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第45回:ブロードバンドはどこを目指すのか? 混迷するADSL
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600万回線にまで達したADSL加入者数、今年中の登場が噂される20Mbps超ADSLと明るい話題が多いADSL。しかし、その一方で、一向に方向性が定まる気配がない干渉問題などのシビアな問題が発生しているのも忘れてはならない。この先、ブロードバンド、特にADSLはどのように発展していくのか、現在の状況をまとめながら、将来を予想してみる。
■ 混迷するADSL
総務省の発表によると、2003年1月末時点でのDSL加入者数は、6,119,883回線と600万を突破することとなった。ADSLが市場に投入されてから約3年ということを考えると、ADSLがいかに急速に普及したかがよくわかる。ADSLは、将来的には3,000万ユーザーもの加入が見込まれているが、現段階だけで考えてもインターネットインフラの発展としては目を見張るものがある。
しかし、このようなADSLにも明るい話題ばかりではない。現在、情報通信審議会 情報通信技術分科会 事業用電気通信設備等委員会 DSL作業班で活発な議論が行なわれているが、この結果次第では、ADSLの普及にブレーキがかかることも予想される。
■ 接続約款の変更は事業者にとって死活問題
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DSL作業班第1回会合(2002年12月)
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DSL作業班の議論で焦点となっているのはスペクトラム管理のあり方だ。現状、国内ではさまざまな方式のADSLが展開されており、ADSL以外にもISDNなどの多数の通信サービスが混在する状況となっている。このような多様なサービスが共存しつつ、良好なサービスを展開していくためには、各サービスがお互いに与える干渉などを厳密に管理していかなければならない。このようなスペクトラム管理をこれまではTTC(情報通信技術委員会)が担っていた。しかし、さまざまな事情から、TTCによるスペクトラム管理は事実上破綻してしまった。具体的な経緯はBroadband Watchの記事を参照してほしいが、一部の事業者から、12Mbps ADSLで採用されているオーバーラップ技術が不利に扱われているとの指摘があったためだ。このため、議論の場がDSL作業班に移された格好となる。
筆者も何度かこの会合を傍聴したが、意見が常に対立し、今のところ一向に歩み寄る気配はない。正直な印象としては、まるで学級会だ。毎回配布される膨大な資料を読み進めながら、その欠点を指摘し合う、実りのない会合になってしまっている。あまりにも細かな議論が連続するため、この場で話し合うべき大きな議論がすっかり薄れてしまっている。しかも、実際の干渉度合いを検証するためのデータの提出やテスト方法などをめぐって、出す出さない、やるやらないといった議論が毎回行なわれるなど、堂々巡りが行なわれている。これでは、事実関係もはっきりせず、一向に何も決まらないわけだ。
ただ、ここで再確認しておきたいのが、そもそもこの会合が開かれた経緯だ。TTCのスペクトラム標準について議論するなら、TTCの場で行なえばいい。そうはならなかった最大の原因は、昨年末に条件付きで認可を受けたNTT東日本、西日本の接続約款の変更が関係するからだ。その約款の変更認可と同時に情報通信審議会は総務省内でスペクトル管理の基本的な要件を策定することを求め、この会合が開かれるに至ったのだ。
新たな接続約款では、ADSLの各方式を他のサービスへの干渉度合いによって、第1グループと第2グループに分類し、第2グループは既存より月額899円高い接続料金や収容時の調査費などを設定するという内容になっている。また、暫定的に第1グループに分類された未確認方式(ようするにオーバーラップ技術を利用している方式)が、第2グループに分類されると変更された場合で、かつ同一カッドに第1グループが収容されている場合は、収容替えの費用(1万3200円)を事業者側が負担する必要もある。どちらのグループに分類されるかの基準はTTCのスペクトラム管理標準に従うとされている。
つまり、このまま接続約款が適用されれば、万が一、第2グループに分類された場合に事業者として致命傷ともなりかねない巨額の出費を負うことになってしまう。だから、グループ分類の基準となるスペクトラム管理で紛糾しているわけだ。
■ 事業者はどれくらいの痛手を負うのか?
では、第2グループとして分類された場合に、事業者はどれほどの痛手を負うのだろうか? 具体的にシミュレーションしてみよう。現段階では、前述した接続約款が適用されるのは、接続約款が認可後に開通した回線についてと予想される。つまり、2002年12月26日以降に開通した回線については、接続料金の変更、収容替えなどの負担を強いられる可能性が否定できないことになる。
現状、ADSLの加入者数は、依然として高い伸びを示しており、毎月40万~50万回線となっている。総務省の発表によると、接続約款変更後の2003年1月の加入者増加数は、市場全体で474,155回線だ。この回線は、そのほとんどが12Mbpsサービスと考えて差し支えないだろう。計算の対象となるのは、このうちのTTC標準の範囲を超えるとされたオーバーラップ技術を利用しているユーザーだが、この内訳は正確なデータがないために推測するしかないが、おそらく20万ユーザーは存在すると考えられるだろう。
これはあくまでも例として取り上げた場合であることをお断りしておくが、この20万回線が、第2グループとされた場合、事業者は899円×20万=1億7,980万円の費用負担が求められる。しかも、ADSLの加入者数がこのペースで続けば、翌月には約3億6千万円、さらに翌月には約5億4千万円と雪だるま式に負担額が増えていく。ただし、回線使用料は現在、そのままの額をユーザーに負担させているため、ユーザーにそのまま転嫁すれば、事業者の懐は痛まないものの大量のユーザー離れが起きる可能性が高い。これは大きな痛手だ。
しかも、事業者が負担するコストは、これだけにとどまらない。前述したように第2グループに分類された方式が第1グループの方式と同一カッドに収容されている場合は、収容替えの費用も事業者が負担することになる。第1グループと第2グループがどれくらいの割合で同一カッドに収容されるかも正確なデータが公表されていないため不明だが、仮に1割として2万回線存在したとすると、2億6,400万円ほどの費用が一時的に必要になる。
いずれにせよ、第2グループに分類されることは、事業者にとって死活問題にもなりかねないほどの負担を強いられるわけだ。これを黙って見ていることなど、どの事業者であろうとできることではないだろう。もちろん、その影響が接続料金の値上げという形でユーザーにしわ寄せされる可能性もある。ある日突然、接続料金が値上がりしましたと言われて納得できるユーザーは、どこにもいないだろう。
とはいえ、現実に第2グループに分類されるようなADSL技術が存在するのだとすれば、実際に特定の方式のADSLで他の回線に干渉の影響が出た場合に、その費用をNTT自らが負担するわけにもいかない。また、第2グループの方式は、本来2回線の収容が可能な1カッドを1回線で占有するため、NTT側としてはもう1回線分を利用できないという問題が発生してしまう。このまま放置すれば、それこそNTT自らの死活問題になってしまうだろう。NTTの接続約款変更がなければ、今回の騒動もそれほど大事にならなかったのかもしれないが、将来的な危険がある以上、NTTとしても対策を講じておかなければならない。このため、NTTが接続約款を変更しようとした姿勢を責めることはできないだろう。
■ 解決策はどこにあるのか?
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総務省
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では、この問題はどのように決着させればいいのだろうか? ゴールは単純だ。きちんとしたスペクトラム管理の基準を作成し、それに従って各サービスを分類すればいい。しかしながら、そのゴールにたどり着くための道のりは非常に険しい。
確かに、スペクトラム管理の基準をしっかりと設ければ、万が一、干渉の問題が発生したときなどに責任の所在をハッキリさせることができる。また、そもそも他のサービスに干渉を与えるようなサービスが市場に投入されることも防止できる。しかしながら、その基準をどの事業者も納得する形で標準化するのは非常に困難だ。
少なくとも、現状、基準の候補とされているTTC標準(JJ-100.01)では、ReachDSLや各種オーバーラップ技術が不適合扱いとなっているため、現状、これらの技術を市場に投入している事業者が納得するとは考えにくい。そもそも、JJ-100.01の有効性自体について意見の分かれたことが問題の発端なので、それが良かろうと、悪かろうとすべての事業者が納得できる形のものではないことは確かだ。
個人的には、現段階のオーバーラップの干渉については、すでに市場に投入されている以上、実際のフィールドテストなりで明らかにするしかないと考えるが、今後、オーバーラップ以外の技術が登場する可能性が否定できないことを考えると、シミュレーションをベースとした何らかの基準は必ず設けておかなければならないと考える。
今回のケースでは、実際のフィールドで干渉の有無を明らかにすることが可能だが、今後も同じようなやり方をすることはできない。なぜなら、万が一、重大な干渉を与えるようなサービスが市場に投入され、国内のインターネットインフラが麻痺してしまうような重大な問題が発生した際に、「実際に市場に投入してから干渉の影響を図ろうと思った」、「そこまで重大な問題が発生するような最悪のケースは想定していなかった」では済まされないからだ。危機管理を行なう以上、最悪のケースも含めた、あらゆるケースを想定したシミュレーションを用意し、それに従ってサービスをふるいにかけなければ、通信サービスは破綻をきたしてしまう。
今回のDSL作業班では、既存のサービスの影響を明らかにすることも大切かもしれないが、本来は、このような将来的な基準作りにまで議論を進めなければならないはずだ。しかし、毎回思うのだが、この会合で結論めいたものが出たことは一度たりともないし、その方向性すら見えないことの方が多い。極端な話、現段階では、総務省がこの作業班に一体、何をさせたいのかすらわからない状況にある。まだ会合は数回残されているが、最後まで行っても何も実りはないのかもしれない。
■ ADSLが転換期を迎える可能性も
いずれにせよ、NTTの接続約款変更自体が認可された以上、ADSLに何らかの転換期が訪れる可能性は否定できない。最悪の場合、特定の事業者のサービスが第2グループに分類され、事業者自身、そしてユーザーにしわよせが来る可能性もある。現状、ADSLは、低価格な料金と12Mbpsサービスによる速度の向上、距離の延長といった特徴でマーケットを拡大している。しかしながら、その武器が失われれば、現状、飛ぶ鳥を落とす勢いのADSLが失速する可能性もある。
この問題は、誰もが納得する形、それも事業者だけではなく、ユーザーが納得する形で決着をつけてもらいたいものだ。そのためにもDSL作業班には、ぜひ実りのある議論を期待したいところだ。
■ URL
情報通信審議会
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/index.html
TTC(情報通信技術委員会)
http://www.ttc.or.jp/
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