほか、フロントUSB接続のオーディオも頭出しやランダムプレイなどの遠隔操作が可能だ。一方、オーディオ入力でミニコンポなどを接続した場合、再生のコントロールはミニコンポ側で行なう必要がある。本製品はあくまでもスピーカーであることを念頭に置く必要はあるだろう。
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別売のiPodコントローラードック(IDK-01)にiPod nanoを装着
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このほか、付属のネットワークスピーカーSにはモーションセンサーが搭載されており、人がいることを検知して音楽を再生し、いなくなると音楽の再生を停止するといった機能も搭載されている。玄関に設置して、お客さんが来たときだけ音楽が流れるようにするなどというのも、なかなか面白そうだ。
■ コンセント次第では音楽が聞こえないことも
このようにコンセントにつなぐだけで、手軽に音楽を楽しめるmusic tapだが、環境によっては「家中どこでも」というわけにはいかなそうだ。
筆者宅の各部屋にあるコンセントでテストしてみたのが以下の図だ。ベースステーションを接続する場所を変更して2つのケースでテストしてみたが、最初のテスト(TEST1の黒表示)では家中のどのコンセントでも問題なく音楽を再生できたものの、もう1つのケース(TEST2の赤表示)では、2階のいくつかのコンセントで音楽を再生することができなかった。
L1、L2層をまたがる通信で問題が起きている可能性もあるが、おそらくベースステーションを接続した部屋にPCや充電器など多数の機器が存在することが原因だと考えられる。また、ベーステーションやスピーカーを電源タップ経由で接続した場合も、音楽が再生できなかったことがあったので、基本的にはPLCの基本通り、コンセント直結で使う必要があると考えるべきだろう。いずれにせよ、環境によっては正常に動作しない場合もあるようなので注意が必要そうだ。
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筆者宅の各コンセントでの再生をテスト。一部のコンセントではうまく音楽を再生できなかった
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また、接続するコンセントによっては、無音時に「サー」という感じのノイズが聞こえる場合もあった。音質にこだわる人向けの製品ではないが、環境によってはノイズが乗る可能性もあるだろう。
■ 他のPLCとの混在で受ける影響は大
続いて、他のPLCとの混在でどのような影響を受けるかを検証してみた。同一の電源タップにmusic tapのベースステーションとネットワークスピーカーL、そして松下電器産業のHD-PLCアダプタを接続してみた。
music tapのベースステーションにはスピーカーとの通信状況を示すインジケーターが用意されており、携帯電話の電波状況のように3本の縦棒で状況が表示される。HD-PLCとの混在で、このインジケーターがどのように変化するのを調べたのが以下の図だ。
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電源タップにmusic tapとHD-PLCを混在させ、その状況をインジケーターで確認
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HD-PLC機器との混在チェック結果
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music tapのみを接続した場合は3本フルのマークが表示されていたが、ここにHD-PLCのマスタを接続することでマークが1本減り(当然無通信状態)、ターミナルを接続するとさらに減って残り1本となってしまった。
1本の状態の場合でもmusic tapで音楽を再生することは可能だが、それはHD-PLCでの連続的かつ、広帯域な通信が行なわれていないことが条件となる。上記の図の最後の状態で、HD-PLCにPCを接続し、FTPによるデータ転送などを行なうと、通信中は音楽が完全に途切れてしまう。ブラウジングなどでも、データ量が少ないページなら影響はあまりなかったが、画像などが大量に使われているページでは読み込み時に「ブツブツ」と音楽が瞬間的に途切れることもあった。
HD-PLCでの通信と同時に音楽の再生が途切れることを考えると、どうやらmusic tapでは伝送した音楽をリアルタイムに再生しているようだ。おそらく複数のスピーカーで同時に音楽を再生できるようにするためにリアルタイムに再生しているものと考えられるが、突発的なノイズに対応できるようにバッファ処理した方が良いように感じた。
もちろん、このテストは同一タップ上というもっとも大きな影響が考えられるケースであるため、環境によって異なる可能性はあるが、事実上、他のPLCとの混在は不可能だろう。PLC製品が登場して日が浅い現状では、同一家庭内で異なるPLC技術が混在する可能性は低いが、集合住宅などでは他の住居の影響も考えられる。場合によっては音が途切れるなどの問題も発生する可能性はあるだろう。
なお、上記のテストとは逆に、music tapが他のPLCに与える影響はさほど大きくなさそうだ。上記テストと同一環境で、HD-PLCのFTP転送を行なってみたのが以下のグラフだ。HD-PLCのみのケースと、music tapを混在させたケースの転送速度の差はわずかで、おそらく誤差だと思われるが、PUTのテストに関してはなぜか混在時の方が速い結果となってしまった。
通信方式 |
GET |
PUT |
1000BASE-T |
204.1Mbps |
287.7Mbps |
HD-PLCのみ |
39.9Mbps |
56.3Mbps |
HD-PLC+music tap |
41.1Mbps |
53.6Mbps |
※サーバーにはAthlon64 X2 3800+/RAM1GB/HDD160GB搭載PCを利用。OSはFedoraCore5、vsFTPd使用
※クライアントにはLenovo ThinkPad T60(CoreDuo T2400/RAM1.5GB/HDD160GB)、Windows
XP SP2
※コマンドプロンプトからFTPによるPUT/GETを実行し、極端に高い値と低い値を除いた5回の平均を計測 |
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music tap利用時のHD-PLCのFTP転送結果
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つなぐ場所や接続する順番などを変えても結果はほぼ同じだったため、PLCの規格によって伝送経路の争奪に勝ち負けが発生する可能性もありそうだ。今後のPLCの発展を考えると、このあたりの調停をうまく行なえるようにするための工夫を各規格やメーカーにお願いしたいところだ。
■ 環境によっては慎重な検討が必要
以上、パイオニアのmusic tapを利用してみたが、非常に面白い試みの製品で、コンセントにつなぐだけというPLCの特徴を活かしたライフスタイルの提案ができている製品だと感じた。価格が高いのがネックだが、価格よりもデザイン重視という人には受け入れられそうな製品だ。
しかしながら、本製品の登場によってPLCが抱える問題も数多く見えてきた。現状はあまり混在の心配などがないPLCだが、将来的に他の規格のPLCが増えてきたときでも問題なく使えるかというと疑問が残る。特に集合住宅の場合は、そもそも電源環境がPLCでの利用に適していないケースが多く、自宅以外で他の規格が利用される可能性も高い。戸建て住宅であればあまり心配する必要はないが、集合住宅での利用を検討している場合は購入を慎重に検討する必要がありそうだ。
なお、期せずして、本製品の発売も延期されたが、もしかすると延期の理由はこのような混在環境の問題がある可能性も考えられる。詳細な理由は不明だが、製品としては興味深い存在なので、可能な限り早く市場に登場してくれることを望みたいところだ。
■ URL
製品情報
http://pioneer.jp/musictap/
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2007/04/10 11:02
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