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第130回:無料で使えるP2Pスケジュール共有ソフト
アリエル・マルチスケジューラで何ができるのか?


 アリエル・ネットワークから、無料で利用できるスケジュール共有ソフト「アリエル・マルチスケジューラ」が公開された。すでに同社では、プロジェクト管理なども含めたP2Pグループウェアの「アリエル・エアワン・プロジェクトA」を発売しているが、この製品から予定表機能のみを無料で提供したものが「アリエル・マルチスケジューラ」だ。どのような機能が使えるのか、早速試してみた。





外部とのスケジュール共有を手軽に実現

 個人的には、現状、複数ユーザーで効率的にスケジュールを共有する方法には、これといった決め手がないと感じている。もちろん、社内などの閉じたネットワークであれば、グループウェアでスケジュールを共有することも可能だが、企業間で進めているプロジェクトや外部スタッフを多用する仕事では、それも難しい。

 他ならぬ筆者も、このように外部とのスケジュール共有に悩まされているユーザーの1人だ。複数の出版社とスケジュールを調整しなければならない上、フリーの立場のライター同士で共同作業を行なうことも少なくない。

 以前は、Webベースのグループウェアを利用したこもあったが、無料で提供されているサービスでは、基本的に1つのワークスペースで、1つのグループしか管理できないため、複数の取引先がある場合、逆にスケジュール管理が煩雑になってしまうことが多い。結局のところ、メールで個別にスケジュールを調整し、個人用のスケジュール管理ソフトなどに後から入力するという手間のかかる方法で管理せざるをえないのが現状だ。

 そんな中、アリエル・ネットワークから興味深いアプリケーションが公開された。無料で利用できるスケジュール共有ソフト「アリエル・マルチスケジューラ」だ。同社から発売されている「アリエル・エアワン・プロジェクトA」というグループウェアを販売していたが、この予定表の機能のみを無償で提供したのが「アリエル・マルチスケジューラ」だ。


P2Pでスケジュールを手軽に共有できるアリエル・マルチスケジューラ。同社のサイトから無償でダウンロードして利用できる

 アリエル・マルチスケジューラの最大の特徴は、P2P技術を利用している点だ。Webベースのグループウェアなどの場合、社内もしくはインターネット上にサーバーが必要だが、P2Pで動作するアリエル・マルチスケジューラの場合、サーバーは一切不要だ。スケジュールを共有したいPCにアリエル・マルチスケジューラをインストールすれば、それだけでネットワーク経由でのスケジュール共有が可能となる。前述した企業間や外部スタッフとのスケジュール共有などといったシーンを考えると、非常に適した製品と言えそうだ。





注意すべきはファイアウォールの設定

 実際の使い方は簡単だ。アリエル・ネットワーク社のホームページから、アリエル・マルチスケジューラをダウンロードし、インストールするだけでいい。インストール時、いくつかの設定が必要になるが、どれも簡単なものだ。基本的にはユーザー名とメールアドレス、パスワードを登録すれば設定は完了だ。


アリエル・マルチスケジューラの初期設定画面。名前やメールアドレスなどを設定するだけですぐに利用できる

 注意すべきなのは、ファイアウォールが導入されている場合だろう。Windows XPのWindowsファイアウォールの場合は、インストール時に自動的に設定が変更されるが、PCにNorton Internet Securityなどのファイアウォールソフトがインストールされている場合、アプリケーションの通信を許可しなければならない。アリエル・マルチスケジューラを起動すると、通信を許可するかどうかという警告メッセージが何度か表示されるので、このすべてを許可しておく必要がある。


Norton Internet Securityなど、ファイアウォールソフトを利用している場合はアプリケーションを許可する必要あり。何度か画面が表示されるので必ず許可しておこう

 また、企業などでネットワーク上のファイアウォールが構築されている場合は、プロキシを設定しておく必要がある(外部と通信する場合。LAN内のみでの利用なら不要)。アリエル・マルチスケジュールを起動後、設定メニューでネットワークの設定を変更できるので、ここでプロキシ経由で通信できるように設定しておくといいだろう。





ルームごとに個別にスケジュールを共有

 設定後、アリエル・マルチスケジューラを起動すると、ルームの作成画面が表示される。このルームとは、いわばグループのようなものだ。スケジュールを共有したいユーザーやプロジェクトごとにルームを作成することで、各ルームごとに個別にスケジュールを共有することが可能となる。たとえば、家庭内の予定を共有するための「清水家」というルームに加え、仕事用に「ワークスペース」というルームを作成すれば、それぞれ個別にスケジュールを管理することが可能となる。


初めて起動したときはルームが作成されていない。仕事やグループなど、スケジュールを共有したい相手ごとにルームを作成しておこう

 ただし、ルームを作成しただけでは、自分しか登録されていないので、スケジュールを共有することができない。このため、まずは、ほかのユーザーを招待する必要がある。他のユーザーにもアリエル・マルチスケジューラをインストールしてもらい、そのメールアドレス宛に招待状を送る。他のユーザーが招待状を受け取ると、アリエル・マルチスケジューラがポップアップメッセージを表示するので(システムメッセージとしても表示される)、これを承諾すれば、ルームに他のユーザーが登録されるというわけだ。


メンバーとして登録したい相手のメールアドレスを登録。送られた招待状に相手が承諾すると、そのユーザーとルームを共有できる


 スケジュールの共有方法は、直感的でわかりやすい。画面に表示されたカレンダーから、スケジュールを登録したい日付を選ぶと、スケジュールの入力画面が表示される。ここに時間や内容を入力し、参加させるメンバーを選択すれば、グループの予定としてスケジュールを入力できる。

 もちろん、ほかのユーザーの空き時間を検索することも可能だ。スケジュールの登録画面で「空き時間検索」を実行すると、ルームメンバーの空いている時間を参照できる。相手がアリエル・マルチスケジューラにきちんとスケジュールを登録していることが前提だが、これなら時間の調整なども手軽に可能だ(実際にスケジュールが登録されるのは相手が承認する必要がある)。また、予定を公開しないことも可能なので、ルームのメンバーに公開したくないプライベートな予定は、公開しない設定で登録しておけばいいだろう。


メイン画面から日付をクリックすると、スケジュールの登録画面が起動。時間や場所、出席者を選択するとスケジュールを登録できる。出席者の空き時間を検索したり、同時に設備を予約することも可能


 なお、当然のことながら、ルームが複数存在する場合、特定のルームで共有したスケジュールが他のルームに公開されることはない。例えば、筆者が家庭用の「清水家」と仕事用の「ワークスペース」という2つのルームに所属している場合、清水家で登録したスケジュールは、ワークスペースのルームに参加している他のユーザーには、単に「予定」としか表示されないようになっている。つまり、ルームごとのプライバシーもしっかりと確保されているわけだ。





スケジュールのみでは物足りない

 このようにグループごと、プロジェクトごとにスケジュールを統合的に、しかもグループごとのプライバシーを確保しながら管理できるというのは、簡単なようで、これまではなかなか実現されていなかった機能だ。それが無料で利用できるのだから、アリエル・マルチスケジューラの存在意義は非常に大きい。

 このほか、モバイルでの利用も想定されており、会社や自宅のデスクトップで利用しているIDをノートPCなど、ほかのPCで利用することができたり、現状はまだ実装されていないが、近日中に携帯電話との連係機能も搭載される予定だ(モニター期間は無料の予定)。

 ただし、使い込んでいくと、やはりスケジュールの共有だけでは物足りなくなってくる。実際の利用シーンを考えると、いきなりスケジュールだけをブッキングするということはまずありえない。通常は事前に、グループ内で何らかのコミュニケーションが存在して、その上でスケジュールのブッキングというプロセスになるのが普通だ。しかし、残念ながらアリエル・マルチスケジュールにはスケジュール管理以外の機能は搭載されていない。

 アリエル・マルチスケジューラでは、スカイプとの連携により、ルーム内のメンバーに電話をかけたり、チャットをする程度までは可能だが、それだけではスケジュールのブッキングまで至るというケースも希だろう。このため、やはりメールなどで連絡を取り合ってから、アリエル・マルチスケジューラでスケジュールをブッキングするという方法をせざるを得ない。無料のソフトウェアなので、あまり多くを要求することはできないのだが、せめて掲示板機能だけでも搭載していてくれれば、アリエル・マルチスケジューラでグループのコミュニケーションが完結するのに……と、個人的には、少々、残念に感じるところだ。


スカイプとの連携機能も搭載。アリエル・マルチスケジューラに登録されているユーザーを指定して、電話をかけたり、チャットに招待することができる。スケジュール登録前の簡単な相談程度であれば、これだけで十分な場合も多い





現行バージョンには不具合も

 なお、今回、テストに使用したバージョンには、特定の不具合が存在することを確認できた。事の発端はこうだ。

 今回の原稿を執筆するために、アリエル・マルチスケジューラを試用していたところ、ある方からメールを頂いた。その方もアリエル・マルチスケジューラを評価のために利用していたそうだが、特定の方法によって、アリエル・マルチスケジューラを利用している他のユーザーのメールアドレスが自分のPC宛に送信されてくることを偶然発見したということだ。その中に筆者のメールアドレスが含まれていたため、もしかするとメールアドレスが外部に漏れているのではないかと親切に知らせてくれたわけだ。

 そこで、筆者宅の環境でも同様に検証してみたところ、アリエル・マルチスケジューラを起動していると、確かに見知らぬメールアドレスが送られてくることが確認できた。アリエル・マルチスケジューラは、前述したようにP2Pの技術を採用しており、利用者全体を1つのネットワークのように扱うことでスケジュールデータをやり取りしている。この中にIDとして利用しているメールアドレスが平文のまま含まれていたということになる(スケジュールデータ自体はきちんと暗号化されている)。

 この件をアリエル・ネットワーク社に確認したところ、同様の現象を確認したということで、現在、メールアドレスを暗号化する対処を行なっている最中だとのことだ。現状は、通信をLAN内に限定するスクリプトなどが提供されているが、きちんとした不具合の修正も近日中に提供されるとのことだ(※編集部注:この事象については、1月11日付でアリエル・ネットワークからニュースリリースが行なわれ、別途記事を掲載しております)。

 このため、もしも、不具合が修正される前のバージョンを入手することができたとしても、それを利用することはおすすめできない。対策済みのバージョンが提供されるのを待つか、現行バージョンのままで利用するのであれば、無料メールアドレスなど外部に知られてもかまわないメールアドレスをIDとして利用したり、前述した通信をLAN内に限るスクリプトを適用するのが賢明だろう。

 機能的には非常に良くできているソフトウェアで、今後、携帯電話との連携が可能になれば、さらに便利になる可能性が高いが、あくまでも今回の不具合が解消されるのを待ってから利用を検討すべきだろう。


関連情報

URL
  アリエル・ネットワーク
  http://www.ariel-networks.com/
  製品のセキュリティに関する重要なお知らせ
  http://www.ariel-networks.com/company/newsrelease/news050111.html

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2005/01/11 13:05

清水理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ
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