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第72回:低価格路線で変わるプロバイダーのあり方


 ポータルサイトの大手として知られるエキサイトが、2002年夏からフレッツ・ADSL、Bフレッツユーザー向けに月額500円という低価格のインターネット接続サービスを開始した。現状、一般的なプロバイダーが1,000~2,000円程度の料金を設定していることを考えるとかなりの低価格だ。実際の使用感をまじえながら、今後のプロバイダーのあり方について考えていく。





料金か? サービス内容か?

 プロバイダーの世界に、驚異的な価格を持ち込んだ事業者がある。大手ポータルサイトとして知られるエキサイトだ。対象サービスは、NTT東日本、西日本のフレッツ・ADSL、Bフレッツのみに限られるが、月額500円という低価格でインターネット接続サービスを提供している。低価格傾向がついにプロバイダーの接続料金にも訪れたかという印象だ。

 では、具体的に既存のプロバイダーとどれくらいの価格差があるのだろうか? 以下に国内の主なプロバイダーの月額料金をまとめてみた。

プロバイダー料金の比較(2003年9月30日現在)
回線サービス名 料金内訳 BIGLOBE @nifty ぷらら WAKWAK ASAHIネット So-net OCN BB.excite(注1)
フレッツ・ADSL モアII ISP料金 \1,780 \2,000 \850 \1,000 \700 \1,280 \1,950 \500
回線料金 \3,240 \3,240 \3,240 \3,240 \3,240 \3,240 \3,240 \3,240
合計 \5,020 \5,240 \4,090 \4,240 \3,940 \4,520 \5,190 \3,740
Bフレッツ・ニューファミリー ISP料金 \2,000(注2) \2,000 \1,500 \1,480 \1,400 \2,000 \1,980 \500
回線料金 \5,600 \5,600 \5,600 \5,600 \5,600 \5,600 \5,600 \5,600
合計 \7,600 \7,600 \7,100 \7,080 \7,000 \7,600 \7,580 \6,100
Bフレッツ・マンション(プラン1) ISP料金 \2,000(注2) \2,000 \850 \1,480 \700 \2,000 \1,980 \500
回線料金 \4,000 \4,000 \4,000 \4,000 \4,000 \4,000 \4,000 \4,000
合計 \6,000 \6,000 \4,850 \5,480 \4,700 \6,000 \5,980 \4,500
※注1:接続サービスのみの料金。メールアドレスの利用には別途280円が必要。
※注2: 10月1日からは「Bフレッツ」コースが1,980円で提供開始される
※回線料金はすべて東日本の場合で、機器レンタル料などを含む。
国内の主なプロバイダーの接続料金と回線料金の比較。Bフレッツ対応プランではBB.exciteが圧倒的に安い


 フレッツ・ADSLの場合であれば、最も高いケースで合計5,240円、Bフレッツの場合であれば合計7,600円の料金となる。これに対して、BB.exciteはフレッツ・ADSLで合計3,740円、Bフレッツでは合計6,100円となる。500円という接続料金だけを見ても安いと感じるが、こうして合計を比較してみると、その価格差が大きいことがよくわかる。これだけ安いと、さすがに他のプロバイダーからの乗り換えも検討したくなる。

 もちろん、単純な料金だけでプロバイダーのサービスを比較することはできない。実際、BB.exciteの500円という接続サービスは、インターネットに接続できるだけの非常にシンプルなサービスだ。メールアドレス(280円)やホームページスペースの利用(500円)には別途、料金が必要になる。他のプロバイダーのサービスが、ADSLやFTTHを利用した常時接続に加え、メールアドレスやホームページ、外出先からのダイヤルアップ接続など、さまざまなサービスが併用できることを考えると、サービス内容には大きな開きがあるのも事実だ。

 このため、実際にBB.exciteのサービスを利用するかどうかは、料金を優先するか、サービス内容を優先するかがポイントとなってくると考えられる。





複数プロバイダーを組み合わせる手もある

 しかし、割り切った使い方をすれば、BB.exciteのようなサービスを利用するのもひとつの手だろう。BB.exciteの最大の欠点は、標準サービスだけではメールアドレスとホームページ領域が利用できない点だ。それであれば、接続だけBB.exciteを利用して、メールアドレスやホームページに関しては他のサービスを利用するという手もある。

 たとえば、ホスティングサービスを利用するのもひとつの方法だ。詳しくは、今後、本コラムで取り上げていく予定だが、実際、筆者はメールアドレスやホームページ領域はホスティングサービスで利用している。ホスティングサービスであれば、オリジナルのドメイン名を利用できるうえ、メールアドレスなども自由に設定できる。また、ホームページなどに関してもCGIなどの設置に制限が少ない。

 このため、プロバイダーのサービスに関しては、極端な話、インターネットにつながりさえすれば十分とも考えている。こういった使い方をしているユーザー層にとっては、BB.exciteのようにシンプルだが、低価格なサービスの方が向いているとも言えるだろう。

 とは言え、すべてのユーザーに、このような使い方が当てはまるとも考えにくい。また、ホスティングサービスを利用すれば、結果的にトータルの料金が高くなってしまうのも事実だ。

 そこで考えられるのが、複数のプロバイダーをうまく組み合わせる方法だ。たとえば、現在、契約しているプロバイダーを最も安い料金のコースに変更する。その上で、接続だけBB.exciteを利用すれば、トータルの料金を抑えながら、メールなどの各種サービスも併用できることになる。現在のプロバイダーは解約しないので、現在使っているメールアドレスをそのまま利用できるというメリットもある。一般ユーザーにとっては、この点が最大のメリットになるだろう。

 具体的には、現在契約しているプロバイダーのコースをダイヤルアップ接続向けに提供されている月額数百円のコースに変更すればいいだろう。このようなコースの場合、月間の接続時間が1~3時間程度を超えると、従量課金で料金が増えていくしくみになっているが、接続に関してはBB.exciteを利用するので、接続時間はゼロだ。しかも、多くのプロバイダーは、このような低価格のコースでも、メールのサービスに関しては通常のコースと同じ利用環境が提供され、場合によってはホームページ領域まで無料で提供される。

各プロバイダーの低価格コース
項目 BIGLOBE @nifty ぷらら WAKWAK ASAHIネット So-net OCN
コース名 わいわい1コース お手軽1コース ぷらコミ0 プチ 電話料込みコースK1 電話パック1 コミ・デ・400
料金 200円 250円 200円 200円 300円 300円 400円
ホームページ 10MB(500円) 開設不可 5MB(300円) 50MB 10MB 10MB 10MB
メールボックス容量 20MB 20MB 無制限 20MB なし なし 5MB
受信通数制限 999通 なし 5000通 なし なし なし なし
1通あたりの送受信容量制限 10MB なし 5MB(送信時) 5MB なし 5MB 10MB
保存期間 31日 30日(未読) 1ヶ月 3ヶ月 180日 2ヶ月 2ヶ月
転送サービス 無料 無料 無料 無料 無料(メールを保存しない場合) 無料 最大3箇所まで無料
ウィルスチェックサービス 300円 200円 200円 200円 200円 300円(送受信とも設定の場合) 200円
※ぷららの場合、「ぷららライト」という月額0円の完全従量制コースが存在するが、外部からSMTPサーバーを利用できない。
主要プロバイダーの低料金コース。主にダイヤルアップ接続向けのコースとなるが、メールは通常のコースとほぼ同等のサービス内容で、場合によってはホームページ領域までもが利用可能だ


 もちろん、現在のプロバイダーの契約を低価格のコースに変更することで、使えなくなってしまうサービスなども存在する。たとえば、電話代込みのコースに変更すると、外出先からダイヤルアップ接続ができなかったり、完全従量制の料金が課せられるケースもある。しかし、インターネットへの接続、メールやホームページの利用といった一般的な使い方であれば、この組み合わせでも十分代替えが可能だ。しかも、月額の料金は以下の表のように、場合によっては1,000円以上も節約することができる。

通常コースとBB.excite利用時の差額(ADSLの場合)
料金内訳 BIGLOBE @nifty ぷらら WAKWAK ASAHIネット So-net OCN
通常コース料金 \1,780 \2,000 \850 \1,000 \700 \1,280 \1,950
BB.excite+低価格コース \700 \750 \700 \700 \800 \800 \900
差額 \1,080 \1,250 \150 \300 \-100 \480 \1,050
フレッツ・ADSLの場合の料金比較。ASAHIネットは変更することで逆に料金が高くなってしまうが、それ以外では確実に料金を節約できる

通常コースとBB.excite利用時の差額(Bフレッツの場合)
料金内訳 BIGLOBE @nifty ぷらら WAKWAK ASAHIネット So-net OCN
通常コース \2,000 \2,000 \1,500 \1,480 \1,400 \2,000 \1,980
BB.excite+低価格コース \700 \750 \700 \700 \800 \800 \900
差額 \1,300 \1,250 \800 \780 \600 \1,200 \1,080
Bフレッツの場合の料金比較。最高で1,300円も月額料金を節約することができる


 ちなみに、無料メールアドレスや無料ホームページなどのサービスを利用すれば、さらに料金を節約することも不可能ではないが、これは素直におすすめすることはできない。インターネット上のサイトには会員登録の際などに無料メールアドレスを不可としてる場合などもあり、利用環境が制限される場合が多い。無料メールや無料ホームページなどに関しては、あくまでも現時点ではセカンドメールアドレス、セカンドホームページといった位置づけとなるため、これらのみとBB.exciteとの組み合わせは考えにくいだろう。





パフォーマンスも問題なし

 安価なBB.exciteの利用に際して、パフォーマンスや安定性が低下するのではと心配するかもしれないが、筆者が利用した限りでは、この心配もなさそうだった。9月の中旬から2週間前後、BB.exciteでインターネット接続を利用してみたが(Bフレッツ・ニューファミリーで使用)、パフォーマンスが極端に遅くなるようなこともなく、回線が切断されるようなトラブルもなかった。

 インターネット上の速度測定サイトで計測した結果も、下りで50Mbpsを超える速度を計測できた。このあたりは、IIJのバックボーンを利用しているおかげだろうか。


RBBTODAYによる速度測定結果。Bフレッツ・ニューファミリーを利用し、平日の13:00前後に計測した

 もちろん、常に50Mbpsを超えるような速度が実現できるわけではなく、時には30Mbps前後になったり、それ以下の速度になることもある。しかし、これはアクセス先のサイトが混雑しているせいもあるだろう。混雑していると思われる同時間帯に他のプロバイダーで接続してみた時も、速度的にはほとんど変わらなかった。パフォーマンスに関しては、ほとんど心配する必要はなさそうだ。





プロバイダーのあり方が変わる可能性がある

 このように、BB.exciteのサービスは、割り切った使い方をしたり、他のプロバイダーと組み合わせることで、既存のプロバイダーと同等のサービスを低価格で利用できる画期的なものと言えそうだ。

 もちろん、今回のBB.exciteはフレッツユーザー向けのサービスとなるため、ホールセールタイプのADSLなどの場合はさらに安く利用できる場合もある。しかしながら、BB.exciteのような低価格のサービスの登場によって、ホールセールタイプのADSLを提供するプロバイダーの接続料金も変動してくる可能性がある。それはそれで歓迎すべき事だ。

 ただし、ここで勘違いしてほしくないのは、単純に価格が安いからすばらしいと言っているわけでもなく、安いサービスに乗り換えるべきだと主張しているわけでもない点だ。

 今回、本コラムでBB.exciteのサービスを取り上げたのは、「低価格」というひとつの特徴を持ったサービスを市場に投入したことで、プロバイダーという既成の概念に一石を投じたと感じたからだ。たとえば、今後、BB.exciteのように接続のみを提供する低価格サービスが多数登場してくるかもしれない。また、接続のみを提供するサービスが増えてくれば、ホスティングとはまた違った方法で、メールやホームページのみを低価格で提供するサービスが現れるかもしれない。

 さらに、価格での競争を避け、サービス内容で勝負しようというプロバイダーも登場してくる可能性もある。既存のサービス内容をさらに向上させることも考えられるだろうし、新たなサービスを生み出す可能性もある。場合によっては、これまでプロバイダーのメインのビジネスとして考えられていた接続サービスに見切りをつけ、コンテンツの提供のみに注力するプロバイダーも現れるかもしれない。

 いつまでもブロードバンドのキラーコンテンツがIP電話とストリーミングでは行く末は決して明るいとは言えない。BB.exciteのようなサービスの登場によって、既存のプロバイダーのあり方が変わり、さらにブロードバンド市場が発展するような画期的なサービスが生まれてくれば面白いことになりそうだ。というか、ぜひそうなってくれることを望みたいところだ。


関連情報

URL
  関連記事:エキサイト、インターネット接続とコンテンツ配信を行なう「BB.excite」
  http://bb.watch.impress.co.jp/news/2002/08/01/bbexcite.htm

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「月額500円でBフレッツユーザーが8割」エキサイトの戦略を知る

2003/09/30 11:13

清水理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ
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