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第62回:長い沈黙を破って登場した新Atermシリーズ
~AtermWR7600Hでトリプルワイヤレスは本格化するか?~


 NECアクセステクニカから、デュアルバンド・トライスタンダードに対応した無線LANルータ「AtermWR7600H」が新たに登場した。1台でIEEE 802.11b/gとIEEE 802.11aの両バンドを使い分けることができるのが最大の特徴だ。早速、その実力をテストしてみた。





デュアルバンドへ

 ようやく規格が正式承認されたこともあり、現状の無線LAN市場はIEEE 802.11gが花盛りだ。各メーカーからさまざまな製品が登場。ドライバやファームウェアも正式規格版がリリースされ始め、良い意味で製品がこなれてきた。昨年末や今年の初めの状況を振り返ってみると、これだけの短期間で、よくここまで市場を盛り上げたものだと感心してしまう。

 しかし、無線LAN市場が、このままIEEE 802.11g一色になるということはなさそうだ。今後、無線LAN製品はシングルバンドからデュアルバンドへと進化する予定もある。確かに、現状の製品を見るとIEEE 802.11g製品のパフォーマンスやお買得感は高いが、IEEE 802.11aには混信の少ない5GHz帯を利用できるという大きなメリットがある。これら複数の規格が1つの製品で使えるようになれば、ユーザーのニーズや使い方に合わせて柔軟に規格を選べるようになる。無線LANの進化としては、このようにすべての規格が使えるようになるのがやはり理想だろう。





切替え方式でも十分

NECアクセステクニカから発売されたAtermWR7600H。試したのはIEEE 802.11a/b/g対応の無線LANカードがセットになったモデル
 そんな中、NECアクセステクニカから登場したのが、今回取り上げる「AtermWR7600H」という製品だ。従来のAtermとほぼ同じ筐体を採用しているが、黒から白へとカラーリングが変更されており、見た目からして従来機とはひと味違うという第一印象を受ける。

 実際、今回の製品は従来のAtermシリーズから大幅な進化を遂げている。最も特徴的なのは、前述したデュアルバンド・トライスタンダードに対応している点だ。同社では、この製品に「トリプル・ワイヤレス」というキャッチコピーを付けており、IEEE 802.11a/b/gのすべての規格で利用できることをアピールしている。

 もちろん、トリプルワイヤレスと言っても、すべての規格を同時に使えるわけではない。現状の無線LANではデュアルバンドと言っても切替え式になっていることが多く、本製品も、これと同様に2.4GHz帯のIEEE 802.11b/gか、5GHz帯のIEEE 802.11aをユーザーが選択する方式となっている。デュアルバンドをシームレスに利用できるようになるのは理想的だが、これにはコスト的な問題も存在するため、現状は切替え方式とならざるを得ないだろう。

 とは言え、個人的には、家庭やSOHO、小規模オフィスなどで利用する限り、必ずしもアクセスポイント側でデュアルバンドをシームレスに利用できる必要はないと考えている。現状、クライアント側の環境を考えれば、IEEE 802.11aとIEEE 802.11b/gが混在する環境はほとんど考えられない。ニーズに応じて、IEEE 802.11aかIEEE 802.11b/gのどちらかで動作させることができれば、実用上は問題ないだろう。

 なお、クライアント用となる無線LANカード(PA-WL/54AG)は5GHz環境で使えばIEEE 802.11aで、2.4GHz環境で使えばIEEE 802.11b/gとほぼシームレスに規格を使い分けることができる。また、付属のユーティリティ「サテライトマネージャ」を利用すれば、クライアント側から、クライアント自身とアクセスポイントの動作モードを同時に切替えることも可能となっている。シームレスにとはいかないまでも、手軽にバンドを切替えられるような工夫をしているあたりは、さすがトリプルワイヤレスと謳っているだけのことはある。


付属のユーティリティを利用することで、クライアント側から子機と親機の両方の動作モードを一度に切替えることが可能。用途によって動作モードを切替えることもさほど面倒ではない

 ちなみに、話が少しそれるが、今後デュアルバンドが普及していくのであれば、もう少しインテリジェントにバンドを切替えられると面白いと個人的には考えている。たとえば、普段はIEEE 802.11gで通信しているが、ネットワーク経由で映像を伝送するようなアプリケーションを起動したときだけIEEE 802.11aで通信するといったようにアプリケーションレベルでバンドを切替えたり、電波状況を監視してより速度が出る方の規格に自動的に切替えるといったような使い方ができるともっと無線LANを便利に使えるのではないかと感じる。技術的に、そして規格的にそれが可能なのかどうかはわからないが、将来的にそうなってくれるのが理想だ。





IEEE 802.11aを得意とするパフォーマンス特性

 話を元に戻そう。気になるパフォーマンスだが、ひと口に表現するならば、本製品はIEEE 802.11a寄りの製品と言うことができる。本製品と同様にアセロスコミュニケーションズのチップを採用した製品に共通する傾向とも言えるが、実際に速度を測定すると明らかにIEEE 802.11aのパフォーマンスが高い。例によって、筆者宅にて速度を計測してみたが、離れた地点での計測ではそうでもないものの、近距離では2割ほどIEEE 802.11aの結果の方が優れていた。

表1:無線パフォーマンステスト
無線方式 1F 2F 3F
IEEE 802.11g 17.58Mbps 15.38Mbps 14.44Mbps
IEEE 802.11a 20.7Mbps 16.86Mbps 14.38Mbps
※50MBのファイルを転送。コマンドプロンプトのFTPにて表示された速度をMbps換算。
※サーバーにはPentium4 3.06GHz 1GBメモリ搭載機を使用し、IISのFTPサーバーを利用した。
※クライアントにはCeleron 600MHz(Baniasコア) 512MBメモリ搭載のノートPCを使用。
表2:有線スループット
回線 速度計測サイト 下り 上り
Bフレッツ フレッツ・スクウェア 64.48Mbps -
RBB TODAY 63.73Mbps 12.74Mbps
USEN SPEEDMETER.JP 35.76Mbps -
RBB TODAY 77.60Mbps 22.62Mbps
長距離伝送ではさほど差がないものの、近距離ではIEEE 802.11aのパフォーマンスが高い結果となった。IEEE 802.11gの正式ファームウェアでの性能向上が期待される。また、有線のスループットも非常に高性能となっている


 この理由は単純だ。本製品の場合、現段階ではIEEE 802.11gはドラフト版での対応となっている。つまり、IEEE 802.11gの潜在能力を発揮し切れていない可能性が高いのだ。他社製のIEEE 802.11g製品などでは、近距離で20Mbps以上の速度を実現することも多い。また、正式版のIEEE 802.11gになれば、他社で言うところのジェットモードやフレームバーストモードといった高速化の機能が搭載されるだろう。これらが採用されれば、IEEE 802.11aとほぼ同等の速度が実現できるようになると予想できる。

 一方、有線側のパフォーマンスだが、こちらも良好だ。NATやフィルタリングなどの設定がオンになっている標準の状態で計測してみたが、以下の結果のように、PPPoE時で64Mbps前後、ローカルルータモードで77Mbpsの速度を計測することができた。PPPoEマルチセッション、VPNパススルー、不正アクセス検出機能など、機能的にも充実しており、ルータとしての性能も一級品だ。従来のAtermシリーズでも採用されていたPPPoEブリッジなどの独自機能も備えられている。


PPPoEマルチセッションに対応(静的ルーティング設定にてドメインによるルーティング設定が可能)。ルータとして必要な機能は一通り備えられており、機能的な不足は感じない

 なお、無線LAN側のセキュリティ機能としては、現状はWEP、MACアドレスフィルタリング、ESS-IDステルス機能のみとなっているが、次期ファームウェアでTKIPやAESなどWPA相当の機能の実装も予定されている。機能的にはかなり充実している製品だと言えるだろう。個人的には、さらにWDSがサポートされ(メニューは存在するのでサポートされる可能性は高い)、外出先などから自宅にPPTPで接続できるVPNサーバー機能が搭載されれば、もはや文句の付け所がないと言える。





唯一の弱点は価格か?

 このように、AtermWR7600Hは、パフォーマンス的にも機能的にも完成度の高い製品だと言うことができる。今年の前半、ドラフト版のIEEE 802.11g製品が他社から多数登場する中、同社はひたすらに沈黙を守ってきたが、その理由がようやく納得できた。

 ただし、価格面を考えると、市場では多少の苦戦を強いられることになりそうだ。AtermWR7600Hの実売価格は、クライアント用の無線LANカードが1枚セットになったワイヤレスセットで25,800円前後。一部のIEEE 802.11gのシングルバンド製品がセットでも2万円以下で販売されていることを考えると、この価格差は大きい。デュアルバンド・トライスタンダードに対応する点、そしてFTTHでも全く問題ない高いスループット性能と豊富な機能を備えているあたりを考えれば、それだけの投資をする価値は十分にあるのだが、そう考えないユーザーも少なくないだろう。このあたりは、価格重視で市場が動くのか、それとも機能重視で動くのか、今後の無線LAN市場を占ううえでも非常に注目されるところだ。


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2003/07/08 11:10

清水理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ
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