東芝からHDDレコーダの新製品「VARDIA RD-A600」が登場した。HD DVD搭載で注目されている製品だが、ネットワーク機能も大幅に強化されている。DTCP-IPによる地デジ番組のネットワーク再生機能を試用した。
■ HD DVDの陰に隠れたネットワーク機能の強化
正直なところ、今はレコーダの購入判断が非常に難しい時期だ。HD DVDかBlu-Rayかといった次世代DVDの規格の問題もあれば、コピーワンスもようやく見直される方向へと向かいつつあり、技術的にも製品的にもまさに過渡期と言える。
そんな中、東芝から6月に発売されたのが、今回取り上げる「VARDIA RD-A600」だ。HD DVDを搭載し、デジタル放送の録画やムーブを実現しながら、20万円前後という次世代DVD対応のレコーダとしては比較的手の届きやすい価格設定を実現している。
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VARDIA RD-A600
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前面パネルを開けたところ
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背面
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付属のリモコン
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このように製品としては、最大の特徴であると同時に最大の懸念事項でもあるHD DVDに注目が集まっているが、その陰でネットワーク機能も着実に進化している。特に注目したいのは、DTCP-IP対応によるデジタル放送のネットワーク再生に対応した点だ。
■ アナログ併用から完全デジタルの使い方へ
RDシリーズのネットワーク機能は、「ネットdeナビ」という名称で提供されており、その機能も非常に多彩となっている。
ブラウザでRD本体にアクセスすると、メニュー画面が表示され、そこからEPGを利用した録画予約、フォルダ名の設定、録画タイトルの管理、さらにはRD本体の映像をブラウザ内に表示する「ネットdeモニター」、ソフトウェアリモコンによる操作が可能な「ネットdeリモコン」などといった機能が利用できる。
ネットdeナビにより、ネットワーク経由でPCからさまざまな操作が可能。ネットdeモニターではブラウザを使って画面を見ながら操作できる
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このような機能に加えて、今回、RD-A600に新たに追加されたのが「ネットdeサーバーHD」と呼ばれる機能だ。従来のRDシリーズでも、一部モデルにDLNAガイドライン準拠のデジタルメディアサーバー機能が搭載されていたが、今回の新機能は「HD」という名前の通り、DTCP-IP対応によってデジタル番組の配信に対応しているのが特徴だ。
これにより、RD-A600で録画した地上デジタル放送やBS/CSデジタル放送の番組をネットワーク上のDLNAクライアントから参照し、再生することが可能となっている。
従来のRDシリーズは、後々の手間やシステム上の制約を考えてアナログで録画するというシーンが多々あった。たとえば、DVDへ保存したい場合がそうだし、DLNAクライアントから再生したい場合なども従来機ではアナログでの録画が必須だった。せっかくデジタル対応のレコーダなのにアナログで録画することに抵抗を覚えた人も少なくないだろう。
しかし、今回のRD-A600ではHD DVD、ネットdeサーバーHDの搭載によって、このような不便が解消された。もちろん、ハードディスク容量の節約などを考えると、アナログでの録画をするメリットもあるが、これによってようやくアナログと決別し、デジタルのみでの利用が可能になったというわけだ。
■ DTCP-IP対応クライアントが必須
では、実際にネットdeサーバーHDの実力を試してみよう。ネットdeサーバーHDは特に設定など必要なく、ネットワークとクライアントがあればすぐに利用できるが、デジタル放送対応ということで1つだけ注意点がある。DTCP-IPに対応したDLNAクライアントを用意する必要がある点だ。
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DLNAの設定はブラウザだが、標準ではフィルタ機能が無効になっており、特に何も設定しなくても利用できる
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DTCP-IPはデジタル放送のコンテンツ保護機能をIPネットワーク上で提供するための仕組みだ。映像を配信する受信機を認証したり、伝送経路上に流す映像を暗号化するといった方法でコンテンツを保護している。コピーワンスが見直されつつあることを考えると、DTCP-IPにも何らかの影響がある可能性も考えられるが、現状はデジタル放送の番組をネットワークで配信するためには、DTCP-IPの仕組みを利用することが必須となっている。
もっとも確実なのは、同社の液晶テレビであるREGZAのZ2000シリーズ、もしくは今回新たに発表されたZ3500シリーズを利用することだ。これらの液晶テレビには、DTCP-IPに対応したDLNAクライアントが内蔵されているため、ネットワークに接続するだけで、自動的にネットワーク上のRD-A600を発見し、コンテンツを再生できる。
もちろん、DTCP-IPに対応していれば、基本的に他社製の製品でも映像の再生は可能だ。すべての互換性が完全に確保されているわけではないが、試しに手元にあったソニー製の液晶テレビ「BRAVIA」J3000シリーズを利用してみたところ、問題なく、RD-A600を認識し、録画済みのデジタル放送の番組をネットワーク経由で再生できた。
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ソニー製の液晶テレビBRAVIA J3000シリーズに搭載されているDLNAクライアント(DTCP-IP対応)でもRD-A600のコンテンツを再生可能だった
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BRAVIA J3000シリーズに搭載されているのは、ソニーのルームリンクと同等の機能であるため、あくまでも予想だが、VGP-MR200などのDTCP-IP対応ルームリンクでもRD-A600の映像を再生できるのではないかと考えられる。
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RD-A600上の録画番組。画面左下に「コピー×」と記載されている方がデジタルの番組
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同じ番組をクライアント(BRAVIA J3000)から見たところ。デジタル放送の番組もきちんとリストに表示され、再生できた
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また、東芝製のノートPCであるQosmioシリーズの2007年秋モデル(G40)には「Soft DMA for TOSHIBA」というDLNAクライアントソフトウェアが搭載されており、このソフトウェアを利用することでPCからもRD-A600の映像を再生可能となっている。
このSoft DMAはサイバーリンクから発売されている市販のソフトウェア(CyberLink Digital Home Enabler Kitに同梱)だが、残念ながら市販のソフトウェアからはコンテンツの参照はできても、デジタル放送の番組のみ「再生できません」と表示され再生することができなかった(アナログで録画した番組はOK)。ただし、今回は試用版を利用していたことに加え、HDCPの環境が用意できなかったので、これらの条件を変えれば再生できるかもしれない。
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サイバーリンクのSoft DMA。市販のソフトウェアを利用した場合、番組はリストアップされたが再生ができなかった(PCの環境次第では再生できる可能性もある)
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このほか、DTCP-IPに対応した市販のネットワークメディアプレーヤーなどでもRD-A600のコンテンツを再生できる可能性があるが、残念ながら手元に製品がなかったため検証できていない。市販のネットワークメディアプレーヤーの場合、DTCP-IP対応を明確に謳っている製品があまり存在しないが、どうやらRD-A600側は標準的な仕様のようなので、他の製品でも試してみる価値はありそうだ。
■ 20Mbps前後の実効速度が必須
クライアント環境に加えて気を配りたいのがネットワークの帯域だ。有線LANが利用できる場合であればほぼ問題はないが、無線LANやPLCで十分な帯域が確保できないと、肝心の映像がコマ送りのようにとぎれとぎれになってしまう。
筆者宅で実際に検証してみたが、RD-A600を有線LANに接続し、BRAVIA J3000にNECアクセステクニカのイーサネットタイプ子機Aterm WL54SEを接続して地上デジタル放送の番組を再生してみたところ、WL54SEの設定画面から確認できる無線LANのリンク速度が最低18Mbps~24Mbps確保できないと、映像をスムーズに再生できなかった。
NECアクセステクニカのAterm WL54SE(イーサネット子機)を利用して無線LANで利用。リンク速度で20Mbps前後ないとスムーズな再生は厳しい
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地上デジタル放送のビットレートは17Mbpsなので、リンク速度で20Mbps前後の帯域が確保できないと実用は難しいだろう(PLCでもほぼ同様)。ただし、最近の無線LANは性能が高いため、高性能な製品であれば20Mbpsの実効速度を確保することはさほど難しくない。住宅環境にも依存するが、IEEE 802.11aで干渉を避けるなどの工夫をすれば、無線LANでも利用可能だろう。実際、筆者宅(木造3階建て住宅)では、2階にアクセスポイントを設置することにより、家中のすべての部屋で問題なく映像を再生できることを確認できた(IEEE 802.11a利用)。
もちろん、今回のテスト環境ではRD-A600は有線LANで接続しているので、RD-A600も無線LAN、つまり両方とも無線LANで接続したい場合にはさらに帯域が必要となる。両方とも無線となると、IEEE 802.11nにならないと難しそうだ。
■ ホームネットワークが現実味を帯びてきた
以上、東芝のVARDIA RD-A600を利用してみたが、ネットワーク機能に関してはかなり充実しているという印象を受けた。実は、個人的にRD-X6を利用しているのだが、デジタルで録画した映像をネットワーク経由で再生できないという悩みがあっただけに、これが解消されていることが非常にうらやましく感じられた。
また、液晶テレビ側にDLNAクライアント機能が搭載されるようになったおかげで、レコーダーをサーバーとして利用する使い方もだいぶ無理がなくなってきた。これでIEEE 802.11nによる広帯域の無線ネットワークが一般化すれば、ホームネットワークというものがより現実的なものとなりそうだ。
レコーダとしては、規格争いの激しい次世代DVDレコーダだけに、そのメリットやデメリットを十分に検討する必要はあるが、その問題さえ気にならなければ、ネットワークでの利用を検討しているユーザーにはおすすめできる製品だろう。
■ URL
製品情報
http://www3.toshiba.co.jp/hdd-dvd/products/vardia/rd-a600_a300/
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2007/08/28 10:58
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